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見習女神シルキーの呼び出し~

見習女神シルキーにまたしても夢の中で呼び出されるはなしです。

楽しんでいただければ幸いです。


 この展開にもそろそろ慣れてきた。


 眠る度とは言わないが、割と高頻度でこの空間に呼び出されている気がする。


 何かある度に俺を呼び出すこの見習いへっぽこエロ女神には色々と言いたいことがあるが、今はほかの世界の救済という理由があるので仕方がないと納得するか。


「見習いへっぽこエロ女神はひどいんじゃないかな?」


「だいぶマシになったといいたいが、これを届けろっていう見習女神はほかにいないだろ?」


 道具袋からA4サイズで二百ページもある割と太めの単行本を取り出して見せつけてみる。


 当然それは以前頼まれていた【転生勇者と女神の事情。え? これって事情じゃなくて情事だよね? 一巻】だ。


「それ貰ってきてくれたんだ?」


「正確には買ってきただ!! お前が頼んだ本は残念ながらあっちのシルキーの手に渡った」


「………………はい?」


 道具の開発に忙しくて見ていなかったのか?


 見てたら知ってる筈だしな。


「俺が冒険者ギルドでクルーエル・トライス討伐の報告なんかをしているときにな、先に宿に戻って届けられた本を受け取ったらしい」


 しかも伝票に思いっきり【転生勇者と女神の事情。え? これって事情じゃなくて情事だよね? 一巻】って書かれてたみたいだから、生身がなんであるか知ったうえで受け取ってるしな。


「ちょっ……、何てことしてくれたのよ!! あっちの私もこの本に嵌っちゃうじゃない!!」


「このエロ本、一冊銀貨五枚もするのに品切れになるくらい売れて、しかも二十巻まで出てる大人気漫画らしいな?」


「なんでそんなに詳しいの? もしかして師狼(しろう)もこの漫画読んでる? まるで転生勇者と女神って私たちみたいな……」


「使用済みのエロ本を届けるのは悪いと思って、恥を忍んでジャンニーヌ商会に買いに行ったんだよ!! 詳しいのはうちの宿屋の少女に詳しい子がいたからだけど……」


 一冊銀貨五枚もするのに棚に平積みされている光景を見た時は目を疑ったぞ?


 あれだけ複製できるって事はあの世界にも印刷機か何かあるんだろうな……。


 他にもいろんな漫画があったし。もちろんエロ無しも結構存在していた。


 この本を持って清算する時の店員の顔は多分忘れない。いやまあ、俺以外にも男性客は何人かいたんだけどね……。


「真顔でスルーは結構堪えるんだけど? ジャンニーヌ商会はエログッズが何でも揃うHな総合商会だけど、普通の漫画や商品もちゃんと売ってるわよ!! あの世界にも漫画文化はあるし、漫画家って職業もちゃんと成立してるんだから」


 一冊五千円もする本が飛ぶように売れてたら、そりゃ普通の仕事なんてやってられないだろうな。


 他に娯楽が少ないから、割り当てられる金額が大きいのかもしれないけど。


「それとも何か? 別の世界の自分とはいえ、使用済みのエロ漫画を届けてほしかったか?」


 どういう経緯であれ、一度入手した本を盗まれたらあっちの世界のシルキーにも悪いしな。


「それはその……、ちょ~っと遠慮して欲しいかな~って思うけど、こんなの手にしちゃったらあの子も絶対この漫画に嵌ってるわよ!! 本人が言うんだから間違いんだから!! 絶対中身の少ない財布を握りしめて、ジャンニーヌ商会の二階にあるエロ漫画コーナーに並んでる大量の本の前で悩んでるに決まってるわ」


「今はエロ本を買い漁れるくらいの金は持ってるからな。先日もクルーエル・トライス討伐の報酬を一部わたしてるし」


 今回はなぜかあっさりと金貨五千枚を受け取ったな。


 半分アーク教会に収めても残りは金貨二千五百枚もある、一冊銀貨数枚するとはいえ漫画なんていくらでも買える。


「……見える、見えるわ。あの子の泊まってる部屋がエロ本に満たされる未来が……。まあ未来予知とかじゃなくて、単なる憶測だけどね」


「あんまり集められると魔王領に向かう時に荷物になるんだが……」


 本は意外にかさばるからな。


 あの宿屋に預かって貰えばいいんだけど、流石に大量のエロ本はちょっと預けにくいだろうし。


「そうよね……。簡易型の道具袋でも作って、あの子の部屋に届けてあげようかな?」


「これも作れるのか?」


 驚いた。


 あの便利な無限収納道具袋まで作れるのか?


