美人中国人女社長に付き纏われた挙げ句ケツにダイナマイトを入れようとしてきましたので、ちょっと労働組合に訴えてきます。
「ふぁぁ……っ!」
何回目か既に分からないほどに、欠伸ばかりが出て仕方ない退屈な出勤日。デスクワークはガラではないと、入社五年目のサラリーマン『尾原正助』はやる気の無い態度を見せていた。
「所長……退屈で死にそうです」
「仕事して死ねるお前は幸せもんだよ」
福島県のド田舎にある二人きりの営業所で、営業所長は忙しそうにパソコンを打っているが、正助は我関せずの構えでコーヒーを口にした。
「俺にしか出来ない仕事でパーッと稼げるやつないッスかねぇ…………」
「…………」
その時、営業所の外で車のスピン音が鳴り、赤い高級なスポーツカーが営業所のド真ん前に止まった。
「お前にしか出来ない仕事が来たな…………」
「──えっ?」
「俺は今から打ち合わせで、今日はもう戻らない。後は宜しくな!!」
「は、はぁ…………」
急にノートパソコンを畳み、慌ただしく逃げる様に出て行った所長。
正助が椅子をクルクルして待っていると、営業所のドアが開き、秋の肌寒い風と共に、一人の女性が現れた。
「──あっ!」
それは正助が勤める化学会社『ワ号製薬』の取引先で、超が付くほど大企業『チャイナ製薬』の敏腕女社長であった。
「我福島……再来」
「いつぞやの女社長様ではありませんか。どうぞどうぞ」
パイプ椅子と温めの缶コーヒーを差し出し、来客用の羊羹をブツ切りにしてテーブルへと置く正助。しかし真っ先に正助が羊羹を食べ、咀嚼ながら女社長へと話し掛けた。
「今日はどう言ったご用件で? まさかまた遊びに来たわけじゃ…………」
「前回我大興奮。再遊戯申込候」
薄手のコートを脱ぎ、ビジネススーツのネクタイを外しやる気満々の女社長。
「当然商品用意済。我太腹」
スーツケースから高そうな腕時計やビンテージワインや何やかんやを取り出す女社長。金に物を言わせた品々に、正助のやる気もまた一気に頂点へと登り詰めた!
「良いですねぇ! 社長のそう言う所、好きですよ?」
正助は自分のデスクをガサゴソと漁り、ジェンガを取り出した。何故デスクにジェンガが入っているかは、言うまでも無い。
「これなら言葉は要らない。ただ黙してやるのみです」
「我此知識有。是非挑戦」
正助がジェンガを組み立てると、中央の真ん中を一つ抜き、一番上へと乗せた。
「どうぞ」
「吧!」
女社長が掛け声と共に、横からスッとブロックを引き抜いた。そして静かに一番上へと乗せると、満面のドヤ顔で正助を見た。
「まあ、まだ一つ目ですから」
正助は自分側、一番下の端を抜いた。一番下のブロックを引き抜くと、途端にバランスが危うくなり、勝負は短期戦へと突入する。
「…………此?」
女社長が中央下のブロックを自分の方へと引き抜こうと少し力を入れた。ブロック同士の摩擦による僅かな抵抗が感じられたが、女社長はお構いなしに引いた。すると、ブロックは力に引かれ倒れてしまい、女社長はポカンとした口で瞬きをくり返した。
「You Lose」
「…………」
「あ、腕時計貰いますね」
平仮名で『ぐっちぇ』と銘打たれた謎の腕時計をはめ、正助は御満悦の表情を見せた。
(クク、この女社長、ムキになるとチョロい。前回とは違って今回はしこたま搾り取ってやる……!!)
