02話『魔法競技祭とは』
「魔法競技祭の開催が近づいています」
朝のHRにて。
担任である青髪の女教師シルフィアは、そう言った。
「……魔法競技祭?」
「トゥエイト、知らないの?」
こっそりと疑問を零した俺に、隣に座るエリシアが反応する。
周りを見ると、大半の生徒は魔法競技祭について知っている様子だった。テラリア王国では有名な行事らしいが、残念なことに俺は今までそうした表向きのイベントとは縁がなかったため何も知らない。
「既に大半の方はこの競技祭について知っていると思いますが、念のため軽く説明しておきましょう。魔法競技祭とは、年二回行われるビルダーズ学園高等部の学園行事です。来月の半ばには高等部一年生、つまり皆さんが出場する競技祭が開催されます」
シルフィア先生がちらりと俺の方を一瞥した。
魔法競技祭を知らない俺に、気を遣ってくれたらしい。小さく頭を下げて感謝を伝える。
「魔法競技祭は読んで字の如く、生徒同士で魔法の技術を競い合うことが目的ですが、このイベントには学外から大勢の観客が集まります。一般的な見物客だけでなく、貴族や高名な騎士、冒険者の方々も訪れることがあるため、競技祭で上手く自分の実力をアピールできれば、将来の進路にも良い影響を与えることができるでしょう」
どうやらかなり大規模で、本格的なイベントであるようだ。
説明を聞いているクラスメイトたちの顔も、どこか楽しそうに見える。
「開催期間は三日で、種目は九つ。生徒は原則、全員参加です。高等部一年生である皆さんは、これから生徒会の指示に従って二つのチームに分かれてもらいます。それぞれのチームが真剣に競い合うことで、皆さんの学生生活はより有意義になることでしょう。ちなみに勝利したチームには賞金が与えられます」
シルフィア先生が淀みなく説明する。
「賞金って、どのくらい貰えるんだ?」
小さな声で、エリシアに訊いた。
「例年通りだと、勝利したチームへ十万ゴルドね。ただ、その賞金で学園の備品を購入することが不文律というか、お約束になっているから……」
「……実際はほとんど手元に残らないわけか」
どうやら賞金を目当てにしていると、後で残念な気分になりそうだ。
しかし生徒たちはそれを知った上でやる気を漲らせている。
話を聞いた限り、魔法競技祭は自身の実力を外部にアピールするための良い機会だ。生徒たちがこの競技祭に参加する最大のメリットはそれだろう。
俺は将来のことなんて今のところ何も考えていないが、例えば冒険者を目指すミゼは、他人事ではない筈だ。将来、冒険者として名を馳せるための第一歩となり得るかもしれない。
「昨年度の魔法競技祭は、勇魔大戦の影響で中止しています。そのため今年は例年以上の観客が集まることになるでしょう。……今年の競技祭は、人々が終戦を実感できるような盛り上がりを期待されています。私たち教師陣も全力でサポートしますので、頑張りましょうね」
シルフィア先生の柔和な微笑みに、男子生徒たちが色めき立った。
歳は離れている筈だが、シルフィア先生はどこかあどけなさを残す顔立ちであるため、生徒たちにとって馴染みやすい雰囲気が醸し出されていた。色恋にまで発展するかどうかはともかく、生徒から人気が出るという点は納得できる。
「また、来月の十三日。魔法競技祭の二日目にあたるこの日に、ルセクタス会談が行われます」
シルフィア先生が告げる。
小さく……グランが反応を示したような気がした。
「ルセクタス会談には、テラリア王国の首脳と、ヴァーリバル王国の首脳が出席し、それぞれの外交について話し合われる予定です。この会談が終わった後、各首脳たちはそのまま競技祭の見学に訪れる予定となっています。そういう意味でも、今年の競技祭は例年以上の注目を集めることになるでしょう」
ヴァーリバル王国は、テラリア王国が隣接する国のひとつだ。
国の規模は小さく、目立った特徴もない国だったが、第四次勇魔大戦を経てある意味、有名になってしまった国でもある。
ルセクタスというのはテラリア王国の都市名だ。
会談は、この国で行われるらしい。
「以上で朝のHRを終わります。昼休みには皆さんのチームが発表されるかと思いますので、所属するチームを確認した後、それぞれのリーダーを任されている生徒会の指示に従ってください」
チャイムが鳴ると同時に、シルフィア先生はそう言ってHRを締めくくった。




