表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/48

魔王軍再侵攻

あの砦に対する魔王軍の再侵攻の話になります。

楽しんでいただければ幸いです。



 ミルフィーネが冒険者登録して一週間が経過した。


 ドレヴェス商会での買い物?


 割と悪夢な状況だったので思い出したくもない。


 この間の買い物の際、ミルフィーネを取り囲んだ店員はうっかりミルフィーネの素顔を直視してしまい、大方の予想通りあっさりとその可愛さに陥落した。


 そして陥落した店員集団はミルフィーネの魅力を存分に引き出す為に、それはもう最高の着せ替え人形でも手に入れたかのごとくいろいろな服を着せ、上から下までありとあらゆるものを組み合わせて最高のドレスアップを行った。


 本人の希望でとんがり帽子だけは死守したが、同じくらいの大きさでかわいらしいデザインのとんがり帽子まで用意され、顔や瞳を見られなければ問題ないのではという事で、周囲の視界を阻害する魔道具まで持ち出された。


 俺は途中でついていけなくなり、武器屋やアクセサリー売り場で時間をつぶそうとしたのだが、ミルフィーネがすごく悲しそうな目で見つめてきたので、最後までそのファッションショーに付き合わされることになる。


 小さくて巨乳というミルフィーネの体型にあった服はあまり存在せず、ファッションショー自体は二時間ほどで終わったのだが、今度は仕立て屋が全員出てきて最高の服を仕立てると息巻いてきたので、かなり安く服を十着ほど仕立てることになった。


 もう閉店セールも真っ青の値引き率は利益が出ているのか怪しい程で、馬鹿みたいに買い物をして金貨二千枚になった。たぶん普通に買った場合の十分の一位の額だろう、あの商会つぶれなければいいが。


 まあ、可愛いし守ってあげたいと思うミルフィーネだが、もう二度とドレヴェス商会に買い物に連れて行きたくはないと思った。


 次からはシルキーに金を持たせて二人で行ってもらおう。



◇◇◇



 この一週間、ミルフィーネの装備が出来上がるのを待っていたのも理由の一つだが、俺がこの町から動けなかった理由はもう一つある。


 三日前、砦の少し北に大剣を持った骸骨剣士の一団が発見されたのだが、索敵を行った冒険者の話ではどうやらその一団は偶然見かけられた訳ではなく、骸骨剣士をはじめとするあの時に逃走した魔物の一部が以前破壊した砦に集結する動きが確認された。当然、その報告は領主だけでなく王都や冒険者ギルドにもとどけられている。


 現状、こちらの戦力は砦の守備兵にこの街の警備兵などを合わせてわずかに三百名ほど。最後の重要拠点の砦を守る兵士としては驚くほどに少ない。


 それには一応理由があり、ここ数年の魔王軍侵攻に対して他の砦に大軍を配置した結果、あの宝石型魔物の極大熱線魔法を食らってその殆どを失うという大惨敗を何度か繰り返している。


 その結果を受けて国は最終的にどうせ壊滅するなら砦はあきらめて王都の守備を固めたほうがましと判断し、この砦には最低限の兵しか配置せず、魔王軍襲来の報告だけを義務付けてあとは静観という態度をとっていた。



 馬鹿げているにもほどがある。



 来ない援軍に期待するだけ無駄なのでこちらの状況を確認したが、この三百人にリトリーニの冒険者を根こそぎ招集したとしても三千人ほどしか兵数は集まらず、さらに言えばまともに正面から魔物の軍勢と戦える者はさらに半数程度しかいないというありさまだ。


 男性冒険者や能力が低い冒険者などは砦で弓などを装備して上空から襲い掛かる飛行型の魔物を迎撃することしかできず、味方を誤射する可能性が高いために援護射撃すらできない。



 そして今日、魔王軍が視認できる距離に迫ったというので俺も駆り出されたのだが……。


「一番先頭にこの前の話題に出てたロックゴーレムがいる。いや話に出てきたのはストーンゴーレムだったか。で、どこか違うのか?」


 ロックゴーレムはロックリザードと同じような自然発生型なんだけど、魔石を動物が食べたとかじゃなくて、魔石が完成する過程で偶然に何かがすぐそばで死んだときに、ロックゴーレムとして生まれ変わるらしい。近くで死んだのが鳥や犬猫など人間以外の動物であっても鳥とか犬のような姿にはならず、なぜかほとんどの場合は人の姿で生み出されるという話だ。


