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file11:転校か?

水泳の特訓を終えた貫太郎はもはや以前の姿ではなかった。魚のように泳ぎまわり、検定は飛び級、大成功に終わった。しかし、貫太郎の心には不安が芽生えていた。千博がどういうわけなのか2学期の教室にいないのだ。

 風邪だと聞いていたが、鈴原の病は僕が思うよりも重いものだったのだろうか。しかし鮎川は昨日、学校に来たと言っていた。それに何かがあれば、お見舞いなどの件で連絡網でまわってくるはずだ。ならば何なのだろう。

「転校……か?」僕はポツリと呟いた。

 父親の急な転勤で引っ越しを余儀なくされたのだろうか。それならば、説明がついてしまう。お別れ会もクラス全員のメッセージで埋める色紙もなく、ただ挨拶だけをして鈴原この学校を去っていったのではないか。彼女の休んだ一週間という長さが急な荷造りを終わらせる頃合と重なっていたように思えた。

 まだ自転車の乗り方を教えていない。それに検定でのことも、お礼の言葉も伝えていない。約束だって交わしている。来年またあの秘密の海へと行かなければならない。これからやるべきことは沢山あるのだ。

 色々と考えているうちに、はじめ小さかった不安は風船のように大きく膨らみ、静かに伸しかかってきた。何とかはっきりさせたいと思い、僕は椅子を動かして鈴原の机の中をちょっとだけ覗いた。

 道具箱があった。さらに教室後ろの棚には絵具セットも置かれていた。体育館で使う洗いたての上履きも見つけられた。

 どうやら隣の席の住人はいなくなったわけではないらしい。取り越し苦労だったと、僕は安心した。考えてみると、クラスの様子がおかしいことと鈴原が休んでいることのつながりは鮎川の歯切れの悪い返答以外何も無いのだ。早とちりが過ぎたと反省した。

 先生が教室に入ってきたので、僕は急いで自分の席へと戻った。

 起立、気を付け、礼。そしておはようございます。いつもと変わらない動作が行なわれた後、出欠をとる前に先生は生徒全員の顔をまんべんなく撫でるように眺めた。その深刻さを含んだ表情を見て、やはり何かが起きたのだと僕は察した。おそらく昨日、このクラスに何かがあったのだ。

「鈴原さんのことですが」

 先生はそう始めて、やはり適していないと思ったのかあらためて言い直した。

「昨日の事故の件ですが、他のクラスの生徒や誰かに話す事を禁じます。決して喋ったり、またからかったりしてはいけません」

「先生」もうひとりの学級委員である榎本隆志が手を挙げた。「それは昨日も聞きました」

「それはもちろん知っています。ですが絶対に守って欲しいから言うのです」

 小学六年生の女子にとっては大変デリケートな問題ですから。先生は約束を破った者には校庭十周のランニングと反省文三十枚という鬼のような罰則を告げたが、具体的な事件の内容は全く話さなかった。

 教室を出て行ったあと、昨日休んだ僕以外の生徒達は互いに周囲の仲間と顔を見合わせていた。ヒソヒソ話を始める女子や男子のグループも現れた。しかし先生のカミナリが怖いのか、表立って声高に口にする者は一人もいなかった。

 やはり鈴原が関係しているらしい。いったいアイツの身に何が起きたのだろうか。僕には内緒話に参加して真相を知りたい反面、再燃した不安をこれ以上確かなものにしたくないという感情も生まれていた。

「昨日、鈴原に何かあったのか?」

 規則を遵守させる立場だからか、それとも口にできない他の理由があるからか。とりあえず鮎川に尋ねてみたが、答えはいっこうに聞けなかった。

 僕が事件の概要を手にしたのは昼休みの事で、情報の提供者は隣のクラスにいた早川進からだった。

 罰則を定められていない友人に怖いものはなかった。僕に対し、興奮した口調で面白おかしく自分が聞いた内容の全てを話した。いずれは伝わる事だからだろうか。学級委員の鮎川は何も言わず、曇った表情でジッとこちらを見つめていた。


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