条件付き異世界救済 三話
砦攻略の後日談になります。
楽しんで頂ければ幸いです。
砦防衛戦を終えた後、俺は砦が守っていた大きな街に案内された。
街の名はリトリーニといい、無防備とか言いながら結構高い石造りの塀に囲まれたかなり大きな街で、塀の上には大型の弓っぽい物が無数に配置してある。ほかにも魔法を使う奴もいるんだろうからこの守りを突破するのは至難の業だと思うが……。ああ、あの宝石型の魔物が生きてれば関係ないか。
ここまでの街道もそうだったが、塀の中と外ではかなり道の質というか状態が違い、街の中の道は石で綺麗に舗装までされている。さっきまで歩いてきた土が剥き出しの道とは大違いだ……。
このリトリーニは中心部を囲むように円形に区画が整理されている。街道なんかもそれを基準として作られているが中心部を守るようにもう石壁が設置されていた。その内部が貴族というか領主などの住んでいる場所というのは一目でわかった。
なんといっても内部は一層小綺麗に整備されているうえに、建てられている家というか屋敷はすべて大きな庭付きで、完全武装した兵士が数人見回りを行っている。その貴族の住んでいると思われる区画に割と立派な家屋が並ぶ一角があり、その中でもひときわデカい屋敷に案内された。
この屋敷ってうちの学校の校舎よりデカくないか?
◇◇◇
「勇敢な冒険者よ、よくぞ街を守ってくれました。あの砦が落ちればこの街も危ない所でした」
「この街を守る砦は全部で七つあり、そのうち六つはあの宝石のような魔物の魔法でことごとく破壊されてきました。あの砦が最後の希望だったのです」
冒険者ギルドのお偉いさんと魔法ギルドの長とやらや街を含めるこの辺り一帯を治める領主。
こいつ等は称賛の言葉を惜しんではいないが、元の世界で何度も同じ目を向けられてきた俺からすればその裏に隠された物にすぐに気が付く。
何処にあるのか分からない怒りのスイッチに触れない様に当たり障りのない言葉選び。
理解できない力を振るう者への恐怖。
どうにかしてその巨大な力を利用できないかという打算。
それらがあまりに透けて見て取れすぎてて、逆に清々しくはあるな。
今まで六つの砦が破壊されてきたという事は、そこの防衛任務にあたっていた者も無事ではないだろう。
あんな威力の魔法を食らえばそれこそ灰すら残って無いだろうからな。
「お名前は窺っておりますが、一応確認の為に冒険者カードをみせて頂けないでしょうか?」
「冒険者カード? いや、そんな物は持ってないんだが」
周りにいた者全員があからさまにざわめく。
警戒レベルが一気に上がった感じだ。
なるほど、この話題を切り出して俺の正体を探る為にさっきから当たり障りのない会話をしていた訳か。
あんな登場したんだから普通じゃない事位気が付いただろうに。
それとも、この世界にはよく似た転送魔法か何かあるのか?
「冒険者カードは国境を超える為に必要な身分証明書……。それをお持ちでないと?」
「そうだ」
「この国にあなたのような勇者がいたという話は聞いた事がありません。先程見せて頂いた力をお持ちでしたら噂ひとつないというのも奇妙な話でして……」
そりゃあ、あのへっぽこ女神見習いにいきなり送り込まれたんだから仕方ないだろ。
普通はさ、こういった面倒な事態にならない様に辺境の町とかにひっそりと送り込まれて、冒険者とやらに登録して冒険者カード貰って弱い魔物倒しながら地道に此処まで来るんじゃないのか?
アイツには俺をいきなりここに送り込まなきゃいけない理由が何かあるのか?
「信じて貰えないかもしれないが、俺はある女神に魔王討伐の命を受けて別の世界からここに送り込まれた。当然冒険者でも無ければその冒険者カードなんかも持っていない」
「女神に? 魔王退治を?」
「ああ、ある程度の話は聞いているが、魔王について詳しく教えて貰えると助かる」
異世界転移してから最初に終わらせるイベントを色々すっ飛ばされた気はするが、魔王が今の俺でも倒せそうな存在なら速攻退治して終了だ。
別にこの世界を楽しみたいわけでも、長くいたいわけでもないので都合は良い。
現実世界だとまだ一時間も経ってないだろうな……。
「にわかには信じられませんが、あれだけの力を持った人であれば本当なのかもしれませんね。魔王スマラグドゥスは魔物を操って街を襲い、多くの国を滅ぼしています。先程の魔物の群れもこの街を破壊する為の尖兵に過ぎません」
「あれで尖兵なのか……」
尖兵、つまりあの魔物の群れは魔王軍のほんの一部で切り込み隊にしか過ぎないって事だ。
魔物同士で連携取れてなかったし、人間側でもそこそこ戦えてたから何とかなると思ってたんだが、そうか、ただの尖兵か……。
俺の居た世界並みに終わってるじゃないか!!
