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冒険者の特訓

冒険者たちと模擬戦をする話です。

楽しんでいただければ幸いです。


 リトリーニの街で見習女神のシルキーにあった翌日。


 ミルフィーネから冒険者の練習に付き合って欲しいと頼まれた。


「剣を使った模擬戦?」


「はいなのです。わたしは魔法での戦闘は教えられますが、剣を使った戦闘は全然なので、兄様に手伝って欲しいのです」


 こうみえてミルフィーネはわりと、というよりかなり肉弾戦でも強い。


 魔法による補助も大きいんだが、ちっこい上にすばしっこいから普通の奴では攻撃が当たらない。


 そのうえ、あの桃色の瞳でみつめられると催淫系の術に抵抗力のない人間はほぼ一瞬で無力化されるというのも大きい。


 俺が魔法を教えて貰った時に何度かなんでもありの模擬戦をしたが、身体強化系の魔法だけではなく風系の魔法で自分の速度を上げたうえで幻術や水などで分身というかデコイを作ったり、そのデコイの中に時限式の拘束魔法を仕込んだりと結構凶悪なコンボを次々に仕掛けてくるから気が抜けなかったな。


 今回は剣を使った模擬戦をしたいというので、実戦形式なのかもしれない。


「場所はやっぽり郊外の荒れ地なのか?」


「魔法の練習もしたいのでそこがいいのです」


「それじゃあ、いくとするか」


 さて、この街の冒険者がどんなレベルになってるのか楽しみだ。



◇◇◇



 郊外の荒れ地に集まった冒険者はミルフィーネの他にはわずかに五人。


 半獣人(ハーフビースト)のクレアとセシール。名前を知らない剣士タイプの冒険者が二名。あとミルフィーネと同じような姿の魔法使いみたいなの子が一人。


 最後の子はなんでいるんだ?


 王都で戦ったシャルロッテの時は普通の装備だったが、今日は模擬戦なので全員木刀を用意してきているし、俺も一応模擬専用の木刀を持ってきている。


「沢山連れてきても兄様に迷惑なので、筋がいい子を五人ほど選んでみたのです」


「全員ある程度のレベルはあるってことなのかな? それじゃあ始めようか」


「それじゃあ、あたしからだね。この前助けてもらったけど、手加減はしないからね」


 最初は犬型半獣人(ハーフビースト)のクレアか。


 半人半犬の魔物と混同される事も多いが、半獣人(ハーフビースト)は人間と違っていろんな場所の筋力が発達しているし、反射速度とかその他の能力も数段上だ。


 狂暴化(バーサーク)系の魔法を使われると一時的に身体能力が数倍に増して、痛みなんかも感じなくなるらしいので普通ならば今日的強敵なんだろう。


「それじゃあ、始めようか」


「いくよっ!!」


 思ったよりも動きがいいが、なんとなく斬撃の速度が遅いな。


 俺の攻撃を誘ってるのか、それとも、油断させようとしているかのどちらかだろう。


「全然当たらない……、やっぱりこのままじゃ無理ね」


狂暴化(バーサーク)か!!」


 すごい、本当に速度が数倍に上がってる。


 使われているのは(ヴリル)魔力(マジカル)の融合的な力?


