女王妹シャルロッテ 一話
決闘後の宴会の話です。
楽しんでいただければ幸いです。
試合終了から数時間が経過した。
その間に城にある大浴場で入浴を済ませ、予備の服に着替えている。
試合ではほとんど汗をかかなかったが、この後で急に宴会が開かれる事になった為に小綺麗にさせられたという訳だ。
確認したら、明日の宴会はまた別に開かれるらしい。
「いったい何の宴会ですか?」
「鏡原様のおかげでシャルロット姫様の呪いが解けましたので、そのお祝いの宴席ですよ」
シルヴィアが最初の口調に戻っている。
他の騎士なんかも対応が数段階上になってるし、あの鎧でそんなに苦労してたのか?
「あの呪いって、何年くらいなんだ?」
「七年前ですね。膠着状態に陥った時期に魔王の呪いの品だとは知らず、まだ八つと幼かったシャルロッテ様が出入りの業者に騙されて購入し……」
「その業者は?」
「業者は遺跡から発掘された品と言って無罪を主張しましたが、城の魔法使いに調べさせましたら、魔王の呪いと判明しましたので処刑されています」
まあ、そうだろうな。
手違いでしたで済まされる事じゃないし。
「こちらが宴会場です」
「おお……」
でかっ!!
豪華な内装が施された体育館の数倍はでかい広間。
宴会は立食会形式らしく椅子はないが休憩用なのか無数のテーブルが用意されているし、壁際のテーブルにはすべて様々な料理が並んでいる。
この世界の料理はどれも美味いから、あれは楽しみだ。
「決まった席がないという事は自由に動けるって事か?」
俺はこの世界に知り合いがいる訳ではないし、食べることに専念してればいいな。
「鏡原様はシャルロッテ様に呼ばれていますので、先に挨拶に行かれた方がよろしいかと思います」
「鎧を破壊した礼かな? そういえば何か褒美をくれるって言ってた気はする」
国から出る金貨百万枚相当の宝石もあるし、これ以上金は要らんけどなんだろう?
永住する場合でもそんなに必要ないぞ?
◇◇◇
「あ、師狼!! こっちだよ!!」
あの後で急いで髪などを整えたのか、綺麗にカットされた金髪を両サイドで少しカールがかかったツインテールにしていた。
着ているドレスは薄桃色を基調としたデザインだけど、動きやすくするためなのか割とスカートの丈は短い。
「ありがとう、って、なんか雰囲気変わってないか?」
言葉や態度にあの鎧を着ていた時のような刺々しさというか、キッツイ態度などどこにも感じることはなく、どことなくミルフィーネと同じ人懐っこさを感じたりもする。
「あはっ。こっちが本当の私だよっ。あの鎧から助けてくれて本当にありがとう。ず~っとあなたみたいな人が現れるのを待ってたんだ~♪ あ、私の事はシャルロッテかシャルって呼んでね♪ あと、シャルなんてお姉様にしか呼ばせてないんだから。ありがたく思いなさいよ」
「わかったよシャルロッテ」
「シャル!! 復唱。OK?」
「シャル……」
「大変よくできました。本当にありがと。私はもう死ぬまであの姿かと思ったんだよ?」
「私からもお礼を言わせてください。妹をあの忌々しい鎧から解き放ってくれてありがとうございます。こんな日が来るなんて、夢見たいです」
鎧の呪いってそんなに深刻なのか?
防御力最強で悪くはない気がするんだけど。
「あの鎧はね、ず~っと脱げなかったの。身に着けていると身体に合わせて成長するし、あの魔道具というか宝石みたいなののおかげで重さも感じなかったけど、あんな姿じゃどこにも行けないし、苦労する事ばかりだったんだ~」
「それは大変だったな」
「ホント、お風呂に入る時も鎧姿だし、食事をする時も難しいし、寝てる時もベッドが重みで沈んじゃうし……。しかも着てる人の魔力を全部吸い上げるみたいで、魔法も全然使えなくなってたんだよ」
「そういえば試合中も魔法を使ってこなかったな……」
「でしょ? でも師狼は魔法を使ってきたよね? 男の人なのに魔法使えるってすごいよね~」
まあ、さっき確認したら魔力が四千近くあったからな……。
この短期間で元の学校でもトップレベルの魔力保持者になれたよ。
「結構魔力があるからな。使えるなら何でも使うさ」
「でも、ほんとに強いんだね。まさかあの鎧を本当に壊せると思わなかったよ」
「今までも、百人以上の挑戦者が居たのですが、皆数分も経たずに……」
「あれだけの速度と堅さだ。並みの奴なら相手にはならないだろう。あれだけ強ければ魔王とやらも討伐可能なんじゃないのか?」
割と完全なアルティメット・クラッシュまで使ったのはほんとに久しぶりだからな。
その前の攻防も、普通の奴ならついてこれないレベルの筈。
「それは無理だったの。魔王の呪いって魔法使いが調べて判明した後に魔王から手紙が届いてね……。それには、『その鎧は絶対に壊れぬし、それを身に着けし者は、我に歯向かう事も出来ぬ。我が軍に親しき者が殺される様を、抵抗もできぬまま見続けるがよい』って書かれてて」
「妹はその言葉を信じずに魔物を討伐しようとしたのですが、本当に魔物相手にはあの鎧は力を発揮しませんでした。それどころかまわりにいた騎士たちに襲い掛かるありさまで……」
「魔族の使う悪魔呪術の呪いか……」
「はい。その後も何度か手紙が届き、『王都から援軍を送れば、鎧を着た者は魔物と化す』とか、『我が軍が王都を蹂躙する時、鎧を着たまま絶望を味わうがよい』などと……」
王都から援軍が来なかったのはその為か?