 これを量産できるならいろいろ助かるんだが。


「かなり限定的な収納能力だけどね。本とかでも百冊程度が限界かな?」


「それでも結構便利だと思うぞ」


「そうでしょ? 例の他の世界に武器を送り届ける計画の一環で、神様から貰ったこれの劣化コピーを作ったの。薬草とかの薬類ってそんなに大量には持ち歩けないでしょ?」


 なるほど。


 確かに武器だけじゃなくて装備一式送るなら、まとめて送れるものがあった方が便利だ。


「頼まれてた物の中で、比較的手に入れられそうな物は集めておいた。これだけなんだがいいか?」


「ありがとう。ホント、私の管理する世界に師狼がいてくれてよかったわ」


 道具袋から取り出した指輪などや加工に必要な素材。


 この素材に関してはドレヴェス商会などではなく、商会の看板も掲げていないような小さな素材屋でしか取り扱っていなかった。


 まあ、八百屋とか肉屋みたいな小さな店の中には商会に所属していないところも多いらしく、商人ギルドに売り上げの中から一定額を納めればそれも認められているそうなので問題じゃないらしい。


「珍しい素材というか、リトリーニだと入手困難な素材もあったんだけど」


 灰色穴狐という魔物の皮がそれにあたる。


 他にも紅水晶とか、特殊な昆虫が取り込められている琥珀なんかもそうだ。


「リトリーニ周辺にはあまり出ない魔物もいるしね。灰色穴狐はもう少し南の方にいないと出現しないから、リトリーニに素材が入荷するのは珍しいかも。王都だといろいろ揃うんだけどね」


「なるほど。以前王都に行くことがあったけど、あの時にその情報があればよかったんだけどな」


「仕方ないよ。あ、素材じゃなくて製品に加工された物だったら売ってるかも。灰色穴狐の皮は外套なんかに加工されて売られてるし」


 なるほど。


 素材そのものの入手は無理でも加工済みの物を利用して再加工する手もあるのか。


 外套なら面積も大きいし、再加工するのに都合がいいのかもしれない。


「それじゃあ次回までにそれも買っておこう……。って、もうここに呼び出されるのが当たり前みたいになってるんだが?」


「それでいいんじゃないかな? 私はすっごく助かってるよ?」


「まあいいか、それと、これを……。蟹味噌のスープと蟹の薄皮包み焼と特製生春巻き、平打ちパスタ蟹味噌バター和え、大王渡り蟹の蟹味噌と身を和えたプティング、蟹味噌と身を使ったグラタン、蟹の身を使ったオムレツなどだ。もう一度料理して貰うのは苦労したんだからな」


 用意していた大量の大王渡り蟹料理をテーブルの上に並べていく。


 俺はさすがにしばらく蟹料理は食べたくないが。


「これ大王渡り蟹料理? あ、そっか。今あっちは大王渡り蟹が出てくる時期だからね……」


 こいつがもともといた時系列だと、その頃には世界が滅んでたんだろうけどな。


「そうだね。大王渡り蟹料理なんて食べられると思ってなかったよ。いったん道具袋に取り込んで、少しずつ食べるね」


「気になってたんだけど、見習女神って食事や睡眠は必要なのか?」


「うん。まだ人間っぽい所が抜けきってなくてね。神様も食事とかはしてるらしいよ?」


 神様も食事をするのか……。


 まてよ?


