第7話 自分で書いた小説のヒロインは理想のタイプであるからして
この話のためにあげました!
俺は珍しく放課後に居残りをしている。
補習とかじゃない。
小説の更新だ。
場所は屋上。
『お昼過ぎても元に戻れないよ!』
『下校時刻だけど元に戻れないよ!』
『理乃ちゃん大ピーンチ!』
井上さんの体に乗り移った理乃が出ていかないと言うか、井上さんの意識が戻って来ない。
このまま帰って寝たら治るかもしれないけど、確証はない。
そこで思い付いたのが『更新』だ。
更新すれば理乃の精神が出ていくのではないかと考えたのだ。
『ポンづま』の連載はストップしてるけど、書き貯めたストックは多少はある。
ただ、今回は連載の続きではなく『幕間』を掲載する。
メインストーリーはまだ推敲中だし、理乃が井上さんに乗り移ったせいで違うアイデアとか出てきそうだからな。
『幕間 二人っきりでポンコツ全開の理乃ちゃん』
理乃が主人公の浩介と二人っきりになることにより猫を被る必要がなくなり、誰にも気兼ね無くポンコツぶりを発揮してしまうというコメディ回だ。
理乃が勇気をだして浩介との関係を進めようとして、それが色々な失敗で浩介を振り回して結局何も進まないで終わる。
まあ幕間だし、あんまりあっさりと関係を進めすぎると話が終わっちゃうからね。
「ねえ、更新の準備終わった?」
屋上の鉄柵から外を眺めていた理乃が俺のところに来る。
「ああ、終わったよ」
「上げるのは幕間なんだね。いい加減に浩介と恋人になってキスとかしたいなあ」
見せていないのに内容がわかっているらしい。
上げてない設定とか知ってるくらいだもんな。
どういう仕組みになってるんだろ?
「恋人になるとかキスとかは当分無いよ。今回は特に幕間だから進展しないし」
「でも、ずっとこのままの関係って結構辛いんだよ」
え?
「これだけいつもそばに居て気持ちも通じているはずなのに、まだ恋人じゃないとかさ。私の気持ちわかる?」
「それは、本当にすまん」
鈍感系の主人公にしないと『牢イチャ』や『したロマ』みたいにすぐに仲が深まってエッチなほうに行ってしまうからなあ。
「でも、ここで浩介である輝之とキスしても小説の話には影響ないから問題ないよね!」
ベンチの横に座ってにじり寄ってくる理乃。
「駄目っ!その体は井上さんのだから!」
「どうせ記憶残らないんだよ」
「駄目ったら駄目っ!」
「うう、そんなに言わなくても」
理乃が涙目になっている。
可哀想だけどさすがに井上さんの体を使ってキスするのは…。
待てよ?
「ちょっと待ってくれる?」
「ん?何?」
俺は急いで『新規作成』で小説を書き始める。
よし、すごく短いけどこれで!
『【超短編】ネットで連載していた『ポンづま』のヒロインが現実の美少女に乗り移って迫ってきた』
学校一の美少女に乗り移った理乃は小説の中ではなかなかできないキスをしたいと俺にせがんできた。
「浩介に悪いだろ」
「浩介は作者のあなた自身だからいいの」
瞳を閉じて唇を突き出してきた理乃。
借りている体の持ち主に悪いと思って躊躇っていると、理乃はふいに目を開けて俺の首に抱きついてキスをしてきた。
ちゅ
軽いキス。
味とかしなくて、ただ女の子の甘い香りだけが鼻先に残った。
「これでどう?」
「……」
内容を見せていないのにちゃんと分かっているらしく、真っ赤になっていく理乃。
「ばかっ!初めてのキスなのにどうして私からさせるのよ!で、でも…」
にこっ
「ありがとう。大好きだよ!」
うわああああああああっ!
