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海は、きれいだ。
全てを飲み込んで、何もないかのようにそこに佇んでいるだけ。本当は生き物も、ゴミもたくさん入っているのに。
私も、そんな風になれたらいい。いつも思う。自分の感情は全部隠して、常に笑顔を浮かべられたらいい。
知っている。自分の親と血がつながっていないこと。太ももの痣は本当の両親がつけたものであること。ずっと虐待されて生きてきたこと。たまたま保護されて今の家に引き取られたこと。
そして、私には双子がいること。
その片割れが今どこにいるのか、私には見当もつかない。一緒に保護された訳ではないので、児童相談所に助けを求めることはできない。ひょっとしたら、そんな環境で育ったのだから、もう殺されているかもしれない。
「でもまだ生きているかもしれないでしょ」
独り言のように言ってみる。
そうかもしれない。だとしたら、会ってみたい。私と似ているのだろうか。それとも全然違う?そもそも、男なのか女なのかもわからない。幼い頃の記憶が全くないからだ。何より、
この世界に一人だけ取り残されたような、
自分の半分がどこかに行ってしまったようなこの気持ちをすっきりさせたいのだ。
そして、その気持ちは。
キミといるとちょっとだけ和らぐから。
キミの笑顔がほんの少しだけ、それを忘れさせてくれるから。
だから、キミといることを選んだ。
「あ~あ、心の整理、ついちゃった」
わかっていた。自分はキミ…溝口くんが好きだから付き合っているわけじゃない。散々悩んだけど、やっぱりそう言うべきだと思う。
嘘をつき続けることは本当につらい。それを相手が心から信じているほど苦しいのだ。だから、たとえこの関係、距離感が壊れてしまうとしてもちゃんと伝えなきゃ。
自分勝手かもしれない。独りよがりかもしれない。でも、思ってしまう。
キミは私の全部を知っても、傷つかないでほしい。その笑顔のままでいてほしい。