新たな魔法を求めて 一話
魔法使いギルドの書籍閲覧室で魔法を探す話です。
楽しんでいただければ幸いです。
大王渡り蟹討伐クエスト~……ではなく、大王渡り蟹宴会でもほぼなく、地獄の蟹パーティと呼んだ方がいい食事会から二日後の昼下がり。
俺はこの世界の魔法について調べる為に一人で魔法使いギルドを訪ねていた。
シルキーは先日追加で金貨二千五百枚をアーク教の教会に上納した功績が認められ、教会の偉い人といろいろ話があるらしい。
シルキーはアーク教の中でも割と上の方の地位にいるらしいが、それでもこの短期間で日本円にして数千万円分も一気に上納すれば、そりゃ更に上の方から何があったのかを聞かれるだろう。
ミルフィーネは相変わらず冒険者の特訓中という事だが、魔法や戦闘技術を教えてる冒険者の数はとうとう二十人を超えたそうだ。
俺の前以外では冒険者たちになぜか様付けで呼ばれているそうだが、いったいどんな地獄の特訓をしてるんだ?
こうしてリトリーニの冒険者の質が向上してこの街の防衛力があがるのはうれしいが、魔王軍の様に軍として攻めてきた場合、寄せ集めの冒険者達では最終的に負ける気がするのは俺だけだろうか?
部隊単位で動き軍として機能している兵士としての強さと、個々の強さが最重要視され少人数ゆえの臨機応変さが売りの冒険者。
精々百人くらいの小競り合いならばなんとかなるだろうが、以前の様に数万とか言う軍勢で攻め込まれれば一割以下の数しかいない冒険者と守備兵の寄せ集めでは勝負にならない気がする。
一番いいのは守備兵を鍛える事だが、普通の人間をどれだけ鍛えても魔物の群れの相手はキツイ。
能力差を埋めるだけの秘策というか、武器か何かを用意しておいた方がいいんじゃないのか?
一度アスセナと話をして、守備兵の再編成や訓練の提案したほうがいいかもしれない。
◇◇◇
魔法使いギルドの書籍閲覧室。
わかりやすく言えば魔法使いギルド内にある有料の図書館。
魔法に関する本しかないと思っていたが、実はいろんな本が収集されていて、金さえ払えばそれらを自由に読むことができるらしい。
書籍閲覧室内での飲食禁止、書籍の持ち出し不可、書籍内容の複製は最大でA4サイズの紙十枚まで。
しかもその紙すらここで買った紙に限るという……。
当然売られている値段は、A4サイズの紙が一枚銀貨一枚とぼったくり価格だ。
「なるほど、金を払って魔法を覚えるのは簡単だが、こうやって書物庫で本を調べて自力で会得すれば、かかる金は閲覧料だけって事なのか」
「はい。閲覧料は一時間銀貨一枚です。ただし、本を損傷した場合や盗難が発覚した場合にはそれなりのペナルティがありますのでご注意ください。それと、ここの書籍を利用してスクロールを作るアルバイトをする人がいますので、内容を書き留める紙はこちらで販売している物に限ります」
「故意でなければ……、例えばページの一部が少しビリって破れた場合とかも?」
「そのくらいでしたら状況次第ですね。簡単に修復可能なら問題ありませんよ?」
ページごと引き千切ったりする奴がいるんだろうな。盗難に関しては弁解の位置はないだろうし。
複製とかに制限がある事には驚いたが……。
「石からの解放か全ての解放なんかの魔法はどのあたりの本を見ればいいかな?」
「解放系の魔法ですか? おそらく古代系か状態解除系の魔法の棚だと思いますが……。もしかしたら治癒系や神聖魔法系に分類されているかもしれません」
受付の女性が指した方を見ると、何百冊という数の本が所狭しと並んでいた。
ちょっと開いた口が塞がらないな。
もしかしなくても、俺は今からあの中から目当ての本を探すのか?
検索する機械とかもないのに?
「ここでは解放系の魔法を教えてないんだよな?」
「はい。人気がないので売店で販売するための魔法習得用のスクロールがもったいないですし、魔法習得用の魔石も売れませんから。あの魔石、一定期間が過ぎると効果がなくなるんですよ」
世知辛いな。
確かに売れない魔法習得用の魔石なんて無駄以外の何物でもないだろうし、魔石も安くはないんだろう。
「頼んだらその魔石を用意してくれたりはしないかな?」
「今から準備して……、早くても数ヶ月後ですね。あの特殊な魔石の生成には結構時間がかかるんです」
数ヶ月か……。
流石にそんなには待てない。
「それじゃあ、閲覧をお願いします」
「閲覧用のカードを作成しますので、こちらの用紙に名前と冒険者カードの番号を記入ください。…………失礼します、冒険者カードでご本人様と確認……って、何ですか? この測定不能って?」
そういえば、今の俺の冒険者カードには全部の数値が測定不能って書かれてるんだよな。
もう能力の目安にもならないただの身分証になってるし。
「いや、能力値は各一万超えたら測定不能になるっぽいんだ。怪しいかもしれないけど、それ、本物だから」
「古の技術で作られた冒険者カードは偽造は不可能ですし、確かに本物に間違いありませんけど……。男の人で魔力の数値が測定不能って。信じられない、こんな人が存在してるなんて……。それに結構いい男よね…」
気のせいかもしれないけど、最後の方に不穏なセリフが混ざってた気がする。
まあこの世界の男って魔力はだいたい一桁らしいから驚くか。
「ちゃんと鍛錬したら男でも強くなれるもんだよな~。それより、閲覧用のカードをお願いできますか?」
「……こちらが閲覧用のカードです。それと、お客様には特別にこちらの用紙にも記入していただきたいのですが」
なんだ?
前の時みたいに魔法使いギルドへの勧誘……って感じじゃなさそうだな。
ええっと……、なんだこれ? この質問内容は?
貴方の年齢はいくつですか? 恋人はいますか? 結婚はしてますか? 最近クリアした討伐ランクはいくつですか? 家事はできますか? ………………。
これ、本の閲覧に関係ないよな?
「あの、これって?」
「これは私たちの明るい未来の為に必要な書類なんですよ!! あ、私はヴィオレット。魔法使いギルドの司書で、今二十歳の~」
「間に合ってますので~っ!!」
名前も書いていない用紙をそのままにして、俺はだだっ広い書庫の奥へ全力でダッシュした。
常識は弁えているので周りに影響のないレベルでだが……。
読んでいただきましてありがとうございます。




