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ハーフオーガのアリシア66 ― 政治の季節のはじまりⅠ ―



 勲章をもらって、税金を払った日の晩に

「あしたこそぜったいに、ぜったいになまけるのよ!」

とお嬢様は宣言しておられたので、次の日は、お嬢様は昼まで寝ていた。


 演習から帰っても、獲物の解体やらパレードやらで、ほとんど休む間もなく、ずっと忙しかったから、確かに大変と言えば大変だったかもしれない。


 それで、皆にも昼まで寝ているようにと、お嬢様からお達しがあったけれど、従僕のトニオくんや、メイドのミーナちゃんは早くから起きて色々とやっている音が聞こえた。

 それで、アリシアも普段より少し遅いくらいで寝床から起き出したし、起きてみるともう他の皆も起きてきていたので、皆で掃除をしたり、朝ご飯を作って食べたり、昼ご飯の下ごしらえをしたりして、お嬢様が起きてくるのを待つことにした。


 トラーチェさんは朝ご飯を食べ終わると、学院の総務部とやらに用事があるとかで、出ていってしまう。


 そのうちにお嬢様が起きてきて、寝間着のままキッチンに漂いでてきたので、豚鬼族(オーク)のアイシャさんが、お嬢様を捕まえて、いったん部屋に連れ帰って着替えさせた。


 その間にアリシアはキッチンでパンを少しだけ焼き、お肉の欠片も少し焼き、スープを温めて、その間に葉物野菜を洗ってちぎってサラダにして、ミカンの皮を剥き、薄皮も太い指でなんとか剥いて、きれいに皿に盛りつけて、お嬢様の朝食の用意を整える。

 お嬢様は体が小さいから、食べるといってもわずかばかりのものだ。



 アリシアは、七月の終わりごろにこの街に着いて、そこからこのお屋敷に住みはじめたわけだけれど、二か月ちょっとくらい住んで、お屋敷に慣れはじめたところで演習に、それも二か月も出てしまったので、演習から帰ってきたときには、またなんだか知らないお屋敷みたいに感じてしまった。

 それで演習から帰ってきて、また数日経って、ようやくくつろいできたような気がする。


 お嬢様が寝間着で出てきたのも、だらしないかもしれないけど、アリシアと同じように、ようやくくつろいできたということだろうか。

 前に住んでいた、ご領主様のお屋敷では、お嬢様の寝間着姿とかは見たことがなかったので、お嬢様はご実家から離れて羽根を伸ばせているということなのかもしれない。



 お嬢様がパクパクと朝ご飯を食べるのを、アリシアは頬杖を突きながら、眺めるともなく眺める。

 

「ただいま帰りましたー」

というトラーチェさんの声があって、屋敷の玄関が開いたから外の冷気が入って、一瞬だけ部屋の温度が下がる。

 まあお嬢様が動かしている術具のおかげですぐ快適な温度に戻るのだけれども。


 アリシアはまた焜炉に火を入れて、お湯を沸かして、寒い外から帰ってきたトラーチェさんのためにお茶を淹れる。


 手袋やコートや帽子をとったトラーチェさんが二階から降りてくると、アリシアはお茶の入ったカップを渡した。

 すると

「あっ、わざわざすみませんどうも、ありがとうございます」

とか、トラーチェさんは感謝して頭をさげて、お礼を言ってくれるのだった。


 それはいいんだけど、アリシアには、それがどうもなんだか大仰というか慇懃というのか、必要以上に丁寧というような気がアリシアにはする。


 もともとトラーチェさんがそういう腰の低い丁寧な物言いをする、そういう性格の人なのかな、と最初は思ったのだけれど、どうもトラーチェさんを観察していると、他の人にはそこまで必要以上に丁寧ということはなくて、もっと自然な感じだ。


 もちろんお嬢様には丁寧な物言いをするのだけれど、それはお嬢様がご主人様で寄親なのだから、それはそうとして、お嬢様以外にはアリシアにだけ、へりくだったような言い方なんかをするのだった。

