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女王クリスティーナ

女王クリスティーナとの謁見などの話です。

楽しんでいただければ幸いです。


 王城に足を踏みいれた俺は、ピカピカに磨き抜かれた石の廊下を散々歩かされ、エレベーターで上へ下へとありこち移動させられて……、いや、どこまで行くんだよ? そこの角の先、さっき歩いた通路だろ? 同じような場所を回ってないか?


「あちらが謁見の間になりますが、まずこちらの部屋で準備がありますので……」


「了解。身体検査みたいなものだろ?」


 ようやく謁見の間の隣にある控室に連れてこられた。


 これ、あれだろ?


 何かあった時に逃走ルートを覚えられなくするやつだろ?


 そこまで信用がないのか? いや、二回魔王軍を撃退したとはいえ、身元がはっきりしない冒険者を一国の王と会わせるなら流石にこのくらいは必要か。


 もし俺やうちの学校の奴らが魔王側なら、使えない奴数万と引き換えに刺客を送り込むくらいはするだろうしな。


 ホント、この世界の魔王軍も甘々なんだよ……。


 あの魔物の群れと戦っていた時にも、真魔獣(ディボティア)と戦う時のような魂が凍りそうな程の殺気や、気を抜くと意識を失いそうなほどの悪意を感じる事はなかった。


 もしかして、いやいや戦わされてたのか? まあ、だからといって敵対した奴を生かして帰す義理はない。


 攻めてきた奴は一匹残らず殺すし、一度でも武器を手にした以上降伏も認めない。


 種族の生存競争ってのは、そういうもんだろ?


 少なくとも、真魔獣(ディボティア)との戦いに引き分けはないし、人類と真魔獣(ディボティア)のどちらかが滅びる以外の結末があるとすれば、封印窟(ナラク)の再封印が成功した時だけだ。


 しかし、よく考えれば封印されてたってことは、大昔に封印窟(ナラク)を封じた奴がいるんだよな?


 いったい誰なんだ?


 あの真魔獣(ディボティア)と戦った記録なんて残ってないし謎は多い。


 まあいい、調べて分からない事いくらでもある。


 とりあえず今は魔王を倒してこの世界を救う事と、この世界に残った最後の国がこの世界を託せる存在か知る事だ。


 できれば、この世界のシルキーやミルフィーネ達の為にも善政を行ってくれればいいんだが、今の状況を見る限り望み薄なんだよな……。


 二度の魔王軍の侵攻時に、リトリーニやその周辺にある町や村を見捨ててるくらいだし。



◇◇◇



 控室にいるのはメイド姿の女性十数人と、鎧を着こんだ女性が数名。


 それにここに案内してくれたシルヴィアと、大きな箱を抱えた兵士が数名。


 なるほど、武器を預けろという事か? この世界にも魔法があるんだし、あまり意味がないとは思うけど。


「謁見の間への武器類の持ち込みは、当然禁止されています。その腕に着けている魔道具も、申し訳ありませんがすべて外していただきます」


「この道具袋に入っている物はどうする?」


 腰に下げている道具袋は俺以外の人間には触れない上に、中に物騒な武器類が山ほど入っている。


 武器類は次に見習女神のシルキーにあった時に渡してやろうと思っているものだが、俺がこの世界を救ったら封印武器が使えるようになるんだし、あれ以上は必要ないかもしれないな。次の勇者候補(犠牲者)もその方が楽だろうし。


 一応、敵意はないという証の為にブレスレット型魔道具に収納している剣は外して、近くにいた騎士に手渡した。


 まあ、素手でも相応に強い事は知られているだろうから、警戒するなというのは無理だろうが……。


「ありがとうございます。 え? その小さな袋ですか? それでしたらかまいませんよ? 一応確認を……。あれ? 触れられないですね」


「この道具袋はこの世界に送り込まれた女神に貰ったものでね。神の力か何か知らないけど、俺以外には触れないみたいなんだ。紐で固定しなくても、俺の周りに浮いてるしな……」


 見習女神のシルキーから貰った道具袋は便利なんだけど、あの交換したとき以外で俺の手から離れた事はない。


 あの道具袋は間違いだったから取り外せたのかもしれないが、もともと俺用に用意されていた道具袋は、こっちのシルキーやミルフィーネでも触る事すらできない。


 つまり、悪意の有無にかかわらず、俺以外には手出しができないという事だ。


 盗難とかの用心をしなくてもいいが、便利であり不便でもある。


「まあいいでしょう。謁見の間は特殊な結界で守られているので基本的に魔法が使用不可能ですし。あと、(ヴリル)を使う事はできますが、本来の十分の一以下の出力しか発揮できません」


「……十分の一って」


 大丈夫かそれ?


