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ハーフオーガのアリシア26 ― アリシアは服を仕立ててもらう ―



 アリシアが初めての給料を貰った日の、その次の日。


 いつものように昼食を、お嬢様と、豚鬼族(オーク)のアイシャさん、黒森族(黒エルフ)のコージャさん、馬人族(ケンタウロス)のウィッカさん、それとアリシアの、家臣一同で楽しく食べて、それからお茶を飲みながら談笑していると、ドアがノックされた。

 アイシャさんがハイと返事をすると、奥様が入ってこられる。奥様は今日も考えられないくらい綺麗だ。

 今日も奥様を見られて、いいことあったなあとアリシアが心ひそかに思っていると


「今日はみんなの服を買いに行く予定にしてるんだけど……アリスタはちゃんと皆に言った?」

と奥様がおっしゃった。


 お嬢様は一瞬固まって、それからふるふると首を振る。


「もう、ダメじゃない。あなたがここにいる皆の(あるじ)になったんだから連絡くらいちゃんとしなさい」

 そう言われてお嬢様はシュンとしてしまう。かわいそう。でもかわいい。


「皆はこの後の予定はどうなってるのかしら?」と奥様がお聞きになる。


「あと少しでドーラさんと見回りがあります」とアリシアが答えて、

「私とコージャさんで、園丁のケベックさんが新しい畑を作る手伝いをすることになってます。

 新しく敷地を耕すから犂を引いてくれってことで……」

とウィッカさんが答えた。


 ウィッカさんは馬人族(ケンタウロス)だからそりゃ体は馬だけれども、犂まで引くのかと、わりと馬扱いしても怒らないんだなとアリシアはちょっと驚いたのだった。


「ああ、ヨランダが使う用の畑ね。私が頼んだのよ」と奥様がおっしゃる。


 奥様は少し考えてから

「アリシアさんを連れ出すから、ドーラに今日の昼の見回りはひとりで行ってくださいって言ってきなさい」

とお嬢様におっしゃった。


「あの、私が言ってきます」とアリシアが言ってみたものの


「アリスタが忘れてたんだから、アリスタが言ってくるの」

と奥様がおっしゃったので、お嬢様がスポッと椅子から抜けるように飛び出して、そのままふわふわ飛んで部屋を出て行った。


「ケベックには私が言ってくるから、皆は外に出る用意をして、屋敷の前に集合しておいてね」

 そう言って奥様も部屋から出て行ってしまわれる。


 アリシアはあわてて自室に戻り、軽めに武装してからマントで隠し、帽子をかぶってお屋敷の前に急ぐ。

 

 お屋敷の前にはまだコージャさんしか来ていなかった。

 コージャさんもいちおう武装したのか、腰に一振り曲剣を差している。それ以外はいつもの細身のズボンにブーツに上着で格好は普段とあまり変わらない。外出だからアリシアと同じ色と紋章のマントを着ていることくらいか。