 アリシアがトラーチェさんから呼ばれる時も『アリシア様』だし。


 何か自分に含むところがあるのかとアリシアは不安になる。

 まあにこにことしてお茶も受け取ってくれるし、嫌われているということはない、と信じたいけれども。

 なんで様付けなんですかと普通に聞けばいい気もするけれど、ちょっと気後れがして聞きにくい。



 トラーチェさんは朝ご飯兼昼ご飯を食べているお嬢様を見やって

「お嬢様はお目覚めですね。

 それでしたら、今日の午後からローテリゼ・ドライランター様をお呼びしてもよろしいでしょうか?」

とお嬢様に聞いた。


「ローテリゼさんってたいちょうさんのこと?」


「そうですそうです」


「それはかまわないけど……」


「ありがとうございます! それじゃあちょっと行ってきます」


 トラーチェさんはそう言うと、お茶を飲み干してから、二階に上がってコートと帽子とをまた着こみ、従僕のトニオくんに御者を頼んで、コロネさんのところの馬車を借りて行ってしまった。


 そう言えばローテリゼさんは何の用事で来るんだろう?



 ◆



 やがて、一時間くらいしてからトラーチェさんは、隊長さんのローテリゼさんと、六本腕のエルゴルさん、それに天竜に踏まれてお嬢様に治療をしてもらったお爺さんのクリーガさんを連れて戻ってきた。


 アリシアたちが座っている居間に

「やあどうもどうも」

とか言いながらエルゴルさんが入ってきて、それからローテリゼさんが続く。

 ローテリゼさんは手に封筒を持っていた。

 最後のクリーガさんは、入ってくるなりソファーに座ったアイシャさんに抱っこされているお嬢様のところへ行って跪き

「アリスタ様におかれましてはご機嫌麗しゅう」

とか言って挨拶をしている。


 メイドのミーナちゃんが、ローテリゼさんとクリーガさんのコートを預かり(エルゴルさんはコートは着ていなかった)トラーチェさんが二階の部屋に上がってコートと帽子を脱いで、かわりに封筒を手に持って降りてきた。

 あの封筒には何が入ってるんだろう?


 皆がソファーに落ち着いたところで

「今日来たのはだな、徽章と記念章を渡しにきたんだ」

とローテリゼさんが教えてくれた。

 徽章ってなんだろう……



 アリスタ君、ちょっとこっちへ来てくれるか? とローテリゼさんが言ったから、お嬢様はアイシャさんの膝の上から飛んでいって、隊長さんの膝の上に向かい合うように座って着地する。


 ローテリゼさんは手に持った封筒を開けて、何か白い帯のようなものを取り出した。

 伸ばしてみると、何かうっすら白く輝いているようなきれいな布でできていて、金糸で飾りが入っている。

 それをローテリゼさんはお嬢様の肩に斜めがけにして掛けた。

「これがないと服が穴だらけになるからな……」


 ローテリゼさんは、お嬢様にかけた帯を、ちょっと引っ張ったり伸ばしたりして、位置を整えると、今度は封筒からバッジのようなものを取り出して、その帯の上に並べるようにしてピンで留め始める。

 バッジは横長で、金色だったり黒っぽいのに宝石が付いていたりして、何かの図案のようなものが彫り込まれてあるみたいに見えた。


 やがて留め終わる。

「いちばん上が一等飛行徽章、それから下に向かって順に、特等投射術徽章、特等治癒術徽章、特別特等輸送者徽章、あと討伐演習参加記念章だな。

 昨日もらった勲章も四つあっただろう。あれもここに並べて付けるといい」


「これのこと?」

 お嬢様の小さなおててには、荷物袋の異能から取り出したらしき、勲章のリボンのついたメダルが握られている。


「そうだ。ひとつやふたつなら服に直接付けたらいいがな。

 徽章が四つに記念章が一つ、勲章が四つで……都合九つか。

 そんなにあると全部付けたら服が穴だらけになるだろう?

 だからこの帯を持ってきたんだ。確か金具が……」

 ローテリゼさんは、封筒をごそごそと探って、勲章のリボンが着けられるような金具を取り出し、帯に留める。そうしてその金具にお嬢様から勲章を受け取って一つずつ吊り下げていく。