 俺が(ヴリル)を十分の一も出せるなら、弱体化の意味がないぞ?


「男の人がいくら高いといっても、(ヴリル)は千がいい所ですからね。弱体化して百程度なら、ほとんど問題ないですよ」


「ソウデスネ……」


 目を泳がせながらそう答えてみた。


 俺の(ヴリル)は少なくとも数万あるし、多分制御に失敗した時に漏れてる(ヴリル)ですら感覚的に数万超えてる気がするんだよな……。


 冒険者カードを見せてくれと言われないから見せてないが、もし能力を知られたら謁見自体がなくなる気はするー……。


「服は……、今着てられるものでしたら問題ないですね。冒険者なのにそんな高価な服を着ていて大丈夫ですか? それに預けられた装備の中に鎧も見当たりませんが」


「ああ、防御には自信があるんで、鎧は着てないんだ。服は……、魔王軍撃破の報酬が多かったんで、ドレヴェス商会で揃えてみた」


 仕立てじゃなくて、吊り物だけどな。


 剣が出来上がるまで時間的な余裕があるなら、せっかくなので何着か仕立てて貰うのもいいかもしれない。


「ドレヴェス商会ですか。あんな大商会を利用されるなんて流石です」


「有名な商会なのか?」


「それはもう、ドレヴェス商会といえばわが国でもトップスラスの大商会ですよ。リトリーニにあるのは支店ですが、本店はシャイン・グレイにあります。品揃えや店の構えも段違いですので、一度足を運ばれてはいかがですか?」


 リトリーニにあった店も結構馬鹿でかかったぞ?


 あれと比べて段違いって、なに? デパートとか郊外型のショッピングモールレベル? 元の世界のショッピングモールは、今はもう廃墟になってるけどな。


「時間があれば寄ってみます」


「速さに自信のある冒険者の中には軽装な方はいますが、鎧を完全に着ないって人もいるんですね」


 俺ぐらいだろ……。革製の胸当てや小手すらつけてないって、軽装にもほどがあるからな。


 多重絶対防盾(スゥクトゥマ)が使えて、高出力の(ヴリル)でよほどスピードに自信がないと、自殺願望でもあるのかって行為だ。


「魔法を専門に使う冒険者も、魔道具で防御を補ってる事がありますからね」


「耐衝撃用の魔道具ですね。騎士たちにも人気ですよ」


 あの高い魔道具が人気なのか。


 王城の騎士って給料いいんだな……。


「ではこちらです。女王様はかなり気さくな方で、あまり礼儀とかは気にされませんが、言葉遣いには十分気を付けてください」


「わかりました。その、俺は別の世界から来たんで、この世界の礼儀作法とか知らないのですが」


「横で私がアドバイスをする。その通りに行動すればいいだろう」


 それはありがたい。


 なんとなくシルヴィアの口調が荒っぽくなって、素に近づいてる気はするが気のせいか?


 アドバイスしてくれるなら本当にありがたいから、言葉遣いなんてどうでもいいけどな。


 それにしても、気さくな女王? 魔王軍の侵攻からリトリーニやその周辺の町や村を見捨てるような奴が?


 となると、無能で大臣とか将軍クラスの傀儡なのか?



◇◇◇



 謁見の間は数段高い階段状になった場所にある女王の座る玉座と、その数メートル離れた場所にある謁見する者が待機する場所が存在し、さらに玉座と謁見する者の場所をいつでも塞げる位置には鎧騎士が何人も待機している。


 不心得者が出た時の対応なんだろうが、この部屋では魔法が使えないという事は、あの鎧の中身はもしかして男なのか?


