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クルーエル・トライス討伐

クルーエル・トライスを討伐する話です。

楽しんでいただければ幸いです。



 ドレヴェス商会で俺とシルキーの石化を防ぐ魔道具を購入し、ついでに大王渡り蟹を二匹ほど注文しておいた。


 大王渡り蟹は現地で茹でた後、即座に魔法で瞬間冷凍したものが一匹金貨七枚。


 見習女神のシルキー用の大王渡り蟹は食べやすいように加工してもらう約束をしたので、調理済みの物が受け取れる形になっている。


 もう一匹の大王渡り蟹は拠点にしている宿屋の酒場に届けて貰うようにしてあり、調理代を支払う形で大王渡り蟹料理を出して貰えるように話をつけた。


 この依頼が往復で五日かかる予定なので、戻った頃にはちょうどアルバイトに参加した冒険者達に捕獲された大王渡り蟹が届いているはずだ。



◇◇◇



 次にクルーエル・トライスの襲撃が予想される村への移動に関しては、次に襲われそうな村に立ち寄るという乗合馬車を利用する。


 リトリーニを発って今日で二日目だが、途中の駅舎には簡易宿屋が設置されていたので割と体を休める事が出来た。


 出された料理も十分美味かったしな。


 しかし、今後の長距離の移動に備えて、何か車のような移動手段を手に入れる必要があるかもしれない。


「ねえ、こんな移動手段で大丈夫なの? 本当に村が襲われるまでに辿り着けるの?」


「こんな移動手段とは失礼だろ? 大体アーク教の活動で村を訪問するときにも馬車は使う事があるはずだ。ロックリザードの時と違って今回は目的の村までは結構距離があるし、まさか徒歩というわけにはいかないだろ? 俺一人なら空を飛んでいくという手段もあるが……」


「まあ、そうだけど…って、え? 師狼(しろう)って空を飛べるの?」


(ヴリル)の数値が一定を超えると、割と自然な形で飛行可能になる。出力次第ではかなり目立つので、あまりやりたくない方法でもあるんだけどな」


 金色に光るだけならまだしも、結構派手に翼みたいな形の(ヴリル)が発生するから目立つんだよな……。


 俺の場合は飛行技を習得したのが、同じような形態になるアルティメット・クラッシュの副産物というのもあるけど。


「また私が足手纏いなの?」


「それはないな。ろくに目印のない、どこかわからない場所でナビも無しに空を飛べば、どこに向かっているかすらわからない。下手すりゃ目的地を見失って迷子になる場合もある。こうやって馬車で近場まで行く方が確実だとは思うぞ」


 元の世界だと、いろいろランドマークは多いし見覚えのある建物なんかを目印にすればいいだろうしな。


 今までは長距離を跳躍って形だったのが、飛行に変わっただけだし。


「この辺りはあまり変わり映えしないもんね……」


「上空から見たら、森と荒野、それに細い街道が続いていて所々に池や泉があるだけ。試しに飛んでみたリトリーニの周辺だけでも迷子になりそうだから、この辺りだとなおさらなんだろうな」


 そのまま飛んで魔王城に行ってもいいんだが、何か仕掛けがあるとまずい。


 一応冒険者ギルドだけでなく、方々の調査系ギルドにも金を渡して情報を集めさせているから、早ければ今月中には一定の報告があるはず。


 ひと月待つっていったのはその情報をあてにしてだから、もし情報の収集にもう少し期間が必要ならリトリーニにもう少し滞在する必要も出てくるぞ。


 それも悪くないと思うが、あまり時間をかけると王都から使者が来ても困るしな……。


「それはそうと、討伐に関して問題はないの?」


「どれだけ強いか知らんが、しょせんは鳥だ。話にならんだろう」


 もし俺手に余るレベルの魔物ならば、すでに被害はこの国全域に広まってるだろうからな。


 しかし、今のところ被害は村が四つだけ。


 討伐が遅れれば被害は拡大する可能性はあるが今までクルーエル・トライスが移動した距離などを地図から予測した結果、次に襲われると予想された村へクルーエル・トライスが到達するのは早くてもこの馬車の到達予定時間の数時間後。


