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ミルフィーネの冒険者登録

ミルフィーネが仲間に加わった次の朝から冒険者ギルドに行った後の話になります。

楽しんでいただければ幸いです。


 朝食後にミルフィーネを冒険者ギルドへ案内することにしたが、その前に苦労したのが食事の時だ。


 冒険者にもエルフや半獣人(ハーフビースト)がいるそうなのだが拠点にしている宿屋が違うらしく、俺もそこまで気にしていなかったのであまり印象には残っていない。それに、彼らもいろいろ気にしてミルフィーネと同じように様々なデザインの帽子をかぶったりしているため、注意していなければ外見でわかることは少ないということだ。


 酒場で食事をするときは基本とんがり帽子を脱がなければいけないが、ミルフィーネの桃色の瞳を他人に見られるとどんな噂が立つか知れたものではない。


 呑化樹(モッコク)程度であれば問題がないのだそうだが、上位精霊の吸精淫魔(サッキュバス)の場合そうはいかない。何せ持っている能力が桁違いだ。


 それに吸精淫魔(サッキュバス)の件を除外してもミルフィーネは超がつくほどの美少女だ。ちょっと微笑まれでもしたら性別に関係なくあっさりと陥落するだろう。


「とりあえずそのとんがり帽子は必須だな。食事の時も脱がなくていい。ほかのエルフや半獣人(ハーフビースト)達もそうしてるみたいだしな」


「ハイ兄様!! 昨日もいっぱいお世話になりましたし、わたし、これから頑張ります」


 いかがわしく聞こえるからその言い方もヤメロ。


 いっぱい世話になったというのは、ミルフィーネがほとんど現金を持ち合わせていなかったので、俺が当面の生活費を貸してやったことと、この宿屋の部屋の契約する保証人になっただけだ。


 この保証人ってのは別に必要ないらしいが、ミルフィーネに用意した部屋はこの宿の中でも一番丈夫で安全な特別宿泊室にして貰ったために、高額な設備を破損したときの為の一時金なんかを預けなければいけないらしい。


 これがなんと金貨五十枚。


 しかし、ミルフィーネの身の安全を考えればこのくらいしてやらなければ、明日にでも誰かに押し入られそうな気がするからな……。保護欲というか、こんな美少女に頼られたら誰でもこうなると思いたい……。あのシルキーも手続きが完了する最後まで心配してたしな。


「おはよう師狼。おはようミルフィーネ。もう朝食は済ませたの?」


 俺たちに遅れてシルキーが酒場に現れた。


 微妙に前髪が切り揃えられているのはわざわざ自分で髪を整えたのか?


「おはようございます姉様。注文は兄様がしてくださいました」


「おはよう、注文は済ませた。あとは届くのを待つだけだ」


「それが届いたら私も注文しようかな」


 届いた料理を見たらこいつがなにをいうか……。


「お待たせしました。トウモロキビのパンケーキ蜜ヶ豆(みつがまめ)乗せと、飲み物のアイスチョココア。それと季節の果物で~す♪ えっとこちらはカラカラ鳥の卵焼き定食でしたね」


「……ちょっと、師狼。それって」


「いや、まあ、美味しそうだっていうし、ここの店員さんもおすすめですっていわれてな」


「そりゃあね…………」


 トウモロキビというのはトウモロコシとキビの中間のような穀物だそうで、外見はほぼ小さいトウモロコシなのだが、そのまま茹でて食べるとものすごくもっちもちして美味しいらしい。


 それを乾燥させて粉にして焼いたパンケーキがこれで、外見は普通のパンケーキなのだがもっちもちのふっわふわで一度食べると癖になるそうだ。そしてその上に蜂蜜のように甘くて栄養のある蜜ヶ豆(みつがまめ)に砂糖を足して煮詰めたあんこのようなジャムをトッピングされたそれは、殺人的な甘さと美味しさで女性冒険者に大人気という話である。


 なお、価格は大き目の皿に直径十五センチ、縦幅二センチのパンケーキ二枚が乗って銀貨二枚。


 アイスチョココアや季節の果物を入れると銀貨二枚、銅貨五十枚という贅沢メニューだ。


 女性冒険者もよほどに実入りのいい依頼が終わった後でないと食べれないらしく、たまたまそれを目にしたミルフィーネが食べたそうだったので、俺がおごってやることにした。


 ちなみに俺の注文したカラカラ鳥の卵焼き定食は少し癖のあるカラカラ鳥の卵を目玉焼きにして、ソーセージ三本と千切りしたキャベツのような何かがひと盛、ご飯とスープがついて銅貨十五枚だ。