 もし仮に、あの玉座のある辺りだけが魔法が使えたり(ヴリル)が普通に使えるのであれば、おかしな行動をした瞬間に討ち取れるのだろうが、どうなんだろう?


 それにここで多重絶対防盾(スゥクトゥマ)を展開させたらどうなるのかは興味がある。あれは基本(ヴリル)のコントロールで作り出したモノだけど、一応作り出す過程で魔力(マジカル)もほんの少しだが使用するからな。


 あとまわりにいる豪華な服のメンツは重臣か?


 戦闘以外の場合は男性が活躍する場が多いのは事実だが、男性の数が多いのは意外だったな。


「女王陛下の御前だ。失礼のないようにな」


「わかってるって」


 小さな声でのやり取りだが、俺もシルヴィアや周りと同じように(かしこ)まり、膝をついて頭を下げる。


 まあ、元の世界でも一学生に過ぎない俺には、一国の女王との謁見なんて過ぎたシチュエーションではあるしな。


「そんなに(かしこ)まらなくても大丈夫ですよ。貴方が報告にあった鏡原(かがみはら)師狼(しろう)ですね。貴方は二度もリトリーニを救ってくれた勇者なのですから」


「女王陛下のお許しが出た、顔を上げてもいいぞ」


「すまない」


 タイミングわかり辛い……。


 これ、下手に動いたりしゃべったりしない方がいいんじゃないのか?


「王都シャイン・グレイへようこそ。私が女王のクリスティーナ・アーダルベルトです。遠路はるばるご苦労様でした」


「女王様、そのような話され方は……」


「かたぐるしい言葉遣いなど外交の時だけで十分です。今はほかの国もありませんので、外交などないからいいじゃありませんか」


 女王クリスティーナ。


 金色の長い髪を豪華な王冠で飾り、薄い黄緑色を基調としたドレスには紫色の装飾が施されている。


 美の女神の加護で儲けているのか、それとも人間でありながらミルフィーネと同じように吸精淫魔(サッキュバス)とでも契約しているのか、まあ絶世といってもいい位の美人だ。


 しかし、この女王はずいぶん若いな……、二十代半ば? もしかしたら十代後半の可能性まである。


「私の顔に何かついていますか?」


「いえ、あまりに美しいので見惚れていただけです」


「あらあら、お上手ですね♪」


 一応社交辞令で返しておいたが、今まででも何度か同じようなやり取りはあったから助かった。


 下手に何か言うよりは、女性に対してはこう言っておいた方が無難な事が多いからな。


「今回こちらにお呼びしましたのは、撃退した魔王軍についてと、その事に対する報酬を支払いたいからなのですが。できればその時の状況を少しだけ話していただけませんか? 魔王軍の規模だけでもいいですよ」


「一度目の襲撃は途中から参加しましたのでどれ位いたのかはわかりませんが、二回目はロックゴーレムが約千、骸骨剣士が約数千、半人半犬の魔物が約一万、その他の魔族なども合わせて約三万といった所です」


「二回目は大軍だと聞いていたが、三万も攻めてきていたのか?」


「ロックゴーレムだけでも千体? それだけいれば殆どの街は更地にされてしまうだろう」


 女王ではなく、周りにいた重臣っぽい男たちが会話に割り込んだ上にざわめいている。


 もう退治した魔物の事なんてどうでもいいだろうに。


「一体残らず殲滅しましたので、攻め込んできた魔物に生き残りはいませんよ? その魔族を率いてきた指揮官らしき魔族も同様です」


「撃退ではなく殲滅したのか? 一体残らず?」


「殺さない理由がありませんので、残らず殲滅しました。その前の襲撃で見た蟹の足が生えた城のような魔物は見かけませんでしたので、もう少し残兵がいるかもしれませんが」


 今まで以上に大臣っぽい奴らがざわついている。


 しかも女王の前で。


 かなり舐められているというか、これだけ騒いでいるのに咎められないのか?


