【コミカライズ開始記念番外編】甘くてあまくて甘い
王宮を訪れたエリザベスには毎回必ず甘味が出される。
いつのまにか会ったこともないはずの料理長以下キッチンの面々までもがエリザベスに骨抜きにされ、訪問したと聞けば勝手に趣向を凝らした菓子が出てくるのである。
王宮のパティシエの気合の入ったケーキ、タルト、マドレーヌにマカロン……。
話は変わるようで変わらないが、エリザベスはかわいい。
はじめて出会った日からこれまで、オレは幾度となくエリザベスの可憐さ、時に芯のある凛々しさ、それゆえにたまにみせるかわいらしさ――等々を実感し、十分に理解しているつもりだった。
しかし、エリザベスに告白してからこっち、オレの心的ブレーキは壊れてしまったらしい。
クリームのたっぷり入ったクレープ生地を細身のスプーンがすくう。極限までやわらかく香ばしく、それでいて透きとおるほどうすく焼かれた生地はナイフなど使わなくともはらりと割れてスプーンにおさまった。
エリザベスはわくわくとした面持ちでスプーンを運び、淑やかさをたもちつつも、よろこびに満ちた表情で味わう。
細められた目が、ゆるむ口元が、紅潮する頬が、すべてが幸せそのものをあらわしていて。
「はぁ……好き」
ついぽろっと、本音が口からこぼれる。
とたん、エリザベスの肩が跳ねた。
次の瞬間にはスプーンをおいてぴっと背筋をのばし、ケーキの甘さではなく照れのためにじわじわと顔が赤らんでいく。
これまでならここで「わたくしもクレープケーキが大好きです」とか言われていた場面である。それを思い出せばいまの状況はとてもとてもとても幸福だ。
「……リザのことだよ」
まだ慣れない様子がかわいらしくてつい頬がゆるむ。
エリザベスがこんな表情をするなんて知らなかった。オレを意識してくれる日なんて永遠にこないのではないかと思っていた。
は~~~~、しあわせ。
にこにこと照れるエリザベスをながめていたら、膝に両手をおいたエリザベスがまっすぐにオレを見つめた。
そして、
「わ、わたくしも、ヴィンス殿下を……お慕いしております……っ」
「――……」
完全なる不意打ちに、反射的に椅子から立ちあがろうとして足をもつれさせ、オレは床へとふっ飛んで頭を打った。
「ヴィ、ヴィンス殿下!!」
エリザベスが悲鳴をあげるものの、オレの従者は駆けつけてこない。というかたぶんため息をついている。
後頭部の痛みにこれが夢ではないことを確認しながら、オレは一つのことを理解した。
すべてを跳ねかえす完全防御をくずされたエリザベスは、今度はすべてを刺し貫く最強の攻撃を得てしまったのだ。
というわけで、マグコミ様にて本日よりコミカライズ開始です~~~!!
詳細は活動報告に書きましたのでのぞいていただけると嬉しいです。表紙画像&漫画へのリンクもあります。
漫画のほうはヴィンセントがエリザベスに近づけなくて可哀想だったので、甘々な番外編を書いてみました。笑






