第3話 人気声優の秘密と俺の秘密と
秘密ってドキドキするね!
俺の隣の席にはとても可愛いらしい女の子が座っている。
名前を天野ナギと言う。
「天野、これは?」
「はい…です」
「おおおお」
「相変わらず綺麗な声だな」
「大人の女性よね」
「見た目は可愛らしいのにな」
そう、彼女は小動物系の可愛らしさなのに、なぜか声は美女ボイスなのだ。
そのギャップも人気の一つだが、男子生徒からの告白は全て断っているらしい。
その天野さんは授業中なのに教科書でスマホを隠して見始めた。
もう先生に当てられないと分かるといつもこうやってサボっているんだよな。
あれ?
見ているスマホの画面『小説家をやろう』に似てるな。
何を読んでいるのかな?
かたん
ぎっぎっぎ
急に椅子を俺の方に寄せてくる天野さん。
「な、何?」
「耳貸して」
美女ボイスでそう言ってきたので、俺は反射的に横を向いて耳を差し出した。
「いつもありがとうねっ✩」
はうううううっ!
アニメ声だ!しかも耳元で!
で、いつもありがとう?
何それ?
また俺の作品のヒロイン?
耳元でアニメ声を出す俺の作品と言えば…
「反応ないってつまらないな。他の人が知らないミクのこと、もっと教えてあげたいのに✩」
ああ、間違いない。
『人気声優が俺だけにアニメ声で囁いてドキドキさせてくるので助けてください』通称『声ドキ』のヒロイン秋里ミクだ!
人気声優の『春山みるく』である秋里ミクは普段は身バレしないように地味子を演じているけど、隣の席の主人公にうっかり地声のアニメ声を聞かせてしまってその時の主人公の反応が面白かったから、それから何度も授業中にアニメ声でからかい続ける所から恋が始まるってストーリーなんだよな。
そっか。主人公みたいに反応しないからつまらないって思ったのか。
でも、授業中にオーバーアクションとかできないから。
「ごめん、すごく可愛い声なんだけど、恥ずかしいからこれ以上は勘弁して」
「んふっ✩」
あっ、その笑い方は『いじめスタート』だな。
ミクは耳元に顔を近づけてくると、
「私、お兄ちゃんの事すっごくすっごく好きなんだよ。だからね、お願い。今夜は一緒にお風呂に入ってね✩」
はうううううううう
俺は椅子から滑り落ちそうになった。
「よしっ、ミクの勝ち✩」
もうやめて。
みんなに気づかれるから。
「時間だから、またね✩」
え?要望とかないの?
ミクが眼を閉じて開くとまた天野さんと至近距離で目が合った。
「きゃっ」
驚かせちゃったな。
「こら、そこ!天野!集中しろ!」
「すみません」
天野さんだけ先生に怒られてるけど、厳密には俺のせいでもあるよな。
すまない、天野さん。
そういえば、なんであんな声出せるんだろ?
乗り移られると特技も身につくのかな?
そういえばさっきのアニメ声ってどこかで聞いたことがあるような…
確か『天空の魔法少女シリウス』のヒロインの…あの声優さんの名前って『天の川なぎさ』だよな。
天野ナギ
天の川なぎさ
まんまじゃん!
よく今までバレなかったな!
天の川なぎさはテレビに出るくらい有名な声優だけど、全然雰囲気違うな。
髪型も違うし…ウィッグと化粧でまったく別人に見えるってこと?
地声は美女ボイスだから余計気づかないか。
このまま放っておいてもいいけど、どうしても彼女に聞いてみたかったのでこそっと小声で聞いてみる。
「ネット小説読んでるの?」
「…」
「『声ドキ』好き?」
ぴくっ
あ、反応有りだ。
「やっぱり仕事柄感情移入しちゃうの?」
「…」
反応が無い?
ただの偶然だったのかな?
するとメモを書いて渡してきた。
『仮病使うから保健室連れて行って』
え?
「先生、お腹痛いので西条くんに保健室付き添ってもらいます」
「天野?ああ、わかった。西条頼むぞ」
「なんで西条が?」
「隣だからか」
「くそっ、俺が隣なら」
そんな声を聞きながら天野さんに付き添って保健室へ。
そして保健室…じゃなくて途中の空き教室に引き込まれた。
「ねえ、どうして気づいたの?」
「声優のこと?」
「そうよ!今まで誰にも気づかれなかったのに!」
「名前が似ているから」
「今更?じゃあどうして『声ドキ』読んでるって分かったの?」
うっ、それは…。
「声優が好きそうな小説かなって」
「声優の出てくる小説沢山あるのに、単行本になってない小説言ったの?」
「俺が『声ドキ』が好きだからな」
「ふうん…とりあえず西条くんが嘘をついているのは分かったわ」
「え?本当だよ!」
「『声ドキ』が好きなのは本当。あとは嘘ね」
「え?」
「図星ね」
なんで分かるの?!
