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04話『鷹組集合』

 魔法競技祭まで残り一ヶ月。

 チーム分けが発表されたこの日の放課後、高等部一年の生徒たちはそれぞれのチームに分かれて、簡単な顔合わせと競技に向けた練習を行う手筈となっている。


 この日は英雄科の特別講義もないため、生徒全員が練習に参加した。

 俺とミゼが所属する鷹組の生徒は、グラウンドに集合する。ビルダーズ学園の高等部一年生の人数は、二百五十人。そのうちの半数が今、この場に集っていた。


「鷹組のリーダーを任されている、生徒会のミラ=オプステインです。よろしくお願いいたします」


 百人を超える生徒たちの前で、黒髪ショートカットの少女が頭を下げた。

 よく言えば真面目、悪く言えば硬そうな少女だった。身体は鍛えているのだろう、無駄な肉は削ぎ落とされている。


 白い制服を着ているということは英雄科の生徒だ。場慣れしているのか、緊張している様子はない。その堂々とした佇まいに、鷹組の生徒たちは信頼できるリーダーシップを感じていた。


「一年生なのに、生徒会の役員なのか」


「そうみたいですね。……ビルダーズ学園の生徒会は毎年十五人ほどいて、高等部の生徒だけでなく、中等部や初等部の生徒が入ることもあるみたいです」


 ミゼの説明に相槌を打つ。どうやら学年はあまり関係ないらしい。

 まだこの学園に詳しいわけではないが、生徒会の話は軽く聞いたことがある。少数精鋭で、縁の下の力持ちとして日々業務に勤しんでいるとのことだ。


 今までは面識がなかったが……成る程、少数精鋭というのは事実らしい。

 ミラ=オプステインと名乗るその少女には隙がなかった。他の生徒とは違う風格を宿している。


「本日の予定は、簡単な顔合わせと、初日種目に出場する選手の検討です。……私としては、今のところ、顔合わせのために特別な場を設けるつもりはありません。どのみちこれから一ヶ月もの間、こうして顔を合わせることになりますから、団結力は少しずつ育んでいきましょう」


 ミラは効率的な考え方を好むらしい。

 生徒たちも同意を示す。重要なのは種目だ。顔合わせは必要に応じて考えればいい。


「では、今から各種目に出場する選手の検討を始めます。まずは皆さん、お手元の書類をご覧ください」


 急に事務的になったな……。

 言われた通り、手元の書類を確認する。


「そちらの用紙には、現時点の皆さんの成績と、その成績に基づいて適性があると予測される種目が記されています。まずは今日を含む三日間で、その種目を実際に経験してもらい、出場する選手を決定します」


 説明を受けながら文面に目を通す。

 一行目には俺の名前が。その下には俺の学園における成績が。そして最後に、二種類の種目が記されていた。


 フィジカルレースとドライブレース。

 俺にはこの二つの種目の適性があると判断されたらしい。


「勿論、そこに記されている種目はあくまで私たち生徒会が勝手に決めたものですから、他に出場したい種目があれば後ほど相談させていただきます。ですが、まずはそちらに記載された種目の検討をしていただければ幸いです」


 その説明に生徒たちが頷く。

 当然だ。魔法競技祭は生徒一人ひとりが主役となるイベント。生徒会がその全てを指揮するわけではない。生徒会はあくまで、イベントを安全に進めるための取り纏め役である。


「ここまでで、何か質問のある方はいませんか?」


 その問いに、前の方にいる生徒が挙手して発言した。


「ええと、ミラさんはどの種目に出場するんですか?」


「私の適性が高いのは、二日目のグラディウスと、三日目のウォーゲームです。どちらに出場するのかは、これから皆さんと一緒に検討します」


 どちらも聞いたことがない競技だ。その辺りの説明は後々されるのだろう。

 一つ目の質問が終わると、今度は英雄科の生徒が発言した。


「英雄科と普通科で実力に差があると思うんだが、まさか一緒に練習するわけじゃないよな?」


 嫌みったらしい声音だった。周囲にいる普通科の生徒たちが眉を潜める。

 だが、俺たち普通科は文句を言えない。その生徒の発言には一理あるからだ。


 重たい空気が立ちこめる。

 英雄科と普通科は、そもそも目指す方向性が違うのだ。だから差が生まれるのは当然のことと言える。加えて魔法競技祭というイベントは、この学園に普通科が存在しなかった頃に生まれた伝統行事だ。そのため、イベントの内容は英雄科の生徒たちの方が有利であることが多い。


 今回に限っては、英雄科が贔屓されるのも仕方ないかもしれない。

 俺は内心で、そう思ったが――。 


「それは私が判断します」


 きっぱりと、ミラは言った。


「競技祭の種目は、全ての能力値が高ければ良いというわけではありません。例えばフィジカルレースでは機動力が、スレッジハンマーでは破壊力が求められます。……確かに英雄科と普通科では、総合的な戦闘能力に差はあるかもしれませんが、個々の能力はそうでもないと私は考えています」


「……俺たち英雄科が、普通科に足を引っ張られたらどうするんだよ」


「その場合は一度私にご相談ください。……ただし、私はこの競技祭で勝つためには、チームワークも大事だと考えています」


 そう言ってミラは、英雄科の生徒を睨む。


「今の貴方の発言は、チームワークを乱すものです。貴方自身が足手纏いにならないよう注意してください」


 英雄科の生徒が口を噤んだ。

 周りにいる普通科の生徒が「おぉ」と感心の声を漏らす。


 鷹組の士気が目に見えて向上した。

 今のミラの一言は、普通科に属する生徒たちのやる気を大いに漲らせるものだった。


「他に質問はありませんか?」


 澄ました顔でミラが訊く。

 前列にいる女子生徒が怖ず怖ずと挙手をした。


「あの、うちのクラスの先生から聞いたんですが……鷹組には、生徒会が二人いるんじゃないんですか? ミラさん以外の生徒会が見当たらないんですけど……」


 その問いに、ミラは先程までの気丈な態度を崩した。

 申し訳なさそうに、ミラは答える。


「……すみません。もう一人の役員は今、この場にはいません」


 曖昧な回答に、質問をした女子生徒たちは首を傾げた。

 何か事情があるのか。或いはミラも知らないのか。いずれにせよ答えづらい質問だったらしい。


「では早速、競技の練習を始めましょう。競技祭初日の種目は、フィジカルレース、スレッジハンマー、シューティングスターの三つです。こちらの種目が記されている皆さんは運動着に着替えて準備をしてください」


 俺はフィジカルレースに適性があると判断されている。

 ミラの指示通り更衣室に向かおうとすると、ミゼも同じように歩き出していた。


「ミゼもか?」


「あ、トゥエイトさんもですか?」


 ほぼ同時に、同じような質問をした。


「ミゼは何に適性があると判断されたんだ?」


「私は初日のシューティングスターと、二日目のエクソダスです。トゥエイトさんはどの競技ですか?」


「フィジカルレースと、ドライブレースだ。語感からして、フィジカルレースは徒競走のようなものだと思うが……どの種目も聞き覚えがないな」


「はい。だから、楽しみです」


 満面の笑みを浮かべてミゼが言う。

 その言葉の意味を俺は一瞬、理解できなかった。


 楽しみ、か……。

 確かにそうだ。折角の学園行事なのだから、楽しまなければ損である。淡々と定められた競技に参加するだけでは、機関にいた頃の教練と何も変わらない。


「……そうだな」


 相槌を打ちながら、俺は決めた。

 折角、魔法競技祭という大きなイベントがあるのだ。


 何か俺も――新しいことを始めよう。



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