 魔王軍は自然発生する以外にもロックゴーレムを生み出すすべを持っているのだろう。でなければあれだけの数をそろえるのは不可能だ。



「大きさや体を構成している石の材質が違うのです。ロックゴーレムはストーンゴーレムの上位種と思っていいのです。あの兄様。ロックゴーレムって、大丈夫なのですか?」


「ロックゴーレムは単体でもロックリザードと同じランクAよ。しかも千体もいるなんてでたらめだわ」


「そこまで強敵とは思えないんだけど。でもランクAなのか?」


 岩で体ができてりゃそりゃ硬かろうが、動きは遅いし討伐しにくいとは思えない。


「岩でできた体には生半可な武器じゃまともなダメージは与えられないし、その攻撃力はこぶしの一振りで小さな民家なんて一撃で吹き飛ばすほどなんだよ」


「重機かよ!! そういえばその魔道具買ったときに、あいつに四回くらい殴られても平気とか言ってたけど」


「あの時いったのはストーンゴーレムだけど、あの大きさならほとんど強さは変わらないかな。ロックゴーレムはものすごく大きくなる時があるの。あの砦よりもね……。でもこの魔道具なら、その攻撃でも数回は耐えられると思うよ」


「わたしにも買ってくださったこれですね。姉様とお揃いです♪」


 あのファッションショーの際に魔道具をつけたところ、あっという間に効果が発動したため、もう返すわけもいかず店側の過失もあるという事で、話し合いの結果売値の半値で買い上げている。


 正直この魔道具は買うつもりだったのでかなり助かった。


「あれだけ遅けりゃいくらでもやりようがある。しかし、すごいな。どれだけいるんだ? あれ?」


「はい、報告ですと正面のロックゴーレムが約千、その後方に位置する骸骨剣士が約数千、左右に展開する半人半犬がそれぞれ約数千、その他の魔族なども合わせれば約三万と予想されています。今回は飛行タイプの魔物は確認されていませんが、まあ、いてもいなくてもといった状況ですね」



 たまたま近くにいたために、状況を説明してくれたのは冒険者ギルド責任者のアスセナ。


 今は砦の外で待機しているが、戦闘が始まれば砦の中に撤収し、そこで指揮を執るそうだ。


 というか、だれがどう指揮を執っても、こんなのは正面から戦えばどうなるかわかりきったものだけどな。


「今回も王都からの援軍は無し? あいつら、本当にこの状況がわかってるのか?」


「奴らは王都シャイン・グレイの防衛に必要な戦力だから、こっちにはよこすつもりはないよ。でなけりゃ今までこんなに砦が落ちたりしていないさ」


「砦なしであの魔物と正面から戦いたいのか、王都の奴らは」



 俺がこの世界に送られてきた時にありがたい警告をしてくれた剣士ロザリアがため息をつきながら説明してくれた。


 当然と言え当然なんだが、その表情は暗い。


 ここにいる兵士や冒険者の殆どは生きて帰れるとは思っていないだろうな。



 兵力差というか単純に兵数で十倍の差がついているが、個々の戦闘能力などを考えると戦力差は十倍では済まないだろう。


 王都シャイン・グレイにどれだけの戦力がいるか知らんが、この状況を覆せる何かがあるとは思わんのだがな。


 ここに俺がいなかった場合を除いて……。


「前回はごった煮の様な陣形だったが、今回は種族ごとにキッチリ部隊を分けてやがる。動きの遅いロックゴーレムをわざわざ正面に配置しているという事は、あれを早々に撃破しないと左右から犬モドキが回り込んで殴殺されるな。典型的な包囲殲滅狙いが見え見えだ」


「……兄様。そんな事がわかるんですか?」


「先に犬モドキで攻撃を仕掛けてあの骸骨剣士とロックゴーレムで包囲する方法もあるが、これだけ兵力差があってなお被害が出にくい策を考えたんだろう。頭のいい指揮官クラスの奴がいるのは間違いない。まあ、今回はあの宝石型の魔物が見当たらないだけましだ」


