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見習女神シルキー

見習女神シルキーと師狼の話になります。

楽しんでいただければ幸いです。


 見習女神のシルキーにリトリーニであったその日の夜。


 もうほとんどお馴染みになったこの場所に、またしても俺は呼び出されていた。


 まだ何かあるのか?


「聞きたいことは昼に聞いたから、俺の方からは用はないんだが?」


 昼食の後で魔道具や素材などを専門で扱う商会をいくつかまわり、こいつが必要としていた物をすべて揃えた。


 総額で金貨三千枚ほどだが、それだけの額で飛躍的に武器の能力があがると聞いたので、出してやることにした。


 正直、あれだけでなんとかなるとは思えない気はする。


 見習いとはいえ、女神の話なので間違いないんだろうけどな。


「失礼ね。今日呼び出したのは昼間のお礼と、強化が完了した武器を見てもらおうと思ったからよ」


「もうできたのか? 早くないか?」


「完成したのは少し前から強化していた武器よ。買ってきた素材でついさっき強化が完了したばかりの細身の剣なんだけど……」


 女性が選ばれる場合もあるだろうから、レイピアに近い刃の細い剣も買ってあったが、あれを強化したみたいだな。


 見た目はほとんど変化していない?


 いや、刀身に変な模様が描かれているのと、鍔の部分に小さな宝石みたいなものが追加されてるな。


「で、強化ってどんな感じなんだ?」


「ちょっとこれをそこの空間に向かって振ってみて。あ、(ヴリル)とかは使わないでね」


「こうか? って、(ヴリル)の強化無しでこの力なのか?」


 普通に振っただけで、ものすごい衝撃波の刃が遥か彼方まで届き、何もない空間を切り裂いた。


 ナニコレ? 最初にこれ貰ってたら、ものすんごい楽だったんだけど。


「あなたが使うとホントにもの凄いわね。まあ、普通の人が使っても今の半分くらいの威力があるんだけどね」


「半分か……。それでも十分すぎる威力だな」


 今の威力なら、半分にしてもロックリザードクラスが確実に一撃だぞ?


 確かに、これを貰えれば少し強い程度の一般人でも時間をかければ世界を救えるかもしれない。


 俺は手にした武器をシルキーに返す。


 受け取った時のこいつの頬がやけに緩んでいる。


「貴方の時みたいに世界崩壊のカウントダウン状態じゃなければ、この武器でそこそこいけると思わない?」


「後はそいつの資質次第かな? 力だけでなんとかなるんだったら、その世界の奴でもなんとかしてるだろ? お前がその武器をその世界のどこかに送ればいいんだから」


 見習女神のシルキーは少し首を傾げた後。


「え? …………ああっ!! その手があったんだ!!」


 おい。


 もしかして、今まで気が付かなかったのか? 


「ありがとう。確かにその手を使えば他の世界の選んだ誰かを送り込まなくても、世界の滅亡速度を落とせるかも。流石に優先順位の高い世界は難易度高すぎて無理だけど、まだ大丈夫そうな世界に幾つか武器を送れば……」


「一応、世界を救いそうなやつの所に送れよ? 敵の手に渡ると大変だしな」


「わかってる。そのあたりの候補はちゃんといるのよ。世界に別世界の人間を送り込んだ後でサポートしてくれそうな人物の候補もいるし」


 シルキーは何か色々考えながら、ものすごい速度で光の粒子で作られた端末の様な物を捜査している。


 ハイテクというか、あんなものもあるんだな。


「ルール違反にはならないのか?」


「世界救済のおおまかなルールはね、見習女神の力を使って滅亡しつつある百の世界を救え。その際に他の世界から選んだ救世主はその世界につき一人。救済が困難とされた時は呼びかけに応じられるがヒントを与える回数は三度まで、ってだけだよ。他にも与えるアイテムの制限とか細かい決まりはあるけど、それは封印されてるチート級の武器だけだし。付与できるチート能力とかは世界を救った回数で私が使えるようになる筈なの」


「最初の一人が重要だった訳だ。まあ、ほかの見習女神はそれで詰んでるんだろうし」


 渡せるアイテムが無ければ、この手も使えないだろうしな。


「とりあえず、あそこと、あそこの世界に今の武器を送って、それでもダメだったら、もう少しいろいろ送れば……」


「なんだその目は?」 


 不思議な端末を操作していたシルキーが、俺をみつめている。


 ああ、久しぶりにその目を見たな。


「おねがいっ!! もう少し欲しい物があるんだけど……」


 やっぱりこの展開か!!


