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条件付き異世界救済 二話

 この話から異世界編に突入します。

 楽しんで頂ければ幸いです。


 真っ白い何も無い殺風景な空間。


 その床に大きな金色に輝く魔方陣のような物が現れ、この俺、鏡原(かがみはら)師狼(しろう)を転送先の異世界へ送る準備を整えていた。


「つまり、ロックブラストと呼ばれる世界にいって、自力で魔王に関する情報と装備なんかを集めて何とか討伐しろって事か」


「理解が早くて助かっちゃう♪ 割と厳しい状況だと思うけど、もしこの任務に成功すれば魔族に殺される予定だった数億人の無実の人たちが助かるわ」


 丸投げかよ。


 しかも俺がこの話を受けると分かってから、コイツの能天気な浮かれっぷりは凄まじいな。腹が減った日に限って授業が延長戦で、スタートダッシュに完全に出遅れた後の購買で奇跡的にパンが残ってた時のダチ以上の反応だ。


 今のこいつからは最初の女神的な威厳は微塵も感じない。


 むしろ、同級生の美剱(みつるぎ)瑞姫(みずき)の方がこいつに比べたらまだ気品や威厳を感じるレベルだ。


 とはいえ、現実世界で最悪の状態でも二日程度の時間で、それだけの人間を救えるなら今回は良しとするべきなんだろうな。


 こいつの為というのが幾分癪にさわるが。


「奉仕の精神は大切なのよ!! 我が身を犠牲にして無辜(むこ)(たみ)を助ける、素晴らしい事じゃないの」


「わざわざ難しい言い回しなんぞせんでも、そこはさっきと同じ罪の無い人で良いだろうが!! 俺の感覚でも、確かに人助けが嫌という事は無いがな」


 俺は平穏な人生を送りたい。


 そう思っているが、よく考えてみれば力を振るうのが異世界であるならば、その後の人生に影響を齎す心配が無い。


 ハッキリ言えば、力に恐怖されて迫害される恐れも、英雄として祭り上げられ、普通の暮らしが出来なくなる恐れすらないんだ。


 今迄散々力を押さえて生きてきた分を上乗せして、魔王とやらを相手に思いっ切り(ヴリル)を使った攻撃技の数々を振るう事が出来る。


 遠慮なく……な。


「あ~、そこに気付いちゃったか~。うん、後始末が大変だから破壊活動は程々にね~」


「いかにもめんどくさそうな顔をしながら、()()を心配するのか。そんな心配せんでも人的被害は極力出さないようにするし、人間側の建築物には気を付けるさ」


 異世界に飛ばされたらまず近くの町で情報収集をしながら適当に魔物を討伐して資金を稼ぎ、そして必要な装備を整えて魔王討伐かな?


 資金なんかを集める為の手間次第だが、まあ現地時間で数年程度と考えればこっちの時間換算だと数時間で帰って来れる計算だ。


「ではこれが銅の剣で、こちらが金貨五百枚入りの皮袋。そしてこれが私も二つしか持ってないスペシャル魔法アイテムの【アイテムが無限に入る便利な道具袋】よ!!」


 シンプルな鞘に納められた割と短めの銅の剣は意外に軽いな。


 それに五百ゴールド……、と言われても割と小さ目な金貨がジャラジャラと詰まった皮袋と、ちょっと神々しい感じのする布っぽく見えるけど多分希少な物で作りだされている袋を受け取った。


「アンタも神様に百も世界を任されてるのに、これしか貰えなかったのか? 冷遇されて無いか?」


「あったよ。あったんだけど、…………別の女神見習いが持ってた他の物に交換したの。でも、それはちょ~っとあげられないかなぁ~♪」


 あやしい。


 何と交換したんだ?


 そもそも、その交換した元々のアイテム類は魔王討伐用の武器とかじゃないのか?


