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第2話 裏番と恐れられる美人先輩に乗り移ったヒロインたち

新しい組み合わせです。

男勝りな先輩とのギャップをお楽しみください。

「おい」


ぼうっと窓の外を見ていた俺はいきなり後ろから声をかけられた。


振り向くとそこには怖い表情をした岩徳がんとく玲子れいこ先輩が居た。


「ちょっと校舎裏までツラ貸しな」

「は、はい」


俺はビクビクしながら岩徳先輩に付いていく。


「陰キャの西条が裏番に校舎裏(処刑場)に呼び出されるとか、何をしたんだ?」

「これは死んだな」


岩徳先輩は高校三年生で背が高くてすごく美人だけど、いつも怖い表情をしていて喧嘩っ早い。

さらに無敵の強さで男でも敵わない。


そのためみんなから『裏番』と古い感じのあだ名で呼ばれており恐れられていた。




「あ、あの、何でしたでしょうか」


がたがたぶるぶる


何かあっても経験になって小説のネタにできるとはいえ、体は正直なものだ。


「ねえ」


『ねえ』?

えっと岩徳先輩ってそんな言葉遣いするの?


「『イメなな』の連載をやめないで!」

「は?」


どっかで聞いたパターンだぞ。


「もしかして涼夏すずかか?」

「もしかしなくてもよ!こんな美少女を忘れるなんてふざけてるの?」


この性格は間違いなく『勝ち気な幼馴染は負けフラグを折りたいとイメチェンを図って斜め上に行く』通称『イメなな』のヒロイン涼夏!


でもイラストも無いのに外見でわかるわけ無いし、そもそもその体は岩徳先輩だからね。


「念のため、涼夏の妹の名前は?」

「何よ、妹にも手を出すつもりなの?」

「本当の涼夏か調べるためだからさ」

「まったく…秋穂と冬美よ」


やっぱりか。

秋穂は小説内に登場したけど、冬美は未公開の設定資料の中だけだもんな。

するとやっぱり本物なわけだ。


「どうして私の小説が休載してるのよ?」

「ちょっと充電期間というか、連載が増えすぎて…」

「他のをやめればいいでしょ?」

「そ、それもちょっと」

「もう、なにウジウジしてるのよ!」


どんっ


俺はまさかの壁ドンを仕掛けられる。


「アンタは私の事だけ見てればいいのよ!」


ドキィッ!


う、うお、めっちゃドキドキする!


でもこんなセリフ無かったんだけど何で言えるの?。


「そういえばアンタ、私の事イメチェンさせたがっていたのよね」

「う、うん」


させたいとかじゃなくて、そういうストーリーだからね。


「色々私にさせたわよね?いったいどれが好みだったの?」


おとなしい妹キャラとか優しいお姉さんキャラとかをさせたり、甘えん坊とかすぐ泣く子とか色々やらせたよな。


でも一番は…


「従順な奴隷キャラかな」

「どうしてそれなのよ!あれ、ものすごく恥ずかしかったんだからね!」


その代わり一番読者ウケが良かったんですけど。


「それならしてあげるわよ」

「え?」

「それがいいならしてあげるって言ってるのよ!その代わりにちゃんと更新するのよ!」


俺から一歩下がって、じっと上目遣いで…って岩徳先輩って俺より少しだけ身長が高いんだけど。


「ああもう!ちょっと待って!」


涼夏は校舎のふちのコンクリの段差から降りる。


これで涼夏は俺より少しだけ背が低くなる。


そして涼夏は俺の事を上目遣いで見上げると、


「ご主人様、涼夏の願いを聞き届ける代わりにいったい何を命じる気ですの?」


と言って自分の体を抱きしめるようにして少し震えてみせる。


何この破壊力。

岩徳先輩っておどおどした表情するとめっちゃ萌えるんですけど。


「それでもいいです。どうか『イメなな』の更新をしてくださいませ。あっ」


ずるっと足を滑らせる涼夏。


こんな場所に何の滑る要素があるかわからないけど、まさか『凉夏はイメチェン中に恥ずかしい失敗をしやすい』って設定通りになるってこと?!