 正直、魔物の群れで警戒しなけりゃいけないのはあの宝石型だけだ。


 他の魔物がいくらいようと問題はない。


 単騎の攻略不可能な敵がいた場合、どうなるかは散々真魔獣(ディボティア)との戦いで見てきたからな……。


「前回のあの技で一掃できませんか?」


「だから奴らも硬そうなロックゴーレムを正面に配置して、左右に犬モドキを展開させているんだろう。あれだけ離れられると中央は殲滅できるが、左右の犬モドキたちはそのままこっちに襲ってくるぞ。今回はその手を使うより、直接討伐したほうが早そうだ」


 神穿波(ラグナ・シュピラーレ)は殲滅力があるが、その攻撃力が発揮されるのは直線上にいる敵に限る。


 一度放てばロックゴーレムだろうが何だろうが確実に殲滅できる。この世界では元の世界のように動けなくなるほど(ヴリル)を消費しないようだが、それでも何発も連射することは不可能だ。


 そうなると残った魔物をだれが処理するのかという問題が発生する。ミルフィーネの魔力が高いとはいえ、どのレベルの魔法が使えるのかは未知数だし、不確定要素を頼りに作戦を立てるのはばかげている。


 だったらあの一撃にかけるより、俺が直接殲滅していったほうがまだ勝ち目はあるからな。


「それでも生き残る確率が上がるなら……」


「心配はいらないさ。冒険者ギルドでの説明通りに、ほかの冒険者はここで待機して俺が討ち漏らした魔物だけを相手してくれればいい」


「…? え? それはどういうことですか?」


 冒険者ギルドに呼び出されたときに、一応作戦は事前に説明していたつもりだけど、もしかして冗談とでも受け止められたか?


「俺が単騎で突っ込むから、巻き込まれるなという話だ。こっちに逃げてきた奴だけ処理してくれればいい」


「ねえ、やっぱり無茶だと思うよ。考え直さない?」


「ここで奴らが押し寄せてくるのを待っていたら、数で押し切られて砦を抜けられるだろう。なに、ちゃんと勝算はある」


 先日入手した剣は右手のブレスレット型の魔道具に収納しているが、俺がその気になればすぐに装備することができる。これはかなり便利なので、このまま元の世界でも使わせてもらおう。


 手にしたやや細身の剣は金色に輝く(ヴリル)の刀身を生み出し、そこから黄金の粒を漂わせていた。


「それがあの時買った剣?」


「俺自身の(ヴリル)もかなり上がっているしな。数値は測定不能でわからないけど、今までとは比べ物にならないほど身体が軽い。それじゃあ、()()を片づけてくるか!!」


 全身に(ヴリル)を纏った俺は砦から飛び出し、一直線に前方に展開しているロックゴーレムと接触した。


 速度は軽くマッハを超え、砦を飛び出してから接敵するまでわずか数秒、当然魔物側も全然対応できちゃいない。


 棒立ち同然!!


「ここだっ!!」


 金色に輝く刀身は見える部分だけでなく、切っ先のはるか先まで一気に切り払い、堅甲なロックゴーレムをまるで豆腐でも斬るかのように真っ二つにした。


 最初のひと太刀では百体近いロックゴーレムが崩れ落ち、さらに数太刀振りぬいたところで半数近いロックゴーレムが動かぬ岩の塊と化している。


 高速で動ける人間にとって、鈍重なロックゴーレムなんてものの数じゃないんだよ!!


「弱い弱いと思っていたが、やっぱりこの程度だよな……」


 この世界の魔物と対峙していても、真魔獣(ディボティア)との戦いのような怖さのようなモノをまるで感じない。


 ロックリザードの時もそうだったが、あれがランクA? へそで茶がわくぜ!! 


 はっきり言えばこの世界の魔物は弱いんだ。下級真魔獣(ディボティア)とすら比べられぬほどに。


 この程度の相手なら瑞姫(みずき)辺りでもなんとかなりそうな気はするが、あの見習女神シルキーの口ぶりから察するに、恐らく魔王とやらだけがとびぬけて強いんだろう。


 うすのろな犬モドキもようやく動き始めたか。


朧灯(ルークス)!!」


 右手から犬モドキの群れが向かってきたので、朧灯(ルークス)を使った閃光で一時的に視界を奪い一瞬のスキを作り出した。


 普通に相手をしてもいいんだが、楽に倒せるならばそれに越したことはないからな。


 犬モドキの動きが止まればロックゴーレムの攻撃に巻き込まれたりするし、ほら、やっぱり殴りつぶされた。


魔弾(マギーア・グロブス)!!」


 通常一発ずつ撃つ魔弾(マギーア・グロブス)を散弾銃のように広範囲に同時発射し、動けなくなっていた犬モドキを数百匹まとめて打ち殺すことに成功した。


 最近は俺の魔力(マジカル)も上がっているのでこんな無茶な使い方ができるようになっている。これだけでも確かにこの世界に来た甲斐はあるな。真魔獣(ディボティア)戦にはあまり役に立たないだろうけど、手札は多いほうがいい。



