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激闘!! 大王渡り蟹討伐!!

ある意味大王渡り蟹討伐な話です。

楽しんでいただければ幸いです。


 目の前でこちらを嘲笑うかのように待ち構える大王渡り蟹。


 この状況は俺の判断ミスが招いたものだが、はっきり言って大王渡り蟹を舐めていたのがすべての原因だ。


 こんなやつ位は余裕だと高を括っていたが為の窮地。この世界に来て以来、これほどまでに追い詰められた事はなかったし、追いつめられるとも思ってもいなかった。


 戦力差は歴然。


 そしてそれは決して覆ることはないだろう。


「えっと、これが蟹味噌のスープと蟹の薄皮包み焼と特製生春巻き、あっちに並んでるのが蟹と季節の野菜のサラダ、平打ちパスタ蟹味噌バター和え、大王渡り蟹の蟹味噌と身を和えたプティング、森バターと蟹のディップ、ぶつ切りにした蟹足の唐揚げ、シンプルな焼き蟹、蟹味噌と身を使ったグラタン、蟹の身を使ったオムレツ……」


 この酒場の看板娘の一人のソフィアが、楽しそうにほかのウエイトレスと一緒にテーブルにカニ料理を並べていく。


 酒場の四角い大きなテーブルを四つ合わせて作られた特別席に、次々と並べられる大量のカニ料理。


 個人用の物も結構な量がある上に、取り分けて食べる用の料理も大量に並んでいる。


 ものすごくおいしそうなにおいがあたりに充満しているが、食べ始める前におなか一杯になりそうで怖い。


「今出せるのはこれくらいかな? あ、足りなくなったらいつでもいってね。一応この後大王渡り蟹鍋が出てくるから、それを食べてからにした方がいいかも」


 今並んでいるだけでもすでに許容量オーバーな気もするが追加でまだ出てるらしい。


 しかも鍋料理ときた。


 まあ、ここの酒場で作る蟹鍋だから相当うまいんだろうけど、食べきるのは割と苦労しそうだ。


「この上に鍋って……。いや、頑張って食うが限度があるぞ?」


「作りきれなかった大王渡り蟹の残りは、約束通り店で有効活用させてもらうね。それじゃあ、ごゆっくり~」


 そう、勢い余って丸ごと一匹買った大王渡り蟹を、酒場に持ち込んで料理して貰う事にしたのは昨日の事だ。


 届いた大王渡り蟹を見て驚いたが、確かに上物の二メートル級だった。


 足一本欠けていなかったし、目立った傷もない。その蟹の足の一本が俺の足と同じ太さで、両手の爪に至っては俺の胴体ほどもある事は想定外だ。


 この酒場に蟹を持ち込んで、ソフィアに話を持ち掛けたら。


『多分食べきれないと思うし、余った蟹をただで譲ってくれるなら格安で料理するよ?』


 と言われ、その条件でOKしたのだが、これ届けた蟹の半分以上確実に余るよな?


 蟹を見た時点でとてもひとりでは食いきれないと判断した為、事の成り行きをミルフィーネに話したところ、この前俺が訓練に付き合ったクレアたち六人も食べるのに協力してくれることになったので、この大王渡り蟹料理討伐クエスト、もとい、食事会は総勢八名で開催される事になった。


 しかし、大王渡り蟹の重量は一匹百五十キロ以上あり、殻の重量を引いても、百三十キロを下回ることはないだろう。


 単純計算で一人辺り約十六キロ!!


 純粋に蟹の身だけでこれで、他の材料を加えた料理が何キロになるのかは考えたくもない。  


「と、いう訳で俺の目算が甘くてこうなったが、食べれるだけ食べてくれ」


「どれも美味しそう!! 一度大王渡り蟹を食べてみたいと思ってたんだ~♪」


「すごいにゃ!! これだけのカニ料理なんて見た事ないにゃ」


「あれ? 確かセシールは去年、シリカ村でキングストーンクラブ討伐に参加したんじゃないの?」


 キングストーンクラブは魔物化した大王渡り蟹らしいが、正確には大王渡り蟹も魔物の一種なのだというので味は似たような物なのだろうか?


「あの祭りは、ただ茹でたキングストーンクラブを村人や討伐に参加した冒険者で食べるだけにゃ。半分も食べきる前にみんな飽きてあとはただの拷問なのにゃっ」


「シリカ村はそういう方針らしいね。川沿いにはいくつか村があるけど、茹で殺した後でちゃんと料理をするところもあるよ?」


「ツキーア村ですね。なんでも王都帰りの凄腕料理人がいるそうで、大胆かつ繊細な料理を山ほど作る上に、持ち帰り用の料理まで別に用意してくれるそうです」


「それホントにゃ? 来年はツキーア村の依頼を受けるにゃ!!」


「……もしかしたらもう締め切り打ち切ってるかも。あの村の討伐依頼は大人気で、討伐漁終了後の三日後には全員来年度の討伐参加を申し込んでるらしいし」


 恐ろしい人気だな。


 まあ、一方はただ茹でるだけ、もう一方はお土産まである上に絶品料理となれば、そりゃその村に申し込みが集中するだろう。


 今の俺には来年の事より、目の前の料理を何とかするのが先決だが……。


「話は料理を食べながらにしよう。では、乾杯」


「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」


 それぞれが注文していた酒などを手に、目の前の大王渡り蟹料理攻略に取り掛かる。


「どれも美味そうだが何から手を付けるかな? この生春巻きっぽいのがいいか?」


 生春巻きの様な料理は蟹の身をほぐした物や香草などを混ぜて包んであり、半透明な春巻きに噛り付くと蟹の濃厚な甘みと香草の香りが口いっぱいに広がってきた。


 俺は一応未成年なんでアルコール度数の低いカクテルっぽい酒を選んでいるんだけど、その酒を口に含むと別の旨味が溢れ出して最高だ!!