 二人で少し待っていると、ガラガラという車輪の音と、パカパカという蹄の音がして、見るとウィッカさんが馬車を引いてきてくれていた。


 ちょうどそのタイミングで奥様と、アイシャさんに抱っこされたお嬢様が出てこられる。


 奥様は部屋で来ておられた簡単なドレスから外出用らしい、ちょっとだけかっちりしたドレスに着替えておられた。

 春らしい若草色で、そこに金糸で蔓草の模様を刺繍されていて、とってもきれいだ。

 大きな麦わら帽子をドレスより少し薄い色の大きなリボンでぐるりと縛って留めていて、すごくかわいらしい。


 お嬢様はレースをいっぱい使った真っ白なドレスを着ていて、同じ色の帽子をかぶっていることもあって、なんだかふわふわしたかたまりに見える。すごくかわいい。


「お乗りくださーい」とウィッカさんが言ってくれたので、アリシアは馬車の扉を開けて、アイシャさんと奥様の手をとって、馬車にお乗りいただいた。

 なおアリシアはデカすぎて乗れないのでもちろん徒歩である。

 コージャさんは素早く御者席に飛び乗る。とは言ってもウィッカさんは馬人族(ケンタウロス)であって馬じゃないので御者は要らないのだろうけれども。


「出しますよー」とウィッカさんが言って、馬車がゆっくりと走り始める。



 一行は丘を降りて街へと続く道に入る。

 もう夏が近くなって、風はだいぶん暖かくなり、道端の草木はだいぶん緑色が濃くなっている。

 そんな中を、馬車の車輪がカラカラという音や、ウィッカさんの蹄がパカパカいう音を聞きながら、ゆったり歩いていると、アリシアはしみじみと幸せだなと感じたのだった。



「みんな予定を動かしてもらってごめんね」と馬車に揺られながら奥様がおっしゃった。


 いえいえ、と皆で言って首を振る。

 アリシアとしても別にそれでドーラさんに怒られるわけでもないし、何も問題はない。


「夏と冬の服の支給っていうのは、休暇で実家に帰るときに、家臣とか下働きの子たちにきれいな服を着させて帰らせましょうって意味だから、皆が実家に帰る前に渡してしまわなきゃいけないのよね。だから忙しくてここのとこ毎日毎日服屋通いよ」

 だからあなたたちの服の相談をするのは今日くらいしかもう日がなかったのよ、と奥様はそう言って、そういうわけだから勘弁してねとおっしゃった。


 ご領主さまの家臣に、奥様の家臣に、お嬢様の家臣である自分たち、それにメイドさんやら従僕の人たちやらが何人いるのかはっきりは分からないけれど、かなりいっぱいいるみたいに見える。

 その全員に服を作るとなると、お金だけでも大変なことになるんじゃないだろうか。

 アリシアは服が作ってもらえると何も考えずに喜んでいたけれど、貴族をやるのも大変なもんなんだなと驚いてしまったのだった。


 それから

「実家に帰ると言えば、アリシアさんとウィッカさんとコージャさんはまだ来たばかりだから夏の休暇はまだナシね。一時金と服は渡すからそれでいいことにしてね。冬は休暇もあるからね」

と奥様がおっしゃった。


 ハイ、と答えながら、アリシアとしても確かにまだ来てひと月ちょっとくらいしか経ってないから、帰ると言ったって、実際帰ったら、懐かしいというよりは、もう帰ってきたのって感じだろうとは思う。


「そういえばアイシャは休暇の届けが出てなかったけど帰らないの?」と奥様がアイシャさんに聞いた。


「ええ、帰っても気づまりですし……」

 そう言ったアイシャさんの横顔はあまり表情が無かった。


「親御さんと仲が良くないの?」と奥様がすらっと聞いてしまう。

 けっこう踏み込むもんだなと思いながらアリシアが聞いていると

「仲が悪いというわけじゃないですけれど、良くもないというところでしょうか……それに家に帰ってもお嬢様が気になりますし」

 アイシャさんはそう言って、奥様に抱っこされていたお嬢様を抱き取り、頬ずりをした。


「そんなこと言ってたって帰れるときに帰っとかないとあとで後悔するものよ。たぶんだけど」


 そういえば奥様にも親御さんがおられるはずで、そしたらやっぱりエルフなんだよね、だったら一度お目にかかってみたいなどとアリシアが考えているうちに、馬車が街に入っていく。



 ◆



 馬車の幌は畳んであるから、奥様とお嬢様が馬車に乗っているのは、馬車の外から見えるわけだけれど、街を歩いている人とか、道沿いのお店の店先にいる人たちとかが、奥様とお嬢様が馬車に乗っていることに気づくと、帽子をとってお辞儀をしたり、人によってはさらに「祝福を!」とか「お手に口づけを!」とか言う人もいた。


