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file9:夏の終わり

秘密の場所とは人のいない小さな砂浜だった。千博は自分の父親と母親がこの場所で約束を交わしたのだと話した。それを聞き、意を決して口を開いた貫太郎。そして二人はまたここへ来ようと自分達の約束を交わしたのだった。

 夕方。大きな駅で乗り換えて、僕らは見慣れた電車で家路についていた。

 帰宅途中のサラリーマンに混じって大きなリュックサックを背負ったふたり。海の香りというか、他から浮いてしまうようほどの雰囲気が僕らにはあったと思う。長い旅の末に染み付いたものかもしれない。

 僕らの間には苦楽を共にした連帯感が生まれていた。それは普段遊んでいる男友達よりも強かった。それでも降りる駅が近づくと交わす会話が段々と少なくなり、無口になってしまった。帰りの電車の中で、近づいた距離を遠ざける作業に取りかからなければならないことを知っていたのだ。

 市営プールがある隣の駅を発車したところで、鈴原は囁くように尋ねた。

「海に行ったこと、秘密にする?」

 はたしてそれが可能なのか僕にはわからなかった。これほど日に焼けた人間がきっとクラスにはいないからだ。褐色の肌をしたふたりが並んで座れば、疑われても不思議はないと思った。

 僕は言った。

「そうだな。鈴原がそうしたいなら黙っていようか」

「石井はしたくないの?」

 切り替えされて僕は黙った。

 確かに秘密になどしたくなかった。何よりも大切な思い出を触れてはいけない恥ずかしい事のように扱わなければならないのが残念な気がした。それでも夏の日差しを受けて向日葵のように、大きく育った感情を二学期へ向けてクラスに入る大きさまで縮めなければならない。六年目の集団生活は僕には足枷のように思えた。

 電車がホームへと止まる直前、寂しさの残る笑顔で鈴原は言った。

「今度は自転車、石井が教えてよね」

 僕は友人のお父さんを見つけたため、黙ってうなずくことしか出来なかった。そして駅を出た後は挨拶も交わさずに別れてしまった。これでいいのかと自問自答しながら、しかしながら今は旅の余韻に浸りたいもうひとり自分もいた。

 こうして長かった夏休みは終わりを迎えた。


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