 この馬車は今日の昼には辿り着く予定なので、襲撃前にクルーエル・トライスを発見する事が出来るだろう。


 あんな残忍な捕食行動を行う魔物は見逃すことはできない。


 これ以上被害が拡大するまでに何とかクルーエル・トライスを討伐しなければ……。


「そういえば、石化は教会の奇跡で元に戻れるといっていたが、あれだけ大勢の人間が石化してても大丈夫なのか?」


「魔族やエルフなんかに石化された場合は特殊な力が働いてて難しいんだけど、魔眼鳥(ストーン・メイスン)やクルーエル・トライスとかの魔物に石に変えられた人だったら大丈夫だよ。一人金貨十枚くらい必要になるけど……」


「やっぱり有料なのか? しかも金貨十枚って、あまり収入のない村にいる人だと支払えないんじゃないのか?」


「魔物に襲われた人だし無料で元に戻してあげたいけど、解呪に必要な魔道具や触媒が結構高価なの。これでも利益が出ない額まで引き下げてるんだけどね」


「今回の犠牲者を無料で治療すると、魔物に襲われた怪我とかも無料で治療しなければならなくなるって事か?」


「うん。そしてそれを続けると流石にアーク教も活動できなくなるし、街で薬屋とか治癒院を営んでる人が生活できなくなるから……」


 被害にあった領民の治療は領主の仕事だと思うが、流石にそれを行えば魔物に大規模な被害を受けた時に財政が破綻するもんな。


 俺としてはできれば何とかしてやりたいんだが……。


「石化を治す治癒魔法とかないのか?」


「存在はするけど、一度にそんなに大勢を元に戻せる人はいないと思うよ? 石からの解放ラピス・リーベラティオーって魔法が石化専用の解呪魔法で、全ての解放オムニス・リーベラティオーがほかの状態異常も含めた解呪魔法かな? 習得している人は王都くらいにしかいないし、アーク教会でも教えていない治癒魔法なの」


「ん? それじゃあ、王都に行って頼めばミルフィーネが親友にかけた宝石化も全ての解放オムニス・リーベラティオーで治せるんじゃないのか?」


「無理。あれから私もいろいろ調べてみたんだけど、エルフの使う宝石の烙印スティグマ・デ・ゲムマはかなり特殊で超強力な呪いとかいろんな魔法の複合術で、元に戻すにはほんとに希少で高位な魔石が必要なの。その代わり、エルフの魔法で石像に変えられた人や宝石に変えられた人は何をしても壊れないんだって」


 流石に治癒魔法も万能とは言えないか。


 真魔獣(ディボティア)にお菓子なんかに変えられた人が食われなかった場合、うまくいけば助けられるんじゃないかと思ったんだが。


「手足の欠損や失明を治す再生の奇跡(レネシャーンティア)にも限界があるのか?」


「あまりにも損傷がひどすぎた場合は無理かな。具体的には四肢の他に内蔵にまで大きなダメージを受けてたら助からない事も多いね。怪我には完全治癒(フォルコメン・クーア)っていう究極の治癒魔法があるんだけど、これも今は使える人がいないの。アーク教とか魔法使いギルドに完全治癒(フォルコメン・クーア)習得用のスクロールがあるんだけど、習得しても魔力(マジカル)不足で発動しないって聞いてるね」


 原因が魔力(マジカル)不足なら俺やミルフィーネは使える可能性はあるな。


 元の世界に戻る前に覚えておくとしよう。


「村や小さい町には治癒魔法が使える人がいない場合まであるからね。だからどこの国でも応急手当の方法とか傷薬をはじめとする様々な薬も広く研究されてるの。薬の効果はどれもものすごい長いから、ある程度現金収入のある村にはいくらか備蓄されてるって話だよ」