なにこれ?
あの女神見習いが言っていたように、確かにほっといたらあっという間に滅びそうな世界だけど、ここまでヤバい世界なのか?
「わがアース・グレイブ皇国以外の国はほとんど壊滅している。もっとも国として機能してはいないが、そこに人が住んでいない訳ではない。比較的魔物が弱い地域などは冒険者などが自衛団を結成して自給自足の生活を送っているありさまだが」
「女神から魔王の侵攻から既に五十年経っていると聞いたが?」
「事実だ。わがアース・グレイブ皇国が軍事力で三十年近く魔物の侵攻を抑えていたのだが……」
「そこから先は私が説明しましょう」
扉が開き、完全武装した騎士数名に囲まれてきた女性の顔に俺は見覚えがあった。
ああ、あるとも。ありまくりだ!!
他人の空似でなければこいつは……。
「私はアーク教の巫女でシルキーと言います。私の話を……、あの、どうかしましたか?」
「いや、知り合いに似ていたので驚いただけだ」
巫女……。
いかにも司祭とかそっち系の格好なのに巫女?
まあ、それはいい。
他人の空似と思いたいが、あの女神見習いと名前が一致、声が同じ、顔はもちろん背格好もほぼ同じときた。
偶然の一致? こんな偶然があってたまるか。
絶対これには裏がある!!
あのへっぽこ女神見習いが俺に話していなかった何かが。
「そうでしたか。では、詳しい説明をさせて頂きます。投影魔術師の方をここに……」
「投影魔術? おお!!」
小玉スイカ程度の大きさの水晶玉を抱えた数人の魔法使い。
そしてその中央の魔法使いっぽい奴が呪文を唱えると空中にこの世界の地図っぽい物が現れた。
これ、割と便利だな。
後で仕組みを教えて貰おう。
「これが五十年前のこの世界の状況、そしてこのそしてこのアース・グレイブ皇国の北の荒れ地、極寒の大地とされる永久凍土に魔王が出現しました。魔王は緑色の結晶で城を作り、多くの魔物を召喚して隣接するすべての国に対して侵攻を開始しました」
説明と共に映像が変化し、キッチリわかりやすく説明されてゆく。
出現した魔物の数や侵攻方向、そして緑色の結晶に侵食される人間側の領地が表示されていた。
あの結晶の侵食範囲が魔王の支配域の様だな。
「この結晶の生える場所では当然生態系は壊れ、今までいた生物はほぼ絶滅して魔物が出現する魔界へと化しています。一部の生物は環境の変化に対応し魔物化したようですが、極稀なケースですね。そしてこの魔王の侵攻はこの範囲で一時的に停滞しました」
「本当にこの国以外はほとんど壊滅しているな。その国にも王族や貴族がいたんじゃないのか?」
「当然権力者の多くは守るべき国民を見捨てて国外逃亡を図りましたが、逃走中に魔族に襲われて命を落としました」
当然の結果で何より。
守るべき民を見捨てて逃げる様な権力者など滅びればいい。
俺の世界でも同じような運命をたどった奴は多いし、逆に甘い事を言った奴は真っ先に喰われた。
「数年前に今の状況で膠着状態に陥り人類側の砦を挟んで一進一退の攻防が続いてましたが、あの宝石型の魔物が出現して次第に押され始め、頼みの綱だった冒険者や騎士たちもその殆どが……」
「まあ、あれを食らえば大抵の奴はどうにもならんだろう」
あの極大熱線魔法を防ぐ方法など俺の居た世界でも存在しない。
というよりは多重絶対防盾のような複合型の絶対防御魔法以外であんなものを防いだら、魔法自体は防げても超高温や目を焼く程の光でただでは済まないだろう。
俺が戦ってきた真魔獣は完全な捕食型で、人を無残に食い殺す事しかしなかったので、あんな殺人だけを目的とした技を使わないというのも大きいが、機械的な防御装置を利用しても完全に防ぐことは不可能だ。
「その通りです。ですがあの魔法を防ぎ、この街を救ってくれる方がついに現れたのです。我が身を捨てて砦や街を守る為に命を落とした多くの勇敢な者達にこれで報いる事が出来ます」
「…………」
女神見習いにこの世界を救えと言われた時とほとんど同じだな。
あの顔であんな事を言われると思わず殴りたくなるのはなんでだろう。
「もちろん。あなたにだけ魔王討伐を任せる事なんてしません。この私も魔王討伐の為に同行します」
「足手纏いだからいらん」
即答。
俺の魔法の多くは一対一を想定した物が殆どだし、範囲型の攻撃は威力があり過ぎるから攻撃に巻き込まれても困る。
元の世界でもたまに瑞姫と共闘しているが、あれはアイツが強引について来るだけだしな……。