「今までは何を食べてたんだ?」


「あの道具袋に入ってるものとかかな? あの世界に行ったように、一年に一度だけそれぞれの世界に降臨できるの。その時に持ち帰りの料理なんかを買い込んでたりするんだよ」


「百も世界を管理してると、そのあたりは何とかなるのか。で、その一年に一度って、どこ基準なんだ?」


 この世界基準なら厳しいだろうし。


「降臨する世界の一年かな。あまり降臨してると評価が下がるみたいで、同じ世界にはあまりいけないんだけどね」


「もしかして、俺の世界にも来たことがあるのか?」


「あそこはまだかな。もう滅びる寸前だから一度は行ってみたいんだけど」


 待てコラ!!


 もう滅びる寸前って、どういうことだよ!!


 前は一番滅びに近いとか言ってたけど、それだともうじき滅ぶように思えるぞ。


「聞き捨てならない言葉が聞こえたんだが?」


「今のままだと、近い将来滅ぶって言ってるだけだよ? でも、おそらくその未来は覆される。今はまだ滅びる寸前って状態は変わっていないけど、師狼があの世界に戻った瞬間、きっとその未来は輝かしいものになるわ」


「なんか、うまくごまかされた気がするんだけど……」


 俺がこのまま強くなれば、王級真魔獣(ディボティア)を倒せたり、封印窟(ナラク)をどうにかできる力を得るって事か?


 それとも、あの世界にそれをできるだけの何かが隠されてる?


「魔王を倒す頃には、きっとその答えも分かると思うよ」


「元の世界の時間で一時間も経っていないのに凄い事だがな」


 あの世界に足を踏み入れた時よりも、俺は数段強くなった。


 (ヴリル)魔力(マジカル)だけじゃない、力を得た事で心も少しは強くなってる気がするし……。


「でもね、この殆ど何にもない白い世界で、たまにこう思う時があるの。どうして師狼は私の世界に生まれてくれなかったんだろうって……。もし私の世界に生まれてくれてたら、わたしはあの子みたいに死なずに済んで、幸せな人生を歩めたかもしれないのに……」


 うわっ、ちょっと女神がしていい顔じゃなくなってるぞ?


「ちょ……、シルキー、ステイ!! その顔は少し怖い」


「私が死んで見習い女神になっていなければ、師狼をあの世界に送ることはできないし、あの世界に生まれた師狼が今みたいな力を備えていないかもしれないって事は分かってる。でも……」


「あの世界もあのまま滅んでたルートもあるんだろうし、仕方がないだろ? 俺の世界が滅んで、あの世界の誰かが神様になってるルートがあるかもしれないし」


 その場合、こっちのシルキーが俺の世界を管理してる状態と矛盾するか。


 滅んだシルキーの世界もあるし、今の滅んでいない世界もあるから、並行世界もある程度存在するのかも知れないけどな。


「それはないかな? 試練を与える前に神様は、『時間を巻き戻した状態の世界を百、それぞれお前たちに与える。百全ての世界を滅びから救うのが最終的な試練だが、まずはこの五つの世界を滅びから救って見せよ』って言ってたし……」


「その言い方だと、神様が時間を巻き戻す前の世界だと俺のいた世界は滅んでるっぽいんだよな……」


「そうかもしれないね。でも今はまだ滅んでないよ」


 絶望的な状況は変わっていない。


 でも、それはいつか覆せると分かった。


 俺があの世界を救う選択をした事は、間違いじゃなかったって事だな。


「過ぎた事は考えても仕方がないか。私は任された世界を救ってちゃんと女神になるよ」


「知り合いの見習い女神はどうなった?」


 確か失格にリーチ状態だった筈だ。


「全員天使に降格させられて、天界送りになったよ。降格時に記憶もリセットされるから、もうわたしの事も覚えていないけどね」


 天使への降格って、思っていたより厳しい処遇だった。


 シルキーがそうならない様に、とりあえずあの世界は救っておくか。


「ありがとう。期待してるよ」


「ああ。()()()


 意識が元の世界に戻される。


 きっとこれからも何度もあいつに呼び出されるんだろうな……。





読んでいただきましてありがとうございます。

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