「魔法があれば何でもできるわけじゃないんだな」


「あたりまえだよ。私たちは神様じゃないんだし、力が及ばない事なんていくらでもあるよ?」


 あの見習女神でも及ばない事がものすごいありそうだしな。


 他の見習女神は試験不合格にリーチみたいだし……。


「お客さん、もうすぐスズガに着きますよ」


「もう着くのか。……奴の姿は見えないな」


「予想時刻より三時間以上早いからね。今どれだけ大きくなってるのかは知らないけど、流石にまだ見えないと思うよ?」


 まあ流石にあの村が襲われ始めたらこの馬車も途中で止まるだろうし、犠牲者が増えないならその方がいいしな。



◇◇◇



 スズガ村に到着してすでに三時間。


 予想進行方向はおろか、全方向を見渡してもクルーエル・トライスの姿はない。


「おかしいな。体が大きくなりすぎて進行速度が落ちたのならば、かえって遠くからでも目立つはずだろ?」


「そうだね……。でもこの辺りにはほかに村なんてないし、別方向に行く可能性はかなり低いはずだよね?」


「効率が悪すぎるからな。どこかに大量の動物がいた場合も考えられるが、この辺りにはそこまで大きな森なんかもないしな……」


 一応確認の為に地図を広げてみる。


 最後の襲われたナズシロ村からこの村に来るには森や池なんかを突破して起伏の激しい道を三十キロ以上。


 腹に大量の石像を詰め込んで動きが遅いという話だし、夜間は行動を控える習性らしいから移動に時間がかかるにしても、そろそろ姿が見えてもよさそうなものだ。


「ちょっと上から見てみるか」


「上? ああ空を飛んでみるんだ」


「上からなら遠くまで見渡せるからな。っと」


 全身に(ヴリル)を纏い、金色の翼を広げてそのまま真上に飛び上がる。


 あまり高く上がりすぎるとかえって発見しにくくなるのでほどほどの高度で留まるけど、どこかに異変は……。


 あそこ。


 大きな池がある森が灰色に変色してる? あそこに潜んで……。あれ、村じゃないか?


「シルキー。地図にない村を発見した。クルーエル・トライスはおそらくそこだ」


「え? 地図にない村? そんな訳は……」


「俺はこのままそこに向かう。シルキーは後から村に来てくれ」


 見た感じ森の半分くらいは石化しているし、村もかなり壊滅している。


 間に合ってくれよ!!


 音速で飛んで数秒後、クルーエル・トライスを肉眼で完全に捉えた。


 数多くの犠牲者を食らい続けてきたクルーエル・トライスは、いまや全長三十メートル近い巨躯に成長し、村の中心で逃げ惑う人を容赦なく石像に変え続けていた。


「いやぁぁぁぁっ!!! たすっ……」


「おかぁさぁぁぁ……」


 クルーエル・トライスに背を向けて逃げていた子供数人が一瞬で石像へと変わった。石化の魔眼!! 真魔獣(ディボティア)の様にこいつらも幼子にまで容赦なしって訳か。


「クソ鳥が、すぐその首を落としてやる!!」


 魔道具にしまっていた剣に(ヴリル)を漲らせ、長さ十メートル近い光の刃を形成する。


 この状態でさらに(ヴリル)を上乗せして斬撃を放てば数百メートル先まで斬り刻めるが、今はこの状態だけで十分だ。


 魔眼を警戒し、正面に回らない様に横から……。


「そこだ!!」


「クッルルルッガァッ!! グワァァァァッッ!!」


 クルーエル・トライスが気付く前に高速で近付いて斬撃で首を切り落とすとクルーエル・トライスは甲高い悲鳴を上げた。そしてそこから大量の血を撒き散らすクルーエル・トライスはそのまま走り続け、大きな岩にぶつかってようやく動きを止める……。


