表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/7

第5話 男勝りの裏番をドキドキさせる

玲子先輩のターン

「おらあ!」

「どうしててめぇみたいなやつが井上さんと一緒に居るんだよ!」


放課後になった途端に、俺は3年生の先輩たち二人に校舎裏に呼び出されて追求を受けていた。


しかしこちらの話など聞く気はなく、ただ脅すのが目的だったようだ。


「あいつは俺が狙ってるんだよ!いいか!二度と近づくなよ」

「できません」

「なにっ?!」


断った俺の襟元を掴んでくる先輩。


「痛い目に遭いたいようだな」


腕を振りかぶる先輩。


俺はケンカなんてしたことは無い。

だが、こんな暴力に屈するつもりはない!


少しだけ足が震えてるけど…。


殴られてもネタにするだけだからな!


「『殴る気か?だが、次の瞬間泣くのは貴様の方だぞ』」


俺は自分の小説の主人公のセリフを言う。

その主人公はそれこそめちゃくちゃ強いんだよな。


本当に俺がそのくらい強かったらな。


あれ、意識が遠く…?

もう殴られたのか?




○玲子視点○


いつものように校舎裏で氷河三世紀先生の小説を読もうと思っていたら、先客が居た。


あの二人、隣のクラスの篠崎と近藤じゃねーか。

あいつら、以前うちのクラスの女子にちょっかい出してきてアタシが一度締めてやったんだよな。


もう一人は…輝之?!


壁に押し付けられて今にも殴られそうだ。


「輝…」


名前を呼んで駆け出そうとしたアタシは次の瞬間固まった。


「『殴る気か?だが、次の瞬間泣くのは貴様の方だぞ』」


それは氷河三世紀先生の小説『異世界でなくても現実世界でハーレムを作れる俺様』通称『現ハレ』の主人公和斗のセリフじゃねーか!


ハーレムものとか好きじゃないけど、氷河三世紀先生の作品だから読んでいるんだよな。


和斗が何人もの女性を口説いているのは共感できないけど、こういうカッコいい啖呵を切るところは好きだ。


ここでそのセリフ言うのかよ。

輝之、カッコ付けやがって!


「お前は馬鹿か?くたばりな!」


しまった!つい感動して出遅れた!


バキィ!


「う、うげえ…」


篠崎のパンチをかわしざまその手首を握って拳を後ろの壁に叩きつけただと?!


それって本当に和斗が使っていた技じゃねーかよ!


「『どうした?泣いていいんだぞ』」

「てめえ!許さねえ!」

「おらあっ!」


二人がかりならすぐに加勢に行くべきだったのに、アタシは見ているしか出来なかった。


それほど輝之の動きは相手を見事に翻弄していた。


「うう、ひっく。俺の腕があ」

「足が痛いよ、うううっ」

「『これ以上は弱いものいじめになるから失せろ』」

「ひっ!」

「ひゃいっ!」


逃げていく二人。



ドキドキドキドキ


な、なんだこれ。

輝之ってめっちゃカッコいいじゃねーかよ!


「ん?玲子先輩か」

「すまん、助けようと思ったのだけどな」

「『荒事は男の役目だ。君の綺麗な手を汚させることは無い』」

「はうっ」


ドキドキドキドキ


な、なんだよこれ!


完全に和斗になりきってるだろ!

というか実際強いしまさか本物なのか?


そんなわけないよな!

じゃあなんだ?


輝之って氷河三世紀先生の作品を愛読しているだけじゃなくて、そのキャラにもなりきれるってことか?


「時間だ。またな玲子先輩」


時間?またな?


「…あれ?玲子先輩?さっきの人達は?もしかして玲子先輩が助けてくれたんです?」


覚えていない?

じゃあ輝之は和斗の演技・・をしていたわけじゃないのか?


「玲子先輩、ありがとうございます!」

「あ、ああ。舎弟を助けるのは当然だろ」


これは嘘をついている目じゃない。


じゃあどうして…。



○輝之視点○


まさか先輩に助けられるなんて。

ちょっと意識飛んだけど、怪我とか無いみたいで本当によかったな。


「アタシは部活に入ってないから授業が済んだらここでゆっくり氷河三世紀先生の小説を読んでから帰るんだ」

「そうなんですか」


小説読んでいる玲子先輩の表情って凄く素敵なんだけどな。


人前で読めばみんなにいつもの怒っているような顔を見せなくて済むのになあ。


でもイメージ的に俺の小説の愛読者って知られたくないだろうし。


「それで玲子先輩は何を読んでいるんです?」

「ああ、これだ」


それって『現ハレ』?!