 今回は世界救済の為だし、いくらか手助けしてもいいんだが。


「なんか、すでにお前のサポートをしてる気分だな」


「もういろいろ頼りにしてるわ師狼(しろう)!! あのね、剣類だけじゃなくて、魔法使いの杖とかがあると助かるの。えっと、このリストに載っている物があれば、少なくとも二十近い世界には誰も送り込まなくても救えるわ」


 最初の時以来呼んでなかったのに、急に名前呼びになったという事は、俺のことを認めたという事なのか?


 えっと、魔法使い用の杖が七本、指輪が十、腕輪が五……、他にもいろいろ書かれているけど、二十超えてないか?


「一応保険の為に幾つかはセットでないと効果を発揮できないようにしたいの。ほかにも、心が清い人しか使えなくしたり、悪人が使えない祝福を施したりと……」


「元の世界の魔法少女の指輪みたいなものか?」


「それが近いかな。あれを知ってたのに、このアイデアに辿り着かなかったんだから、私も間抜けよね」


 缶詰と缶切りみたいなもんか?


 最初に説明された時に、ほかの世界から世界を救えそうな人を送れみたいな言い方された可能性もあるが。


 そしてその後で追加の条件を話す。当然それを聞いたものは最初の条件のもとでの過程だと理解する。


 嘘は言っていないし、騙した訳でもない。


「よくわかるわね……。神様的な存在って、ミスリードしやすそうな物言いがすごく多いのよ。ほかの見習女神たちもそれで苦労しているみたいだし」


「色々試されてるんじゃないのか? 神様って大変だろう? 全知全能であればあるほど誰かを導くのは楽じゃないと思うぞ」


 名選手が名監督ではありえないってのと同じだ。


 自分が出来る基準で他人に仕事を任せたら、任された者はそりゃ苦労するだろうよ?


 俺は神様とかは正直お断りだ。


 なるのも仕えるのもな。


「祈りを捧げる人に対しても、割と同じ様なヒントの出し方してるしね」


「正解を直接教えると自分で考えなくなるからだろうな。答えを教えた方がいい場合もあるんだろうけど、助けようとしてる人間が自分で気が付けるって信頼してる可能性もあるし」


 最低それくらい気が付けよって思ってるのか、世界を救うならそのくらい考えろって思われているのかは知らんが、まあ、確かにそれ位はしてほしいと思うのかもしれないな。


 仮にも世界を救う覚悟があるならな。


「ほんっとに師狼って、神様と似たような思考してるよね。神様が人のフリしてる訳じゃないのに……。不思議よね~」


「なるほど、神様ってのもそこまで悪い性格じゃないみたいだな」


「………………まあ、色々助けてもらってるし、それでいい事にしてあげる」


 なんだ、今の間は?


 ずいぶんと何か言いたげだな。


 俺はまだマシな性格をしているとは思うぞ。


 元の世界ではあの事件の後でも被害者の目の前で、平気な顔をしてクッキーを食う奴がいたぐらいだが流石にあれはない。


「クッキー? ああ、あの事件ね。あそこまで凄惨な事件は滅多にはないんだけど。ごめんなさいね」


「俺の元の世界では日常茶飯事さ。いや、あの時誰かに助けてほしかったとか、どうすればあの事件を防げたかなんて考えるだけ無駄だし、あの事件の事で神様やシルキーを責めるつもりはないよ」


真魔獣(ディボティア)。私の管理する世界でも最凶最悪な存在の一つ。嗜虐的な思考や行動を好む種族とかはいるけど、あそこまで最悪な存在はあまりいないわ」


 まて。ほかにもいるのかあんな敵が?


 その世界もヤバいんじゃないのか?