「そんな、私を気遣っていただかなくても大丈夫ですよ? これでも回復魔法には自信がありますし、解毒やけがの治療をする人間がいた方がいいと思うのです」
「確かにその手の能力を持つ敵との戦闘経験は乏しいな。回復魔法か……」
その手の魔法は俺の居た世界にはほとんど存在しない。
特に毒などを使ってくる敵が存在するならば、状況次第ではあるが苦戦する事は間違いないだろう。
今まで戦ってきた真魔獣の攻撃手段というか目的が捕食な為、敗北は真魔獣に食われるという事と同義だ。
奴らとの戦いで中途半端に怪我をした状態で助かる事などほぼ無いしな。
しかし、回復魔法系を覚えれば元の世界に帰った時に役に立つかもしれない。
あの女神見習いと同じ姿をしているのは気に入らないが……。
「魔王を討伐する為に、少しでも確率をあげる事は大切です。これからの詳しい予定は明日にしましょう。では、今日休んで頂く為の宿に案内しますね」
「ああ、頼む」
この後、ひとりで泊まるにはかなり広い部屋に案内され、今日の報酬の前渡し分として金貨三万枚が渡された。
元の世界換算で三億円か……。
これだけでひと財産だ。
◇◇◇
見た事の無い食材で作られてた割には美味かった飯と、ここホントに異世界かと疑いたくなるような立派な風呂を済ませて寝ていたのは間違いない。
なのに俺はまたしても見知らぬ場所に立たされていた。
「ここは何処だ?」
「ここは貴方の見る夢の中。そして私が異世界に送り込んだ勇者と連絡を取る為の場所です」
夢の中?
コイツ夢の中にまで干渉してくるのか?
それより折角コイツに再会できたんだから、やらないといけない事があるよなっ……!!
「おびゅろっ!!」
俺のドロップキックを食らった見習女神のシルキーが白い床を転がっていった。
ここでもキッチリと物理ダメージは入るみたいだな。まあ、軽く蹴っただけだからそこまでダメージはないだろうが。
「軽く蹴ったじゃないわよ!! いきなりドロップキックなんてどういう了見よ!!」
「アルティメットクラッシュじゃなかっただけマシだと思えよ。あんな状況に送り込むなら一言位状況を説明しろ!!」
「い……生きてたからいいじゃないの!! 私はあなたを信用してたのよ」
結果論だ!!
多重絶対防盾所持が必要条件って、俺以外だと無理ゲーだぞ。
「んんっ、……本当は討伐が困難な状況になった時などの為の非常手段ですが、今回は特別に此処を使う事にしました」
話を強引に元に戻しやがった。
「…………困難なのはこの仕事の難易度じゃないのか? 俺じゃなければ確実に死んでるぞ?」
「手違いです」
「手違いね……。で、呼びかけてきた理由はなんだ?」
「言いにくいのですが、それも手違いがありまして……」
コイツの不手際とはいえドロップキックを食らった筈なのに、今迄みたいな上から目線のえらそうな態度ではなく、いたずらがばれた子供の様にしおらしい態度でこちらの出方を伺って来た。
あくまでも手違いで済ませる気か。
まあ、あまり自分からミスを告白したくないんだろうが。
「目的はこれだろう?」
「ど…どうしてそれを?」
俺が手にしたのはコイツから貰ったアイテムが無限に入る便利な道具袋。
と、同じ物だ。
実は違う。
「同じ物が二つあったら間違える事もあるだろう。が、なんだこれ? 色んな世界のお菓子とか紅茶やジュース。それと……」
「ちょっ!! まさか中を……」
「貰った金貨を入れようとして、初めから中にいろいろ入ってたら調べるだろ? 普通」
そう、貰った金貨の量が多いので一部は宝石で貰ったが、飯屋や宿屋などで使う目的で何枚かの金貨を銀貨などに変えて貰った為に、最初貰っていた五百ゴールドも含めれば結構な量の硬貨に化けた。
とてもではないが持ち運びに不便なので道具袋に詰め込もうとした所、初めから結構な量のアイテムが入っていたので一応それが何なのか調べたら……。
「全部、調べたのですか?」
「大量のエロ本なら中身は見てないぞ。ホントにエロ女神だったんだな」
「なっ!!」
流石に俺も流石に中身までは確認していないが、最初に報酬で渡そうとされた【朝まで生H、やっぱり恋人はお姉さまが一番!!】だけでなく、様々な世界のエロ本を全部集めましたって感じにおそらく百万冊以上の様々なエロ本がジャンル別に揃えられていた。
なにがたまに手に入れるだ、たまに手に入れる頻度なら百万冊集めるまでに何年掛かる?