 首を斬られた鶏かこいつは……。


「今の何?」


「いきなり首が……」


 森の中には村人の生き残りが結構いた。


 全滅じゃなかったみたいだが、かなり被害が出ているな。


「討伐依頼が出ていたので俺が退治させて貰った。この村を襲う前に討伐できればよかったんだが……」


 地上に降りて村や退治したクルーエル・トライスの状態を確認した。


 羽毛は飛び散っていないが、一応念の為にこの辺りを火炎弾(フラムマ・グロブス)である程度焼き払っておいた方がいいかもしれないな。


「ちょっと離れていろ、火炎弾(フラムマ・グロブス)!!」


「え? あんた冒険者か? 男なのに魔法まで使えるのか?」


 羽毛を魔法背焼き払っている俺を見て驚いているみたいだな。


 魔法を使える男の存在が珍しいのは分かるが……。


「男が全員弱い訳じゃないさ。(ヴリル)だって使い様だし、魔力(マジカル)だって鍛えればそこそこ上がるぞ?」


 感覚的には魔力(マジカル)も数万はいってると思うが。


「これで大丈夫かな? とりあえずこいつは邪魔なので回収しておく。持ち帰ってくれって話なんでな」


 焼却作業を終えた後、道具袋を使って今倒したばかりのクルーエル・トライスの首と胴体を取り込む。


 辺りの人間には、一瞬で消えたように見えるだろうな。


「え? あの巨大な奴をどこに?」


「便利な道具袋にしまい込んだのさ。そんな事より、犠牲者はどの位で生き残りは何人いるんだ?」


「ここは訳ありな小さな村でね。百人程いた村人のうち、あの魔眼の犠牲者は六十人でそのうち半分はすでに食われちまった、あとは生き残りが……四十五人か?」


 かなり食われちまっているな。


 はじめからこの村の存在がわかっていたら……。


「貰った地図にこの村は載っていなかった。もしここに村があると分かっていたら、もう少し早く駆け付けられたんだが」


「そりゃ無理だね。ここは……」


「元冒険者や野盗の作った村だからよね?」


「シルキー……」


 焼却作業に時間がかかったという事もあるが、いつの間にかシルキーが近くまで来ていた。


 元冒険者や野盗の作った村。


 まあ、地図に載らない訳はそれしかないよな。


「その通りさね。でも一つ訂正があるとすれば、ここには野盗をする奴はいない。冒険者やってるうちにヘマしちまってね、街にいられなくなった半端者の作った村だったのさ」


「ヘマをした元冒険者か……。それは挽回できない程のミスなのか?」


「あのね師狼(しろう)。冒険者ギルドの依頼をある程度失敗するともう依頼を受けさせて貰えないだけじゃなくて、失敗した依頼に対して賠償金まで発生する事があるの。討伐依頼とかでも明らかに依頼を受けた者に責任がある場合は、依頼料が減らされたりするんだよ」


「あたしらのパーティがしくじった依頼は行商人の護衛任務。しかもドレヴェス商会が編成した結構大規模なやつでね、依頼料も多かったし冒険者の護衛も多い、こりゃ楽勝だと思ったんだよ。ところが途中でそれを上回る山賊が襲ってきて、冒険者の半数は殺され、積み荷は殆ど奪われ、行商人もそのほとんどが殺されちまった」


 そういえば護衛任務はどれも割と報酬額が高かったが、そういったリスクもあるのか……。


「あたしらは生き残りを何とか引き連れてリトリーニに戻ったんだが、当然任務失敗で報酬はゼロ。それどころか高額な賠償金で返しきれない借金までまでこさえちまってね、それでその時のメンツは食料品なんかの納入依頼を受けて、そのまま街を逃げ出してここに隠れ住んでたのさ。これでも冒険者だ、村が見つからない様にいろいろ手は打っていた。食糧はそこの池や森で獲物も獲れるし、森に生えている蔓芋なんかを植えて増やしたりもして何とかしてたんだけどね」


「何年位ここに潜んでるの?」


「あたしをはじめとする最古参の連中はもう十年以上かな? たまに近くの町まで塩なんかの生活必需品を買いに行くんだが、同じような境遇の奴が付いてきちまって、気が付いたら結構な大所帯になってたって訳さ」


「よく役人や巡回する騎士なんかに見つからなかったよね……。それとも、見つかったけど何とかしてる?」


 なんとか?