 人類が壊滅しかける前に、その世界を助けた方がいい気はするんだが。


「今はわたしの世界に師狼を送り込んでるからそれが出来ないのよ。いくつか世界を救えば何人か同時に世界に送り込めるんだけど」


「見習いだから仕方がないのか……」


「今は見習いだけど、私が受け持っている世界は全部救いたいと思ってるわ。試験とか試練とか関係なしに、その世界に住んでいる人の為にも」


 人の為にか……。


 こいつはまともな女神になりそうだ。


 だったら、俺もできる限り手助けしてやってもいいかもな。


「ホントに? 何を頼んでも怒らない?」


「少しくらい高い物でも問題ないぞ。まだ金貨百万枚以上余裕あるしな」


「ひゃっ!! 百万枚? あなたのもとの世界の価値で百億円よ? 何やったのよ!!」


「あの三万の魔王軍を討伐した報酬が国からも出たんだよ。地方都市に負けていられないんだろうから、がっつり金貨を積んできたみたいだな」


 あれはアルバートが出してきた金貨十万枚という報酬に対する当てつけだろう。


 二十万とか三十万といわずにもう一桁上を用意する辺り相当なものだ。


 援軍を送らずに見殺し同然にした後ろめたさも手伝ったのかもしれんが。


「大金持ちだね。いっそ永住する?」


紗愛香(さえか)も連れて来れるなら文句はないが、あいつが承知しないだろうし」


 あいつも頑固だからな。


「まあ、永住は無理なんだけどね」


「今のやり取り、無駄じゃないか?」


「一応、師狼の覚悟を知っておきたかっただけ。後ろ髪をひかれながら元の世界に帰ってほしくないし」


「最初からそう言う話だからな。シャルロッテには悪いと思ってるよ」


「シャルロッテ?」


 やっぱり王都での一件は知らなかったみたいだな。


 知ってたらあの喫茶店の雰囲気で察しただろうし。


「王城にシャルロッテって姫様がいるだろ? あの子にかかってた鎧の呪いを何とかしただけだ」


「ああ、あの魔王の呪いね……。って、あれを何とかしたの?」


 やっぱり魔王の呪いだったのか。


 しかし、姫様を守りつつ人質にするとか、魔王とやらもいやらしい手を使ってくる。


「かなり苦労した。しかし、あんな話があるなら教えてくれててもいいだろ?」


「話? ああ、あの子を鎧の呪いから助けられたら婚約って話ね。必要ない情報かなと思ってたし、まさかなんとかできるとも思ってなかったから」


「当初の予定だと王都に行くつもりがなかったからな。しかし、その口ぶりだと、相当に難易度は高かったのか?」


 俺が奥の手の一つまで使ったしな。


「あれの破壊はまず無理だって思ってたし、助ける方法を見つけられるとは思ってもいなかったから。あれって神器クラスの鎧にかけられた呪いだし、魔王が討伐されるまで絶対にあのままだと思ってたわ。で、どうやって助けたの?」


「神器クラスだったのか……、破壊するのに苦労したぜ」


「壊したの!! 神器クラスの鎧を?!」


「盾もセットだったがな。めんどくさい作りだったが、あれくらいなら壊せない事はないぞ?」


 周りの宝石と魔道具の関係に気が付かなかったら、たぶん壊せてないと思う。


 それでも鎧のコアは堅かったが。


「呆れたわね。ホント出鱈目だわ」


「作り出せた物なら、必ず壊す方法があるのさ」


「まあそうだろうけど」


 作った奴が困るし、どんなものでもやがて朽ちるだろうしな。


「それより、何を頼むつもりだったんだ? 他の武器か? 弓系はなかったから遠距離攻撃用の何かか?」


「それもあるんだけどね……。あの、ジャンニーヌ商会に……」


「却下だ!!」


「なんでよ!! なんでもいいって言ったじゃない!!」


「エロ本は含まれません!!」


 ジャンニーヌ商会ってあそこには世界の救済に必要なものはないよな?


「世界は救えなくても、私は救えるのよ!!」


「どう救われるんだ?」


「あのね、この本の一巻だけなかったから、取り寄せしてもらうようにしたんだけど……」


「だけど?」


「その本をね、あの宿屋に届けて貰うようにしたの」


 あの宿屋って俺たちが拠点にしてる宿屋か?


 本のタイトルは【転生勇者と女神の事情。え? これって事情じゃなくて情事だよね?】。どこからどう見ても、完璧にエロ本だ!!


 なんかもう、突っ込みどころが多すぎて……。


「それ、あっちのシルキーの方に迷惑がかかるだろ!! 何考えてるんだよ!!」


「注文を師狼の名前にしなかった事を褒めて欲しい位なのに!! だから、あの子に見つかる前にその本を回収して私に渡して欲しかったの」


「他人の物を勝手に回収なんてできんぞ?」


「受け取りは師狼でもできるようにしておいたわ。お願いっ!!」


「うまく回収できなかった時はあきらめろよ? まったく……」


 まあ、続き物の一巻だけないってのは気になるだろうしな。


 協力だけはしてやるか。


「あと、これは無理かなって諦めてた物の一覧。入手困難な物も多いから、できる限りでいいわよ」


「わかった。こっちはできる限り努力するよ」


 世界救済に必要な物だろうしな。


「あの本の方もお願いっ!! 気になる本なんだけど、一巻からじゃないと読む気がしないから」


「その気持ちはわかるが、で、いつ届くんだ?」


「王都からの直送便で一週間。この本、人気作品らしくって追加で結構頼んでるみたいなんだ~」


「早いな!! というか、そんなに売れてるのか?」


 これ、たぶん銀貨五枚位するよな?


 一冊五千円のエロ本が人気作品?


 金持ちが多いのか?


 しかし。


 今日はこいつに振り回されてばかりに一日だったな……。






読んでいただきましてありがとうございます。

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