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リトリーニへの帰還

リトリーニへ帰ってきた話です。

楽しんでいただければ幸いです。


 王都シャイン・グレイを出発して二日後。


 少しトラブルはあったが予定通りリトリーニに到着した。


 王都と比べれば確かに規模は小さいが、やっぱりこの位の広さの街の方が暮らしやすいとは思うんだよな。


 今回の王都への道中でわかった事といえば、リトリーニのような街が王都周辺にいくつもあるという事実だ。


 割と大き目の街だと思ってたんだけど、同じような城壁に守られた街がいくつもあったことに驚いた。


 リトリーニに援軍を送れない事には理由があった訳だけど、もしかしたら落ちても構わないとか考えていたのかもしれないな。


◇◇◇


「おかえり師狼(しろう)!!」


「おかえりなさいです、兄様」


 拠点にしている宿屋に戻ると、ミルフィーネとシルキーが迎えてくれた。


 パタパタと寄ってくるミルフィーネはやっぱり独特の可愛さがあるな……。


 魔道具で顔は見えないけど。


「ただいまシルキー、ミルフィーネ。これは王都土産」


「ホントに王都饅頭買ってきてくれたの? こっちは女王陛下のカメオ?」


「羽根うさぎのキーホルダーなのです。しかもこのキーホルダーは人気なのに王都でしか売ってない限定モデルなのです!!」


 限定モデル?


 どこの世界でも考えることは同じなのか……。


「王都饅頭はドレヴェス商会の王都饅頭と、パオレット商会、ベルガレット商会、リュクレース商会のをそれぞれ買ってきたんだけど……」


「凄い!! リュクレース商会はリトリーニに出店してないから取り寄せもできないんだよ!! 最高級石胡桃を贅沢に使って美味しいって評判なんだけど、食べた事なかったんだ~」


「パオレット商会のフルーティな王都饅頭もおいしいのです!!」


 さっそくテーブルの上に広げられて食べられ始めた王都饅頭。


 これだけの数の王都饅頭の箱が並ぶのは壮観だろうな。


「美味しそうですね~、お飲み物はいかがですか?」


 この店のよく見る元気な店員ソフィアが注文を取りに来た。


 酒場のテーブルに座って勝手に土産物を広げてたらそりゃ迷惑だ。


「あ、すいません。ろくに注文もせずに……」


「いえ、いいんですよ。ベルガレット商会の王都饅頭もスタンダードなおいしさで人気なんですよ~♪」


「……」


 そう言いながらも、ソフィアの視線はベルガレット商会の王都饅頭に向いている。


 それはもうにこやかな笑顔で釘付けだ……。


「ご注文は何ですか?」


「アイスティーを……。あとこれ」


 思わずベルガレット商会の王都饅頭を箱のまま差し出した。


「ありがとうございます。王都饅頭なんて、十歳の誕生日とか特別なイベントでもないと食べられないんですよね~♪ うん、この餡のバランスがさいっこう!!」


 即座に饅頭を手に取って、その場で食べ始めた。


 この世界ではそういった面は割と緩いみたいだな。


「わたしはパオレット商会の王都饅頭が一番好きなのです!! わたしもアイスティーをお願いします」


「私は山羊のミルクを……。リュクレース商会の王都饅頭は初めて食べたんだけど、石胡桃の味がすっごい濃くって美味しいよ」


 割と好みがわかれるみたいだ。


 リトリーニにも王都に本店がある大商会がいくつも支店を出しているけど、王都に進出できない小さな商会の店がほとんどだからな……。


 取り寄せできない王都饅頭も結構あるのか?


