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初めての討伐任務

この世界での初めての討伐任務になります。

楽しんで頂ければ幸いです。


 事の起こりは二か月ほど前にさかのぼる……。


 鏡原(かがみはら)師狼(しろう)が見習女神のシルキーに召喚される二か月ほど前、王都シャン・グレイと砦に一番近い大きな街であるリトリーニの街道の近くにビー玉ほどの大きさの魔石が発生した。


 魔石の発生自体はそれほど珍しくもなく、冒険者などがこの魔石を運よく発見すれば、貴重な臨時収入として冒険者ギルドに納品され、割と高額で買い取られている。


 しかし、この魔石は禍々しい魔力を吸収して生み出された物で、しかもこの魔石を餌と勘違いした岩トカゲが呑み込んだことで事態は最悪の方向へと向かい始めた。


 もともと体長一メートルほどもある岩トカゲだが、魔石を取り込んだことにより魔物であるロックリザードへと変化し、近くにいる岩トカゲやカラカラ鳥などあらゆる動物を捕食し、わずかひと月ほどで体長五メートルを超える大きさへと成長した。


 この時期はまだ初夏だったが、秋の収穫前に倉庫に積み上げられている食料品などをリトリーニへ売り込むために、何台もの馬車が街道を通り抜けようとしたが、その殆どは引いている馬を食われたり、ロックリザードの突撃や尻尾の一撃で荷馬車を破壊され、命からがら王都シャイン・グレイへと引き返した。


 街道を封鎖する形とはいえ、王都シャイン・グレイよりはかなりリトリーニ寄りに出現していたため王都から討伐隊や冒険者が動員されることはなく、穀物をはじめとするさまざま食料品の値段は少しずつだが引き上げられ始める。


 リトリーニ内ではまだ十分に蓄えがあったために、その多くは便乗値上げではあったが、このまま数か月放置されれば、本格的な食糧不足が発生する恐れがあった。


 しかし、リトリーニの北にある砦に魔王軍の尖兵が度々姿を現していたので、腕利きの冒険者をロックリザードの討伐に向かわせることもできず、また、現在残されている冒険者では、ランクAに指定されているロックリザードの討伐などできる者はいなかった……。


◇◇◇


 装備を整えた俺達は再び冒険者ギルドへと戻ってきた。


 シルキーはというと、先程買った大きな青い宝石が飾られた魔道具をこれみよがしに胸元に飾り、割と薄いその胸を強調している。


 一目で分かる位には上機嫌で軽く体を揺らしながら、鼻歌まで歌っていた。


 そんなに嬉しかったのか?


「ここに戻ってきたが……、依頼ってどうやって受けるんだ?」


「ふふんっ、こっちに来て師狼。……このボードに緊急用以外の依頼が貼ってあるの。一応ランクとか難易度とかが目安で書かれてるけど、特に制限は無くて誰でも好きな依頼を受けられるんだよ。報酬は依頼を成功させた最初のひとりにしか支払われないんだけど、こっちの納品系なら依頼主がいらないって言うまでは引き取って貰えるよ」


 えっと……、森に生っている石胡桃(いしくるみ)の納品。同じく蜜ヶ豆(みつがまめ)の納品。近くの山に自生している蔓芋(つるいも)の納品。シャケの納品。野ブタの納品って食い物系多いな。


 討伐系は……、はぐれ魔物の討伐。あの犬モドキ三十匹が群れを作って近隣の村を襲ってるのか。


 あの犬モドキ三十匹なら片手間仕事だな、この剣の試し切りにも丁度良い。


「この依頼はどうだ?」


「えっと、そこに赤い印があるのはもう誰かが引き受けてるって事なの。簡単な依頼は競争率高いんだ~」


 依頼が書かれた紙の右下に赤い丸と冒険者の名前が書いてある。


 赤い丸の数は五つ。


 各一名ずつだったが、どうやら個人で引き受けた時以外は依頼を受けたパーティのリーダーの名前を書くらしい。


 名前の感じから察するに、やっぱりこの世界では女性冒険者が多いな……。


「同じ依頼にもう五組も冒険者が引き受けてるのか?」


「多い時は十組くらいで争ってるよ。ほら、数年前から始まったあの魔物の侵攻で結構高レベルな冒険者がかなり減っちゃったから、此処の冒険者ギルドにいる人たちだと、この位の魔物じゃないと倒せないっていうか……」


