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ハーフオーガのアリシア17 ― 訓練という名のピクニック~悪いなアリシア、この馬車は只人用なんだ!~ ―


 アリシアが、今日もまた昼前に起きて、服を着替えて顔を洗って歯を磨いて、さて何をしようとなったところで、部屋の扉がノックされた。


 どうぞ、と言うと扉が開いて、その隙間から何かふわふわしたカタマリが飛んできて、受け止めると、それはお嬢様だった。

 そうしてお嬢様は

「おはよう! きょうはおひるをそとでたべるのよ!」とおっしゃった。


 ドアのところにノックをしてくれたらしきアイシャさんがいておはようと挨拶をしてくれる。

 おはようございます、と挨拶は返したけれども、お嬢様は返したくなかったので、アイシャさんに戻さずにアリシアがそのまま抱っこして、アイシャさんと一緒に、お嬢様の部屋まで向かう。ちょっとうれしい。



 お嬢様の部屋に入ると、昨日お風呂場で会った、馬人族(ケンタウロス)のウィッカさんと、あと黒エルフのコージャさんがいた。

 ウィッカさんの下半身は相変わらずモロに馬なので、正面から見ているときはいいけれど、後ろを向かれると、お尻がいかにも馬で、それが部屋の中にあるので違和感がすごい。


 お互いに、おはようございます、と挨拶をしているとお嬢様が

「きょうはこうぐんくんれんをするから、かんぜんぶそうでれんぺいじょうにしゅうごうよ!」 

とおっしゃった。


 マントをもらう儀式のときの口上もそうだったけれど、赤ちゃんみたいに見えるお嬢様が急に長い複雑な言葉を発すると、アリシアはびっくりして二度見してしまう。

 もちろんお嬢様もエルフだから見た目通りの歳ではないのだろうけれども、やっぱり赤ちゃんみたいに見えるから、そんなふうに扱ってしまいがちになる。これも只人ではないお嬢様が只人達のあいだで暮らす苦労なのだろうか。


 昼過ぎにはドーラさんが迎えにきてくれると思いますが、それはどうしましょうとアリシアが聞くと、

「どーらにはもうはなしてあるわ。きょうはよるのみまわりだけしてちょうだい」

とのことで、段取りもばっちりだった。


 それで、分かりましたと返事をして、返したくないけどお嬢様をアイシャさんに返してから、部屋に戻って腕輪から取り出しながら装備を着ける。


 まず、全身を覆う綿入れを着て、胸甲を付けて、腕にも足にも腰にも鎧を付けて、手甲を付ける。

 それから左腰に片手剣、腰の後ろに段平がふた振り、右腰に柄頭の裏側がハンマーになっている戦斧を吊るして、それから太い革帯を左右にたすき掛けにして、片方に大剣を取り付けて、もう片方に大弓を取り付けて背負い、セットで矢がたくさん入った矢筒をぶら下げる。

 そして左手に、鎧通しが二つと円匙スコップと手槍を一本ずつと投石紐を取り付けた大盾を持って、最後に右手に長柄の斧槍を持つ。

 そうして最後に兜をかぶる。


 こうしてアリシアは、お屋敷に来たとき以来の全身武器人間になって練兵場に急ぐ。



 外の練兵場に着くと、アイシャさんとコージャさんはもう来ていた。


 アイシャさんはダボっとした、たぶん少し綿が入っている、革でところどころ補強したようなドレスに、あと長めのメイスのような杖を持っている。

 コージャさんのほうは、胸のところだけ革の胸当てをつけて、武器は、馬上で使うような弓と矢筒を背負っていて、腰に長めの曲剣をひと振り差していた。

 

 つまり二人ともアリシアみたいな全身武器人間ではなくて、アイシャさんもコージャさんも、アリシアのほうを、あっけにとられたような顔で見ていた。


 アイシャさんが気を使ってくれたのか、すごく強そうよと言ってくれたけれど、アリシアは何だか自分だけ恥をかいているような気がしてしまう。

 でもお嬢様が完全武装と言ったんだからしょうがないよねと思うしかない。


 それからすぐにお嬢様がふわふわと空を飛んでやってきた。

 赤ちゃんみたいに小さなお嬢様でも持てるような、短くて細い杖を持っているけれども、それ以外は特に普段とかわらないような格好だった。

 お嬢様はそのまますーっと飛んでアイシャさんの胸にぼふんと収まった。



 ウィッカさんはまだ来ていなくて、ケンタウロスの武具とかはもしかしたら身に着けるのが大変とかで、時間がかかっているのかなと思っていると、やがてガラガラという車輪のような音に、パカパカという蹄の音がして、見ると、練兵場の前にある建物の陰から、なんと馬車を曳いたウィッカさんがやってくるところだった。