 こいつ、それで世界の救済が詰んで途方に暮れてた時にたまたま俺って存在に気が付いたんじゃ……。


「は~い、余計な詮索はしない!! あ、向こうにいったら大変だと思うけど頑張ってね~♪」


「ここまで丸投げされて大変じゃない訳ないよな? まあ、やるだけやるさ」


 魔方陣の中心部まで歩くと、俺の周りに高度な術式が施された魔法呪の輪(マギーア・アヌルス)が幾重にも出現してそれが高速で回転し始める。


 一応学校の授業で魔法学があるが、このレベルとなると大学まで行かなきゃ理解できんだろう。


 女神見習いの面目躍如という所か。


 今この場で多重絶対防盾(スゥクトゥマ)を使ったら、かなりの量の魔力(マジカル)が吸収できるんだろうけどな。


「変な事考えちゃダメ。それじゃ、転送するわよ!!」


 眩い光に包まれ、俺は異世界へと旅立った。


 そこがどんな状況かも知らずに……。



◇◇◇



「くそっ。あの見習女神。この世界から戻って会う機会があったら、あの軽そうな頭を一発ぶんなぐってやる!!」


 へっぽこ見習い女神に頼まれた世界の救済の為、俺はこの救出順位第一位(ロックブラスト)を訪れていた。


 普通、この手の話だとまず駆け出しの冒険者とやらが集まる小さな村か街から始まると思ったが、俺が送られてきた場所は魔王領のすぐ隣であるアース・グレイブ皇国で、更に言えば魔王軍侵攻の真っただ中に出現させてるというありえない状況だ。


 しかも魔王軍が迫ってきているという状況でもなく、戦場のど真ん中に出現させるという大サービスだ。一歩間違えればダイ(即死)サービスだったんだろうな!!


 光に包まれて出現した俺に対して、ありがたいことに周りの奴らはとりあえず静観という姿勢を見せてくれている。問答無用で排除って判断されなくてホント助かった。


 しかし、ほんの少しでも敵対する動きを見せれば、容赦なく攻撃を仕掛けて来るだろう。


 俺やその場にいた人間の周りを取り囲む魔王の軍勢。


 見渡す限り殆ど敵で、いったいどれだけいるのかすら想像もつかない。


 半人半犬の亜人種や筋肉も無いのにどうやって動いているのか不明な重武装の骸骨。全長五メートル程もあるシュールな尺取虫に空中をやる気無さそうにふよふよと漂う宝石の様な姿の怪しい魔物。上空には空を覆い尽くす蝙蝠や鳥人間。遠くに見えるあの城みたいなのもおそらく魔物か何かなんだろう。蟹の足みたいなのが生えて動いてるしな……。


 付け入る隙といえば、魔物たちは確かに大軍勢であるがお互いに武功を競い合っているのか、それとも元々仲がそこまでよくないかは知らないが、他種族との連携は物凄く悪い事だ。


 連携して攻撃してくるどころか、別の魔物を平気で攻撃に巻き込んで魔物同士の小競り合いに発展している所まである。


 一致団結して種族同士で連携し、効率よく攻撃されていたら多分人間側は短時間で敗走していただろう。


 こちら側はといえば見える範囲ではあるが数人のグループが幾つか存在し、魔物とは違ってそのグループごとに連携して周りの魔物をなんとか引き留めている。


 連携が上手くいっているおかげでお互いに弱点をカバーしあい、魔物の侵攻を何とか食い止められていた。


 なんとか戦えているけど、馬鹿みたいに戦力差が無いか? こんな大乱戦に俺一人送り込んでも状況はそうそう変わらんぞ?


 後ろに少し下がれば人間側が守る砦があり、そこに待機している兵が上空を旋回する魔物に向かって弓を打ち続けていた。



 ちなみに周りの人の会話を聞いた限りだがその砦を抜けられると割と大きめで無防備な街があるらしく、軽く数千人規模の犠牲者が出るだろうという話だ。

 

 俺はといえば、あの女神見習いから貰った銅の剣(十ゴールド相当)を(ヴリル)で強化して切れ味をあげ、切っ先にも(ヴリル)を纏わせて半人半犬の亜人種を斬り殺し続けている。


 これ、(ヴリル)で強化して無かったら一匹斬り殺すのに相当時間がかかるぞ……。


 なるほどな~、これだけの武器しか与えられずにここにいきなり送り込まれたら、そりゃ普通の奴は即死だろう。


 ふっざけんなよ!! あの見習女神!! 俺に恨みでもあるっていうのか?