「できた!」

とローテリゼさんがつぶやいたので見てみると、お嬢様の体の前側に太い帯が斜めにかけられて、その帯が、バッジやら、リボンから下がったメダルやらだらけになっている。

 きれいに見えるかどうかは……ともかく迫力はあった。なんかすごい。


「ありがとう!」

と、お嬢様が元気よくお礼を言う。


「じゃあ今度はアリスタ君が自分の中隊の皆に付けてやるんだぞ」


「そうなの?」


「そうだ。上官が着けてやるのが慣例だからな。だから今日私が来たんだ」


「でもそんなのもってない……」

とお嬢様がしょんぼりすると


「ここに用意してございますよ」

とトラーチェさんが封筒を掲げた。さすがだ。


「やった! ありがとう!」

 そう言って、お嬢様が今度はトラーチェさんのほうに飛んでいく。


 トラーチェさんは、飛んできたお嬢様を片腕で抱っこすると、いったんソファーに座ってから封筒をお嬢様に渡す。

 お嬢様は封筒を受け取って、その中身を居間の机の上に出してひとつひとつ並べ始めた。


 封筒から出てきたやつは、何か図案が彫ってある銀色の横長のバッジが二つと、豆粒のような宝石が一つだけついた黒っぽい横長のバッジが五つ、それに少し大きめの宝石と、豆粒のような宝石が一つずつ付いた黒っぽい横長のバッジが一つだった。


「じゃあアイシャからね!」

 お嬢様は元気よくそう言って、バッジ類を封筒に戻した。

 その封筒を小さなおててに持って、アイシャさんのほうへ飛んでいき、アイシャさんの膝の上に乗る。


「……どれをつければいいの?」

 アイシャさんの膝の上に乗ってから、トラーチェさんのほうに首をまわして、お嬢様が聞いた。


 

「アイシャさんは……三等治癒術徽章と討伐演習参加記念章ですから、銀色で翼のある女神の透かし彫りがあるやつと、宝石が一個だけ付いてる黒っぽいやつです」


「わかった」

 お嬢様は小さなおててで一生懸命、アイシャさんの服の左胸に徽章と記念章を付けにかかる。

「ピンで指を刺したらいけませんよ」

とアイシャさんは言っていたけれど、お嬢様は怪我をすることなく無事に付け終わり、そうしてとびきりの笑顔で

「えんしゅう、おつかれさまでした!」とアイシャさんに言った。

 皆で一緒に拍手をする。

 エルゴルさんも拍手をしてくれているけど、手が六つもあるから拍手も三倍だ!

 拍手要員としていいな、とアリシアは思ったのだった。

 

「ありがとうございます」

とアイシャさんはお嬢様にお礼を言って、きゅっとお嬢様を抱きしめる。


 お嬢様は「つぎはコージャね!」

といって黒森族(エルフ)のコージャさんのところに飛んでいって抱っこされる。

 そうしてコージャさんの胸に討伐演習記念章を付けて

「おつかれさまでした!」とお嬢様がコージャさんに言うと、コージャさんも嬉しそうにして、はにかんでいた。


 その次がアリシアの番で、アリシアは銀色の三等突撃者徽章というのと、演習参加記念章を付けてもらった。

 やっぱりよく知らない旅団長さんとやらに付けてもらうより、お嬢様から付けてもらうととっても嬉しい。


 お嬢様の胸についている徽章というやつは、金色で宝石も付いていて豪華だけれど、アイシャさんやアリシアのは、宝石のないただの銀色の徽章で地味だ。

 たぶんお嬢様の方がいいやつをもらってるのかなとアリシアは思った。


 それからウィッカさんとコロネさんも、お嬢様に討伐演習参加記念章を胸につけてもらう。


 そして最後にトラーチェさんが討伐演習参加記念章をつけてもらうんだけれど、他の人のは黒っぽい横長のバッジに豆粒みたいに小さな宝石が一つだけなのに、トラーチェさんのは少し大きめの宝石と、豆粒のような小さな宝石が一つずつ付いていた。

 トラーチェさんのやつだけ他の人のと少し違うので、なんでなのか聞いてみると、討伐演習参加記念章というのは、参加する回数が増えるたびに小さな宝石の数が増えていき、参加した回数が五回で少し大きめの宝石一個にかわる仕組みらしい。