男性向けのハーレムものとかも読むんだ。


「どういう所がいいんです?」

「いや、和斗の戦うシーンとかはカッコいいけど、女性には気が多くてそういうところは嫌だと思っていたんだよ」


女の子にとってはそうだよね。


「でも、どうしてヒロインたちが和斗の言葉にドキドキするかちょっと分かったかもしれないな」


ん?

どうして今分かったみたいに言うんだろ?


読む度に新しい発見をしてくれているのかな?


「な、なあ。ここのセリフ、輝之が言ってくれないか?」

「え?」


『俺がお前を助けたのはお前がほしいからだ。そう思わせるくらいお前は魅力的だからな』


これって、和斗が武道の達人で男性嫌いのヒロイン千景ちかげに言った口説き文句じゃないか!


「俺が…」

「輝之、アタシの目を見て言ってくれよ」


え?

それは凄く恥ずかしいんだけど。


「『俺がお前を助けたのはお前をほしいからだ。そう思わせるくらいお前は魅力的だからな』」

「『そんな上辺だけの言葉に騙されるものか』」

「『上辺だけじゃない。そして俺が好きになったのはお前の外見も内面も両方だ』」

「『こんな武道しか取り柄の無い女の何がいいものか』」

「『何を言う。それこそお前の一番の魅力じゃないか』」

「それ以上はさすがに恥ずかしいからやめてね」

「え?」


玲子先輩の雰囲気が変わった?


「千景か?」

「そうよ。それにしても、あなたはもう少し鍛えないと和斗が思ったように動けないわよ」

「和斗が思ったように動けないって何のこと?」

「作者ならもう少し主人公に近づけるよう努力して欲しいなって思ったのよ」


和斗みたいになれって無理だろ。


でも、和斗はそんなに鍛えている訳でもないんだよな。

どちらかと言えばあんまり筋肉とかつけていなくって技術で戦うタイプだ。


「じゃあもう少し体を引き締めればいいかな?」

「そうね。それと『現ハレ』って無理に再開しなくていいからね」

「どうして?」

「これ以上ヒロイン増えたら、和斗との時間が減るもの」

「あっ、ごめん」

「そうだ!あなたは和斗でもあるわけだから、今なら独り占めね!」


ギュッと抱きしめられた。


玲子先輩の胸大きすぎです!そんなに押し付けられたら死にます!


「俺は作者で和斗じゃないから!」

「何言ってるのよ。いつも主人公を自分自身のつもりで感情移入しながら書いているんでしょう?」


それはそうなんだけど。


「ありがとう。私を幸せにしてくれて」

「千景…」

「あっ、時間ね」

「え?待って!離して!」


抱きしめられたままなんだけど!

振り解けない?!


どうしよう…

よし、こうなったら死んだフリだ!




○玲子視点○


つい勢いで輝之に和斗のセリフ言わせてしまったじゃないか!


しかもアタシもその後の千景のセリフ言って、本当に気持ちが高ぶってきてぼうっとしてしまって…



ぎゅう


「いつの間に輝之に抱きついたんだ?!」


気持ちが高ぶってつい抱きしめてしまったのか?!

こんなの輝之に幻滅されてしまうじゃないか!


「輝之、悪い!あれ?」

「……」


揺らすとかくかくと輝之の首が力なく動く。


抱きしめすぎて締め落とした?!


慌てて輝之を離して頬を軽く、ごく軽く叩く。


ぺちぺち


「輝之!輝之!しっかりしろ!」

「ん?あ、ああ。先輩。ごめんなさい。眠ってしまったみたいで」

「眠ったんじゃない!アタシが…」


興奮して抱きしめて締め落としたとか恥ずかしくて言えるかっ!


「セリフの言い合いで格闘のセリフになったから、ついうっかり一撃食らわせたというか…」


孤高の達人だった千景は和斗に救われてから、和斗相手に度々鍛錬をするんだよな。


でも、そんな嘘バレるよな?


