決戦!! 六十万対ひとり
魔王軍六十万と師狼の戦いの話になります。
楽しんでいただければ幸いです。
リトリーニから北北西に飛び始めて一時間ほど経過した頃。
さっそくというか、ほぼ予定通りに眼下に西側の大陸を進撃する魔王軍を発見した。というかマッハをはるかに超えた速度で飛行したら、一時間もあれば地球を半周位できそうだしな……。
この世界の広さがどれくらいなのかは知らんけど、なんとなく地球と同じ位なんじゃないかと思うな。一日は二十四時間だし……。
それはともかく発見はしたんだが……、布陣というか先頭を動きが遅いロックゴーレムの大軍団が固めている上に、ロックゴーレムが横に百体位横に一キロほど並んでいるので行軍の様子はまるで巨大な石畳が動いているかのような印象を受ける。
動く歩道の大きい版というか、びっしり並べられたドミノが一気に倒れて行く状況って考えた方が近いのかな?
進軍する魔王軍は前方に立ち塞がる森などは全て踏み荒らして破壊し、魔王軍が通った後には荒廃した土地が残されているだけだ。地ならしならいいのかもしれないが、迷惑極まりないぞこれ。
前方に川がある場合もそこまで深い川でなければ構わず直進するので結構な数が脱落しているようだが、脱落したロックゴーレムを橋代わりにしてそこから後続の魔物や魔族が川を渡っている。
人海戦術にもほどがあるな。
「あれだけ派手に動いてりゃすぐに見つけられるけど、奴らはこっちには気が付いているのか?」
今の所は俺に攻撃を仕掛けてくる気配はないし、一番警戒しなければならないあの宝石型の魔物はいない。
まあ、今の俺ならばあの極大熱線魔法食らっても無傷だとは思うが。
「だからといってこっちが攻撃しちゃいけないって事は無いからな……」
上空から魔法で爆撃してもいいんだが、迫りくる魔王軍の正面一キロ程手前の場所に降りた。
あれだけでかい的なら、外す事は無いし楽勝だ。
「真・神穿無限波!!」
神穿波の完成形。
一本しか放たれていなかった光の螺旋は幾重にも絡まり、まるで無数の蛇を放ったかの様に横に拡散して広大な範囲を飲み込んで光の粒子で無限に刻み続ける。
放たれた螺旋は地面を這う様に様々な方向に駆け巡り、何本かの光の螺旋はたまに上空へ向かって巻き上がったりもしていた。
直撃せずに螺旋に弾き飛ばされた何トンもあるロックゴーレムの身体がまるで小石のように宙を舞い、地面に叩きつけられて粉々に粉砕されてゆく。
後方に吹っ飛んだロックゴーレムは他の魔物や魔族も巻き込み、多くの魔物を黄泉路への道連れとしていた。
この魔法だけで半数以上の魔王軍は消滅したし、その上後方に布陣していたロックゴーレムは逃げ惑う味方をお構いなしに踏み潰しながら前進を続けている。
ロックゴーレムに感情とか思考能力は無いんだろうから、命令を出していた魔族が真・神穿無限波に巻き込まれて死んだんだろう。
この真・神穿無限波って、神穿波と比べたら威力も射程距離も数十倍になってるな……。
それにしても……。
「まだほかに二部隊もあるからこいつらに時間をかけてる余裕なんてないし、ここまで破壊し尽くしてくれてるからこっちも遠慮なく高威力の魔法を使えるな」
馬鹿みたいな威力を持つオリジナルと呼ばれる魔法の数々。
魔法使いギルドの書籍閲覧室でいろいろ仕入れてきたから、元の世界に帰った後も戦いが楽になりそうだな。
もっとも、ここまで威力のでかい範囲魔法は、周りの被害を考えたら使う機会があまりないだろうけど。
「時間はかかるが、残りは斬り殺すか。今の俺なら一時間もかからないだろうし」
氣で形成された長大な金色に輝く光の剣。
わずか一振りで数千のロックゴーレムを斬り刻み、元ロックゴーレムだった大量の岩で地面を覆いつくして行く。
この岩の後始末が大変だと思うけど、あとで建材か何かとして再利用されれば世の中の役に立つんだけどな。
◇◇◇
三十分ほどの戦闘で西側の大陸を進撃していた魔王軍は一匹残らず処理できた。
念の為に何度か火炎嵐で戦闘した全域を念入りに焼いておいたので、魔物の死体は既に灰すら残っていない。
あれだけ火炎嵐を連発したにもかかわらず魔力が尽きていないのも凄いが、完全治癒や女神の万能薬一回分の方が魔力を消費した気がする。
あの魔法どんだけ魔力が必要なんだろう?