「悪かったな、その程度の魔物しか倒せなくて!!」



 シルキーのその言葉が癪に障ったのか、近くにいたちょっとガラの悪そうな男が威嚇しながら近づいてくる。


 厳つい冒険者とはいえ、あの犬モドキしか相手に出来ないような奴らだ。実力はその程度なんだろう。


「傷付けたのでしたら謝ります。相手が弱い半人半犬の魔物とはいえ立派な討伐クエスト。一般人には十分脅威ですし、誇らしい仕事ですよ」


「このアーク教の巫女、俺達をなめてんのか!!」


「言い換えて馬鹿にしてるだけじゃねえか!!」


 あの言い方だとそう取られても仕方ないよな。


 弱い犬ほどよく吠えるというが、あの犬モドキよりもキャンキャン煩い奴らだ。さぞかし強いんだろう。


 報酬が良くて簡単そうな依頼……。これかな?


「其処の冒険者、その程度の依頼が嫌なら討伐系でいい依頼があるぞ。街道を徘徊しているロックリザードの討伐。数は一匹。これなんかどうだ?」


 三十匹の犬モドキがランクFでたった一匹のロックリザードがランクA。


 単純に強さなのか、それとも討伐難易度なのかは分からないが、三十匹の犬モドキの討伐依頼が金貨六枚で、ロックリザード一匹の報酬が金貨三千枚。報酬に五百倍の差がついている所を見ると両方なのかもしれないな。


「な……、あんな高ランクの魔物。倒せるわけねえだろ? その依頼は貼り出されてまだひと月と経っちゃいないが、何度も行商人の馬車の馬が食われてるし、この街でも少なくない被害が出てるんだ」


「あ…アイツが街道にいる為に王都とこの街を往復してる行商人が近付かないんだぞ。食糧の多くは王都周辺の穀倉地帯で賄ってあるから、さっさと王都からの討伐隊を寄越して欲しいくらいだ!!」


 食い物系の納品クエストが異常に多いのはその為か。


 一応、薬草系とか鉱石系の納品クエストもあるけど、圧倒的多数はほぼ食い物系みたいだしな。


「誰かが退治しないと、いつまで経っても行商人が来ないんだろう? この街が干上がるぞ?」


「出来るんだったらとっくにやってるさ。ひと月も放置されてる意味わかってんのか?」


「駆け出しの冒険者にゃ、アイツの怖さは分からないんだろうぜ。それにな、街道周辺の他の魔物も奴に食われてるから、王都の奴らは便利な魔物と思ってる節があるしな」


「最近は食料品の値段が上がり始めていますし、この街に住む人はみんな困ってるのは確かですね。卵サンド、ちょっと前は銅貨十枚だったんですよ……」


 もう値上がり始まってるんじゃないか。


 まあ、商人ギルドで示し合わせた便乗値上げの可能性もあるが。


「多少食料品なんかの値上がりはあるだろうが、この街の場合近くに魚の豊富な河があるし、森にもシャケが無数にいる。ロックリザードは食糧が少なくなる冬になる前に退治しちまえばいいし、上手くいけば奴ら冬眠するさ」


「そうそう、あんな化け物ほっとくに限る。今までも殆どそうだったしな」


 そんなに早く冬が来るのか?


 建物の外に出れば焼けつくような日差しが降り注いでいるし、今の季節は夏なんじゃないのか?


「冬が来るまであと五ヶ月もあるじゃない!!」


「だからアンタ達みたいな男の冒険者は嫌われるのよ!!」


 近くにいた女性冒険者がシルキーの味方をして荒くれ者の冒険者に詰め寄った。


 体格差が結構あるのに勇敢な……、あ、この世界の男の魔力(マジカル)が大体十五って事は、体格差があっても魔力(マジカル)が高い女性冒険者の方が強いし、男の方は力任せで何とかなる魔物しか倒せないって事なのか。