正助が悪人面でジェンガを組み立てると、女社長はスーツケースから茶色い筒状の物体を取り出した。
「……これは……なんですか?」
「圧倒的爆発物……太異那魔威飛」
「──はぁ!?」
「罰遊戯。圧倒的……否、超!壊滅的尻穴破壊劇!!」
チャイナ製薬で製造しているダイナマイト。何故かそれを女社長が持ち歩いており、そして正助がこのジェンガに負けたなら、それを尻に挿せと女社長は言ってきた。
「前回尻穴発煙筒! 我感激! 感動再来熱望!」
「いやいやいや、流石に爆発したら死にますよ」
「無問題! 我会社製品中国製!」
「なら安心だ」
何に納得したのか、正助は手慣れた手付きでジェンガを三つ一気に引き抜き、そして一番上へと軽快に乗せた。
女社長は慎重に一つ目を抜き、そして二つ目をするりと引き抜いた瞬間、動きが止まった。
(……厚個体差有? 当然此奴熟知済?)
女社長はブロックを引き抜くときの抵抗の差から、ブロックの一つ一つに僅かな厚みの違いがあることを察知した。そして指でツンツンと突き、抵抗の緩い、僅かに薄いブロックを指で押し抜いた。
(……もう気付いたか。やはり頭の良い人はこういうゲームも得意なんだろうな)
正助は女社長側の一番下を一つ、そして中央、正助の両脇から一つずつ引き抜いた。
(だが、暇潰しの男と呼ばれたい俺としては、負けてやるにはいかん……!)
謎の威圧感で女社長を睨む正助。女社長はそれに臆すること無く、指でツンツンと抜けそうなブロックを探し、そして緩い手前のブロックへと手をかけた。
──ガシャン!
しかし、引き抜いている途中でブロックは女社長の方へと倒れるように崩れた。
「再挑戦! 次我勝! 御前尻穴太異那魔威飛!」
「ハハ、勝てるといいですねぇ」
商品のビンテージワインのコルクを開け、コーヒーカップに赤ワインを注ぐ正助。そして冷蔵庫から生ハムとチーズとウインナーを取り出し、酒盛りを始めた。
「さ、次先攻どうぞ」
美味いワインを飲み上機嫌な正助。女社長が真ん中の安全なブロックを三つ指で押し抜くと、正助はノータイムで女社長側の端のブロックを下から三つ引き抜いた。
「どうぞ」
正助がウインナーを齧りカリッと音を立てると、女社長はブローへと手を伸ばす。しかし、既に一番下の端を抜かれたブロックの山は見ているだけで今にも倒れそうな雰囲気を放っており、女社長は震える手付きで緩いブロックを引いたが、またしても女社長の方へ、ブロックの山が倒れ込んだ。
「次はコレ貰いましょうかね~♪」
正助は椅子にかけてあった女社長のコートを手にした。
「──!」
まさか自分の着ていたコートが取られると思っていなかった女社長。正助がコートを羽織りワインを一口飲んで笑うと、女社長のプライドと意地に火が着いた。
「此奴此処始末……尻穴破壊……絶対……!!」
女社長はスーツの上着を脱ぎ、ワイシャツのボタンを一つ外し首下を緩めた。ビジネスを超えたビジネスに、全身全霊を賭す覚悟がそこに現れていた。
「……エロい」
ただ、正助はワイシャツの膨らみを見て、素直にアホ臭い感想を述べた。そして鼻歌交じりにブロックを積み上げ、女社長へ合図を送った。
(前回黒髭仕掛有……此度仕掛絶対有!!)
女社長はまず観察の目付きでジェンガを見つめた。
しかしブロックの個体差以外にそれらしい仕掛けは見付からず、仕方なく慎重にブロックを五つ引き抜いた。
「ほう、一気に五つもいきましたか」
ワインを口に含み、正助が女社長側の下の方から二つ、正助の左右から三つ適当に引き抜いた。
(…………)
正助の手付きをじっくりと観察するが、特に怪しい所は無く、逆にそれが怪しさを強調していた。
そして女社長が横のブロックを引き抜こうとした瞬間、手前側へとブロックが倒れ、女社長の膝の上、そして床へとブロックが散らばった。
「ハハハ、上着も貰いますかねぇ~♪」
正助が上機嫌で上着を手にした。酒も入り上機嫌な正助は、女社長が床に落ちたブロックを拾う様を見下ろし、優越感に浸りきっていた。
「んん~中々に眼福ですなぁ」
胸元が露わになった女社長が屈む姿、そして遥か上の立場である女社長が圧倒的敗北感の渦中で落ちぶれていく姿に、何とも言えない高揚感を感じていた。
(……何此…………?)
