【コミックス7巻発売】番外編.王宮でペットは不可ですか?
明日11/14(木)、『ベタ惚れの婚約者が悪役令嬢にされそうなので。』コミックス7巻発売です!
オレとエリザベスの結婚式まであと少し。
有力貴族たち――ハロルドとマーガレット嬢、エドワードとセレーナ嬢の結婚式の日取りも決まり、式は挙げないもののラファエルとユリシー嬢の結婚も決まった。
王宮内もどこかそわそわと落ち着かなくなってきたころ。
「猫……ですか?」
「そうなのです。母がもらってきて。私が嫁いだあとは寂しくなるからと……」
マーガレット嬢が荷物をひょいと持ちあげながらため息をつく。
オレ、エリザベス、ハロルド、マーガレット嬢の四人は、王宮にてエリザベスの引っ越し準備中。
一応ラースもいるが、ドラゴンの手足では手伝いは無理だろうということで隅にクッションを置いて丸まってもらっている。
荷物は、エリザベスの実家から送られてきた嫁入り道具だ。結婚式当日にもパレードの一部として持参する品目はあるが、こうして先に運び入れておくものもある。
オレも隣の箱を持とうとしたらビクともしなかった。マーガレット嬢の腕、どうなってるんだ……。
「私はクマかトラが飼いたかったのですが」
マーガレット嬢の言葉に、ハロルドが無言で青ざめた。これから飼うならアバカロフ家でだもんな。
にしても、クマ……トラ……ううう、頭が……っ。
俺も無言で頭を抱えた。
エリザベスにふさわしい男になるべく猛特訓していたころ、母上の命で森に放り込まれた記憶がある。野生動物もいたけど母上がペットのトラを……ううっ。
ハロルドはそのころから俺の従者だったから、ハロルドにも覚えのあることだ。
青ざめる男二人に対して、令嬢二人は楽しげに声を弾ませた。
「エリザベス様、よろしければ遊びにきてください。まだ子猫なのです。かわいらしいですよ」
「まあ、ぜひ見たいです。さわってもよろしいのでしょうか」
「はい。とても人なつっこいですから」
エリザベスがそう言うなら、猫でも……と思うものの、ペットはもう聖竜がいるしなあ。
ちらりとラースを見ると、オレの内心を読んだのか「シャーッ」と威嚇された。そういえばこいつは「ニャー」とも鳴けるんだった。
王宮でペットを飼うとなった場合、先住ペットであるラースに配慮しなければならないのだろうか……なんか面倒くさいな。
そんなことを考えていたら、プラムが顔を覗かせた。
魔力を回復しつつあるプラムはこうして動きまわることが多くなった。
てちてちと後ろ足の肉球で歩く姿はかわいらしく、エリザベスが顔をほころばせる。反対にラースはムッとした顔になった。
やわらかもふもふのプラムを、硬い鱗に覆われたラースは敵視しているらしい。
「そういえばもういたな、猫は……」
オレの記憶を戻せば解放する約束になってはいるが、これからもちょくちょく会いそうな気がするし。
そう考えるといま王宮には特大のペットが二匹いることになる。
「これ以上は難しいでしょうか」
「そうだなあ……」
俺の考えを察したエリザベスが身を寄せ、小声で言った。きょ、距離が、近い。
「ネコがどうしたんだニャ?」
「いや……なんだ、その、彼らが猫を飼うと言うから。しかし王宮で飼うのは、まあ難しいかな、と」
ハロルドとマーガレット嬢を示しながら説明する。ド直球に「お前もいるし」とは言いづらくて、なんとなく言葉を濁してしまった。
濁されているとは気づかず、プラムは首をかしげる。
「なんで難しいんだニャ」
「世話とか……縄張りとか」
「広い分には問題ないニャ」
なんでそんなに食い下がってくるんだよ。やっぱり王宮にいたいんだろ、プラム。
「ほら、オレたちは王太子と王太子妃になるわけだし。政務で王宮を留守にすることも増える。寂しい思いをさせてしまうだろ」
「なるほどニャ……」
焦りながらなんとかひねり出した答えにようやくプラムは納得したようだ。
と思えば、ぴんと前足をあげた。
「我が名はキング・ケットシー、プラムなり。出でよ、我が眷属、我が闇の僕よ――」
「!?」
突如呪文を唱え始めたプラムに、ハロルドとマーガレット嬢がすっ飛んできてオレとエリザベスを庇う。
だが、ぽふんとかわいらしい音を立てて現れたのは、子猫だ。
子猫はエリザベスの腕の中にふわりと着地する。
「この子は……」
「ワガハイの眷属、ケットシーの幼子だニャ。ネコが飼いたいけど飼えないんニャろ?」
「……呼びだしてくれた、のか?」
「まあ、一応……兄さんたちには迷惑かけてるしニャ。心配しなくても、いまのワガハイの魔力では眷属を一匹呼びだすのが限界だニャ」
照れくさそうにそっぽを向くプラムに、ハロルドとマーガレット嬢は臨戦態勢を解いた。
ケットシーの子猫はエリザベスの手のひらに頭を擦りつけ、ミャウミャウと鳴いている。人間への警戒心もないらしい。
エリザベスは腕の中にやさしく抱え込み、慈愛に満ちたまなざしを注いでいる。
「……かわいいな」
「はい」
オレを見上げてにこりと笑うエリザベスに寄り添い、オレはそっと囁いた。
「エリザベスも、だよ」
そう言われて、ぽっと頬を染めるエリザベスもさらにかわいい。
しばらくは無理だろうが、結婚式が終わっていろいろと落ち着いたら、ペットを飼うのもありかもしれない――。
そんなことを考えながらふと部屋の隅を見ると、クッションに丸まったままのラースがじっとりとした視線をプラムに向けていた。
あ、ラースが完全にプラムを敵認定した……。
明日11/14(木)、『ベタ惚れの婚約者が悪役令嬢にされそうなので。』コミックス7巻発売です!
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