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ハーフオーガのアリシア11 ― アリシアは帽子と荷物袋(腕輪)とお金をもらう ―


 部屋に戻ったアリシアが、食べ過ぎでお腹が苦しいのでベッドに横になっていると、ノックの音が聞こえた。

 ベッドの上に起き直り、はいと返事をすると、扉が開いたそこにはスクッグさんとヴルカーンさんがいる。


「夕食は十分食べられたかな?」

とスクッグさんが言ったので、はいと答えたものの、気遣ってくれたのは嬉しいけれど、スクッグさんにとっては自分はやっぱりそういう印象なんだとアリシアは少し落ち込む。


「ワシらも明日の朝には帰るのでな、先に渡すものを持ってきた」

とヴルカーンさんが言うので、えっ、とアリシアが思わず声を漏らすと、


「えっ、たってお前、ワシらが嬢ちゃんの奉公先で長逗留したって仕方あるまい。

 ご領主さまと嬢ちゃんを引き合わせたらワシらの仕事は終わりだぞ」


 そう言われればそれもそうかとアリシアが納得している間に、ヴルカーンさんが、手に持った袋の中から帽子を二つ取り出して机の上に置く。

 片方は灰色で鍔の小さい地味なもので、もう片方は、天鵞絨みたいな艶のある黒で、つばの広い大きな羽根飾りがついた派手なものだった。ちょっとスクッグさんのかぶっている帽子に似ている。


「嬢ちゃんには最初から兜をかぶせてたから気が付かんかったが、よく考えたら帽子を用意してやってなかったからな」

 慌てて昼からずっと作っておった、とのことで、かぶってみなさいとヴルカーンさんが言うから、ありがたいなあと思いながら、アリシアが手に取るとやたらズッシリと重くて、なんだこれ?とためつすがめつしていると、ヴルカーンさんがニヤリと笑って

「金属で作って綿入れで内張りをして、上に布を貼ってあるからな。術石も仕込んであるし、まあ普段使いにできる兜みたいなもんだ」

とのことだった。


「それじゃ頭に載せると重くて使いづらいんじゃないのかい」とスクッグさんが言ってくれたけど、頭に載せてみても全く重くなかった。

 もっと重そうにしたほうが“女の子らしい”感じもしたけれどしらじらしいし、ヴルカーンさんが布の面積が大きいと形がヘタるからちょうど芯になっていいんじゃとか何とか、ぶつぶつ言っていたのでやめておく。

 やはり普通の女の子とは首の太さが違う、とアリシアは得意なような哀しいような気持ちで思った。



「では、私からはこれだ」 

 と、そう言ってスクッグさんは、どこからともなく金色の腕輪らしきものを取り出した。

 特に何の装飾もついてないような、まったくただの金色のわっかで、それを「付けてごらん」とアリシアに渡して寄越す。

 

 腕輪の環が幾らか切れていて、アリシアはそこから腕を横にして手首に通す。

 すると、手首に通した瞬間に突然、腕輪がシュルリと伸びてアリシアの手首に二重になって巻き付いた。

 うわっ!? と叫んで振り払おうとしたけれど、まったく取れない!