女社長はテーブルの隅に落ちたブロックを手にした瞬間、気になる物を発見した。
それはテーブルの脚の下に敷かれたスポンジであった。
テーブルの高さを調節する摘まみが一つだけ無くなっており、代わりに厚手のスポンジが敷かれていたのだった。
(──此奴!!)
女社長は確信した。そのスポンジは女社長側に敷かれており、強く机を押すとスポンジが凹み、机が女社長側へと僅かに傾いた。
(……反則野郎!!)
女社長は正助の不正を見抜いたが、すぐに訴えること無く、気付かぬフリをしてブロックを積み上げた。
「再戦希望」
「う? うえぇ……よかですよ」
既に大分酔いが回り、呂律が回らない正助は、覚束無い手付きでブロックを三つ引き抜いた。女社長側の一番下、そして両側の真ん中を二つ。指先が覚束無い様子ではあったが、何とかブロックを詰んだ。
(来此処……!!)
女社長は足を組み、テーブルが傾かぬように下から突き上げた。そして正助側のブロックを三つ引き抜いた。
「む……むむ?」
正助の頭がフラついた。思考も覚束無ず、前後不覚の極みに陥り何が起こっているのかすら掴めない。
対面の女社長はテーブルに肘を突き、ニヤリと微笑んだ。
「ま、まぁ……ね、此処らを適当に……」
正助が右の真ん中を押し抜こうとした瞬間、正助側へとブロックが傾き、そのまま音を立てて崩れ落ちた。
「……な、なに!?」
正助は下を見た。そして正助側の脚の高さ調整用の摘まみが無くなって居ることに気が付いた!
「──!!」
「此?」
女社長が摘まみのネジを手を持ち、正助へと見せつけた。
「反則故反則也……倍返成功♪」
「──まさかさっき!!」
正助の酔いが一気に冷め、真実に気が付くも時既に遅し。しかし女社長は早くも茶色の筒を握り締め、導火線を指先で撫で回し至福の笑みを浮かべていた。その顔は新たに出来た下僕に初めて命令を下す女王様のような顔であった。
「圧倒的尻穴破壊劇──開始!!」
女社長がダイナマイトを正助へ投げ付けた。咄嗟にそれをキャッチした正助だが、負けたからにはやらねばならぬと、ズボンを降ろし、下着をずらした。
「シェイシェイ……」
サラリーマンたる心構え。顧客への、そして仕事への感謝の心で正助はダイナマイトをケツへと挿した……。
「何故感謝!? 此奴絶対変態過笑止草生爆笑!!」
女社長はお腹を押さえながら正助のダイナマイトへライターを近付けた。
「ファッ!? 何でぇ!? えぇぇ!?」
「勿論着火、躊躇無」
「ふぇぇ!? ふぇぇぇぇ!!!!」
正助が逃げようとするも、女社長は正助の逃げ道を瞬時に塞いだ。
「クッ! クゥゥ……!! シェ……シェイ、シェイ…………」
「変態」
女社長が嬉々として正助のダイナマイトへ火を近付ける。その顔は正しく女王様であった。
そしてケツに火が着き正助は狼狽えた。そして外へ飛び出しダイナマイトを抜こうとケツへ手をかけるが、上手く抜けず、正助はひたすらに脅えそして泣き叫んだ。
―――シュババババ!!
「花火綺麗♪」
「──えっ!?」
正助のケツに挿したダイナマイトから、美しい花火が溢れ出た。驚いた正助はその場でクルクルと回ったり、側転したり、バク宙で花火を美しく散らせた。
爆発すると思ったダイナマイトは実は花火であり、正助のケツから光る放物線は、少し遅い夏の風物詩として実に美しくあった。
「うわぁ!! なんかケツから火が!? 火が出てるぅぅ!!!!」
「福島最高……!」
女社長は正助の飲みかけのワインを手に、道の駅で買った皮の薄い饅頭を頬張りながら、福島の秋を満喫した。