俺は全力で屋上の端まで逃げた。
「どうして逃げるの?!」
「聞かないでくれっ!」
「まさか照れたの?理乃ちゃんの魅力にメロメロってカンジ?」
ニヤリとして近づいてくる理乃。
どんな言い訳も通じない。
だって俺の顔がこんなに熱くなっていて、心臓が壊れたかと思うくらいに高鳴っていて…。
「仕方ないだろ!理乃は俺の理想のヒロインなんだから!これ以上は耐えられる自信がないんだよ!」
「えっ?あ、そ、そんなにはっきり言われると…」
髪の毛をくるくるしながら照れくさそうにする理乃。
「だから、もう更新するからな!」
「え?待って、ちょっと!」
俺は『ポンづま』の更新を実行する。
「あ…」
くらっと倒れかける理乃…井上さんに駆け寄って慌てて支える。
いつもならすぐに入れ替わるのに、長時間理乃が乗り移っていたせいか目を覚まさない。
俺は悩んだあげく、目が覚めるまでベンチで膝枕をしてあげることにした。
「…ん?」
「井上さん?」
「…西条くん?…え?ええっ?!」
バッと凄い勢いで起き上がる井上さん。
「わ、私どうしてここに?しかも膝枕?夕焼け見えるけど今何時?何がどうなっているの?」
混乱してるけど、これって本当のことを言うべきなのか?
いや、それは余計に混乱させるだけだよな。
「もう放課後だよ。貸した教科書をここで返してもらおうとしたら急に『何だか眠い』って言って眠り始めたから膝枕してたんだ」
「全然覚えてない…それに授業の記憶が…あれ?何だか授業を受けた気はするけど、あれ?あれ?」
鞄からノートを取り出す井上さん。
「ちゃんとノート取ってる。それに授業の内容も覚えているのにどうして『私が何をしていたのか』をどうして思い出せないの?」
「井上さん…」
「ねえ、西条くん!私、おかしくなったのかな?!」
「記憶が飛んだりするのって怖い?」
「怖いわよ!だってこの前もそうだったし」
「それなら、それが井上さんの『ポンコツな部分』って思ったらどう?」
「え?」
「ちゃんと行動はしているから誰にもおかしいって思われていないよ。だから記憶が飛ぶのは『二人だけの秘密』ってことにできないかな?」
「『二人だけの秘密』…」
「『もし何かあっても俺がフォローしてやるからさ。安心して失敗しろよ』」
○亜紀視点○
また『ポンづま』のセリフ…。
そうよね。
もし何かあっても西条くんが助けてくれるのよね。
「時々記憶が飛んでも、ちゃんと西条くんがフォローしてくれるのね」
「ああ、任せておけ」
「それなら…まだ不安だから一緒に帰ってほしいわ」
「わかった」
今は部活が終わる時間の少し前だから、西条くんと二人で帰ってもあまり人目につかない。
一緒に弁当食べていて何をいまさらだけど。
みんな、私たちの事付き合ってるとか思っているのかな?
ただの『ごっこ遊び友達』なんて言っても誰も信じてくれないよね。
ただの友達だものね。
でも秘密を共有した友達なのよね。
「井上さん?」
「あ、はい」
いけない、ずっと考え事して黙っていたままだったわ。
「ずっとついてきてるけど、さっきの角曲がるんじゃなかったの?」
あ
「『相変わらずそそっかしいなあ。心配だから家まで送るよ』」
「う、うん」
『ポンづま』のセリフで言ってくれたのにそれを同じように返すこともできず、ただ私は頷いた。
西条くんのこと考えていたら失敗したんだ。
もしかして、これからも西条くんのことをいっぱい考えたら、もっと失敗できるかも!
家に帰ってからお布団の中でも西条くんのことをずっと考えていたら、何だか恥ずかしくなったので寝ることにした。
…
…
…
がばっ
どうして西条くんが夢にまで出てくるのっ!
しかも『理乃が私に乗り移って西条くんにキスする』とか、何て夢見てるのよ!
そんなんじゃないから!
西条くんはただの…大切な友達なんだからっ!
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