第4話 ポンコツ希望の美少女はお弁当を失敗してみたい
第7話には今日中に行きたいです。
「西条くん居ますか?」
ザワッ
昼休みの1つ前の休み時間。
また井上亜紀さんが俺のクラスに来て俺を呼び出したので教室がざわつく。
「また西条か」
「この前は告白じゃあなかったんだよな?」
「それ、どこの情報だよ」
「もしかしてお昼ご飯のお誘いとか」
「それこそありえねーだろ」
俺はとりあえず廊下に出ていく。
するとまたしても屋上に連れていかれた。
「何の用でした?」
「この前はありがとう。それでね、お礼にお弁当作ってきたの。昼休みにここで待ってるから来てくれるかしら?」
学校一の美少女の手作り弁当?!
生徒手帳を拾ったお礼って、実際は拾ってないんだけどいいのかな?
「それでね、CHAINの交換してほしいの。ほら、いちいち呼びにいかなくても済むでしょう?」
「いいの?」
「うん」
まさか井上さんとCHAINで繋がれるなんて!
「試しに送るわ…あっ!」
ぴろん
「え?」
送られてきたのは『おやすみなさい』のスタンプだった。
「ま、間違っちゃった」
「井上さんって意外とそそっかしいんだね」
「『そ、そうかな?でも普段はそんなことないのよ。だから、この事は誰にも言わないでね。みんなに知られたら困るんだから』」
え?
これって『ポンづま』にあったやり取りじゃないか!
偶然?
それともわざと?
間違ったのに何でそんなに嬉しそうなの?
○亜紀視点○
今朝、私はいつもより早起きをしてお弁当を作った。
西条くんへのお礼のために。
ううん、本当の理由は失敗したお弁当を作ってポンコツと思われたいため。
でも、私には勇気がない。
わざと忘れ物をしようとしても出かける直前でカバンに入れ直してしまう。
このお弁当も…お砂糖とお塩を間違えるとかどう考えてもできない。
理屈では分かるのよ。
わざと間違えればいいだけ。
でも…やっぱりできない。
だから、私は結局普通のお弁当を作ってしまう。
ここで『ポンづま』に出てくる理乃なら普通に作ってもおかしな味になるのよね。
うらやましい。
私、理乃みたいになりたい。
私が理乃だったら…
「おまたせ!理乃ちゃんだよ!もうお弁当できちゃってるね。でも、ここに隙間があるからもう一品入るよね」
鼻歌を歌いながらちゃちゃっと一品増やす。
「そうだ!今日はもうこの子に乗り移れないからお願い事は今書いておかないとね!」
ん…あれ?!
どうして私ったら台所の椅子で寝ているの?
時間は…まだ大丈夫!
お弁当がいつの間にか包んである。
私はお母さんと二人暮し。
お母さんは夜勤でまだ帰ってこないから、お母さんが包んでくれたわけじゃないのよね。
また無意識にしたのかな?
休み時間に西条くんにお昼のお誘いをして、CHAINの交換をした。
それで勇気を振り絞ってわざと間違えたスタンプを押してみた。
ぴろん
『おやすみなさい』
できた!わざと失敗できた!
「ま、間違っちゃった」
「井上さんって意外とそそっかしいんだね」
『意外とそそっかしい?』
それよ!それを言われたかったの!
『ポンづま』でも出てきたセリフよ!
それで私はこう返すの。
「『そ、そうかな?でも普段はそんなことないのよ。だから、この事は誰にも言わないでね。みんなに知られたら困るんだから』」
ふふっ、また西条くんと二人だけの秘密が増えたわ!
○輝之視点○
そして昼休み。
昼休みの屋上は帰宅時間の時と違って人がそれなりに居る。
屋上のベンチで食事をするためだ。
そんな人目のある所で井上さんの作ってきたお弁当を食べるなんて…男子生徒からの嫉妬で殺されないかな?
「はい、どうぞ」
俺は井上さんからお弁当を渡される。
お弁当を開くと…
『こうしんしてわ』
ご飯の上にそう海苔で書いてあった。
これって理乃の仕業だな!
しかも海苔が足りなくなったのか間違えたのか、最後の『ね』が『わ』になってるし!
「あら?海苔なんて入れたかしら?」
ぱく
「味付け海苔とか久しぶりだな」
「ごめんね。そんな出来合いのものみたいなの入れちゃって」
「ううん、いいよ。おっ!これはお魚の照り焼きだね!」
「お口に合えばいいけど」
ぱく
「うん、美味い!」
「そう、美味しいのね…」
あれ?
なんで落ち込んでいるんだ?
それにしてもどれも美味しいな。
「これは何だろ?ミートボール?」
「え?そんなもの入れた記憶は無いけど…」
入れた覚えないって、まさか理乃の作ったおかず?!
これは覚悟がいるぞ。
ぱく
ガリ
はううっ!すぐに違和感がっ!
この食感何?!
「ど、どうかな?」
「う、うん。美味しいよ」
「そっか…」
え?また落ち込んでる。
そういえばCHAINのスタンプ間違えた時はなぜか嬉しそうだったよな。
まさか『ポンづま』みたいな展開に憧れているのか?
理乃に乗り移られるくらい感情移入しているものな。
よし。
「正直に言っていい?」
「え?」
「耳貸して」
「うん」
井上さんの耳元って何だか凄くいい香りするなあ。
「これはちょっと駄目だと思う」
「え?ほ、本当に?」
少し嬉しそうな表情になる井上さん。
「うん、全然だめかも」
「そんなに?!」
凄く嬉しそうになった。
「『ごめんなさい。私、本当は料理が苦手なの』」
「『じゃあ今度俺がご飯作りに行こうか?料理教えてあげるよ』」
びくんっ
井上さんの体が小さく跳ねた。
「『ポンづま』そのままだ…」
井上さんはフルフルと震えている。
「井上さん?」
「あっ、えっと何でもないの!じゃあね、今日、私のうちに来る?!」
ザワッ!
あっ、そんな大きな声で言うから。
「井上さんが男子を家に誘っただと?!」
「誰だよあいつ!」
「井上さんの手作り弁当だけでは足りないっていうのかよ!」
憎々しげな男子生徒たちの声が聞こえる。
やっぱりそうなるよねー。
「うん、ありがとう。じゃあその本を借りに行くね」
と少し大きな声で返事しながら、素早くCHAINを打つ。
ぴろん
『井上さんに料理教えに行くとかみんなに知られない方がいいから、こっそりとね。井上さんが料理苦手なのは二人だけの秘密だから』
あっ、CHAIN読んでいる井上さんの顔が少し赤くなってる。
ぴろん
『はい、二人だけの秘密でお願いします』
その返事と一緒に来たスタンプには、可愛い子犬が小さなハートを持っていた。
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