 もう一割程度しか生き残っていない動きの遅いロックゴーレムの間をすり抜けて、百匹単位で犬モドキや骸骨剣士を斬り刻み、ワンアクションで数百体ずつ確実に魔物を葬ってゆく。


 全身に(ヴリル)を纏った俺の速度は余裕でマッハを超えているため、生み出された真空波に巻き込まれた魔物や運悪く正面に立っていた魔物などはそのまま粉々に砕け散る。


 たまにロックゴーレムや骸骨剣士の攻撃に巻き込まれた犬モドキがつぶされたり切り殺されたりしていたが、こういった混戦になれば当然の結果だろう。



◇◇◇



 俺が魔王軍に突撃し、容赦のない攻撃を繰り広げていたころ、砦前で待機していた冒険者たちはその様子を目に焼き付けていた。


「えっと、討ち漏らした敵がこっちに来たらなんだって? 一匹くらいこっちに来たか?」


「今のところ一匹も……。どっちが化け物なんだか……」


「兄様、すごいです!!」


「最初に行った足手纏いだって言葉の意味は、()()だったのね……」


 開戦から約三十分で半壊した魔物の群れ、もとい、魔王の軍勢。残存するロックゴーレムはわずかに数体。右側に展開していた犬モドキはほぼ全滅、反対側は攻めあぐねて様子見しているが、いずれ殲滅してやる。骸骨剣士もまだ無数に生き残っていたが、これは移動速度が遅いために俺が殲滅を後回しにしているだけに過ぎない。


 真魔獣(ディボティア)と比べなくてもこの世界の魔物は本当に弱い。マッハを超える高速で動くわけでもなく、無敵なほどの再生能力があるわけでもなく、トリッキーな攻撃能力を持つわけでもない。


 この世界に騎士級の真魔獣(ディボティア)が一体でも存在したなら、奴は嗜虐的な捕食行動でこの世界の人間を一人残らず食らいつくすだろう。


「これだけの陣形を構築しているからには、どこかに指揮官がいるはずだ。おそらくそいつを倒せばしばらくこの砦に侵攻する手段はなくなるはず」


 前回殲滅したから数が揃えられなかったのかもしれないので宝石型魔物がいないのは仕方がないのかもしれないが、あの城みたいな蟹足がいないのも気になる。


 別動隊に回している? という事も考えたが、これだけ戦力的に有利な状況でわざわざ兵力を分散させるメリットはないだろう。俺がいることを知っていたとしても、これだけの力は今まで発揮していないのだから、警戒してるはずもないしな。


火炎嵐フラムマ・テンペスタース!!」


 ミルフィーネに最近教えてもらった魔法の一つ。火炎嵐フラムマ・テンペスタース。生み出された炎の竜巻はまだ割と無事だったほうの犬モドキの部隊を飲み込み、高温の炎の舌で逃げ惑う犬モドキを嘗め回して消し炭へと変えてゆく。


 元の世界で瑞姫(みずき)が好んで使っている魔法だが、ようやく昨日俺もこれを使えるだけの魔力(マジカル)に到達した。


 真魔獣(ディボティア)戦でもそこそこ使えるが、周りの被害を考えると使いにくい魔法の一つでもある。


「あらかた片付いたな。あとはこいつらを率いている奴だが……、もう殺しちまったかな?」


「化け物が!! 私がこの軍を率いる魔族将軍のレ……」


 なんか戦場でふんぞり返って名乗りを上げようとしていた魔族らしき女がいたので斬り殺してみた。


 戦場であんな真似するとか、真魔獣(ディボティア)との戦いなら食ってくれって言ってるようなもんだぞ? 馬鹿じゃねえのか?


