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35話『正体を明かす覚悟』


 迷宮『廻深王墓』でジークたちを救出した、翌日。


「すみません、今日はお先に失礼します」


 一足先に帰ったミゼを、俺とグランは見届けた。

 調味料が少なくなってきたから、城下町へ買い物に行くとのことだが……。


「そういやミゼは昼休みも自分で作った弁当食べてたもんな。……家庭的でいいよなぁ」


 呟くグランを無視して考える。

 俺もついて行くべきか。護衛としてはそうするべきなのだろうが……嫌な予感がした。


 教室を出る直前、ミゼは一瞬だけ俺の方を見た。

 その目はまるで、俺を見定めようとしているようだった。


 ――感づかれたか?


 先日の一件を思い出す。

 迷宮『廻深王墓』で俺はジークたちを救出する代わりに、ミゼの前で堂々と戦ってしまった。結果、彼女は俺のことを「自分の護衛ではないか」と疑うようになった。


 もし彼女が、俺の正体を探ろうとしているのであれば、あまり振り回されないよう注意しなくてはならない。しかし――だからと言って、彼女を一人で行動させるのは護衛としてよろしくない。


「俺も急用を思い出した。先に帰っている」


「え? あ、おい、トゥエイト?」


 エリシアにも軽く断りを入れて教室を出る。

 特に疑われていないようであれば今まで通り偶然を装ってミゼに近づけばいいのだが、今回は止めた方がいいだろう。小型化された黒い外套を取り出し、それを纏った後、息を潜めて尾行を始める。


 今のところミゼは俺たちに説明した通り、城下町へと向かっている。

 その背中を追いつつ、ポケットから『通信紙』を取り出した。


 この状況ではうまく護衛ができない。いざという時のためにオズへ支援を要請する。

 しかし――。


「オズ……?」


 どれだけ待っても、『通信紙』からオズの声は聞こえなかった。


 ――どういうことだ?


 オズと連絡が取れない。

 今は任務中だ。オズには極力、連絡に応じるようにと伝えてある。


 何か想定外の事態が起きているのか。

 それとも本当に偶々、オズが通信に出られないのか。


 ……気にしている暇はないな。


 薄情かもしれないが、今はミゼのことを優先する。

 目の前を歩く小柄な少女を追っていると――突如、少女が走り出した。


 ――尾行がばれたか?


 いきなり走り出したミゼを慌てて追いかける。

 だがその途中で、別の可能性に思い至った。


 いや、これは――。


 尾行をまく動きではない。

 これは尾行している人間がいるか確かめるための行動だ。尾行を確信している動きではない。


 ミゼは走りながら角を右折した。

 恐らくその角を曲がった先で、彼女は待ち構えている筈だ。


 その手には乗らない。

 俺はミゼを追う足を止め、彼女が曲がった角よりひとつ手前の角を曲がり、先回りする。


 王族である以上、英才教育でも受けているのだろうか。ミゼは中々機転が利くようだ。

 路地裏を進み、待ち構えるミゼの傍で待機していると――。


「は、離しなさい!」


 ミゼの必死な声が聞こえた。


「貴方たち、何者――」


「――黙れ」


 男の小さな声が聞こえた直後、ミゼが声を発さなくなった。

 刃物か何かで脅されたようだ。


 頭の中で様々な作戦を立てる。

 正体を明かすことなく彼女を救う手立てはあるか。

 連絡が途絶えたオズをどうにかこの場に呼ぶことはできないか。


 落ち着いて考えなくてはならない場面だ。しかし、頭が茹だるように熱かった。

 こうしている間にもミゼは男たちに傷つけられているかもしれない。

 その考えが脳裏を過ぎった直後、俺は思考を断ち切り、ミゼのもとへと向かった。


「護衛に感づかれる前に、すぐ撤収するぞ」


「――逃がすわけにはいかないな」


 二人の刺客と、ミゼの前に、俺は堂々と姿を現した。

 黒い外套で顔は隠しているが、ミゼは声ですぐに正体を察しただろう。目を見開いて驚愕するミゼから視線を逸らし、俺は二人の敵を見据える。


「くそっ、最後までお前か!」


「もう後がない! どうにかして倒――」


 ミゼの口元を押さえていた男が、毒を塗った短刀を取り出して接近してきた。

 顔面に迫った短刀を躱し、男の手首を締め上げながら投げ技で地面に叩き付ける。

 背中を強打して呻き声を上げる男の脳天に、《魔弾》を撃った。


 ――楽だ。


 敵を倒すのが楽という意味ではない。

 ミゼに護衛であることがばれる覚悟をした今、気持ちが――気分が楽だった。


 機関が解体され、人並みの日常を追い求めたあの日から、俺にとって最も優先するべきことはいつだって目の前の日常だった。秘密裏に護衛だとか、尋問は許可しないだとか、そうした局の事情を忖度するのはもううんざりだ。


 没頭したかった。

 守りたいものを守る。ただ、それだけのために戦いたい。


「トゥエイト、さん……ですか?」


 二人目の男を難なく殺した後。

 ミゼは震えた声で訊いた。

 俺は、頭を覆っている黒い外套を持ち上げて答える。


「――そうだ」


 二章「自由の代償」、折り返し地点です。

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