この人の好さそうな女王が援軍を送ってこなかった訳がわかった気はする。
「でも、これでもう援軍が送れるし、破壊された砦を奪還して防衛拠点を増やすことだってできるんだよ!!」
「失われた民や兵たちは戻ってきませんが、せめて国土だけでも取り戻し、今生き残っている民たちが安心して暮らせるようにできればいいのですが」
まあ、死んだ奴は何をしても生き返らないからな。
今生きている奴らを優先するのは正しい。
ちょっと引っかかるがな。
「俺はリトリーニに戻って装備が整い次第、魔王領に攻め込むつもりだ。あの鎧で自分の力を過信しすぎていたかもしれないと痛感したが、まあ全力でやればなんとかなるだろう」
奥の手もあるしな。
使いたくはないが。
「え? 師狼は王都に残らないの?」
「そのつもりだけど……。俺の目的は魔王の討伐だからな」
「魔王の討伐……、うん、じゃあ、それまで待ってあげてもいいかな? 師狼は強いから魔王なんかには負けないだろうし」
「話が見えないんだが? 何の話だ?」
「えっとね、師狼と私の結婚式」
「は?」
ナニソレ?
キイテナイヨ?
「えっと、私を鎧から解き放った人には、私と結婚する権利が与えられるって、ずいぶん前に国中に通達してる筈だけど、知らなかった?」
「俺は半月ほど前に女神の手でこの世界に送られてきたばかりだぞ。そんなこと知る訳ないだろ?」
「妹を娶りたいが為に、今までも多くの男性がその手に剣を携えて妹に挑んだのですが。全員力及ばずに……。彼らの犠牲は無駄ではありませんでした」
「ちょっと待った。今までの対戦相手死んでるのか?」
「三人くらいは生き残ってるよ? 重症だったけど。あ、あと犠牲になった人も全員教会の奇跡で蘇生には成功してるから安心して」
「蘇生は一人一度まで。蘇った者たちは故郷で農業などを営んでいるとか……」
そりゃ、もう死ねない状況で騎士と冒険者なんてかやってられないだろ?
ん? まてよ。
「もしかして魔王軍に殺された奴らも生き返るのか?」
「蘇生ができるのは死後一週間ほどの間だけ。それ以上時間が経過したものは蘇れません。それに、死体の損壊が激しいとそもそも蘇生の儀式もできないのです」
「そこは理解した。問題は……」
魔王討伐後に元の世界に帰るのは伏せていた方がいいか?
別に全部話す必要は無いし。
「いや。後の事はその時になって考えればいい。今日はこの宴会を楽しませてもらうよ」
「そうですね。腕利きのシェフに作らせましたので、好きなだけ召し上がり下さい」
「あ、師狼。あれが美味しいのよ。とってきてあげるね♪」
シャルはパタパタと足音を立てて料理の並んだテーブルに突撃した。
おいおい、周りにいた客が驚いてるぞ……。
「あんな妹ですが、どうかよろしくお願いしますね」
「こんな身元不明の冒険者が妹の結婚相手でいいのですか?」
「ええ。この国では武、もしくは勇に優れる者が尊敬されます。あの鎧を破壊した貴方であれば、誰も反対などしませんわ。もちろん、私もです。あと、もう身内みたいなものですから、話し方も普通で構いませんよ?」
この国は実力本位なのか?
という事は、このクリスティーナも相当に強い?
「私は魔法使いですので、あの鎧には手出しできませんでした。でも、魔物相手でしたらそこまで後れは取りませんよ」
察した?
思考を読んではいないと思うが、侮れないな。
「魔法のダメージが入らない盾だったかな? あの盾は?」
「鎧から発生したと聞いています。それに、最初はあんな全身を覆う鎧でもなかったのです」
「装着した者の魔力を食らって成長する鎧か。悍ましいな」
なるほど、盾やあの宝石を破壊しても再生するって言ってたのはこういう事か。
完全に破壊できてよかった。
「お待たせ師狼。これは十二星ウナギの卵包み焼。それと、こっちが森水牛のロースト……」
「ありがとう。これはう巻きみたいなもんかな? んっ、美味しい」
やけに脂ののったウナギなどにくどさがないし、包んでる卵も独特のうまみがあって濃いめのタレに負けていない。
森水牛ってのも、赤身の中にうっすら脂身のサシが入ってて旨いな。
ホントにこの世界の食い物には外れが殆ど無い。
「シャル。わかっててやっているのでしょう? 十二星ウナギも、森水牛も強精作用が……」
「いや、それはまだ早すぎだって!!」
やっぱりこの世界の女性は積極的すぎ!!
読んでいただきましてありがとうございます。