 さすがに朝からあんな甘いものは無理というかそろそろ和食が恋しくなってくる時期で、せめて醤油が欲しいな。あと味噌汁。


「兄様!! とっててもふわっふわで美味しいです!! 私こんなおいしい食べ物初めてで……。こんな食べ物があるんですね。兄様、ありがとうございます」


「シルキーも食べるか?」


「…………、お願いします……。あ、飲み物は山羊のミルクを」


 一瞬、昨日も奢って貰ったという事と、目の前で美味しそうに食べるミルフィーネを見比べていろいろ葛藤したみたいだったが、最終的に食欲の方が勝ったみたいだ。


 料理が運ばれてくるとさっきまでの葛藤は何だったのかと思えるほどおいしそうにパンケーキを口に運び、時々山羊のミルクでのどを潤している。



 季節の果物は小さめのボールにカットされた状態で盛られているが、どれがなんという名前の果物なのかは知らないし、その形からは味すら想像できない。


 シルキーが時折口を窄めて食べているブドウのような形をした果物がすっぱい事だけは理解ができる。そして一粒食べるごとに山羊のミルクを口に含んでいた。そんなに苦手だったのか?


「今年もこのグレイツールの季節になりました。こんなところで食べられるとは思いませんでしたが」


「グレイツール?」


「兄様、この果物です。少し酸っぱいですが栄養価が高く、故郷の森にも生るのでよく食べていました」


「わたしはちょっと苦手かな……。でもこのグレイツールってミルクと一緒に食べると不思議と甘くなるんだよ」


 それで一粒食べるたびにミルクを飲んでいたのか。


 嫌いなものを無理やり飲み込んでるのかと思った。


「でも姉様、グレイツールを食べているときにミルクを飲むと、脂肪分が固まって喉の奥に引っ掛かりませんか? わたしはあれが苦手で兄様にアイスチョココアにしていただいたのですが」


「そうね口の中にねっとりとしたミルクが絡まる感覚は、割と好き嫌いは分かれるかもしれないわね。飲む時も気を付けないといけないしって……、どうしたの師狼?」


「いや、今後グレイツールをを食べる時にミルクはやめてもらえるとありがたい」


「何言ってるのよ!! グレイツールとミルクを一緒に食べると、ちょっと胸が大きくなるって言われて……」


 胸がなんだって?