 だから異様に硬い系とか、魔法でないと倒せない系の魔物の討伐依頼が受けれない……。元の世界でも真魔獣(ディボティア)退治でよく見かけた光景だ。


 あっちは男なんてほんと戦力外だったけどな。


「へん、てめえらでもあの依頼は受けられないだろうが!!」


「……ロックリザードは魔法も効きにくいんだから仕方ないでしょ。どっちかといえば(ヴリル)が高いあんたたちの方が討伐には向いてる魔物よ!! たまには活躍したらどうなの? アンタ達男冒険者は砦の防衛任務でも毎回矢を撃ってるだけだし」


「クッ…。(ヴリル)が少し高いって言っても百ちょっとじゃ話にならねえよ!! お前らが無駄に高い魔力(マジカル)で何とかしろよ!! 俺達じゃどうにもならねえしな」


「そんな、出来る訳が……」


 醜い言い争いだが、そこまでの強敵なのか?


 魔王と比べてとまでは言わないが、戦士級の真魔獣(ディボティア)と比べて強いって事は無いだろう。


 というか、こんな所でトカゲごときに手こずるようじゃ、魔王討伐なんて夢のまた夢だよな。


「一匹だけでいいならどうにでもなる。討伐の証明はどうすればいいんだ?」


「師狼!! この依頼はランクAなのよ? 無茶に決まってるでしょ」


「無茶かどうかは戦ってみて決めるさ。で、討伐証明は?」


「ロックリザードですと、心臓部分にこれ位の珠があります。それを冒険者ギルドに提出すればいいんですが……」


 男どもが俺の格好を見て大袈裟に笑い始めた。


 周りの剣士系冒険者は重そうな鎧着込んでるしな。


 女性冒険者ですら何十キロあるのか分からない鎧着てるし……。よく動けるなこいつら。


「こいつはおもしれぇ、鎧も着ていないお前があのロックリザードを倒せるってか? あの硬い尻尾で優しく撫でて貰えよ、すぐ楽になるぜ」


「あの強力な顎で食われるのも悪くないんじゃないのか? アイツ、普段はトロイ癖に捕食時の一瞬だけは滅茶苦茶早いからな……」


「貴重な情報をすまないな。他に特殊能力なんかは無いのか?」


「あ? おめえ変わってるな。ロックリザードはその名の通り全身が岩みたいな硬さで、生半可な攻撃は通用しねえ代わりにブレス系なんかの攻撃は使って来ねえよ。まあその硬いのが大問題なんだが、生半可な武器じゃ傷もつきゃしない。離れた場所から矢を射っても怒らせるだけで致命傷を与えるのは難しい位だ。矢も高いしそんなに数は持っていけないしな」


 この冒険者もガラが悪いが人が悪いわけじゃなさそうだな。


 ここまで世界に虐げられていたら、多少は捻くれても仕方ないだろうし……。


「このロックリザードは俺が退治して見せるさ。男冒険者も役に立つって証明してやるよ」


「ホントにおもしれえな。無事に帰ってきたら酒ぐらいおごってやるよ」


「で、どのあたりに出没するんだ?」


 おおざっぱだが地図を見せてくれた。


 この地図も高いんだろうに、見た目の割にホント気のいいやつだな。


「ここがこの街で、大体この辺りだな。行動範囲は割と狭いんだが、腹を減らしてる時は割と狂暴になって広範囲をうろつく習性がある。基本的に昼間しか活動していないが、夜間だからと言って油断はできない。嗅覚が割とよくて獲物の匂いを感じると襲い掛かって来るからな」