「うわっ」


俺は服を掴まれて一緒に倒れ…


「あっ」

「あ…」


二人は抱き合って地面に転がった。


「馬鹿っ!」


ばしっと俺の頬を叩いて逃げていく涼夏。


小説ではいつも通り照れ隠しの一撃オチなんだけど…


ズキズキズキ


岩徳先輩の大きな手は威力有りすぎないか?




腫れた頬をさすりながら教室に戻る。


「おい、顔腫れてるぞ」

「やらかしたな」

「裏番って弱い者いじめとかしないはずだよな」

「すると何か癪に障ることをしたんだな」

「ああ、やっぱり見に行けばよかった」


いや、見られていたら色々ややこしいことになったから来なくて正解だよ。




放課後。


校門で岩徳先輩が俺を待っていた。


ジロッ


眼力だけで縮み上がってしまう。


「ちょっと付き合いな」

「付き合うって恋愛的な意味じゃないですよね?」

「ハア?!」


真っ赤になって憤怒の形相をする岩徳先輩。


「いえ、冗談です」

「さっさとついてこい!」


俺たちの半径100メートルくらい誰も近寄ろうとしない。


「おい、お前って今日アタシと校舎裏で会ってたよな?」

「え?」

「アタシのクラスの奴がそう言ってたんだよ!知らないうちに制服は土で汚れてるし、一体何してくれたんだよ!」

「べ、別に話を少ししただけで」

「それにアタシが顔を叩いたらしいじゃないか。まだ赤いな…原因はなんなんだよ。アタシ、何にも覚えてないんだぞ!」

「それなら先輩が悪いんじゃないですから。俺が悪いから気にしないで」

「気にするに決まってるだろ!アタシは腹が立っても自分からは手は出さねーんだよ!」


そうなんだ。


「ちょっとそこに寄るぞ」


俺は近くの人気のない公園に引き込まれる。


「お前、アタシの記憶を無くさせるような何かをしたのか?そういう『能力』を持ってるとか?」

「は、ははは。そんなラノベみたいなこと無いって」

「ラノベ?」

「あ、そうそう!実は先輩と校舎裏で『イメなな』の話をしていて、うっかり先輩と俺が一緒に転んで、それで地面にぶつけた俺の顔が腫れて、頭をぶつけた岩徳先輩は記憶が飛んだのかな…なんて」

「何だと?」


しまった!あっさり嘘だとバレた!


「アタシ、お前と『イメなな』の話してたのか?!」

「あ、はい」

「そうか!まさか『イメなな』の話ができる相手が学校内に居るなんて思わなかったぞ。それなのに頭を打って忘れてしまうなんて、何てアタシはドジなんだ」


あれ?もしかして助かった?


「改めて『イメなな』の話をしていいか?」

「もちろん」

「やっぱり涼夏ちゃんって可愛いよな!勝ち気で好きな男性にもついきついこと言うのに、何とかイメチェンして好かれようってする健気さとかさ!」


岩徳先輩が公園のベンチで俺の隣に座って楽しそうに話ながら微笑んでいる…なにこれすっごいドキドキするんだけど。





「ああ、いっぱい話せてすっきりしたぜ!ありがとうな!裏番とか呼ばれているアタシが『イメなな』のファンとか恥ずかしくて誰にも言えなかったんだけどさ、まさか心置きなく話せる相手に出会っていたなんてな!」


岩徳先輩はそうやっていつも笑っていればすっごくもてるだろうに、もったいないなあ。


「また話してくれるか?」

「ええ、いつでも」

「よし!じゃあ、今日からお前はアタシの舎弟な!」

「え?」

「それならいつ呼び出してもおかしくないだろ?」

「あ、はい」

「ところで、お前は氷河三世紀先生の他の作品も読むのか?」

「え?うん」


先生とか付けられると照れるな。


「そうか。なら少し『牢イチャ』の話もするか」

「え?ちょっとそれは」


『牢イチャ』は『異世界の王女様と一緒に牢屋に閉じ込められたのでとりあえずイチャイチャする』のことで、俺の作品の中でもかなりエッチな作品なんだけど。


「エリザベートが下僕扱いしていた主人公に『わたくしはあなたが死んで牢が開くことになっても一人で出て行く気はありませんわ!』っていう言葉に感動したんだよな」


二人が閉じ込められた特殊な魔法のかかった牢屋は中の囚人が死なないと扉が開かないのだけど、病気になった主人公が、そのまま死なせてくれれば王女に逃げられますよと言ったんだよな。


それで王女は下僕扱いしていた主人公に対する好意を自覚してそのセリフを言ったんだ。


エッチな作品でもそういうシリアスなところを見てくれるなんて嬉しいな。


「輝之」

「はい?」


え?いきなり名前呼び?!