 トラーチェさんはこの学園は今年で十四年目だそうで、そのうち演習に出たのは六回目だから少し大きめの宝石がひとつと、小さな宝石がひとつになってるんだとか。

 トラーチェさんは学園で十四年も勉強したのか……とアリシアは気が遠くなるような気がした。



「これからまたパーティーが増えてくると思うからな。

 そのときに勲章はもちろん徽章や演習の参加記念章があるとだいぶ扱いが違う」

 トラーチェさんの胸に記念章を付けて、飛んできた戻ってきたお嬢様を抱き止めながら、ローテリゼさんがそう言う。


「パーティーがあるの?」

 お嬢様がローテリゼさんの膝の上から聞いた。


「ああ、そうだぞ。演習も終わったからな、これからは政治の季節だ。

 特にアリスタ君ならめちゃくちゃパーティーの招待状が来るぞ」


「どうして?」


「そりゃ戦力評価がとんでもないからだ。

 今から三週間くらいかけて評価替え会議というのがあって、そこで皆の戦力評価が決められる。

 それでその戦力評価がそのまま議会での投票数になるんだ。

 評価替え会議はこれからだから、まだ戦力評価は出てないが、アリスタ君の戦力評価が高くなるのは明らかだからな。

 私はアリスタ君の演習の評価書を書いたときに戦力評価は二十六万と見積もって書いたんだが、もし私の評価書がそのまま通ったら二十六万票をアリスタ君が持ってることになる。

 総票数が二百五十万か二百六十万くらいか? 一割くらいアリスタ君が持ってることになるんだぞ」


「お嬢様の持つ票数がたぶん多いので、総票数もそのぶん膨らむでしょうから、総票数は二百七十万票とか二百八十万票くらいかもしれませんね」

 トラーチェさんがどこか緊張したような顔でそう言う。


「え、なに? どういうことなの?」


「前にカードを使ってご説明したやつですよ。(#)

 お嬢様はとっても強いから戦力評価が高くて、それで議会で行使できる票の数がすごく多くなると思うんですね。

 そしたら議会で何か法案とか通したいと思えば、お嬢様に頼むのがいいでしょう?

 だからまずパーティーをして、お嬢様を招待して、そこでお嬢様に頼もう、って考える人も多いと思うんです。だからほぼ確実に招待状がいっぱい来ます」


「だいたい大事なことは議会の議場じゃなくてパーティーとかクラブの集まりとか食事会とかお茶会で決まるからな。

 議会の審議はそうやって決まったことを正式にする場というような感じだな。

 そういうのを『パーティー政治』って言うんだぞ」

とローテリゼさんが付け加えた。


 アリシアはパーティーってのはご馳走を食べる集まりだと思っていたのでびっくりしてしまう。



 するとお嬢様は、すごく渋い顔をした。

「えー……わたしそういうのきらい」


「そうなのか?」

 ローテリゼさんが驚いたように言う。


「だってああいうパーティーとかでると、すごいながくなるんだよ。

 だからっていかないとかいうと、あいてのひとががっかりするし、とちゅうでかえってもがっかりするし。

 わたしがおこったからとちゅうでかえったんだ、みたいなうわさがたったりするし、ほんとめんどう」


「演習じゃかなり派手にやってたから、政治の方面もやりたいんだと思ってた……」


「そんなことかんがえてないよ!」

 お嬢様が不満そうに言う。


「天竜とかをやっつけたのは、向こうから襲ってきたので仕方ないとして、大きな砦を毎晩作ったり、時間停止の荷物袋から食べ物をいくらでも出して振る舞ってくれたりとかいうのは……能力を見せてるというか政治的な意図もあるのかなと思ってた」


「あれはじぶんたちだけおいしいものをたべるのはよくないかなっておもったからだもん」


「そうなのか……」


 するとフォローするようにクリーガさんが口を開く。

「アリスタ様の気高いお心をこの爺はよく分かっておりますぞ。

 このほとんど死にかけた爺を打ち捨てず、夜を徹してお治しいただいただけでなく、手ずから療養のための食事を作っていただいたり、果物を剥いていただいたり、時には抱きしめて慰めてくださったり、励ましてくださったり、本当に心を砕いてくださった。