「其処の者、下がれ!! そんな装備ではここは危険だ。死にたいのか?!」


「んな事は分かってる!! 無茶言うな!!」


 一番砦の近くで戦っている鎧姿の誰かがありがたい事に忠告をしてくれた。


 声の感じからして女性だと思うが、あんなガッチガチに重武装な鎧で固めた状態だとどんな姿かは確認できない。


 少なくともひ弱って事は無いのは確実な位か?


 忠告してくれるのはありがたい。


 非常にありがたい。


 でもな、周りを半人半犬の亜人種に囲まれた今のこの状況で後退なんてしたら、無防備な背中は隙だらけでその時点で終わりだろ?


 見逃してくれるほどこの犬モドキの敵は甘くなさそうだしな。


 って!!


「ちっくしょう、もう折れやがった!!」


 あの女神に貰った銅の剣(十ゴールド程度)(ヴリル)で強化した俺の力に耐えられずに根元からポッキリとへし折れた。やっぱり銅はダメだ、せめて鉄か鋼の剣を……って、そもそもそんなレベルの話じゃねえんだよ!! なんでこんなゲームだったら最初の町で買える装備なんだよ!!


 途中で折れたこの状態でも何度か攻撃は出来たが、追加で数体の犬モドキを斬り殺した俺の手元にはもう柄部分しか残っていない。


 本気で役に立たない武器じゃねえか!!


 とりあえず柄の部分をぶんなげてもう一匹犬モドキを倒したが、何か適当な武器は……。


 犬モドキの使っていた棍棒は良さそうではあるが、武器というにはあまりにも心許無い。


 足元にあったものを拾って何匹か殴り殺したが、やっぱり(ヴリル)に耐えられずにすぐに劣化して砕け散った。真魔獣(ディボティア)戦闘用の特殊装備でも用意してくれれば、俺の実力を十分に発揮できたんだけどな。


 少し離れた場所に重武装の骸骨が使っていた大剣が落ちているが、あれを拾いに行くには無理がある。それに、どうせすぐに劣化するだろうし……。


 それにどの位重いかしらんが、あんなでかい剣を振り回す趣味も無い。


 そう思っていると数メートルほど浮いていた宝石の様な魔物が集まり、高出力の魔力光(マジカライト)を発生させている。


 魔力光(マジカライト)は宝石の様な魔物の目の前に直径五メートルはある巨大な魔方陣を描き始め、そこから背筋が寒くなる程に膨大な魔力(マジカル)を発していた。


 あれはヤバイ。


 何度も瑞姫(みずき)の殺人級魔法を食らっている俺には、発動前にそのヤバさが痛いほどわかった。


 少なくとも無防備なままあれを食らえば人間側の全滅は確実、いきなり任務に失敗した俺をあの女神見習いがなんというかは容易に想像出来る。指さして笑うだろうな。あいつは。


 しかし、魔王軍に押されていた事が幸いして味方はすべて後方だ、幸運な事に俺と宝石型の魔物の間には味方が一人もいない。


 つまり、俺の後ろに攻撃を許さない限り、俺や味方に被害は無いって事だ。


 好都合だ、これでも防御魔法だけは絶対の自信があるんでな。


多重絶対防盾(スゥクトゥマ)!!」


 超大型の複合型絶対防御シールドを張るのと同時に、宝石型の魔物の群れから放たれた高出力の光線が周りの魔物をまとめて消し飛ばしながらシールドに到着する。あと数秒遅ければヤバいタイミングだ!!


 俺が今まで戦っていた半人半犬の亜人種はもちろん、巨大尺取虫までその光線に巻き込まれてあとかたも無く蒸発し、堅い岩の地面まで溶けてまるで溶岩の様に真っ赤に輝いていた。


 シールドの外に漏れる余波で俺を取り囲んでいた犬モドキが溶けているし、光線周りの風景が歪んで見えるから相当な高温なんだろうな。


 高温の蒸気が上空まで届き、空を飛んでいた魔物もバランスを崩して落下して熱線に触れて蒸発してゆく。


 こいつら、本気で仲間を巻き込むことに躊躇がないな。


「すげえぞアイツ。あれを防ぎやがった」


「あんなのくらってたら俺達でも消し炭だ」


 これだけ周りの風景が歪んでてそれで済む温度なわけないだろ、消し炭どころか灰も残らねえよ!!