舎弟だから?!


「わたくしの連載、早くやめてほしいですわ」

「まさかエリザベート?!」


もしかして思い入れのあるセリフとかを言っても乗り移れるのか?


さっき散々『イメなな』の話をしても大丈夫だったのは、今日すでに一度乗り移っているからかもしれないな。


「連載やめてほしいの?」

「当然ですわ!王女であるわたくしが、どうしてあんな目に遭いますの!」

「そういう話なので」

「それならいい加減に牢屋から出してほしいですわ!」


タイトル詐欺になるぞ。

最終話とかそのアフターストーリーならありえるかもしれないけど。


「それなりに快適だと思うんだけど」

「それはそうですけど、どうして最後までできませんの?!」

「何が?」

「いつもキスまでで、たまに胸とか触られるくらいですのよ!」


それはR15だからです。


「そうですわ!打ち切りにして18禁で再開してほしいですわ!」

「絶対無理です!」


高校生が18禁とか書けませんって。


「とにかく、もう少し状況を改善してほしいですわ。牢の中でなくても二人の愛は変わらないと思いますの」


それもそうなんだが…。

普通の恋愛小説になっちゃうよな。


「あっ、時間ですわ。くれぐれもお願いしますわよ!」

「あ、うん」


エリザベートは目を閉じ俺の胸に倒れこんでくる。

そして岩徳先輩が目を開けた。


「あ?アタシ、もしかして寝てたか?」

「うん。疲れてるんじゃない?」

「って、わわわっ、どうしてお前の胸に寄り掛かってるんだよ!」

「あ、ごめん」

「どうして謝るんだ?悪いのは寝ていたアタシだろ?」

「えっと…舎弟としては寝ている親分を支えるのは当然かと」

「親分?」

「舎弟って言われるから親分で」

「何だか違うな…よし、これからお前を呼び捨てにするから…そういえばお前の名前は何て言うんだ?」


また俺の名前知らないパターンかよ!

さっき俺の名前を呼べたのはエリザベートだからか!


「西条輝之です」

「じゃあ輝之な。アタシの事は岩徳先輩って呼びな」

「あの、玲子先輩じゃだめですか?何か岩徳って響きが先輩らしくなくって」


美人だし、結構可愛らしいところもあるからな。


「お、おう。いいぞ。じゃあまたな、輝之。アタシが呼んだらすぐに来いよ」


それから玲子先輩とCHAINチェインを交換して別れた。



二日続けてすごい体験したな。


でも、これからもこういうこと起こりうるのかな?

玲子先輩が別の作品のヒロインにも乗り移られたりして。


エッチな『したロマ』とかだと困るけど、玲子先輩って結構シリアスな部分を真面目に見てくれる人だから、違う視点の感想とか貰えるかもしれないな。




〇玲子視点〇


うおおおおおっ


アタシなにやってんだよ!


いくら氷河三世紀先生の作品の話を誰かとしたくてうずうずしていたとはいえ、まったく知らない後輩男子に思いっきり話したりして!


しかも『牢イチャ』なんてエロだろ!エロ!


つい言ってしまって引くに引けなくなって、お気に入りのシリアスシーンのセリフ言ったら何だか寝てしまったけど、男にもたれて寝ていたとかありえねー!


しかも輝之の奴、アタシを『岩徳先輩』より『玲子先輩』って呼びたいとか恥ずかしすぎるだろ!


で、でも、これって『イメなな』みたいにアタシのイメージを変えるチャンスかもしれないぞ。


何だか輝之になら色々素直に話せそうな気がするし。


まあ、もし照れくさくなったら『イメなな』の涼夏みたいに一発輝之をひっぱたいで逃げればいいよな!

涼夏やエリザベートもいいけど玲子先輩がいいなと思ったら下のボタンを押してください。

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