「『どうした千景?いつもの技のキレが無いな』」

「あっ…『別に気のせいだ』」


そうか、嘘と思っていてもわざと話に乗ってくれているんだな。

いい奴だな輝之。


「『それならいいが、一瞬の油断が敗北に繋がるぞ』」

「『私に油断などない!もし負けたなら私を好きに…』」


「「あっ」」


このあと、千景が負けて和斗に押し倒されてキスするシーンじゃねーかよ!


「うわあっ!」


ばしっ!


思わず輝之を張り倒して逃げ出すアタシ。


どうしてそんな場面チョイスするんだよ!

アタシとキスしたいのかよ?

たまたまかよ?


ああもう!


輝之の馬鹿野郎!



○輝之視点○


いかん、完全にシーンの選択ミスだ。


また頬を叩かれちゃったな。


でもこれで良かったかな。

あのままだともっと気まずくなっていたもんな。


でも続けていたらどうなったんだろ?



どうにもならないよな。

気まずくなって今後こういう話できなくなっていたかもしれないし。


それにしても玲子先輩の照れ隠しの一撃は威力ありすぎない?


冷たい飲み物買ってそれで冷やすか。



○玲子視点○


輝之のことひっぱたいて逃げてきたけど、あのままだと…キ、キスをしてたよな?


いや、こんな男っぽいアタシなんかとキスなんてしたくないよな。


でも和斗に成りきっていた輝之は本当にカッコ良かったな…。


教室はもう誰も居ないから『現ハレ』をもう少し読んでから帰るかな。




ヒロインはみんな口説かれているけど、それぞれシチュエーションや口説き文句は全然違うんだよな。


もしアタシがこの小説のヒロインならどうやって口説かれるんだろ?


アタシみたいに強い千景の時のような口説かれ方もいいけど、か弱い雛子のような口説かれ方もしてみたいよな。


ケガした所を助けられて、お姫様抱っこで保健室に運ばれて、運んでいる最中に口説かれるんだよな…。


アタシは体が雛子みたいに小さくないから、お姫様抱っことか無理だよな。


でも雛子みたいになりたいな…ふあ、眠い…




「へえ、ここが『現実世界』なのね。それにしてもお姫様抱っこしてもらえないとか考えていたけど」


もみもみもみ


「こんな立派な武器(・・)持ってるのにもったいないなあ。雛子がこんな大きな胸だったら他のヒロインたちにも負けないのにね!」


そうだ!

ちょっとスマホで撮影してみようかな?


あざとい笑顔で一枚!

上目遣いで一枚!

それからそれから!


少し制服の胸元を開けて…


最高っ!




これなら和斗、ううん、輝之もいちころね!


ドキドキドキドキ


んふ、輝之に送信送信…あっ…




あれ?

スマホ見たまま寝ちゃったみたいだな。


CHAIN(チェイン)で送信する写真を選択する画面になってる?!


な、なんだよこの写真?!

アタシ、こんな恥ずかしいの撮影して輝之に送ろうとしてたのか?!


そんな覚えなんか…いや、何だか自撮りしていた気はするな。

だけどどうやってたとか、何か具体的に覚えていないというか…寝ぼけていたのか?


それにしてもなんだよ、この『あざとさ』!


アタシのイメージと違いすぎるだろ!


このまま送信していたら笑われたかもな。


で、でも、ちょっとは『玲子先輩って可愛いですね』とか言われたりするかな?


う、うっかり送ったりとか…


ぷるぷる


できねえーよっ!


ぽちっ




ぴろん


『玲子先輩って可愛いところあるんですね』


うおーっ!


『間違いだ!消せ!』

『脳内クラウドに永久保存されました』

『ならすぐに来い!記憶が飛ぶまでぶっとばす!』

『削除されました』


ホントだろうな?

ちゃんと消したよな?


でも制服の胸元を開けた写真じゃなくて良かったな。

それこそ恥ずかしくて死ぬぞ。


こんなもの削除…これ見せたら輝之なんて思うかな?


一応保管しておくか。

玲子先輩をもっとドキドキさせたい方は下のボタンを押してください

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