 まあ、どうやら本当に指揮官の魔族だったらしく、残った魔物が一斉に撤退を開始した。


「逃げられると思ってんのか? 火炎嵐フラムマ・テンペスタース!!」


 反対側に回り込んで火炎嵐フラムマ・テンペスタースで退路を塞ぎ、一匹残らず刻み続ける。


 敵には容赦しない。する必要もないし、する意味も分からない。


 僅か一瞬見せた甘い感情で、多くの者を失い続けた俺たちの世界では当たり前のことだ。


 訳の分からなかった前回と違い、今回は俺もきっちりこいつらが敵だと認識しているので、こいつらはここで一匹残らず確実に葬り去る。



「これで全部か? 三万ちょいいたとはいえ一時間近くかかったな」


 一番最後まで生き残っていた骸骨剣士を撫で斬りにして、周りにもう動いている魔物がいないことを確認する。


 魔道時計で時間を確認すると、最初に斬りかかった時間から一時間ほど経過していた。


 こちら側の人的被害は無し。


 あの蟹足が生えた城が最後まで姿を見せなかったことが気になるが、まあ、姿を見せなかったものは気にしても仕方がない。次に見かけたら倒してしまおう。



「時間はかかったが、キッチリ片付いたぞ」


「兄様すごいです!! あれだけの魔物を倒してしまうなんて」


 ミルフィーネは嬉しそうに俺に抱き着てきたが、いや、その危ない場所に異様に柔らかい胸の感触が……、それにヤバいくらいいいにおいがするし……。


 こんなにちっこくてロリロリしてるのに俺と三歳しか変わらないとか……、いや、そうじゃなくて、(ヴリル)のシールドで碌に返り血すらついてないけど、戦場帰りだからさ……。


「お疲れ様師狼(しろう)。本当にわたしが必要なかったのね」


 シルキーも近づいてきたが何となく元気がないな。


 まあ、最初の時にあのエロ見習女神と同じ顔にそばにいられるのがいやで、思わず足手纏いとか言っちまったから気にしているんだろう。


 悪いことをしたよな。


「戦闘においてはな。今は一緒に来ると言って貰ってよかったと思ってるよ」


「やさしいね。これからもよろしく」


「よろしくな」


 これは本心だ。


 あの時はすぐに魔王の城とやらに乗り込んで魔王とやらを叩き殺すつもりでいたが、今となっては時間が許されるならこの世界で少しくらいはいろいろな体験をしてみたいと思ってしまっている。自分以外の誰かとともに……。


 言い方は悪いがこの世界は、俺がいた世界よりはるかにヌルイ。


 世界が絶望で満たされて破滅に向かってまっしぐらというわけではなく、ちょっとした休み明けにクラスメイトの何人かが真魔獣(ディボティア)に食われていましたというような、救われない日常が続いているわけでもない。


 滅びるはずの世界のほうが俺が元いた世界より平和というのは皮肉だが、今ならこの世界を救って欲しいと言ってきた見習い女神のシルキーに感謝してやってもいいくらいだ。


 俺が忘れかけていた平和な日常がここにはあったんだから……。




「ありがとうございます。一度ならず二度まで助けていただけるなんて……」


「おそらくあれは魔族の本隊の一部だろ? これで再侵攻にはしばらく時間がかかる筈だ。その間に戦力を整えて守りを固めればいいだろう」


 あれだけの力を見せつけられたら俺に近寄りがたいだろうに、冒険者ギルドのアスセナが控えめに近づいてきて感謝の言葉を口にした。


 まあ、この態度も仕方がないよな。


「今回の件でもこの街や周辺地域を収める領主様から莫大な額の報酬が出ると思います。あ、あとで魔王軍の死体を処理して魔石などを回収できればそのお金もお渡ししますね」


「魔物からも魔石が……、ああ、ロックリザードとかと同じパターンか」


 あの時も珠みたいなものが回収できたな。今回はロックゴーレムが千体居たから、それだけの数は確実に入手できるんだろう。


「それじゃあ、帰るとするか」


「あの、今夜は祝勝会を開かせていただきますので」



 あの見習女神のシルキーの姿が今のシルキーの姿とほとんど変わっていなかったことを考えると、おそらくこの魔王軍の侵攻で本来この世界の人間は滅んでいたのだろう。


 これでこの世界が滅ぶ確率が下がった?


 魔王軍があとどのくらいいるのかは知らないが、攻めてくる気配がなければこっちから攻め込むしかないか……。






読んでいただきましてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