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file16:親友

千博にビンタをもらった翌日、貫太郎は招かれて鮎川の家にやってきた。男友達とは違う彼女の部屋は初めて体験する世界だった。そんな空間に慣れる間も与えず、鮎川は話の本題に入った。

「石井は千博のことをどう思っているの?」

「それは」

 もちろん酸いも甘いもかみ分けた大人の男へとなるまでにはあと何十年も磨きをかけなければならないだろう。しかし、小学六年生の僕であっても、このときの鮎川の意図には察しがついた。彼女はただの友達としての評価を聞いているわけではない。もっと大事な大切な質問をしているのだ。

「それは別に……まあ、確かに隣にいないと、ちょっとは寂しいかな」

 けれど、わかっている事とそれに対処できる事との間には数十年の開きがあることを僕は知った。恥ずかしくて素直になれなかった。それに本人にすら伝えていない、自分の中でまとめきれてすらいない気持ちをどうして第三者の鮎川へ聞かせなければならないのかという猜疑心もあった。学級委員には何でも知る権利があるというのだろうか。

「ただ、そう考えているだけなら、千博のことは放っておいてくれない」

 答えに不満だったのだろう。鮎川は溜め息の後、少し低いトーンで、それでいて芯をもたせた声色で言った。

「意味がよくわからない」

「具体的に言うと、後藤田から頼まれても断わって欲しいのよ。千博と一緒に給食をとることとか、迎えに行くこととか」

 担任の名前を呼び捨てにした鮎川に僕は驚かされた。学級委員の暴言。それは友人の為に尽くす学校では決して見せない彼女の一面だった。

 僕は唇を尖らせ、口ごもりながら反発した。

「そ、そんなのお前から言えよ。学級委員だろ」

 昨日の強烈なビンタが僕の脳裏をかすめた。いったいあの後、鈴原はどのような時間を過ごしたのだろう。やはり辛い思いをさせてしまったのだろうか。自分では傷付けてしまうだけなのだろうか。

 鮎川の批難に近い言葉を耳に流し入れている間、僕は色々と頭の中で考えていた。

 一方的な会話が途切れたとき、僕はボソッと呟くように言った。

「アイツと、鈴原と約束したんだ」

「約束って?」

「それは、ふたりだけの秘密だから言えない。だけど」

 自分だけが先に叶えてもらい、未だに鈴原の望みは達せられていない。約束を果せていないのだと、僕は落ち着いた口調で話した。

「何か考えがあるんだろ? 教えてくれよ」

 役に立てることがあるなら遠慮なく言ってくれ。説明不足とわかりながらも、代わりに出来る限りの気持ちを込めた。

 僕は相手の言葉を待った。

 しばらくして学級委員はランドセルからノートと数枚のプリントを出して言った。

「今日は急な用事ができたから、代わりにこれを鈴原さんのところまで届けて下さい」

 いつも耳にする鮎川の真面目ぶった口調に僕はうなずいて答えた。


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