103話 依頼人と受付嬢
傭兵ギルドの一週間
週初めの日 1日
依頼人との面会
傭兵ギルドの外には、依頼受付日と看板が立てられる。
基本的には、この依頼受付日に各地から依頼人が来るが、常連であればその他の日でも融通を効かすようだ。
翌日 2日
傭兵募集
傭兵ギルドの外には、仕事ありの看板が立てられる。
依頼がない場合は、休日の看板だ。
依頼の種類は、指名依頼、現地集合、ギルド集合の3つ。
翌日 3日
休日
自由行動である。
翌日 4日
依頼人との面会
翌日5日
傭兵募集
…
……
………
そのサイクルの一週間を何度か繰り返して、私は仕事を覚えていった。
ルルとフィーナは、綺麗とは程遠い格好の傭兵達が残す、汚れと格闘中だ。
朝と晩に掃除をし、営業中はマキナから仕事を見ていろと、立たされている。
二人とも、事務の仕事は向かないようだが…。
私はというと、
「いらっしゃいませー」
アリスちゃんとして、身につけた特技を思い出し、絶賛接客中であった。
今日は依頼人との面会日。
マキナから、やってみろと言われ、受付嬢の仕事を監視の元、任されているのである。
「あ、ああ、宜しく頼むよ」
上質な服に身を包んだ男は、呆気にとられたように答えた。
傭兵ギルドの受付嬢とは、マキナのように無愛想な方が良いのだろうか?
「所属国家をお聞きしても、宜しいですか?」
この何週間かで、見て学んだ一言目だ。
過去にトラブルがあった国家、また現在派遣先の攻撃対象となっている国家であれば、依頼を断る。
男から都市国家を聞き、ステータスで所属を確認すると、無駄に記憶力の良い頭で、地図とブラックリストを照合する。
問題ないという結論をマキナに伝えると、彼女はうなづいた。
受付嬢として、第一関門は合格なのだろう。
まあ、事前に全てのパターンを、問答形式でテストされたわけだが…。
次の関門に入る為、男に笑顔を向ける。
「依頼形式をお聞きしても、宜しいですか?」
「100人程欲しい。報酬は一人銀貨10枚だ」
「現地集合でしょうか?ここに集合でしょうか?」
「現地集合で、期限は来月の1日までで頼む」
100人とは、それなりの数である。
さて、ここで確認する事は、
「質を問うのでしたら、銀貨30枚が宜しいかと思います。また、それとは別に依頼料として、傭兵ギルドに金貨3枚となります」
「銀貨25枚で頼む」
「頼まれるのは傭兵達なので、私からはなんともお答えしようがございません」
それもそうだがと男は言い、金貨3枚をカウンターへ置く。
「身分照合の銀章も、お忘れなく」
現地に行った傭兵が、報酬を貰う為の札のようなものである。
依頼人に用意してもらうのが通例であり、男は大きな袋を従者の騎士に運ばせ、立ち去って行った。
「いかがでしたでしょうか?」
「合格だ。銀貨20枚は、安い買い物だったようだな」
珍しくマキナから、笑みが溢れる。
「一つ聞くが、依頼料は金貨1枚のはずだが?」
「募集人数も多く、お金を持っていそうだったのでつい」
調子に乗ってしまったと、反省する。
「欲深い事は人族の美点でもあり、欠点でもあるな。次はないぞ?」
いつもどおりの冷淡な表情で、忠告するエルフの受付嬢。
私、魔族なんですけどね、とは口に出せなく何度もうなづいた。