しかし、この後始末のせいで実際の戦闘時間よりも、その後処理にかかった時間の方が長かったくらいだ。
その成果もあり、ここにいた魔王軍に生き残りがいない事だけは確実。
ロックゴーレムだった石の塊は大量に残されているけど、あれはただの石や岩だし今後疫病とかの原因にならないから問題はないだろう。
魔石を発掘出来なかったのは残念だが、今から探してる暇もないのでこのままにして行くしかない。
「次は東側の大陸から押し寄せてくる奴らだな」
魔王軍の本隊は間違いなく中央。
意外な強敵が混ざっている可能性もあるし、魔王領から進軍してくることを考えれば四天王や魔王が混ざっている可能性も捨てがたい。
それに、最終的に三部隊六十万を殲滅するならば、先に東側の大陸から進軍してくる奴らを叩き潰した方が気も楽だしな。
「進軍速度は似た様な物だろうから、方角はほぼ真東でいいだろう」
まだ昼前。
うまくいけば数日中どころか今日中にリトリーニに帰還できそうだ。
ロックゴーレムなどの魔物と違い、攻めてきている魔族にもいろいろ理由があるんだろうが手心を加えるつもりはない。
これは既に単なる戦争ではなく、魔族とその他の種族による生存競争だ。
戦争であるならば魔王を討伐するなり、ある程度片方に犠牲が出た時点で話し合いなどによる決着もあるだろうけど、魔王軍はそのラインを超えてやり過ぎた。
自然発生する魔物はともかく、魔族に関してはもう存在することすら許されない。
俺がいようといまいと、この先の運命は変わる事は無いだろうな。
「サクっと終わらせて、さっさと帰るかな」
まだ三分の一が終わったばかりなのだから……。
◇◇◇
俺の目の前には元ロックゴーレムだった大量の石塊と、半壊した魔王軍が存在している。
東側の大陸から押し寄せてきた魔王軍を撃破し、今は中央というか魔王領から南下してきていた魔王軍を撃退しているのだが、流石に本隊だけあって編成されている魔族の種類や質は東西から攻めて来ていた魔王軍の比ではなかった。
「宝石型の魔物、蟹足の生えた城、ロックゴーレム、それに竜種や巨大な昆虫類か……」
俺の放った真・神穿無限波でほぼ半壊したものの、即座に陣形を整えなおしてロックゴーレムを城壁として蟹足の生えた城を護り、宝石型の魔物が大砲としてその前方に布陣しなおされた。
その展開速度は見事というほかないが、二発目の真・神穿無限波でその苦労して整えなおした陣形が無惨に壊滅するとは思っていなかったんだろうな。
あんな大技を連発出来ると思わないだろうし……。
「おい!! 何者だあの化け物は!! 誰か将軍は残っていないのか?」
「暴虐のカエデス様、ここでなんとか踏ん張って、援軍が到着するのを待ちましょう。左右から四十万もの我が軍が押し寄せれば、流石に奴を討ち取れます」
幾重にも護られた蟹足の生えた城のバルコニーみたいな場所に、米粒みたいな大きさで見える何かいるけどあれ指揮官か?