 ケンタウロスも普通の馬みたいに馬車を曳くんだなとアリシアは思った。


 馬車は四輪で、前後の車軸で挟み込むように、中央部分に座席が設けられてある。

 座席は向かい合わせで、只人なら二人ずつ並んで、四人くらい座れるようになっていて、座席に屋根は無く、その代わりに折り畳みの幌が取り付けてあった。

 そして馬車中央部分にある座席の、そのさらに前側には、左右に並べば二人くらい座れる御者席が別にあって、御者席の前には左右にひとつずつ角灯(ランタン)が取り付けてある。

 中央の座席の後ろの、ちょうど後ろ車軸の上あたりには、荷物を入れるらしき小さめのトランクが取り付けてあった。

 

 けっこう立派な馬車だったけれども、ウィッカさんの本体もかなり重武装で、金属製の兜と胸甲にガントレットをつけて、胸甲からスカートみたいにプレートを下ろして馬部分の前側を保護している。

 人が乗れるようにということなのか、背中には鞍や鐙が着けてあって、鞍には細長い旗を流すように取り付けた槍を立てて取り付けてあった。

 そして人間部分の胴体の腰の左右に反りの入った長剣を一本ずつ佩いてあって、馬部分の脚も守る関係だろうか、左手にはアーモンドみたいな形の細長い盾を持って、右手には斧槍をもっている。

 そして背中には弓と、矢を矢筒に入れて背負ってあった。

 そして馬部分のお尻には、金属の小札をびっちり取り付けた革だか布だかをかぶせて覆ってある。


 アリシアにも劣らない重武装ぶりで、アリシアは仲間ができたような気がして嬉しく思ったのだった。


「ぜんいんそろったわね。エルザにごはんをもってきてもらうようたのんであるわ」

とお嬢様が言って、見ると屋敷の陰から、藍色のドレスと大きなエプロンで身をつつんだ、黒髪の銀縁眼鏡の美人のメイドさんがワゴンを押してやってくるのが見えた。


 ワゴンが近くに来るとお嬢様が「ごはんをばしゃにつみこむわよ!」と言った。


 そういえばケンタウロスの人の曳く車は馬車という呼び方でいいんだろうか。

 見た目は確かに馬車そのものなのだけれど。


 食事とか食器とか、ワゴンの中のものを皆で積み込み終わったところで、お嬢様は

「アイシャとコージャはばしゃにのって」と言った。


 そう言われてアイシャさんが、いいの? とウィッカさんの顔色を伺いながら聞くと、ウィッカさんは「どうぞどうぞ」と特に気にした様子もなく返していた。


 それを見ていたお嬢様が

「アイシャのあしがおそいからウィッカにきてもらったのよ」と言って、アイシャさんは

「えっ!?」とショックを受けていた。

 まあ確かにオークの女の人は鈍足だから、いい考えかもしれないとアリシアも思う。


 次にお嬢様はアリシアを上から下まで眺めると

「ばしゃがこわれるといけないからもうしわけないけどアリシアははしってね」と言った。


 それはまあ、さもありなん、というもので、アリシアとしても自分が乗ったら重さで車輪のスポークが折れたとかいうことになったら居たたまれない。


 それからお嬢様はウィッカさんの斜め前方あたりに浮かぶと

「しゅっぱーつ!」と楽しそうに叫び、それから結構なスピードで飛んでいく。


 慌てたようにウィッカさんもそれに続いて、馬車を曳いて走り出す。

 馬車がけっこう立派だから一頭引きで大丈夫かなとアリシアは思ったけれど、見るとウィッカさんはあまり苦にした様子もなく、楽々と走っていく。


 遅れないようにアリシアも、鎧をかちゃかちゃ言わせながら後に続いて走りだした。



 ◆



 お嬢様とウィッカさんと馬車とアリシアは、お屋敷の門を抜けて丘を下り、快調に走っていく。

 いつもアリシアが街へ向かう道まで降りて、そこでついっとお嬢様が街とは反対方向に進路をとって飛んでいく。

 追従してウィッカさんと馬車もギャリギャリと車輪を軋ませながら、進路を変える。


 春から夏に移っていく野原には、黄色や白やピンクの小花があちこちに咲いていて、ウィッカさんの規則的な蹄の音や、車輪が回転して地面を転がる音を聞きながら、暖かな春の空気の中を走っていると、アリシアは無性に楽しい気分になってきて、ちょっと叫びそうなくらいになったのだった。

 久々にまともに運動したからかもしれない。

 

 お嬢様はウィッカさんの斜め前を飛びながら、チラチラと後ろを見ていて、速度を調整していたけれど、しばらくしてから、道を外れて少し小高い丘のようになっているところへ進路をとると、少し速度を上げた。