 ああ、口封じって事か。ありえなくはないな。


「アーク教の巫女にしちゃ怖い子だね。確かにあたしらが役人には見つかった事はあるさ。あんな高額の賠償金は無理でも、役人を買収する小銭位はあるからね。あとはこの村の惨状を話せばあの領主の管理している領地の役人なら、見逃してくれる事も多いのさ」


「アルバート様はお優しいから。でも……」


「悪事を働いていないのなら俺は何も言わんが、シルキーはどうする? こいつらを役人に突き出すのか?」


「私? わ…私は……」


 別の世界から来た根無し草な俺と違ってシルキーはこの世界の冒険者で、しかもアーク教という組織に所属する巫女だ。


 こいつらを見逃すデメリットはあっても、このまま見逃すことはできないだろう。


「この村で生まれた子供たちもあの化け物にほとんど石に変えられちまったし、生き残りだけじゃ、もうこの村を維持する事も難しい。あたしらを役人に突き出したいなら、そうしてもいい。だけど、役人に突き出すのはあたしだけにしてくれないか?」


「他の村人はどうする? またここで暮らすのか?」


 周りに村人が少しずつ集まり、俺たちを取り囲み始めた。


 武力でという事なら容赦はしないが、なんとなくこの人たちはそんな手段には出ない気がする。


 村人の中から一人の女性が出てきた。手には石像に変わった小さな子供を抱きかかえているな。


「できなくはないだろうけど、石に変えられたこの子を見続けるのはつらいよ。この子は、あの化け物に食われちまったあたしの旦那との唯一の子供だったんだ」


「そうさ。セレストだけを役人に突き出すわけにはいかないさ。最低でも、最初にこの村を作ったあたしらは一緒に行くよ」


 この村を作った生き残りの数は六人。 


 残された村人の殆どは人だが、半獣人(ハーフビースト)やエルフも何人か混ざっている。石化した者の中にもいるのかもしれない。


 ……本当に俺も甘くなったな。


「……ここにいた人間は全員クルーエル・トライスに石にされ、辺りを調査したけど、残念ながら生き残りは発見できなかった」


「ちょっと!! 師狼、どういう事よ!!」


「俺が受けた依頼はクルーエル・トライスの討伐だけだ。元冒険者の探索でなけりゃ捕縛でもない」


 そう。


 依頼をしくじった事は褒められないが、俺にはこの村人を役人に突き出すだけの理由がない。


「でも、この人たちは元冒険者なんだよ? それに依頼で出た被害で苦しんでる人もいるだろうし、山賊に殺された人だって……」


「この村人たちも苦しんでるさ。だがな、そんな大規模な山賊を野放しにしている領主にも責任がある。確かに、それを承知でこいつらは依頼を受けた訳だし、受けた以上は無実って訳にはいかない。でもな、そこから逃げて、こんな場所でひっそりと生きていく権利位あってもいいじゃないか」


 こいつらが山賊や野盗ならおそらく俺は断罪する事に躊躇しなかっただろう。


 しかし、こいつらはただの元冒険者。


 見逃してやってもいいんじゃないのか?


「そうだね。罰にしては少しキツ過ぎるけど、こんな目にあった人を、これ以上不幸にすることもないよね……」


「あんたたち……、本当に見逃してくれるのか?」


「俺がここで見たのは、どこから来たのかわからん奴の石像だけだ」


「この先も犯罪に手を染めないと誓ってくれる? 誓うなら私も何も見なかった事にする」


「……誓うさ。今までだって銅貨一枚だって盗んだ事なんかありゃしないんだ。この森の奥でもう一度村を作り直してひっそりと暮らすよ」


 これでいい。


 この村人も多くを失ったが、これからもう一度取り戻せばいい。


「帰るか。今ならまだ帰りの馬車に間に合いそうだ」


「もう、少しはゆっくり歩いてくれてもいんじゃない?」


 これで無事にクルーエル・トライスの討伐は完了。


 後ろでは生き残った村人が手を振ってくれているが、俺はそれにこたえる事はできない。


 なにせ、あそこにいるのは全部石像のはずなんだからな……。


 馬車に乗ればリトリーニに着くのは明後日か。


 帰ったら大王渡り蟹で宴会かな?


 どんな味なのか、今から楽しみだ……。





読んでいただきましてありがとうございます。

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