「感情のこもっていない言葉は分かるのよ。あなたの言葉で感情がこもっていたのは『声ドキが好き』ってことだけ」
何その能力。
声優ってみんなそうなの?
よし、今後の『声ドキ』に生かそう!
「正直に言って。そうでないと他の人にもバレるかもしれないもの」
ううっ、困ったぞ。
感情移入するとヒロインが乗り移るとか、教えたらどうなるんだろ?
「どうして西条くんがそんなに困っているの?困っているのは私の方なのよ」
「お互いの秘密を内緒にするなら話すよ」
「え?何でそうなるの?まさか人の秘密を知ることができるような能力があるとか?」
「説明をするより実際に試した方がいいかと思うけど、氷河三世紀って作者の作品を『声ドキ』の他に読んでる?」
「それは…あ…」
少し頬を赤らめる天野さん。
まさかえっちい作品を読んでるのか?
「そ、それになんの関係があるの?」
「何でもいいから、ヒロインの声を当ててみて。感情移入して」
「それなら…『ひのきの坊やの大冒険』の『一子』をするわね」
天野さんは軽く深呼吸をする。
「『ヒノお兄ちゃん、一子はもう迷惑かけないから一緒に連れて行って!』」
おお、さすが声優。
アニメ声じゃないけど感情移入はバッチリだ。
「…輝之さん」
「一子?」
「そうよ」
それを確認して俺はスマホで動画を撮影し始める。
「ねえ、ヒノお兄ちゃんばかり一子を助けてくれるけど、一子もヒノお兄ちゃんを助けたいの」
「役に立ってるだろ?」
「役に立つのは当たり前なの!助けるっていうのは、ヒノお兄ちゃんがピンチに陥った時に助けたいの!」
「分かったよ。じゃあヒノのピンチを…」
「ああっ!やっぱり今の無し!だってヒノお兄ちゃんに危険な目にあって欲しくないもの!でも、ヒノお兄ちゃんのピンチは救いたいの!」
いったいどうしろと。
「とりあえずなにか考えておくよ」
「お願いね」
すっと目を閉じて、またすぐに目が開かれる。
「え?私どうしていたの?」
やっぱり記憶は無いんだな。
「これ見て」
俺は動画を再生してみせる。
「こんなことって…」
「信じてくれるよね?」
「当たり前よ!じゃあ何?『声ドキ』のミクが乗り移ってアニメ声を出しちゃったの?」
「うん」
「えー。もう、それなら仕方ないかあ」
「お互い秘密は守るって事で」
「まだ聞いてないことあるけど」
ん?
「この『ルール』に気づいているってことは、他にも経験あるのよね?他に誰が乗り移られたの?」
「うーん、これって教えていいものかな?」
「いいじゃないの!私もこれから困ったこととか西条くんに相談するからね!」
「どうしようかな…」
するとすすっと俺の耳元に顔を寄せてくる天野さん。
「『私のお願い聞いてくれないの?聞いてくれないなら魔力全開でぶん殴るけどいい?✩』」
はううっ!
アニメ声で言ったこれは『天空の魔法少女シリウス』のセリフじゃないか!
「…乗り移らないわね」
「多分俺の作品だけだと思う」
「じゃあ今度声優仲間に教えて試してもらおうっと」
「駄目駄目!広まったら大変なことになるから!」
「それもそうよね」
「分かった、教えるけど時間ないから早く保健室に行こう」
「保健室に着く直前で良くなったことにして、一緒に戻ればいいのよ」
それもそうだな。
「じゃあとりあえずCHAIN登録して、またゆっくり聞いてくれる?」
「分かったわ。ところで一つだけお願いしていい?」
「何?」
「乗り移られている私が変なことしないか見張っておいてね」
「もちろんだよ」
「信じてるからね」
「うん、任せて」
そして俺たちは教室に戻った。
その晩。
○ナギ視点○
今日はすごいこと知っちゃった!
西条くんが氷河三世紀先生で、しかも小説のヒロインに感情移入するとそのヒロインに乗り移られるって!
声優として色んなアニメの声をやったけど、まさか私自身がアニメのような体験ができるなんて思わなかったわ!
それと私の正体が知られたのよね。
でも、いつかはバレるかもって思ってたし、どちらかと言えばヒロインが体に乗り移る方がずっと秘密にすべき問題よね。
これからどうしようかな?
とりあえず『声ドキ』みたいに西条くんの耳元でアニメ声で囁いて反応見て楽しもうかな?
『声ドキ』ではそこから恋が始まるけど…西条くんかあ。
もう少しイケメンが良かったかな?
どきどき
西条くんでは物足りないよね。
どきどき
さっきから心臓の音が少し大きいけど気の所為よね?
「『あのね、私、西条くんのこと、大好きなの✩』」
うん、声に出しても全然恥ずかしくない! だから恋じゃないっ!
でもこれから西条くんと面白い体験が出来そうですごく楽しみね!
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