 丘のてっぺんへと続く緩い傾斜を、一気に駆け上がっていく。

 地面は悪くないものの、道ではないし、牧草みたいな草が生えているのと、坂のせいで、ウィッカさんと馬車の速度が落ちる。

 アリシアは興奮して走ってきたままに、馬車の後ろを掴んでそのまま一気に押す。

 ウィッカさんがちらりと横目で後ろを振り返って

 「坂で馬車の後ろに入ると危ないですよぅ」と言ったものの、アリシアが押したので、馬車が坂を上るスピードが上がる。

 するとコージャさんが馬車から軽やかに飛び降りて、馬車と並走しはじめたので、軽くなったぶん、ますますスピードが上がる。

 アリシアは思わずちょっと本性を出してしまって、うおおおおおぉぉぉ!! などとつい雄叫びをあげてしまいながら、そのまま馬車を押して、一気に坂を上り切ったのだった。



 丘の上は、小さな草花がいっぱい生えていて、ちょっとした広場になっている。

 少しばかり木立もあって、まさしくピクニックにちょうどいい、というかピクニックをするためにある場所みたいになっていた。

 

 ウィッカさんが、いい感じの大きな木の木陰に馬車を回すと、アイシャさんが馬車から降りて、馬車に積んである瓶から水をウィッカさんに汲んであげていた。

 それを見ていたコージャさんがアリシアにも水を持ってきてくれた。ちょっとうれしい。

 

 お嬢様がついっと飛んでいって、少し離れた場所の地べたに座った、かと思いきや、お嬢様が地面ごと持ち上がった。

 地面ごとというのは、お嬢さまが、自身の何十倍もあるような大きな土の塊の上に乗って、宙に浮かんでこっちに飛んでくるということで、お嬢様が座っていた場所には大穴があった。


 お嬢様と土の塊は、アリシアと馬車のほうまで飛んでくると、土の塊が、ひとりでに削れて成形されていって、大きな丸いテーブルになる。

 そして削れて落ちた土も、ひとりでにうねって椅子になっていく。


 こんなこともできてしまうのかと、アリシアがその様子を呆然と見ていると、アイシャさんが馬車から大きな布を取り出して、できあがったテーブルの上にばさりと広げた。

 そうしてみると、ぱっと見た感じは全く普通の、テーブルクロスのかかったテーブルに見える。

 アイシャさんがテーブルの布をひっぱって整えだしたので、あわててアリシアも手伝う。


 それから今度はコージャさんが馬車から同じように布を取り出して、テーブルのまわりに作られた椅子に掛けていく。

 椅子は、アリシアのものはテーブルにあわせて、低くて大きく、逆に、おそらくお嬢様が座るようのものは、高くて小さくしてあって、仕事が細かい。

 ウィッカさんの椅子はどうなってるのかと思ってみてみると、何もなくて、布だけが敷かれていた。

 まあ体が馬だったら椅子ってないよなとアリシアも思う。


 テーブルの用意ができたので、皆で布で厳重にくるまれたお皿やコップを解いて、それから料理を並べていく。

 今日のメニューは、外で食べやすくしてくれたのか、パンに冷たいお肉や野菜を挟んだものがメインで、あと色々な野菜を練りこんだケーキに、ひき肉を詰めたパイ、葉野菜のサラダ、さらに術石でも使ってあるのか、暖かいスープと冷たいミルクにジュースもあった。

 外でも相変わらずいいものばっかり食べられるようで嬉しいような気が引けるような感じさえする


 手早く装備を外して、椅子に座ってたっぷり食べて、そうしたら最後に、アイシャさんがさらに馬車の中から、デザートで、春らしく苺とベリーを詰めたタルトを取り出してきてくれた。

 アイシャさんはタルトを切り分けるのをコージャさんに任せると、アリシアには「これをお願いね」と言ってなんと大きな鉄製のコーヒーミルを渡してきた。

 行軍訓練といいつつ用意が良すぎて、完全にピクニックだなと思いながら、アリシアは一生懸命豆を挽く。


 そうしている間にアイシャさんはポットに水を入れると、今度はお嬢様に「お湯をくださいな」と頼み、お嬢様が「ん」と言って、ポットに手をかざし一瞬でお湯を作った。


 そうしてアイシャさんが入れてくれたコーヒーを飲んで(お嬢様のコップにはアイシャさんが少しだけコーヒーを入れてたっぷりのミルクで割っていた)タルトを食べて、お腹がいっぱいになって、しばらくおしゃべりをして、完全に満足して、それから片づけをして、荷物を馬車に積み込んで、さあ帰ろうか、みたいな雰囲気になったところで、お嬢様が思い出したように

「いまからくんれんをするわよ!」とおっしゃった。






 

中途半端ですが5000字超えたので割ります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 立派なお嬢さま。 こうしてみると、見た目は只人の幼児くらいでも実際には10年くらいは既に生きてそうな感じがしました。
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