よくもあそこまで揃えたと感心するが、色々な世界と通じているならあれだけの数を集める事も不可能じゃないんだろうな。
時間と情熱さえあればだが……。
「こ…この事を黙っててくれるなら、涙を呑んで私のコレクションの中から何冊か差し上げても良いですよ? 漫画、実写、それぞれに可愛いロリっこモノからお姉さま系の基本はもちろん、SMなんかの特殊性癖までよりどりみどりです。あ、お気に入りの本は譲れませんけど、何か好みのジャンルとか……」
「いらん」
「即答!! え? あなたもしかしてホモ? それとも流行りの草食系とか言う性欲ないタイプ? あんな可愛い妹や同級生が分かりやす~いモーションかけて来てるのに、Hしてないっておかしいとは思ったんだけど~」
言いたい放題だな。
流石に妹には手出ししたくも無いし、同級生の美剱瑞姫とはまだ出会って数か月だ。
もしかしたらこのまま付き合ったりすればそういう関係になる可能性はあるが、いきなりそんな事出来る関係にまで発展するか、こっの、エロ本脳!!
「なにがエロ本脳よ!! 確かに私が読んでる本には出会ったその日にHしちゃうような内容の本も多いけど、ちゃんと幼馴染系や長年憧れてたお姉さんと~っていった内容の話もあるのよ!! それに、女神見習いとはいってもあんな何も無い世界の楽しみといえば、お菓子を摘まみながらのティータイムと、誰にも邪魔をされない至福の読書の時間なの」
「まあそんな事はどうでもいいが、あの武器類も本来は俺みたいな救済者用じゃないのか?」
「…………それにも気が付いたのね。でも、あれは渡せない理由が……」
「あの武器類は何故か全部厳重に封印されてるみたいだったから、それなりに渡せない理由があるんだろうがな」
この女神見習い用の道具袋の中には大量のエロ本やお菓子類の他に、聖剣や魔剣などの魔王討伐用の装備が幾つも封印されていたし、フォルダーに現在使用不可とかでかでかと書かれてたし、何か理由がある事は察した。
もちろん、あの銅の剣も他に何本か存在したが、アレが予備なのか何なのかは分からない。
「銅の剣ならもう一本あげてもいいんだけど」
「理由は聞かないでいてやるし、今回の砦防衛の報酬でもう少しマシな武器を買う」
「ありがとう。あなたって意外に優しいのね」
意外に優しいは余計だ!! とりあえず道具袋の交換を終え、新たに貰った道具袋に金貨や宝石を収納した。
パソコンのフォルダ分けの様に分類して管理が出来るのはこの道具袋の良い所だ。
【お宝!!】【超お気に入り】【ロリ物】【ケモミミ系】みたいにわざわざエロ本を分類して保管するコイツみたいな使い方もできるが、全部ごっちゃにされていたらあの大量に埋もれて【封印武具】って存在にも気が付かなかったかもしれない。
「そういえば聞きたかったことがひとつある。この道具袋って中に入れてる食べ物とかは腐らないのか? 色々入れてたみたいだから大丈夫なんだろうけど」
「腐らないわよ。というか、あの道具袋の中は時間が経過しないの。たとえば、生き物とかを捕まえて保管しておけば餌代もかからないし、死ぬことも無いわ。でも、逆いえばあの中で飼育とかが出来ないの」
無限のスペースを利用しての農業とかはできないって事か。
ジャガイモの種イモ入れてたら、いつの間にか芽が出まくってましたってなるよりマシだが。
「あなたの聞きたい事はそれだけ? 私の方も今回の用事はこれだけだし……。あと、本来こうやって呼び出す回数に制限があるんだけど、今回はカウントしないであげるわ」
「俺から呼び出す事は無いと思うがな」
「それじゃあ魔王討伐がんばってね。あなたなら大丈夫だと思うけど」
……………。
次に目を覚ますと部屋のベッドの上だった。
本当はもういくつか聞きたい事があったんだが、今回はあの位で良いだろう。
読んで頂きましてありがとうございます。