「それだけの魔物を失えば、再び魔王軍が侵攻してくるまでに時間が必要でしょう。よくやってくれました」


「最初の襲撃の時にいた宝石のような姿の魔物。これを見かけた時は注意が必要です。極大熱線魔法を使ってきますので、かなり高レベルな結界系か防御魔法が必要になります。一度目に殲滅して二度目にはいませんでしたので、もしかすればあまり数がいないのかもしれませんが」


 あの宝石型の魔物がいないだけで、今後の対策は練りやすいだろう。


 今まで破壊されている砦を改修して、防衛ラインを押し返せば人類側はかなり楽になる筈だ。


「ひとりで撃退したと聞いているのだが」


「あの程度の魔物、一人で十分です」


「あの報告は本当だったのか?」


「三万もの魔物を単独撃破できる人間が存在するとはな」


 今ならもっと余裕かもしれないな。


 さっきのあの超加速状態、あれを自由に使いこなせるようになれば真魔獣(ディボティア)との戦いも楽になる。


 宝珠の力を封印から解き放たなくても、俺は人のまま紗愛香(さえか)を守ってやれる筈だ。



◇◇◇



「鏡原師狼には二度の魔王軍撃退の報酬として、金貨百万枚相当の宝石を与えます。準備に数日かかりますので、その間は城内に……」


「女王陛下。王都の観光などをすることを考えれば、最高級宿泊施設の方が彼も自由にできましょう。すぐに手配しますのでそちらにされては」


 さすがに一回の冒険者を城内に泊めるのは無理があるんだろな。


 俺もその方がありがたいし……。


「そうですね。明日の夜には宴席を設けますので……」


 話が纏まりかけていたところに、急に扉を開けて全身を黒い鎧で完全武装した乱入者が現れた。


 手に同じ黒を基調とした巨大な盾を持っているが、こいつもしかして黒騎士とか呼ばれてるのかな?


「ちょっと待ってよお姉様。魔王軍を一人で倒したなんて絶対に嘘よ!!」


 この国の警備体制大丈夫か? ん? お姉様?


 あの甲冑騎士っぽいの、女王の妹なのか?


「シャルロッテ様。妹君とはいえ、無礼ですぞ」


「何が無礼よ!! 魔王は恐ろしいのよ、その魔王が送り込んできた魔物を一人で討伐できるなんて作り話に決まってるじゃない!!」


「報告はリトリーニからも届いておりますし、援軍要請までありました。これで作り話ですとなればただでは済まない事も、あの領主が十分に理解しておる事でしょう」


「常識で考えれば、そんなことができるかどうかわかるでしょ?」


 普通は一人で殲滅したって言われてもあの子の反応が当然だよな。


「ではどうしろとおっしゃいますか? これだけの功績を上げたものに対して、無報酬では国の沽券にかかわります」


「私と一対一で戦わせれば、そいつの実力がわかるでしょ?」


「それは……」


「俺は構わないぞ。どこまで手加減してやれるかわからないが」


 いつもの模擬戦より、さらに手加減が必要な気はするな。


 こいつは魔法少女じゃない。


 あの甲冑が丈夫だといっても、魔法少女のあのひらひらした服に比べて防御力は天地の差がある。


 おそらく、思いっきり斬り込んだら真っ二つになるだろうな。


「手加減ね……。ルールはそう……、あんたがこの鎧と盾を砕くことができたらあんたの勝ち。さっきの報酬のほかに望みの褒美をなんでも与える。それでいいわよね、お姉様?」


「シャルロッテ、それは……」


「その鎧と盾を砕けばいいんだな? 高そうな装備だけど国宝とかじゃないのか?」


「これが国宝ですって!! 馬鹿にしないでよね!!」


 なんだか知らんが、あの鎧は国宝じゃないらしい。


 なんとなくだが、対魔能力なんかもものすごい高そうな盾と鎧に見えるんだけど。


 この国にはあんな装備がゴロゴロあるのか?


「試合はいつにしますか?」


「俺はいつでもいいぞ」


「それじゃあ、一時間後に闘技場で。それでいいわよね? お姉様?」


「……すぐに準備をさせましょう。誰か」


「はっ。すぐ準備に取り掛からせます」


 こんなところに来てまで模擬戦とは、つくづく模擬戦に縁があるんだな。


 まあ、報酬があるなら遠慮なくあの鎧を砕かせてもらうだけだ。





読んでいただきましてありがとうございます。

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