 腕をぶんぶん振ってもがいていると、スクッグさんが、落ち着いてと言って手を取ってくれた。

 手を握られたアリシアが別の意味で驚いて固まると、

「外れろって念じれば外せるよ」 

とスクッグさんが言ったので、外れろ~外れろ~とアリシアが念じると腕輪がもとの形に戻った。

アリシアが慌てて腕輪を腕から外すと、

「もう一度付けてごらん」とスクッグさんが言うので、何か怖いから付けたくなかったけど、仕方なくもう一度腕にはめてみる。


 するとまたシュルリと腕輪が伸びてアリシアの手首に二重になって巻きつく。

 アリシアはまた叫びそうになったけれど、なんとか我慢した。


 ジャラリという音が聞こえて、自分の手首を見ていたアリシアが目を上げると、スクッグさんが片手に金貨をいっぱいに山にして持っていた。

「見ててごらん」

 スクッグさんはそう言って、もう片方の手で金貨を一枚取ると、アリシアが着けている腕輪に押し付ける。

 すると金貨がフッと消えた。

 あっ、消えた! と思う間もなく「ほら、もう一枚」とスクッグさんが言って、また金貨を腕輪に押し付ける。また金貨がフッと消える。

 三枚、四枚、五枚、六枚、七枚と、どんどん金貨が消えていき、片手に山盛りになっていた金貨が全部消えた。

「これはね、消えてるんじゃなくて腕輪の中に金貨が入っていってるんだよ」

とスクッグさんが言った。

 金貨がいっぱい消えてしまったのでちょっと心配していたアリシアは安心する。


 すると「ほら、自分でもやってごらん」と言って、スクッグさんがまたどこからともなく金貨を取り出し、アリシアの腕輪を付けている方の手のひらに山盛りにしてくれた。


 言われたとおりに金貨を一枚一枚腕輪の中に消していくと、スクッグさんがまたどこからともなく、今度は手のひらに銀貨の山を取り出す。

「別に一枚ずつでなければ入れられないというわけじゃないんだよ」

 そう言ってスクッグさんはアリシアの付けている腕輪をめがけて、銀貨を山盛りにした手のひらを傾けて、じゃらじゃらと注いだ。

 銀貨がそのまま地面に落ちるかと思いきや腕輪のすぐ上で全部消える。

「やってごらん」

 スクッグさんはそう言って、今度はアリシアの腕輪を付けていない手のほうに、銀貨を山盛りにした。

 アリシアが、銀貨の山を、おそるおそる腕輪に上から注ぐようにすると、やっぱり全部消えていった。


「銅貨も必要だよね」

 スクッグさんはそう言って、今度はアリシアの付けている腕輪の上に手のひらをかざした。

 すると、ざらざらざらと音がして水が流れるみたいに銅貨がスクッグさんの手のひらから落ちてきて、そのまま腕輪に吸い込まれていくのだった。


 スクッグさんの手のひらから、自分の手首にむかって、銅貨の滝がかかるという奇妙な光景を眺めながら、アリシアが呆然としていると「こんなものかな……」とスクッグさんが言って銅貨の流れが止まった。


「次は取り出すほうなんだけど、腕輪の中のものを取り出したいと念じてごらん」

とスクッグさんが言うのでその通りにすると、石造りのような、でも石の継ぎ目がない不思議な壁や床の、ちょっとした部屋のようなものが脳裏に浮かんだ。

 いま現実に、スクッグさんやヴルカーンさんが見えている光景とは別に、意識の片隅で、また別の光景が見えているような不思議な感覚だった。


 部屋の中には金貨の小山がひとつ、銀貨の小山がひとつ、そしてそれよりだいぶん大きな銅貨の山があった。

「金貨と銀貨と銅貨を一枚ずつ取り出そうとしてごらん」

というスクッグさんの声が聞こえたので、それを取ろうとすると、手の中に硬貨の感触がした。


 手をひらくと金貨と銀貨と銅貨が一枚ずつあった。

 と同時に脳裏に浮かんだ部屋の情景が消える。


「うまくできたね。この腕輪と中のお金が私からの餞別だよ」とスクッグさんに言われて

「でもあんなに金貨がいっぱい……」

とアリシアが慌てると、今度はヴルカーンさんが

「この腕輪に比べりゃあんな金貨なんぞ屁みたいなもんじゃ」と言った。


 そうなの? と目顔で尋ねると、スクッグさんは

「そうだね。この腕輪はとても貴重なものだから、この腕輪にものが入れられるということは誰にも言ってはいけないよ。誰かにそれを明かすとしてもよほど信頼できる人だけにしなきゃならない」

と言った。

 腕にしっかり巻き付いてるから落とすということはないだろうけれど、そんな高価なものが左手首についていると思うとアリシアは不安になる。

 いつの日にか手首ごと切り落とされたりして奪われるんじゃなかろうか。


 この腕輪のことは絶対に内緒にしておこうとアリシアが心に誓っていると、

「じゃあ鎧とか色々入れるぞ、あれは高いからな。無くすと仕事にも差し支える」

 とヴルカーンさんが言ったので、アリシアは続き部屋の扉を開ける。


 装備一式を運び出して、鎧に兜に大剣に大弓にと、どんどん入れていく。


 全部入れ終わってから、アリシアが腕輪の中を覗いてみると、硬貨の山が三つある横に、無造作に装備がいろいろ投げ出されているのが見えた。

 片付けようとして、鎧や兜やらをいったん手に取り出しては、方向を整えつつ腕輪の中に置きなおしていると、何をしとるんだとヴルカーンさんに言われたので、腕輪の中の整理をしていると答えると、スクッグさんが

「何か棚を買ってきて腕輪の中に入れてもいいかもしれないね」と言ってくれた。


「じゃあ渡すものも渡したし、また明日ね」

 スクッグさんがそう言ってひらひらと手を振り、部屋のドアの方に向かい、ヴルカーンさんも続いて出ていく。


 二人にありがとうございましたとお礼を言っていると、ヴルカーンさんが出て行きざまに

「もう遅くなったが風呂には入れよ。昨日みたいな()()()のでは宮仕えは勤まらんからな」

 そう言ってガハハ! と笑いながら行ってしまったけれど、昨日まで臭かったのは、ヴルカーンさんが服を換えるなって言ったんじゃん! とアリシアはズシンズシンと地団駄を踏んだ。


■tips


どの物品を物価の基準と見るかによって変わるが、

アリシアが今いる地域では、

正金貨はおおむね1枚10万円ほどの価値を持つ。

正金貨1枚で、正銀貨なら13枚、正銅貨なら1000枚に相当するので、

正銀貨1枚はだいたい7500円ちょっと。

正銅貨1枚は100円ほどである。


他にも、

大金貨、四分金貨、八分金貨、

四分銀貨、八分銀貨、半銅貨、四分銅貨などが帝国法定通貨として流通している。

また地方独自の貨幣も併存しており、加えて、晶術石や宝石、地金や穀物手形なども支払いに用いられる。


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