「歩いて半日か……。準備運動に丁度良い」


 普通の人が歩いたらって事なら、俺だと走れば一時間かからんよな。


 シルキーも同行する場合、やっぱり半日かかるだろうが……。



◇◇◇



 街を出て既に数時間。


 チリチリと肌を焼く様な灼熱の日差しが容赦なく降り注ぎ、舗装もされていない道には風が吹く度に砂埃が舞っていたりする。


 昨日の様に魔王に支配されている区域とは逆方向な為、街道も少しはマシな状態だったが完全には舗装もされていない。


 テレビで見た田舎の風景ではないが、ここまで人工物の少ない場所は久しぶりだ。



 俺は身に纏う高出力の(ヴリル)のおかげで殆ど暑さを感じないが、動きにくそうなひらひらした服を着ているシルキーはそうはいかない。


 歩く速度もかなり差がある為に予定の三分の二程度の距離しか進めておらず、シルキー自身もその事に気が付いているようで一言も発さずに俺の後ろを付いて来ている。


「ごめんなさい、早速足手纏いになっちゃったみたいね」


「別に急ぐ旅じゃない。この位の速度でも……。ん?」


 道の結構先だがその場所でやけに砂埃が舞っている。


 なんかどんどん近付いてるように思えるんだが。荷馬車? でも確か行商人は……。


 あれ、もしかして……。


「あ……アレがロックリザードよ!! こっちが風上だから餌が近付いて来たと思って捕食しに来たんだわ!!」


「普段は動きが遅いとか言っていたのに意外に速いな。捕食だからか? まあ、向こうから来てくれるなら手間が省けていい」


「予定だとロックリザードに気が付かれる前に私が魔法で拘束して、師狼にその剣でとどめを刺して貰うつもりだったのよ。これじゃ作戦が台無しだわ」


 たかがトカゲに大袈裟な……。


 って、アイツ馬鹿デカくないか?


 全長五メートルは優にあるぞ。


 というか、俺の前で捕食行動に出るとはいい度胸だ。


 アイツは真魔獣(ディボティア)じゃないが、迂闊な行動に出た事を地獄で後悔させてやる。


「接触するまで、あと五分程度かな? シルキー少し下がってろ」


「え? なにをする気なの?」



 さっき買った剣があるからいつもみたいにシールドの一枚を剣に変換する必要はない。


 その分の(ヴリル)をこの剣と全身に纏わせて、近付いてくるロックリザードに意識を集中する。


 全身を金色の(ヴリル)が包み込み、俺の走力を音速へと引き上げ、当然攻撃力や防御力も大幅に強化していた。


無影斬(むえいざん)!!」


 本来は全身に(ヴリル)を纏い、多重絶対防盾(スゥクトゥマ)のシールドを一枚光の剣に変換して目標を斬り殺す大技無影斬(むえいざん)


 買った剣だったから今までと同じ威力は出せないと思ったが、捕食する為に大きく開けた口からあっさりとロックリザードの身体を上下に斬り分けた。



 一応回避された場合や反撃をされた場合を考えて色々手を用意してたんだけど、全部無駄になったな。


 ……弱くね?


 このロックリザード、戦士級の真魔獣(ディボティア)と比べるのもおこがましい位弱いぞ。


 というか、今まで戦ってきた真魔獣(ディボティア)だと今の無影斬(むえいざん)で致命傷を与えるのが難しいんだけど……。


 それに、あれだけ硬い硬いと言ってたから、どれくらい硬いかと思えば、(ヴリル)で強化してるとはいえこの剣でこうして面白い位にサクサク切れるし……。あ、アレが討伐証明の珠かな?


「これが討伐証明の珠なのか?」


「うん……。ホントわたしって足手纏いなんだね。師狼がこんなに強いなんて思わなかったよ」


「コイツが弱かっただけだ。この死体は此処に捨てて行っても問題無いのか?」


「持って帰れば冒険者ギルドで買い取ってくれるよ。この硬い皮膚なんかは色々加工できるみたいだし」


 これだけデカいと肉は硬くてまずそうだが、逆に硬い皮膚は利用価値があるのか。


 加工が難しそうだけどな。


「それじゃあ、道具袋に収めておくか。分別してれば問題無いし」


「へえ、便利なアイテム持ってるんだ。そんなアイテムが売ってる世界なの?」


「これは女神から貰ったモノだ。こんな便利なアイテムがあったら大儲けできるだろうけどな」


 輸送業でこれが使えたら世界の常識が覆る。


 まあ、その反面密輸や誘拐なんかの犯罪に使われないか気を付けなきゃいけないだろうけど。


 あの見習エロ女神じゃないが、妹の紗愛香(さえか)に見られたらまずい物は今後この道具袋に入れておこう。



「それじゃあ、帰るか」


「了解。こんなにすぐ討伐出来るなんて思わなかったよ」


 こうして、今世界に来て初めての依頼はあっさりと片付いた。


 これでランクA?


 油断は禁物だが、魔王がどの位強いのか本気で知りたくなったな……。


 まさか王級真魔獣(ディボティア)と同等って事は無いだろうが。




読んで頂きましてありがとうございます。

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