 なるほど、(ヴリル)を一時的に暴走させて身体能力を引き上げて、暴走による筋肉への負担は治癒魔法で緩和して、痛覚なんかの鈍化も魔法の影響って訳か。


「この速度でも躱されるとか、ホントに人間なの?」


「意外にやるじゃないか」


「……本気で行くからね!!」


 おおっ、格段に斬り付けてくる速度が上がった。


 やっぱりかなりセーブして動いてたな。


「これはフェイントか。本命は……、へえ、やるじゃないか」


「初見でこれを見切られた!!」


 右手に持った短めな木剣をやり過ごした後、いつの間にか左手に持っていた小さな木刀で喉を狙って切り付けてきた。


 さらにそれを躱すと右足で蹴り上げようとして、それを躱したらその足で肩を踏んで逆の足を鳩尾に叩き込むって流れか。


「悪くない動きだ。っと」


「え? いつの間に?」


 一瞬で両手の剣を叩き落として首筋に剣を突き付けてみた。


 この街の冒険者って、思っていたよりずいぶん動きがいいな。


 やり方次第だとロックリザード位何とでもできる気がするんだが……。



◇◇◇




「流石兄様です」


「次はあたしなのにゃ」


 次は猫型半獣人(ハーフビースト)のセシールか。


 両手に少し曲がった形の木剣を装備してるけど、大き目の爪って感じもしなくはないな。


 それにしても流石に猫、動きが俊敏というか、クレア織動きが曲線的というか。


「やるにゃん♪ これは躱せるかにゃ?」


 普通だと躱せない速度の攻撃というか、確かに女性冒険者とか魔物だとこの速度の斬撃には対応できないだろう。


 速いとはいえマッハを超えていないから、流石に俺に当てる事は無理だけど。


半獣人(ハーフビースト)は人間の女性より(ヴリル)が高いとはいえ、その動きはすごいな」


「余裕ぶっこいてんじゃないにゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


 いきなり狂暴化(バーサーク)してきやがったよ。


 ああ、猫ってこういう所あるよな。


「高速戦闘ってのは、こうやるんだぞ」


 ちょっと(ヴリル)を高めてマッハでセシールの周りを高速移動してみた。


 この速度で動けば、ほぼ見えない筈。


「にゃ!! キラキラ金色の光が邪魔にゃぁっ、ど…どこにいるにゃ?」


 ああ、身体から発してる(ヴリル)が目晦ましになってるのか。


 というか、それ注意しないと対応できる奴にとっては、どれだけ高速で動いても俺がここにいるって知らせてるようなもんだな。


 コントロールの仕方とかも研究する必要があるぞ。


 魔王領に踏み込む前のこういう発見はありがたい。


「正面だ!!」


「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!! にゃぅん!!」


 両手に持っていた木剣を叩き落として、頭を軽く小突いてやった。


 動きは悪くないし、斬撃の鋭さには感心したがあんなにキレやすかったらダメだ。


 とはいえ、種族の特性だから仕方ないんだろうけど。


「強いオスは好きにゃん。あとであたしと……」


「あたしとなんですか? セシール?」


 尻尾をぶんぶん振りながら喉を鳴らしてすり寄ってくるセシールにミルフィーネが声をかけた。


 セシールの尻尾がピーンと伸び、身体の毛が幾分逆立っているように思える。


「にゃぁぁぁぁぁぁっ!! あたしはミ…ミルフィーネ様のオスには手出ししないにゃん」


「兄様はまだわたしの物じゃありませんけどね。次の訓練は期待しててください」


「にゅぅぅぅぅぅぅっ……」


 めっちゃ怯えてる?


 そんなに厳しい訓練をする気なのか?


「それじゃあ次の子だな……」




◇◇◇




 剣士タイプの二人は可もなく不可もなくって普通のレベルだった。


 身体能力は半獣人(ハーフビースト)に劣るし、魔力(マジカル)はエルフの足下に及ばないノーマルの人間。


 これ、魔王と討伐して魔族がこの世界から排除されても、人類が生き残るのって結構厳しいんじゃないのか?


 数の優位があるにしても、個人の身体能力に結構差がある気はする。


「う~ん。この子たちも他の冒険者に比べたら結構剣の腕がたつ方なんだけどね。やっぱり私たち半獣人(ハーフビースト)に比べたら、どうしても身体能力が数ランク落ちるよ」


「そうにゃん。わたしたちは小さいころから戦いにゃ。人間はおとなしく重くておっきい鎧で武装して壁になるか、魔法を極めて後ろから支援してくれればいいにゃ」


 半獣人(ハーフビースト)どもは言いたい放題だな。


 まあ、それが事実なら仕方がないんだろうけど。


「剣筋は悪くないし、長時間戦うならこの子たちのスタイルも悪くない。元々魔物とかと戦う冒険者はこの子たちみたいなやり方でないと生き残れないんだろ?」


「この仕事は連戦になる事は多いですし、遺跡の調査なんかをするときは数日必要になる場合もありますので、常に百パーセントでやるわけにはいかないんです。それに普段は魔法でなんとかする事も多いので」


魔力(マジカル)が高いからそうなるんだろうな。いっそ(ヴリル)だけしかない方が近接戦闘には強くなれるのかもしれないけど」


 そうすると(ヴリル)での身体強化がメインになるだろうからな。


 人間も狂暴化(バーサーク)が使えればいいんだけど、使えないものは仕方がない。


「えっと、最後の子は」


「エルフのエリカです。魔法での近接戦闘でもいいでしょうか?」


 ミルフィーネと違って身長が高いな。


 エルフの特徴というか、やっぱりかなり身体の線は細いけど、こんな体つきで接近戦とかできるのか?


「問題ないけど。剣の方は?」


「剣だけが斬撃の方法じゃないんですよ?」


 エリカは手にしていた杖を逆手にもって、その先を突き付けてきた。


 なるほど、あの杖で斬るつもりか。


 確かに宝石が付けられている部分の少し下が剣の柄の様な形になっている。


 魔法使いだと思って近づくと、先の部分でざっくりという話だな。


「俺の勉強不足だったな。いいだろう、魔法も使っていいし、何を使ってきてもいいぞ」


()()()()ですね。すみませんが少し離れていただけますか?」


 ミルフィーネ達が結構距離をとる。


 しかもかなり高レベルな魔法防御結界まで張ってるな。


 高威力の魔法でも使うつもりか?


「いきます!!」


「はやっ!! というか、なんだその速さ?」


「これだけの斬撃を受けてるのに余裕なんて、ミルフィーネ様の言う通りですね」


 こいつ、(ヴリル)の身体強化無しでほぼ音速で動いてやがる。どんなからくりがあるんだ?