周りにもなんだか重装備の魔族がいるけど……。
「援軍が到着するまで何日かかると思っているんだ? あの攻撃を後何度耐えればいい?」
「あれほどの大魔法、そう何度も使えますまい。その証拠に正面から……。え?」
「あの男。正面から突っ込んで……」
取り合えず逃がすと面倒そうなので直接斬り殺してしまおう。
できれば名前なんかも聞けたらいいんだけどな。
「邪魔だ!! 輝く刃の竜巻!!」
俺の身体の周りを小さな光の刃が包み、それがまるで竜巻の様にその場で激しく舞い始める。
輝く刃の竜巻。この魔法が書かれていた書籍によれば、元々は多くの敵に囲まれた時に一時的に身を護る為の防御魔法らしいが、殲滅魔法としても割と優秀であると記されてもいた。
この魔法の名の元である輝く刃とは、俺の周りに生み出された光る十字型の刃の事だが、忍者が使う手裏剣に見えなくも無い。
効果範囲は俺を中心にして直径二十メートル。
俺の首を取ろうと勇敢にも突撃してきた魔族の群れは、まるでミキサーにかけられた果物の様に空中を舞う光の手裏剣に粉々に切り刻まれている。
蟹足の生えた城の外壁を駆けあがり、バルコニーのような場所であっけにとられていた女性型の魔族と何匹化の魔族を発見した。
「お前がこの軍の指揮官か? 俺の名は鏡原師狼。その首を貰いに来た」
「私は魔王軍が四天王の一人、暴虐のカエデス。たかが人間がこれほどの力を持つとは大したものよね。褒美としてわが手で結晶に閉じ込めてあげるわ」
「それが遺言でいいか?」
手にした魔道具を翳そうとしたので、無影斬で斬り刻んでみた。
相変わらず隙だらけというか、余程今まで弱い相手としか戦ってこなかったんだろう。
四天王といってたので、少しは斬りにくいかと思ったけど、ほとんど手ごたえすらなかったな……。
「カエデス様!!」
「おまけだ!! 真・神穿無限波!!」
全身に氣を纏って空を飛んで蟹足が生えた城から数メートル離れ、その位置から三発目の真・神穿無限波を放つ。
暴虐のカエデスとやらの死体も、蟹足が生えた城も光の螺旋に飲み込まれて粉々に打ち砕かれ、周りに陣取っていた魔族もまとめて消滅してゆく。
これでこの軍の指揮系統は壊滅だろう。あとは逃がさない様に殲滅するだけだ!!
「逃げるな!! 今まで散々好き勝手しておいて、いまさら逃がしてもらおうなんて都合がよすぎるだろうが!!」
人間同士の戦争には武装を解除した相手は殺してはならないという決まりもある。
あまり守られていないけどな。
魔族や魔物の場合、その体に魔力がある限りどうやっても武装解除なんてできないし、爪や牙なんかも十分武装の類に入る。
それだけでも殲滅する大義名分には十分だし、元から生かして帰すつもりなんて欠片もないしな!!
「火炎嵐!! 火炎嵐!! 火炎嵐!!」
空中から放たれた無数の炎の竜巻が、逃げ惑う魔族や魔物を嘗め回して消し炭に変えてゆく。
岩でできているロックゴーレムも高温でこんがりと焼け、その場に崩れ落ちていた。
主力であるこの軍勢には比較的ロックゴーレムの数が少なく、完全武装された魔族などで編成されていたが、その攻撃力を発揮する機会がないままに俺に斬り刻まれ、炎の竜巻に焼かれ、逃げるところを後ろから神穿波で打ち抜かれる。
敵対した場合、俺は絶対に容赦はしない。
力を手に入れて少しは丸くなったといわれてるが、この一点に限っては多分生涯なおる事は無いだろうな……。
◇◇◇
二時間後。
最北の砦の数十キロ南。
その位置まで進撃していた魔王軍は俺の手で一匹残らず殲滅され、今は蟹足が生えていた城の残骸とロックゴーレムだった石塊だけが残されている。
流石にかなり北だけあってこの時期でも緑は少なかったが、まだ雪に覆われていなかったのは幸いだったな。
「このまま魔王城まで攻めてもいいんだが、今回は見逃しといてやるよ」
調べたい事もまだいくつかあるしな。
どちらにせよ四天王も三人倒したし、もうまともな指揮官も残っていないだろうから、これで魔王軍がアース・グレイブ皇国に攻め込んでくる戦力はないだろう。
しかし。
「本気で氣や魔力が無制限になってる。ここまで派手に暴れたのに、まだ余裕があるとか少しおかしいどころじゃないな」
俺がつかった魔法がどれくらい魔力を消費するのかは知らんが、常識的に考えても百や千じゃないだろう。
今日一日で使った魔力が億を超えていてもおかしくはないし、それだけ消費してもまだ余力があるって……。
「考えても仕方ないし、元の世界に帰ったら少し自重するか……」
真魔獣を倒すだけならば、そこまでこの力を使わなくてもいいだろう。
そんなことを考えながら、リトリーニに向かって飛び始めた。
少し日が傾いてきたが、日没までには帰れるだろうな……。
読んでいただきましてありがとうございます。