 すごい人気があるんだなあ、と感心していると、奥様が街の人たちに手を振ったりしながら

「まあ病気や怪我を治してあげたら感謝されやすいものよ」とおっしゃった。

 お嬢様も小さなおててをフリフリと振りながら

「おとうさまがまちにいってもだれもこんなふうにはしてくれないっていってたものね」とおっしゃった。


 ご領主さまじゃ駄目なのか。世知辛いなあとアリシアは思ったが、よく考えればアリシアも奥様とお嬢様が馬車でお出かけしているのを遠目に見たら、走り寄ってご挨拶くらいするが、ご領主さまだったらしないかもと考えて納得してしまったのだった。



 ◆



 そこを右とかそこを左とかいう奥様の指示にしたがって、ウィッカさんの引く馬車は少し走り、やがて大きな通りに出る。

 

 通りは店先に大きなガラスをいっぱい使った、店の中が見えるような、何が売っているのかはよく分からないけど、なにやらきらきらしいお洒落な店がずらりとならんでいる。

 アリシアは街の見回りでドーラさんと一緒に色々なところを歩いたはずだけれど、この通りを見たことがなかった。


 それで「ここは来たことがないです」と奥様に言うと、

「アリシアさんがドーラと見回りをしてるあたりとは区域が違うのよ。ここは昼間に営業してる店が多い場所ね。ドーラが見回りをしてるのは夜のお店が多い場所よね」とのことだった。


 ここで止まってという奥様の合図で、馬車は服屋さんらしきお店の前で止まる。

 奥様が立ち上がったので、アリシアが手を貸している間に、コージャさんが御者台からぴょんと飛び降りて、店の扉を開けて入っていく。


 お嬢様がふわりと浮かび上がって、先に降りた奥様の胸に収まり、最後にアイシャさんがアリシアの手をとって馬車から降りてきたところで、ドタバタと物音が聞こえて店の扉が勢いよく開く。

 中年の女の人が転がるように飛び出してきた。

「まあまあ! 奥方様、およびいただければ参りましたのに!」

そう言ってその女の人は奥様の手をとる。


「いやまあ今日はこっちに来るほうが都合が良かったのよ。馬車は裏に回せばいいかしら?」


 中年の女の人は馬車のほうを見て

「そうですね。裏に……」と言いかけてアリシアに気づいたのか、仰け反って驚いた様子だった。

 ついでに馬車が動き出したときに、引いているのが馬じゃなくて馬人族(ケンタウロス)なことにも驚いて、もう一度仰け反っていた。



 ◆



 お店の中は漆喰かなにかを塗ったような白っぽい内装で、窓も大きいし、高い天井には晶術石の灯りがいくつも付いていたので、とても明るかった。

 壁際には棚があちこちに置いてあって、そこに畳まれた下着や靴下やブラウスがたくさん置いてある。

 それから何か等身大の人形のようなものにきれいな服を着せてあったり、足元には服に合うような靴を履かせて、手には鞄をひっかけている。

 他にも、丸棒で作った横木に、ハンガーで大量の服が吊るしてあって、アリシアは今まで服屋というものに入ったことがなかったので、これほどたくさんの服を見たのは初めてだった。

 なんだかやたらとキラキラしていて、心が浮き立ってくるような、そういうふうにアリシアには見えた。


 店の奥には低めのテーブルとソファーがあって座れるようになっている。


 中年の女の人は、ワインの空き箱やら絨毯やらいろいろ出してきてくれて、アリシアやウィッカさんが座れる場所も作ってくれた。


 それで皆が座ってお茶も出してもらったところで

「今日はね、この子たちの服を作ってほしいと思って来たのよ」

 奥様はそう言って口を切った。


 奥様がそう言うと、服屋さんの女の人は、ふわふわとした笑顔をひっこめて

「さようでございますか」

と返事をしたかと思うと、急に鷹みたいな鋭い目つきになって、アリシアたちのほうを見始めた。


「これから夏でしょう。それにこの子たちには娘が学園に行くのにも同行してもらうのよ。だから、ちょっとかっちりした服も要るのね。帰省してくるのは冬だから冬の服も先に渡しておかないといけないし」