「凄いな、この店はいつもの料理も美味いけど、今日の料理は格別だ!!」


「この大王渡り蟹は凄い上物なのにゃ!! ここまで旨味の濃い大王渡り蟹なんてはじめてにゃ!!」


「セシールは大王渡り蟹を食べた事があるの?」


「キングストーンクラブはでっかい大王渡り蟹にゃ」


 いや、たぶんかなり違うと思うぞ?


 筋肉の質や太さはまた別物だろうしな。


「蟹味噌はキングストーンクラブの方が美味しいって聞くけど、王都で人気なのは腕の部分の身を使って焼き上げたキングストーンクラブのステーキらしいね」


「あれは生の腕を切り落とした時にだけできる限定メニューだよ。腕利きの冒険者が揃った時だけそんな真似が可能なんだ。どの村にキングストーンクラブが出現するかはギャンブルなんだけど、酷い所は数年出て来なかったりするし、そこに腕利きの冒険者がいなけりゃ茹でるしかないさ」


 威勢のいい剣士の少女が料理を食べながら説明してくれた。


 確かに茹でた蟹をもう一度焼くよりは生の状態で一度凍らせた方がうまいだろうな。


 それにしても。


「まるでキングストーンクラブに、河から出てきて欲しい様ないいようだな……」


「出現して嬉しい魔物なんて、大王渡り蟹とキングストーンクラブ位なんだよ。あとの魔物は被害を受けるだけなんだけど、大王渡り蟹とキングストーンクラブは出てこなかった時の方がガッカリされる位なんだから」


 村の大事な収入源なんだろうしな。


 天の恵みというか河の恵みというか。


「蟹味噌もおいしいのです!! 大王渡り蟹の蟹味噌と身を和えたプティングは塩加減も味付けも最高なのですよ!!」


「確かに蟹味噌が濃厚だ。それに料理ごとに微妙に味付けを変えてあるのも凄いな」


「そうですね。こんなにいい酒場のある宿屋があるなんて知りませんでした」


 人間で剣士のマリアはゆっくりと料理を食べながらそんなことを口にしている。


 育ちがいいのか、食べ方もゆっくりだしちゃんと飲み込んでからしゃべってるな。


「わたしらの泊まってる宿屋は半獣人(ハーフビースト)ばっかりにゃ。料理は大味で量が多いのが特徴かにゃ」


 セシールは口に物が入ってても関係なしだ。


 相変わらず料理を狙う目が怖い。


「大通りの店はおいしいけど高いんだよね。裏通りは安いけど、質より量って感じの店が多いかな?」


「冒険者ギルドの近くで冒険者が割と多いとか、大商会に近い場所でお金持ちの商人が多いとかで割と客層変わるし、出されてる料理の値段や質なんかも結構変わるよ?」


 今までどこで何を食べても料理がおいしかったから、この世界は料理の水準が異常に高いのかと思ったけど、やっぱりそれも店に寄るんだな。


 もしかしたら半獣人(ハーフビースト)やエルフで好みが違うのかもしれないけど。


 そういえばエルフのミルフィーネやエリカは付け合わせのフルーツやサラダ系なんかを割と好んでるし、半獣人(ハーフビースト)のセシールやクレアなんかは肉系一筋だな……。たまにパスタは食べてるみたいだけど。


「肉が美味しい店が一番かな?」


「肉もいいけど魚が欲しいにゃ!! この街は魚を扱ってる店が少ないんにゃぁっ!!」


「河から少し離れてるからね。海はもっと遠いし」


「日持ちする魚や、干物なんかに加工された魚は割とあるんだけどね」


 こうして楽しい蟹討伐? は進み、二時間ほど経った頃にはセシールとクレア以外はほぼ限界に近づいていた。


 蟹鍋は全員の奮闘により無事に食べきったが、流石にそこが限界だ。


 半獣人(ハーフビースト)の胃袋恐るべし!!


「これも美味しいにゃ。あれ? みんなもう食べにゃいのか?」


「みんな小食だな~。この蟹ステーキもおいしい♪」


 最初とほとんど同じペースで料理を駆逐するセシールとクレア。


 この二人だけ本気で何キロ食べてるかすら想像もつかない……。


「何とか個人用の料理は食べきったけど、しばらく蟹はいいかな……」


「はいなのです……。明日はフルーツを食べ……、い…今は食べ物の事を考えるのは危険なのですっ……」


 最初は喜んでいたシルキーも、今は山羊のミルクを少し飲んでいるだけだ。


 ミルフィーネも紅茶で口を湿らせているが、そのコップに満たされた紅茶を飲み切るのも大変なようだし……。


 俺も少しは料理を口にしているが、けっこう無理をしてるしとっくに限界だ。


 バケツプリンとか子供のころ食べたかったからといって実際やったら途中で飽きるし、あれと同じ事なのかもしれないな。


 やっぱりどんなに腕がいい人に料理されても、基本の蟹味は消えないし……。


「美味しいにゃ、美味しいにゃぁぁっ♪」


「この焼き蟹美味しい!! 腕一本いけそうだ!!」


 それでも四分の一ほどしか食べきれず、残った三分の一は店用に回されて、他の客に半値で提供された。


 格安で大王渡り蟹が食べられると聞いた冒険者が集まり、この日の夜には一匹丸ごと食いつくされたという……。



 もう蟹は当分いいです。





読んでいただきましてありがとうございます。

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