01話『プロローグ:戦火』
三章スタートです!
予告通り体育祭みたいなのをやる章です。
文章量やイベント数の都合上、この章はひょっとしたら前後編に分けるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。
勇魔大戦なんて糞食らえだ――少年は心の中で呟いた。
第四次勇魔大戦の戦火は、その少年の母国を焼け野原に変えた。
元々、豊かとは言えない小さな国だったが、大戦の戦火はそんな小国からあらゆるものを無慈悲に奪い取った。家屋は瓦礫の山と化し、食糧は大量の廃棄物と化し、生き残った者は飢えに苦しみ、死んでいった者はその肉片を野生の動物に食いちぎられていた。
食糧の配給を受けとった少年は、小さな器に入った塩味のスープを口に含む。
幼い頃から馴染みのある公園には、住処や家族を失った者たちが集っていた。配給を受け取る列に並んでいた大人の女性が、唐突に噎び泣く。筆舌に尽くしがたい悲傷が爆発したようだった。子供たちの遊び場だった公園で大人たちが泣いている光景を見ていると、どうしようもない切なさを感じる。
「こんなこと、私が言うべきではないが……酷い有り様だな」
隣から声が聞こえる。
そこには、この国の王様が佇んでいた。
「この国はもう駄目だ。近いうち、王国か帝国に吸収されることになるだろう」
そうだろうな、と少年は思った。
以前からその可能性については何度も説明を受けていた。既に国民たちも知っているだろう。
「どちらがいいと思う?」
不意な問いかけに少年は暫く言葉を失った。
小国の王様だからか、この男は民草に対しても親しげに接することがある。大体こういう時は、傍にいる臣下たちが「王の威厳が損なわれますから」と苦笑して注意するのだが、今、その臣下はどこにもいなかった。臣下の半数は国の復興に駆り出されており、もう半数は大戦で死んでいる。
少年は、目の前の王様に同情した。
この人は、民草のように悲しみに明け暮れることができないのだ。臣下のように与えられた仕事に没頭することで現実逃避することもできない。この凄惨な現実を誰よりも正面から受け止めなくてはならない。それが王様の仕事なのだと少年は今更、理解した。――――本当に今更のことだった。
そんな王様の一助になりたいと思った少年は、頭を働かせる。
王国か、帝国か。少年は自分なりの答えを導いた。
「俺は……細かいことはよく分からないですけど、王国がいいと思います」
「何故?」
「大戦が終わった後、すぐに復興を支援してくれたからです。帝国と同じように、下心はあったのかもしれませんけど……だったら、その下心をできるだけ見せないよう配慮してくれたテラリア王国の方が、まだマシです」
「……そうか」
王様は、少年の答えに満足したのかどうか良く分からない様子で頷いた。
「では、お前は来年からテラリア王国へ行きなさい」
「は?」
その提案に、少年は目を丸くする。
「近いうち、我が国はテラリア王国かルーシア帝国のどちらかに併合されるだろう。ならば、それらの国の内情を正確に見極めなくてはならない。――お前にはこれから王国を見極めてもらう」
「で、でも俺、こう言っちゃあれですが……馬鹿ですよ? 力仕事ならともかく、そういう難しいことは……とてもできそうにありません」
「難しいことを頼むつもりはない」
王様は、まるで子供を諭すような優しい目で言った。
「お前はただ、思い通りに生きればいい。そしてその姿をいつか私に見せてくれ。……久々に再会した時、お前が幸せに生きているようであれば、私はこの国の未来を王国に委ねようと思う」
王様は少年に、大きな責任を背負わせるつもりのようだった。
困惑するあまり、少年は何も言えない。だがそんな少年の性格を熟知している王様は、朗らかな笑みと共に口を開いた。
「任せたぞ、グラン」
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