 それに、なんでこいつらはミルフィーネの事を様付けで呼んでるんだ?


 というか、そんなに恐れられるような特訓してるのか?


朧灯(ルークス)!!」


 手を突き出して眼前に光の珠を生み出してきた。


 ゼロ距離の閃光魔法とか、俺好みの戦い方をしてくる!!


「目晦ましか!!」


暗黒繭(ダークネス・コクーン)


 エリカを中心に半径数メートルほどの暗黒の繭が生み出される。


 なんだこれ? こんな魔法聞いた事もないぞ?


「これ……闇を作り出す魔法? なるほど、閃光の後に暗闇で完全に視界を奪うつもりか。……ここだな!!」


「え? どうして私の位置が?」


 ある程度(ヴリル)の数値があがると軽い未来予知が使えるんで、視界なんぞ奪われてもそこまで問題じゃないんだ!!


 それに今は治癒魔法で即座に視力の回復もできるしな。


 って、こいつまだやる気か!!


 俺から少し離れた? 高威力の魔法を使うつもりか?


炎華菊フラムマ・クリューサンテムム!!」


「足元か!!」


 俺の足の真下に炎で作り出された巨大な菊の花が姿を現す。


 この魔法は何度か見てるから知っているが、少し離れてみてると綺麗だけど、これものすごい高温なんだけどな。


「無傷? うそっ!!」


「このくらいの魔法ならノーダメージさ。まあ、このレベルなら文句なしだと思うぞ!!」


 正直もう少し弱いと思ってたが、これだけ実力のある冒険者がいるなら数万とかっていうレベルじゃなければ、魔王軍が少しぐらい攻めてきても何とかなりそうだな。


「きゃぁっ!!」


 正面から思いっきり杖を打ち付けたらその反動で後ろにすっころんだ。


 流石に猛反撃してきそうにはって……。


「見ました?」


「いや、見てないぞ」


 すっころんだ拍子に割と短めなスカートがめくれて、黒いレースのパンツが丸見えになっていた。


 顔に似合わず結構大胆なデザインのパンツだったな……。



◇◇◇



「そこまでなのです。流石に兄様、エリカでは勝負にならなかったみたいですね」


 模擬戦の終了を宣言したミルフィーネがほかの四人を引き連れて戻ってきた。


 確かにあのクラスの魔法を使う模擬戦なら、魔法防御結界とかが必要だ。


「いや。この子はかなり強いと思うぞ。普通の奴なら最初の攻撃で斬り殺されてるか、炎華菊フラムマ・クリューサンテムムで消し炭だ」


「でも、あんなに頑張ったのに。殆ど余裕で躱されてしまいました」


「今は改良版の多重絶対防盾(スゥクトゥマ)を使っているからな。真正面から火炎嵐フラムマ・テンペスタースを受けても無傷だぞ?」


 前みたいに広範囲ではなく、近接戦闘用の多重絶対防盾(スゥクトゥマ)を俺の身体に纏わせてある。


 朧灯(ルークス)を食らってもその光量の全てが貫通する訳ではなく、ある程度のレベルに抑えられるんだが、その後の暗黒繭(ダークネス・コクーン)では流石に目の前が真っ暗だった。


 ある程度の範囲を闇に包まれたら、やっぱり真っ暗になるんだな……。


火炎嵐フラムマ・テンペスタースって、あの魔法でノーダメージなんですか?」


「もう魔力(マジカル)を吸収する必要がないから、防御全振りの無敵魔法だ。かなり高威力な魔法の攻撃もほぼ無効化できる」


 地震とか洪水系の環境型高威力魔法は流石に無効化できないけどな。


 元々強化された(ヴリル)のシールドがあるから、炎とかでもノーダメージなのはほとんど変わらないし。


「本当に凄いです。同じ人間なのに、半獣人(ハーフビースト)やエルフを圧倒するなんて」


「兄様は特別なのです。この世界のほかの人間ではこうはいかないのですから」


「本当に凄いわね。……強いオスに惹かれるのは半獣人(ハーフビースト)(さが)とはいえ、ミルフィーネ様のいい人だし……」


「もう、兄様の前で様呼びはやめるのです!! それと、余計な事は言ってはダメなのです!!」


 俺に背を向けて五人の冒険者に抗議するミルフィーネ。


 クレアたちの表情は見えるが、どんだけ厳しい訓練してるんだ?


 恐怖におびえているというかなんというか、ん? なんか、エリカは嬉しそうだな?


「明日の訓練は足腰たたなくなるくらいまでしごいてあげるのです。覚悟してるがいいのですよ」


「鬼教官か!!」


 ま、今のレベルの冒険者をさらに強くしてるなら期待はできそうだな。


 約束のひと月まであと半分ほどだが、状況次第ではもう少し延長してもいいかもしれない。


 見習女神のシルキーから頼まれた物も揃えたいし……。


 あのリストの中にある街で売ってないものはどうやって手に入れるかも問題だ。




読んでいただきましてありがとうございます。

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