102話 ギルドの受付嬢
窓から、1日の始まりを告げる日差しが漏れる。
「朝か…」
奉公人の習慣が、すっかり抜けて自由気ままな盗賊暮らしが身についた私は、寝坊をしていた…。
まあ、時計なんてないのだから、寝坊かどうかの確かめようはない。
交易都市クーヨンでは、朝の鐘の音が一日の始まりを告げていた。
この傭兵の街に期待するのは、望み薄だろう。
なにせ、あの領主様である。
ただ奉公人の習慣であれば、寝坊したと理解するくらいには、日差しが差している。
誰も起こしにきていないから、大丈夫だろう。
久々の文明的なベッドから、離れる事が億劫になる。
そうは思いながらも、ベッドの横の小棚に立てた木の板をめくった。
板は1から20の数字が、表示できるようなっている。
日めくりカレンダーである。
こちらの世界で、月と表現されている赤き星が新月から満月そして、新月まで戻る日数が20日。
上弦、下弦と月の見え方の違いから、一週間は5日で区切られていた。
ちなみに1年は、10ヶ月らしい。
暇な研究者が日にちを数えながら、ステータス画面の年齢を毎日確認したのだろう。
エリー様の店で身についた、日めくりの懐かしい習慣を思い出しながら、女物の制服に袖を通していく。
今日から傭兵ギルドの受付嬢として、初仕事なのだ。
「初仕事で、遅刻はまずいよな…」
寝ぼけた頭が鮮明になるにつれ、思考が適切な言い訳と可能性を模索する。
私は大急ぎで、扉を開け、1階の職場へと駆け足で降りた。
…
……
………
傭兵ギルドの1階には人気もなければ、マキナの姿もなかった。
どうやら、遅刻ではないという可能性に勝利したらしい。
私は、胸を撫で下ろす。
同時に手持ち無沙汰になった為、しばらく掃き掃除をしていると、
「おはよう。感心したぞ。早いのだな」
受付嬢の制服に身を整えたマキナが、カウンターの奥から現れた。
「おはようございます。時間の感覚がわからなくて」
困った顔で返答すると、
「私が起きたら、始業だ。起こしに行くから、明日からは部屋で休んでいるといい」
ルルとフィーナを起こしに行ってこようと告げるマキナを見送りながら、ホワイト企業なのでは?と感激するのであった。




