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明日の海

夕日の沈む海岸に、俺は、いや俺たちはいる。

「それにしてもリョウ、自分の実家に連れていくとか言って何してんのよ。ここ、どう見ても海よ?」

「いや、まあ…それはその、ちょっと一回落ち着きたいかなぁとか思って…」

「もう、あんたほんっとそういう所よ!だからモテないの。いい加減自覚持ったら?私がいなかったらどうなってたことか…」

「美紅には心から感謝してるよ、ほんとさ。」


違う、全然違う。心がそう叫ぶ。

俺は美紅が好きなわけじゃない。ただ、美紅が瑠麗にどこか似てるだけ。

…ああ、まただ。また探してる。

瑠麗はもういないだろ、見たじゃねーか、葬式でさ。こいつはもう死んだんだ、っと思ったじゃんか。

最低な奴だ。俺は美紅を鏡としてしか見てない。彼女だって自分を見てくれる人に乗り換えればいいのに…

こうやって他人のせいにするのも俺の悪いところだ。考えれば考えるほど自分が嫌いになる。

そんな毎日を、美紅は救ってくれた。ただクヨクヨ悩むだけの俺に前を向け、明日を見ろと言ってくれた。ちょっとキツい言葉だって俺には丁度良かった。


「…なあ美紅、」

「何よ、いい加減ここから立ち上がる気になった?」

「いや、そうじゃないんだけど、何で美紅は、俺の隣に居てくれるんだ?」

「…あー、そこ切り込んでくる?」

「ああああ、嫌だったら全然言わなくても…」

「もうそろそろ言う時期なのかもね」

「は?」

「あたしがあんたの隣にいるのは、頼まれたからなの。人の命一個と引き換えにね」

夕日を遮るように美紅は俺の前に立ち、座っている俺に目線を合わせるように屈んで言った。

「それって、、、」

「ええ、多分あなたの考える通り。」

「瑠麗が…頼んだのか?」

「そう」

「何で…?」

「彼女なりにあなたが幸せになる方法を考えたのよ。沢山聞いたわ、あなたがどんな人間か。何が好きで苦手なのは何か。何でこんなこと話されてるのかその時はわからなかったけど。」


「嘘だろ…」

もう何年振りだろうか。

瑠麗の遺書を読んだ時の、あの感情が蘇る。

「私、リョウ君に幸せになって欲しい。本当は私が隣にいたかった。一緒に溝口の表札の付いた家に住んで、一緒にご飯食べて、普通に暮らしたかった。


でも、無理なんでしょう?

私は売られるんだよね。

誰か知らない人と結婚させられるんだよね。書類、見たから知ってるよ。

私、そんなの嫌だ。

だから、最期の悪あがきをします。

私は絶対に他の人のものになりません。

ずっとリョウ君のものです。

私が見つけた、たった一人の私の鏡にこの思いを託します。

もう、私は何にも縛られません。さようなら。」


「じゃあ、美紅は、」

「私の小さい頃の姓は、箱崎。物心ついてすぐくらいに引き取られたからあの両親のことはよく覚えてないわ。ただ、瑠麗の話を聞く限り、無意識に期待をかけちゃうタイプだったみたい。」

「そうか…。」

「私だって最初は軽くあしらってた。でも瑠麗がね、私に対して言ったの。あなたが駄目ならもう無理だ、なら私は死んでやるってさ。たかだか一時の感情だと思ってたけど、まさか本当に…と思った。だから、私は何を言われようとあなたを幸せにするの。」


ああ、そうだったのか。

 

「…ありがとう」

「それは瑠麗に言うべきだったわね」

「もう、遅すぎるよな。何もかも」

「ええ」

「でも、それだけじゃ、後悔だけじゃ、


…駄目だ」


瑠麗のしたことが正しかったのかはわからない。俺一人に対して犠牲が多すぎたように思えるし、この後の人生を俺は瑠麗に対して償いながら過ごすのだろう。

でも、生きている人間に出来ることなんてせいぜい死んだ人が報われるように努力するくらいだ。だったら、一番瑠麗が喜ぶようにしなくては。それはつまり、美紅と一緒にいること。瑠麗のことを決して忘れないこと。


そう心に刻んで、砂が少し付いた浜辺のベンチから腰を上げた。

これにて完結となります!

素人の駄文にお付き合い頂き本当にありがとうございました。

ではまた、どこかの小説でお会いしましょう。また会う日まで、さようなら。

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