 まあ、運よく他の冒険者は巻き込まれていないうえ、魔物の群れは半数以上が巻き込まれて消滅した。


 とはいえ、あんなのを別の方向に向かって撃たれたら一巻の終わりだぞ。


 しかし。


「なんで俺を……? ああ、俺じゃなくて砦を狙ったのか」


 俺の少し後ろには砦がある。


 あれをマトモに食らっていたら、頑丈な砦でもひとたまりもないだろうな。


「魔物の群れが下がり始めた。よし、今回は無事に守り抜いたぞ」


「流石にここが最後の砦だからな。これで次の襲撃までの時間が稼げる」


 次の襲撃。


 という事はこの手の襲撃は今までにも何度かあって、その度に何処かの砦が破壊されて来たのか。


 おそらくさっきの攻撃で。


 つまり今あれをなんとかしない限り、魔物の群れは何度も攻めて来て、その結果いつまでも続くいたちごっこになりかねない。


 そんな事は時間の無駄だ。付き合ってる暇なんて無いぞ!


 ありがたい事に魔力(マジカル)は今の攻撃で十分過ぎる程溜まっている。


 ()()を仕掛けるには絶好のチャンスだ!!


「増幅フィールド展開!!」


 多重絶対防盾(スゥクトゥマ)に少し魔力(マジカル)を使って魔力増幅装置の特性を持たせる俺のとっておきの隠し技。


 そして攻撃目標は当然目の前に展開している宝石型の魔物及びその後方に控える城のような魔物。


 今まで何度も地獄を見てきた俺の本能がそう告げている。絶対にあれを逃してはいけないと。


 周りにいる味方を巻き込まないように注意しつつ、全(ヴリル)を拳に集中して光を纏った螺旋状の衝撃波を放った。


「喰らえ、神穿波(ラグナ・シュピラーレ)!!」


 俺が放ったのは最大直径十メートルの全てを消し去る眩い光の粒子を纏った必殺の螺旋神穿波(ラグナ・シュピラーレ)


 その光の螺旋に巻き込まれればどんな高位の真魔獣(ディボティア)でも確実に消滅し、多重絶対防盾(スゥクトゥマ)クラスの絶対防御魔法でも持っていない限り防ぐことは不可能。


 直線上に存在したすべての魔物が凄まじい威力を秘めたその光の螺旋に巻き込まれ、全身を光の粒子に斬り刻まれて消滅してゆく。


 俺の目論見通りに宝石型の魔物はひとつ残らず消滅したが、何かを察したのか城のような魔物は神穿波(ラグナ・シュピラーレ)を食らう前にその場から消え去り、残念ながら倒す事がかなわなかった。


 いい勘してやがる。


「アイツは逃がしたか……。ん? あれだけの威力で放ったのに(ヴリル)魔力(マジカル)もまだ残っているのか?」


 今までであればあの規模で神穿波(ラグナ・シュピラーレ)を使えば数日は確実にガス欠で、暫くは走る事すら難しくなる。


 なのに今はまだ身体中に(ヴリル)がみなぎり、まるで羽のように体が軽い。


 この短時間で能力が上がった?


 まさかな……。


「とりあえず一息入れられそうだ。後は魔王とやらの話を……」


「すみません。あれほどの力をお持ちとは知らずに先程は失礼な事を言いました。あの、お名前を窺がっても……」


 一番砦に近い場所で戦っていたグループがいつの間にか俺に近づき、さっきありがたい忠告をしてくれたリーダーと思われる重装備の女戦士がらしくも無い丁寧な口調で訪ねてきた。


「俺の名は鏡原(かがみはら)師狼(しろう)だ」


「鏡原……、師狼」


 あの見習い女神と同じ目で俺の名を何度も復唱する女剣士……。


 嫌な予感はするが、成り行きに任せるしかないな。





 読んで頂きましてありがとうございます。

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