 なるほど、そういういわれがある果物なのか。そういえばこの酒場で季節の果物を頼んでいるのは全員女性だ。しかも注文率が非常に高い。


 どの世界でも似たようないわれがある食べ物があるんだな……。



◇◇◇



 冒険者ギルドに足を運んだのは一週間ぶりだ。


 基本素材の持ち込みや納品、それに依頼などの用事がなければ訪れる事はないので意外にここにいる冒険者の数は少ない。


 一応内部に冒険者用の酒場もあるが、少々ぼったくり価格になっているのでよほど懐に余裕がある場合を除いて近場の酒場などで飲み食いをするのが普通だ。


 その近くの酒場には割と入り浸っている冒険者もいるのだが、昼間っから酒を飲んでいるのもどうかと思うぞ。


 まあ、冒険者もバスターズとかの隊員と同じようにいつ死ぬかわからないから、毎日悔いのないように飲みたいときに存分に飲み食いして使えるものは使っているんだろうが。


「ここだ。冒険者カードの登録は……」


「あ、鏡原(かがみはら)様。本日はどのような用事でしょうか?」


 受付の女性が俺の姿を見てすぐに話しかけてきた。


 一応砦の防衛戦とロックリザードの一件で有名になっているから、冒険者ギルドでの俺の扱いはいいほうだ。


 そのロックリザードをこれでもかという安値で俺から買い取ったのだから、さぞかし儲かったのだろう。


「この子の冒険者登録をしたいんだが」


「え? あの、ずいぶん幼い感じですが」


 まあそうだろう、こんな少女が冒険者やりたいとか言ってきたら俺でも止める。


「魔力は高い筈んなんだ。あと身体能力も結構高いと思うぞ」


「え? どうして?」


「ひとりでここまで来たんだぞ。生存能力が高くないと、まず無理だろう?」


 ロックリザードが出た場所とは違うとはいえ、この体型でありながら森に隠れながらの移動でここまで来たんだ。それなりの身体能力は期待ができる。


 これだけ大きな胸をしているから移動も大変だっただろう。足元も見えなさそうだし……。


「ではこちらで登録の手続きを……、あの、その帽子を脱いでいただけますか?」


「あ、この子エルフなんだ。だからその……」


「ああ……なるほど、瞳の問題ですね。了解しました」


 半獣人(ハーフビースト)とかいろいろ問題がある為に冒険者ギルドもそのあたりは心得ているみたいだな。


 昨日、エルフだけじゃなくほかの種族、半獣人(ハーフビースト)の事を聞いていたら、彼らには発情期があり、その時期は討伐任務などにすら顔を出さず、あまり人と出会わないように直前に用意していた保存食などを食べて過ごすそうだし。


「では測定を始めます……すごいですね。特に魔力が……」


 ミルフィーネの能力値は腕力二十五、技量百七十三、速度三十六、(ヴリル)七、魔力(マジカル)七千六百五十四。


 腕力などは魔法で強化されていない数値が出るらしく、腕力二十五は平均的な女性冒険者の半分程度だそうだ。技量もシルキーの数倍高いので意外に近接戦闘も高い? ああ、エルフ族だから弓とかの腕がすごいのかもしれないな。胸が邪魔して弓なんて引けないだろう。


 あれだけ素早く動いている割に速度が遅いのは、やはり胸で動きにくいからなんだろうな。大きすぎるのもよし悪しだな。見た目の破壊力はすさまじいけど。


 で、(ヴリル)が低いのは女性だからそんなもんだろうとしか言いようがないが、その反面魔力(マジカル)は本当に異常なほど高い。


 各能力値は百を超えればその世界でかなり上位に位置するらしく、千を超えると化け物クラスなのだそうだ。


 各能力が五十辺りあれば一般的な冒険者として十分に活躍でき、腕力が高ければ剣士系、技量が高ければ弓や罠などの後方支援系、速度が早ければ偵察など盗賊系の役割が向いているらしい。


 (ヴリル)は身体能力系を全部引き上げるので魔法系を除けばほぼ万能。魔力(マジカル)は魔法系を使いこなすのに必須といった感じだ。


「測定が完了しました。ミルフィーネさんの冒険者登録に問題はありません。今後の活躍を楽しみにしております。それではこれが冒険者カードとパスケースです。なくしたら次からは有料ですので気を付けてくださいね」


「あのパスケースもう商品化したのか?」


「はい、このくらいでしたらすぐ作ってくれましたよ。お配りするのはあまり拡張性のない基本タイプですが」


 技術力はあるからこれくらいの商品なら現物があればすぐ再現できるのか。


 最初見せた時にかなり細かい所までチェックして、それを図面に書き起こしてたしな。反対側にもカード類を入れれるようになってるから、この先冒険者カード以外のカードも発行されるかもしれんな。


 なお、商品化にあたって俺に金は一円も入ってこない。


 まあ、俺の発明じゃないし気付きだけのもんだからな……。


「これが冒険者カードですね。このケースもかわいいです」


「まさかこの短期間でこんなデザインにまで進化させるとは」


 あの時見せていたのは合成革のカードケースだが、これはほかの魔物などの皮を使ってかなり薄型なのに丈夫で、しかも桃色に染め上げたものを加工してあった。


 そして全面に小さなハートマークがちりばめられ、落下防止用の小型チェーンまでつけられていた。というか、なんで飾りっ気がない普通のパスケースを見ただけでここまでかわいくデザインできるんだ?


「この商品、女性冒険者に大人気ですよ。冒険者カードの収納目的だけじゃなくて、こちら側が小さめの鏡になっていますので、気になるところの確認がすぐにできる優れものです。売店で販売しておりますので、よろしければ」


 手鏡機能までつけてやがる。


 女性冒険者が多いってことなので、そりゃ人気が出るだろう。


「わたしこれで冒険者なのですね」


「そうだな。あとは……、装備とかいろいろかな?」


「いろいろ、ですか?」


 今日はシルキーについてきてもらって本当に良かった。


 さすがにあそこは俺が一人で行くにはハードルが高いからな。


 ミルフィーネと一緒の場合さらに難易度は上がる。



「次はドレヴェス商会でお買い物かな」





読んでいただきましてありがとうございます。

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