 奥様がそうおっしゃると、服屋さんは、ふむふむと言いながらメモをとって

「そちらの黒森族(黒エルフ)の方以外は吊るしの服ではだめですから特注になりますが」と言った。


 そりゃまあ体がデカい大鬼族(オーガ)に、おっぱいが六つある豚鬼族(オーク)に、下半身が馬の馬人族(ケンタウロス)だから特注にもなるだろう。


 それは大丈夫よ、と奥様がおっしゃったので服作りの相談が始まった。


 服屋さんは、紙を何枚も持ってきて、ペンでさらさらと図を書いて幾つもデザインを見せてくれる。

 本当にわずかな時間で、しかも上手に描いてしまうのでアリシアはびっくりした。

 それから何か鮮やかな色の粉で図に簡単に色を付けてくれるので、それを見ながら皆でワイワイと相談しする。


 本職の服屋さんはやっぱりうまいもので、家で作るような服よりデザインがだいぶあか抜けている。


 例えばアイシャさんなんかは、オークだから大きなおっぱいが六つあるからどうしても太って見えるものだけれど、それを何か斜めに布をいっぱい重ねて、太っているというより豪華な感じにしてしまった。

 やっぱり仕事でやっている人は違う。


 それからケンタウロスのウィッカさんの服については、馬部分は布で覆ったほうがいいのかとか、出したままのほうがきれいかとか皆で激論したりした。


 アリシアも揃いの下着と靴下がそれぞれ二つずつ。

 それに普段着用のタイとシャツとズボンと上着が冬用と夏用をひとつずつ。

 それから普段用ではない、派手なレースや襞があるシャツが二つ。

 冬用に金のふち飾りや金ボタンを付けたらしき青っぽい上着。上着と同じ色のベストとリボンタイ

 夏用に同じような飾りで白っぽい上着とベストとリボンタイ。ブローチがふたつ。

 それに上着とは少し色を変えたズボンがひとつずつ。

 あとそれらに合わせられるような靴が二足。


 と、なんだか奥様にえらい量の衣装を注文されてしまった。

 これはアリシアだけではなくて、お嬢様の家臣のみんながそんな感じだった。


「あの、そんなにいっぱいは……」とアリシアが遠慮しようとすると、奥様が

「学園に行ったら催し物があるから、かっちりした服は絶対要るのよ」とおっしゃった。


 お金は出してあげるから心配しないの、とのことでアリシアはひと安心だったけれど、こんなに服が要るのかと驚く思いだった。

 けれども、デザイン画に描かれた姿は確かにすばらしく恰好がよくて、アリシアは天にも昇る思いではあったのだった。


 最後に黒エルフのコージャさんの衣装を決めたのだけれども、彼女は落ち着いた色が好きなのか、黒とか焦げ茶とかそんな色ばかり選びたがって、ドレスよりもズボンを着たがるし、最終的に決まった服が、ひたすら地味な感じになってしまった。


 奥様はそれが不満だったのか難しい顔をしていたけれど、アリシアももちろん不満だった。

 そうすると吊るしのドレスの中に、明るい橙色に檸檬色や白いレースを差し色にした、すごくかわいいドレスがあるのを奥様が見つけて、それを着てみなさいとコージャさんに命じたのだった。


