【小説3巻発売!番外編】王太子妃と護衛令嬢
王宮での暮らしにも慣れ、ハネムーンの旅程も決まり、ほっと一息をついたある日。
マーガレット様とわたくしはお茶会をしていた。話題は近ごろ流行りだという――、
「聖獣占い……?」
「えぇ、エリザベス様は一角聖馬ですわ」
手元のカラフルなご本をめくりながら、マーガレット様がページを指さす。
「一見すると純真な目をした、しかしてその実態はとんだ暴れ馬。純白の毛なみと光り輝くたてがみの美しさに惹かれ寄ってきた人間を蹄で蹴り飛ばす。陸海空を縦横無尽に駆けまわり、額の角で攻撃する。角は薬となり、万病を癒やす」
「まぁ……」
わたくしは口元をおさえた。よいことも書いてあるけれど、そんなに狂暴かしら、わたくし。
ちらりとマーガレット様を窺うと、
「狂暴ではありませんが、エリザベス様の攻撃力はズバ抜けておられますから……」
……守護竜であるラース様のことかしら?
首をかしげているうちにマーガレット様は解説を読み進めていく。学問、趣味、恋愛など、自分の当てはまる聖獣によって様々なアドバイスがされている。
「恋人との仲を深めるには……飾らず、素朴なあなたを見せましょう。それがもっとも攻撃力を高める秘訣。うんうん」
「飾らず、素朴な……」
つまりは、具体的な策がないということかしら。
「エリザベス様はこのままで十分に完璧、素敵、非の打ちどころがないということです。これ以上になれば、殿下の心臓がお止まりあそばすかもしれませんから」
「たしかに、ヴィンセント殿下はときおり胸をおさえていらっしゃいますわ。あれは……その、わたくしにときめいてくださっていると考えて、よろしいのでしょうか」
恥を忍んでお尋ねすると、マーガレット様は顔を赤らめた。すぐに両手が握られ、ぶんぶんと大きく首を上下させるマーガレット様。
「当然でございます!」
「ありがとうございます」
その勢いに励まされ、わたくしは笑顔になった。心のうちがほっこりとあたたかい。こういうとき、ヴィンセント殿下が必ず口にするお褒めの言葉がある。
「マーガレット様、天使……♡」
にっこりとほほえみながらお礼の気持ちをこめて手を握りかえすと、マーガレット様の顔がますます赤く染まった。……と思えば、視線はわたくしを見ているようで、どこか遠く。
「マ、マーガレット様?」
姿勢をたもったまま意識を飛ばしてしまったマーガレット様に、わたくしはあわてて侍女を呼んだ。
翌日、ヴィンセント殿下から「天使禁止令」が言い渡されてしまった。
「ハロルドにめちゃくちゃ怒られた……」としょげてらっしゃったのは、きっとわたくしのせいだと思うのだけれど、理由が明かされることはついぞなかった。
5月10日(火)、小説3巻発売です。
早売りが始まっている書店さんもあるようです。見かけたらよろしくお願いいたします!
ヴィンセントとエリザベスのウェディング姿が目印です♡