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26.リカルドの帰国

 ハロルドにリカルド殿を任せて、オレは数日間の療養を得た。

 王宮を訪れてはオレにつきっきりのエリザベスにラースはぶすったれていたものの、これはこれでいい機会だと思いなおしたのか途中からはおとなしくなった。オレの枕の横に座ったラースに「お前も大変だな……」みたいな目でてしてしと額を撫でられてとんでもなく複雑な気分に陥ったりもしたが、エリザベスの愛情もあり体調は回復した。

 

 

 さすがにもう隠しきれないと、リカルド殿に事情を説明し詫びたところ、

 

「ま、そんなこったろうと思ったよ」

 

 というほがらかな答えがかえってきた。

 

「……気づいていたのですか?」

「俺のこと見て『また面倒なのがきた』って顔してたからな。隠してるつもりだろうがマリアベルに百回はされた表情だからわかるんだよ。結界が消えた以外にも面倒くせぇことが起きたんだろうとは察しがついてた」

 

 母上……。

 

「でも記憶が封じられてるとは気づかなかったぜ。できた婚約者でよかったなぁ!」

 

 大柄な美丈夫にバシバシと肩を叩かれてよろけそうになりつつ、いっきにまくしたてられた言葉を理解したオレはリカルド殿を見た。

 この件を正直に話そうと考えたのは、隠すことによる周囲の負担のほうが大きいと判断したため。

 それでも少しのお小言はくらうのかと思っていたのに。

 

「合格だ。面倒くさいやつは帰ってやるよ」

 

 日に焼けた顔ににっかりと笑みを浮かべ、リカルド殿は宣言した。

 思わぬ単語に驚きの表情を浮かべてしまう。

 

「合格、ですか」

「なんでかわからんって顔だな。言ったろ、国は王様一人が動かすもんじゃないって。お前はほかの者たちから認められている。助けになりたいと思われている。きっとマリアベルの国を繁栄させるだろう。だから合格だ」

「――……」

「エリザベス姫と仲よく暮らせよ」

 

 大きな手がぽんと頭に落とされる。

 あっけにとられているあいだに、リカルド殿はさっさとハロルドにむかうと馬車の用意をするように頼んだ。どうやら本気でいまから帰るらしい。

 ついでに最後にマリアベルの顔を見せろとごねて、まだ発売されていない新デザインのペンダントを握らされていた。それで退いてくれるのか……。

 

「リカルド殿…」

「大丈夫、お前はもっと成長して、いい王になるぞ」

「いえ、結局のところ、結界に穴があいたんで遊びにきただけですね?」

「達者で暮らせよ! また婚礼の場で会おう!」

 

 有無を言わさずオレの言葉をさえぎると、やってきたときと同様に、颯爽と、かつ唐突に、リカルド殿は帰っていった。

 

 

「ようやく帰りましたか……」

 

 リカルド殿の帰国を報告にあがると、母上は寝室に巨大な執務机をもちこんで書類の山に埋もれていた。

 さすがに国王が倒れるとここまで政務が滞るのか。

 

「あなたたちの結婚式の手配です。手伝わせようにもパパも臥せっているしあなたもポンコツだし」

「それは申し訳ありません」

 

 母上、心を読むのやめてほしい。

 

 そして父上のほうに目をやって気づいたが、この夫婦、またペアルックである。父上も母上も同じ柄の上着を羽織っていた。おそらくリカルド殿が母上に会いたがったときのためなのだろう。ペアルックでラブラブ感を演出する……あまり効果はなさそうだが。

 オレの前でもたびたびペアルックをしていたのはその名残なのだろうか。

 

 父上と母上の上着を交互に見ていたら、母上がため息をついた。

 

「このところはペアルック熱がおちついていたというのに、リカルドのせいでまた……」

 

 あ、母上は不本意なんですね。

 

「侍女にわたくしの服装を尋ねるのです。それで、同じものを着ようとするのですよ」

 

 不本意の度合いが想像以上だった。ストーカーじゃないか。

 父上、オレが思っていたよりずっと母上が大好きなんだな。

 

「あなたはこんな夫になってはいけませんよ」

 

 父上のいびきが大きくなる。寝たふりですね。わかります。

 母上、男運ないんですね……。いや地位で考えればあるのか。しかしエリザベスに同じ思いはさせたくないので、気をつけよう、とオレは神妙にうなずいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何故だろう。ヴィンセントがエリザベスとペアルックしても、エリザベスなら「ヴィンスが私と同じ服装で嬉しい」という結論が不可避なんですがw ストーカーみたいな王様二人に迫られるなんて、王妃様運…
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