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28.封印解除

 こうべをたれたオレに、三つの手がさしのべられる。

 一つはエリザベスのやわらかくあたたかな手。一つはラースの小さな手、硬めの肉球つき。もう一つはプラムの手、ふわふわの毛なみとぷにぷにの肉球つき。

 天使のようなエリザベスはともかく小型幻獣二匹は微妙に間の抜けた画だと思うが、仕方がない。

 

「でははじめるニャ」

 

 やけにおごそかにプラムが告げる。

 いまから行われるのは、封印された記憶の復元である。

 

 半月を王宮でだらだらと暮らし、もう半月を母上にまとわりついて暮らしたプラムは、すっかりと魔力をとり戻した。

 父上にちょっかいをだしたり母上が政務を行う様子をながめていたり庭園をうろついたり、やっていることがリカルド殿と同じなのでそういうことなんだろうなぁと思うのだが母上の鉄壁のガードはくずれなかった。エリザベスはちょっとかわいいと思っていたようでラースはプラムをライバル視していた。そういえばラースの行動にも似ている。プラムも夜は母上といっしょに寝ているし。

 ということは……やっぱりそういうことだと思うんだが。プラムはなにも言わない。

 

 いいのだろうかと考えているうちにプラムの手が光った。頭の中に魔力が流れこんでくる感覚がある。冷静な状況でやられると怖いな。意識が覚醒したまま手術されているようなものだぞ。

 とじたまぶたの裏で虹色の明滅が起きる。光はあちこちをさまよっていたがやがて一際強く輝くと消えた。

 

「見つけたニャ」

 

 プラムの声がする。

 と、同時に、意識がふわりと軽くなった。……鮮明になった、と言ったほうがいいだろうか。

 わだかまっていた靄が払われ、思考がはっきりとする。

 記憶が戻ったのだ。

 プラムの魔力がひいていく。それにあわせて、エリザベスやラースの魔力も持ち主へ還っていく。エリザベスのは置いといてくれてもいいんだけど。

 

 それぞれの手が離れた。オレとエリザベスは安堵の息をつく。

 

「おかげんはいかがですか?」

「大丈夫そうだ。もとに戻った、という感じがするよ」

 

 大きくのびをし、オレは息をついた。

 封印が解けてみてわかったことだが、混乱した魔力に記憶が封じられた負担も重なり、オレは以前の半分くらいの思考力で生きていたようだ。むしろよくあれだけ動けたなと感心してしまうほどにオレの頭脳は弱っていたのだ。そりゃ夜通し勉強すれば熱もだす。

 

「おう、お兄さんの封印は綺麗バッチリなくなったぜ!」

 

 ぐっとサムズアップしてくるプラム。ネコの手では難しそうなのによくがんばったな。誰から教わったんだそれ。

 エリザベスが「かわいい……!」と小声で呟いたせいで、ラースが真似をしようと短い指をわきわきしている。

 

「さて、それじゃこれでワガハイは自由の身だニャ」

 

 言うと、プラムはふわりと浮きあがった。マントが風に揺れる。

 母上から聞いている。オレの封印を解除しさえすれば、プラムを王宮からだしてやるという条件らしい。

 

 でも、いいのだろうか。

 プラムは母上にくっついて隣国ニーヴェから我が国(ウルハラ)にやってきたのだ。意地の悪いかつ生意気な態度をとってはいるが、母上になついているのはなんとなく察せられる。いわゆるツンデレというやつだ。

 オレにちょっかいをかけたのも、不遜な物言いも、すべては母上の気をひきたいがため。

 それが、最後に母上の顔を見ることもせずお別れだなんて。ラースのように守護獣ペットになれとは言わないが、せめて和解くらいは……。

 なんと声をかければよいのか悩んでいるオレを、プラムはふりむいた。

 寂しげな、それでいてどこかビターな笑顔を浮かべながら。

 

「……所詮、ケットシーと人間の恋なんて、実らないんだニャ……」

 

 え、そんなガチ恋なの?

 ますますなんと声をかけたらいいのかわからなくなり口をつぐんでしまったオレの前で、プラムは窓から身をのりだすと、マントをひるがえしながら飛び去ってしまった。

 こちらをふりかえることもせず――もしかしたら、ふりかえることができなかったのかもしれない。

 小さくなる背中を見送るオレの隣にエリザベスがよりそう。

 

「プラム様……おそばにいたほうが、つらいのかもしれません」

「そうだな……」

 

 なんせ恋敵ちちうえがペアルックで威嚇してくるのだ。オレだってラースにそこまでのことはしない。

 

 恋に狂うのは人間だけではないということだ。

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