後悔のあとに残るのは
あの日から3日後、彼女の葬式が行われた。肌寒い霧雨の日だった。俺は行くつもりはなかったが、学校帰りに彼女の母と名乗る者に呼び止められ、そのまま葬儀に向かった。母は必死に、
「ごめんね、こんなこと聞いてももう遅いってわかっているんだけど、最後に会った時何かおかしいところなかった?」
と問うてきた。
「あの、亡くなる何日か前に少し話したんですが、変わったところはないように見えました。お役に立てなくて申し訳ないです。」
「そうよね。なんであの子が死んでしまったのか私にも全然わからない。母として何か悪いことがあったのかと思うと本当に辛くて辛くて…」
彼女の母はさめざめと泣き出した。俺はどうしたらいいのかわからず、ただそこに何も言わず座っていた。
あの時と一緒だ。
俺は瑠麗の決意に対して何も言ってあげられなかった。それが原因だったのかはわからない。でももう、
瑠麗はここにいない。あの優しそうな微笑みをもう一度見ることは叶わないのだ。
そう思うと、何とも言えないやるせない気持ちがこみ上げてくる。もし俺が瑠麗と出会わなかったら。瑠麗の告白を断っていたら。ふらっと海岸に立ち寄らなかったら。別れようと言われた時もっと食い下がっていれば?ベンチで話した時引き止めていれば?
一つでも違ったら、瑠麗は救われたのだろうか。なんとなく、そうでないような気がした。
「じゃあ、なんだったんだよ…」
気がつけば呟いていたその声は、雨に吸い込まれて消えていった。
「着きましたよ。傘、貸そうか?」
「いえ、大丈夫です。自分で行きます」
「そう。なら受付の人には一言言っておくから、ゆっくりいらっしゃいね。」
「はい。ありがとうございます。」
本当ならこのまま雨に濡れて風邪でも引いてしまいたい気分だった。流石に人の葬式にずぶ濡れで参列するのは気が引けるので実行はしなかったが。
すっきりしない気分のまま葬儀場の周りを一周してから受付に向かうと、成り行きなのかいきなり遺体と対面、ということになってしまったらしい。彼女の母は必死に謝っていたが、はっきり言ってよく覚えていない。ただ死んだ瑠麗がいる場所に行くのだ、という事実がぼんやりと浮かんできて俺の頭を圧迫していた。
恐る恐る棺の前に立つ。
死に化粧をした瑠麗は綺麗だった。
沢山の手紙や本に囲まれてただ、穏やかな顔をして眠っていた。それが瑠麗の本心なのか、化粧の所為なのか確かめる術を俺はもう持っていなかった。