 それでコージャさんがそのドレスを着ると、ちょうどサイズもぴったりで、褐色の肌に明るい橙色がよく映えている。

 服屋さんがクリーム色の靴に同じ色の手袋、それに青い宝石が入った、揃いらしき金の髪飾りとブローチを持ってきたので、それを付けるともう完璧だった。


 あんまり愛らしいので、アリシアは思わず歓声を上げて、コージャさんを抱き上げてしまったくらいだった。



 けれどもアリシアは、コージャさんのその愛らしい姿を見て、振り返って我が身と比較して、がっかりしてしまったのだった。


 どこかの騎士様か貴族様がパレードでもするような、アリシアの服の、すばらしく恰好がいいデザイン画を見て、アリシアが喜んだのも束の間で、モジモジと顔を伏せて恥ずかしげにしているコージャさんの可愛らしいさまはあまりにも貴重で眩しく思えて、翻って我が身が、多少格好がよかろうとそれがなんだ、みたいな思いになってしまう。


 コージャさんはこんなに可愛いのに自分はでかいオーガで……


 考えが良くない方向に行きかけたところで

「じゃあこのドレスと靴とアクセサリーも買うわね」と服屋さんに言っている奥様の声が、アリシアを正気に戻す。


 今のドレスやらの代金と、あと注文した服のぶんの手付ね、と言いながら奥様が、どこからともなく大金貨を(普通の金貨ではなく!)取り出して、服屋さんにざらざらといっぱい渡した。

 

 仕立ての服は、高いんだろうなとは思っていたものの、実際にものすごく高いようなところを見てしまって仰け反りそうになる。

 ものすごく高くてかっこいい服を作ってもらったのに、ガッカリなんかしてるのは良くないとアリシアは自分を戒めた。

 

 奥様に買っていただいた服は、在り物を買ったのではなくて、注文の服だから、また仮縫いが終わったところで、またお店に来なきゃいけないらしい。

 でもコージャさんの着ていたドレスだけは吊るしのやつだから、その場で貰えた。

 畳んで紙の袋に入れてもらったドレス一式とアクセサリーを、奥様からハイと渡されると、コージャさんは焦ったように顔色を悪くしていたけれども

「貴族が子供を学院にやるんだったら、一緒について行く子たちにもそれらしい格好はさせなきゃならないし、必要経費よ」

 だから遠慮しなさんな、そう奥様はおっしゃってコージャさんにドレスとかアクセサリーを受け取らせていた。



 ◆



 それから見送りをうけて服屋さんを出たところで

「ちょっと疲れたから喫茶店でも寄って帰りましょう」と奥様がおっしゃった。


 それで、そこを右とかそこを左とかおっしゃる奥様の指示に従ってまた馬車を走らせ、アリシアはその横を伴走する。

 少し人通りが少なくなった落ち着いた場所に出ると、そこには大きな庭にテラス席がある喫茶店みたいなところがあった。


 そのお店で、いつものようにアリシアのための木箱やら、ウィッカさんのための絨毯を用意してもらって、お茶を飲んだりお菓子を食べたりしながら、皆で他愛もない話をする。


 それから奥様に

「今回は服をいっぱい買ってあげたけど、これはアリスタの学院行きに皆で付いていってもらうための支度として特別に買ったんだから、屋敷の他の子たちには内緒にしてくれないとダメよ?

 他の子たちは、もっと簡単な普通のドレスと靴下と下着をひと揃いくらいしかもらってないんだからね」

とかそういう諸注意を受けて、それから皆でお屋敷に帰ったのだった。





■tips


 大金貨とは、普通の金貨(正金貨)3枚分の価値を持つ金貨である。

 現代日本の貨幣価値に直すと、正金貨がだいたい1枚10万円であるから、大金貨は30万円ほどである。


 今回、奥様はアリスタお嬢様の家臣一同に、学院で着るための服を数セットずつ買い与えた。

 黒エルフのコージャさんのドレスを除いて、フルオーダーであるから非常に高価で、アクセサリー等も含めて、その代金は現在の貨幣価値に直すと3000万円ほどにもなる。


 奥様は手付として、そのうちの2割である600万円分ほどを、大金貨20枚を渡して支払いをした。


 アリシアは奥様が、その手付を払うところだけを見て、仰け反って慄いていたが、実はそのお金が商品代金の全額ではなくて、2割ほどに過ぎないことはまだ知らない。


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