「特別な日とかの時に食べるのが王都饅頭だからね~。あ、女性に持っていく時は気をつけてね。高級菓子って事で、プロポーズ前に渡す人も多いんだから」


「貴重な情報をありがとう」


 あっぶね~。


 アスセナに持って行くところだったよ。


「それじゃあ、少々お待ちくださ~い♪」


 ソフィアはいったん厨房に向かって、すぐにアイスティーと山羊のミルクを持ってきた。


 何故かアイスティーは三つあったけど。


 しかも頼んでもないポテトフライとか乗ってるし。


「お世話になってる人とかのお土産だったら、他の女性と一緒に持って行くのが一般的だね。さすがにそれだとプロポーズとかって受け取られないから」


「……なるほど」


 飲み物と軽食をテーブルに置いたソフィアは、ミルフィーネやシルキーに混ざって一緒に王都饅頭をつまみ始めた。


「あ、甘い物の間に塩気のあるポテトフライでお口直しもいいですよ~」 


「ありがとうございます。確かに甘い物が続くと結構きついし」


「「え?」」


 ミルフィーネとシルキーはそんなことは気にせずに王都饅頭を食べ続けている。


 口の中が甘くならないのかな?


「アイスティーで十分なのです」


「山羊のミルクで口直しできるからいいかな~。王都饅頭なんてめったに食べられないし」


「作戦失敗か……。あ、鏡原(かがみはら)さん、塩気が欲しかったらどんどん食べてくださいね」


 なるほど。


 ライバルを減らすためか。ん? ソフィアが普通にテーブルに座って一緒に食べてるって。


「美味しいものはみんなで食べるといいよね~♪」


「ソフィアさんにはお金がない時に卵サンドを奢って貰ったりしましたし、いっぱい食べてくださいね」


「いつも優しくしてくれるのです♪」


「シルキーたちがいいなら問題ないけど」


 基本悪い子じゃないしな。


 まあいいか。



◇◇◇



 王都から帰還した翌日、ドレヴェス商会で頼んでいた剣ができたという事なので引き取りに行くことにした。


「いらっしゃいませ!! 鏡原(かがみはら)様! いつもご贔屓にしていただきありがとうございます」


「王都饅頭の取り寄せはいつでも受け付けております」


 どこから話を聞きつけたのか、王都饅頭注文用の紙を渡してきやがった。


 まあ、この商会の場所は俺の拠点にしてる宿屋から割と近いから、昨日の噂を聞きつけたんだろうな。


 最後の方には酒場の店員がかなり参加して宴会みたいになったし……。


「今日は頼んでた剣を取りに来ただけだから」


「鏡原様、シャルロッテ様とのご婚約の際には当商会よろしくお願いします」


 思わず足が止まった。背筋に冷たい汗が流れる……。


 首をゆっくり向けると、爆弾発言をかましてくれた店員はこの上なく微笑んでいた。


「その話、もう伝わってるのか?」


「シャルロッテ様を鎧から救い出した話でしたら、今朝聞いたばかりですよ?」


「ニュースソースを聞くのはマナー違反だよな?」


「申し訳ありませんが……」


 まあそうだよな。


 今日はシルキーたちを連れてきてなくてよかった。


 しかしこの噂、いったいどのくらいの速さで広がるか……。


「もうじき魔王領に攻め込むから大丈夫だろう」


 装備の最終確認と、食料品なんかの本格的な備蓄。


 あと一週間ほどで大丈夫だろう。



◇◇◇




 エレベーターで五階の武器屋に向かい、頼んでいた剣を確認した。


「よく来たな。最高の剣を仕上げておいたぞ」


「ありがたい。それじゃあ、この魔道具に登録しなおすか」


 腕輪に登録していた前の剣を道具袋に収納し、新しい剣を登録しなおした。


 これですぐに取り出すことが可能だ。


「今回の剣はどれだけ(ヴリル)を高めても劣化しない。それどころか(ヴリル)を注ぐ事で無限に斬れ味を増し、如何なる物でも真っ二つに斬り刻める様になる」


「以前の剣よりさらに軽いな。手にもよく馴染む」


 まるで手の延長のような感触。


 斬撃速度をさらに上げられそうだ。


「伝説の剣とまではいかないが、おそらくそれを上回る剣は作れんだろう」


「本当に世話になった。魔王討伐に成功したらこのことを大々的に宣伝に使ってくれ」


「伝説の刀匠か? ガラじゃねえな」


「らしいな。それじゃあ」


 ヴェルナー・ヴォーリッツ。


 柄に小さく刻まれているこの男の名前。


 そういえば、前の剣にも刻まれていたが、直接は一度も名前を名乗られなかったな……。





読んでいただきましてありがとうございます。

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