 何か意図が別にあったというなら、そこまでのことはなさらなかったでしょう。

 まだお小さいのに、私のみならず、大隊と連隊の皆を、心を尽くして優しい母親のように世話してくださいました。

 しかもそれについて、何も、全く何も、ただのひとつも返礼などお求めにならなかった。

 そのことを思うときに、この爺は深く胸を打たれるのです」


「そこまですごいことはしてないんだけど……」

 そう言ってお嬢様は照れてクネクネしている。


「いや、すごかったぞ。

 そうだよな。とても親切にしてくれたのに、変なこと言ってすまなかった」

 ローテリゼさんがそう言って頭を下げる。


「それはいいんだけど、パーティーかあ……」


「まあ行きたいのだけ行って、他は断ったらいいと思うよ」


「ことわったらあいてのひとが、すごいがっかりすることもあるし、ことわりづらいんだよね……」


「でも適当に断らないとアリスタ君なら山のように招待状が届くだろうから毎日パーティーになるぞ」


「毎日パーティーで済めばいいですが、適当に断らないとそれどころじゃなくなりますよ」

とトラーチェさんが口を挟む。


「どういうこと?」


「まず昼の食事会があるでしょう? 午後から夕方にかけてはどこぞのサロンでお茶会もあります。それから夜にパーティーがあって、パーティーが終わったらどこぞのクラブで明け方まで夜遊びってなります。

 ああいう食事会、お茶会、パーティー、夜遊びってだいたい慣例があって時間が決まってるんですよ。

 時間を分けて予定がそれぞれぶつからないようにしてるんです。

 だいたいはですが、昼の食事会は十一時から十三時半、午後のお茶会は十四時半から十七時、夜のパーティーは十八時から二十二時半、夜中の夜遊びは二十三時半から明け方まで、みたいにおおむね時間が決まってるんですよ。

 同じ街の中のことですから、フルコースで行くと隙間時間に会場を移動して、そんなふうに一日で四つの催しに出るみたいなこともあり得ます」


「つかれてしんじゃうよ……そんないちにちじゅうぜんぶでるひととかいるの?」


「私がもっと若い時というか数年前はやってましたね。パーティーの蝶々と言われたものです」


「パーティーのちょうちょってなあに?」


「あっちのパーティーこっちのパーティーとフラフラしてる人のことです。まあ悪口ですけど……

 ですからね、適当に行きたいのだけ行って、他は断らないとダメですよ。

 演習から帰ったばかりで皆が疲れてるので、今はまだパーティーやらお茶会やらのお誘いもないですが、十日くらいから、前期が終わる十二月末まで、昼、夕方、夜、夜中と、パーティーが街のあっちこっちで常にあるみたいなことになります。

 そんなのに毎日、それも一日中出るなんて無理でしょう?」


「なんでそんなパーティーばっかりするの。みんなヒマなの?」


「まあ暇ってのはありますよ。討伐演習に参加してない人は普通に授業がありますけど、討伐演習で単位もらう人は演習が終わったら冬の休暇までひと月弱くらいやることないですからね。

 でも評価替え会議の結果は気になりますから、結果が出るまでは学園内に居るんですよね。

 それで暇だから政治活動がてらパーティーして時間を潰そうみたいな流れだと思います」


「ふーん」とお嬢様は胡乱げな顔をしている。


「……ちょっと話の流れからして言いづらいんだが、今日は私もアリスタ君と中隊の皆をパーティーに誘いにも来たんだ。

 といっても政治向きのパーティーじゃないぞ。一緒に演習をした大隊の皆で慰労会をすることになっていてな。良かったら来てほしい」


「私をはじめ、大隊の皆がアリスタ様にたいへんお世話になりましたので、アリスタ様にご出席いただければ皆も喜ぶと思います」

とクリーガさんが口を挟む。


「そういうことならよろこんでいくわ」

 お嬢様がそう答えると、ローテリゼさんはほっとした顔をして

「パーティーはあんまり長くならないようにするからな」と言って、それからエルゴルさんやクリーガさんたちと一緒に帰っていった。

 パーティーの日取りとかはまた後日に連絡してくれるらしい。


 お嬢様はパーティーとかはあんまり好きではないみたいだけど、アリシアはやっぱりパーティーだとご馳走がいっぱい出てくる印象があるので、今から楽しみになったのだった。




■tips


(#)ハーフオーガのアリシア49 ― 戦力調整会議Ⅱ ― 

 を参照のこと


 ここでも簡単に説明しておくと、この世界の西方帝国内における議会は、ひとりが一票ではなく、能力や学識の多寡で、その人が持つ票数が変動する。

 ごく普通の一般人は一票しか持たないが、戦闘力を含めて優れた能力があったり、学識があったり、あるいは雇用している従業員の数などで、その人の持つ票数が増えることがある。


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