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29話『暴王』

「五層の中央にある大部屋へ敵を誘導する。場所は分かるか?」


『うん、大丈夫だよ。さっきまでエリシアに地図見せてもらってたから』


「ならすぐにそこへ向かってくれ」


 オズとの通信を維持しながら四層の階段へと向かう。 

 丁度、敵が階段を下りてきたところだった。真っ黒な外套で身を包んだ俺を見て、敵は一斉に構える。


 大部屋へと誘導を開始しながら、俺は『通信紙』を耳に当ててオズへ語りかけた。


「ミゼたちがいる部屋へと通じる道は一本しかない。敵がそこに向かわないよう誘導するつもりだが、念のため足止め用の罠を張っておいてくれ」


『えぇー。ボク、定点設置式の魔法はあんまり得意じゃないんだけど』


「問題ない。一瞬でも足止めできれば、俺なら間に合う」


『まあそうだけどさぁ、それってボクのこと信用してないというか、なんというか……』


 魔法制御力が低いオズは定点設置式の魔法が苦手だが、機関の兵士として実戦投入されていた以上、作戦に必要な最低限の魔法は習得している。本人は嫌そうにブツブツと言っているが、やるべきことはやってくれる筈だ。


 賊に追いつかれぬように……同時に、賊が見失わないように、適度な速度を意識して薄暗い通路を走る。

 その最中、正面に大型の魔物が立ち塞がった。


「キマイラか……」


 四層でも遭遇した魔物だ。

 別の個体か、それとも同じ個体が俺たちの後を追って態々階段を下りて来たのか。

 いずれにせよ――。


「――――鬱陶しい」


 指先から六発の《魔弾》を放つ。

 ライオンの双眸、山羊の双眸、蛇の双眸。計六つの瞳を瞬時に撃ち抜いた。


 ――《瞬刃》。


 一瞬で視界を奪われたキマイラは、驚きのあまり身体を硬直させた。

 その瞬間、極薄の刃がキマイラの胴を真っ二つに切断する。


 血の雨が降るよりも早く、俺は先へ進んだ。


『到着したよー』


 オズの暢気な声が『通信紙』から聞こえた。


「迎撃の準備を頼む。もう少しで到着するが……先に幾らか間引く」


『りょーかい。……あ、見えた見えた』


 真っ直ぐ進んだ所にある大部屋に、オズの姿があった。

 掌に魔力を集め、《魔弾》で燭台を片っ端から破壊していく。


 辺りが闇に包まれたが、それでも賊は俺を追った。――俺を倒さねばミゼに辿り着けないと思っているのだろう。彼らも漸くその事実に気づいたようだ。


 賊の数は八人。その中に高度な《靭身》使いが二人いた。

 オズの魔法は高威力だが、隙も多い。動きが素早い敵は念のためここで処分しておく。


「ちっ、何処に行った!?」


 灯りの消えた暗い通路で、賊は俺の姿を見失った。

 賊が周囲を警戒して立ち止まる。刹那――天井に張り付いていた俺は、《物質化》で創造した鋼糸で標的である二人の首を吊った。


『出た、28の闇討ち無双』


「変な名前をつけるな。……そろそろ敵がそっちに行くぞ」


 大部屋にいるオズからは、暗闇に包まれた通路での出来事など見える筈もないが、どうやら俺が灯りを消した時点で俺が何をしたのか察したらしい。


 そのまま天井に張り付いて、賊が大部屋の方へと突入するのを見守る。

 部屋に入った六人の賊は、中央に立つ小柄な少女を見て驚愕した。

 

「こ、子供……?」


 賊たちの間に動揺が走る。

 小柄な少女――オズは、不敵な笑みを浮かべて言った。


「初めまして! そして――――さようなら(・・・・・)!!」


 オズは両腕を賊たちに突き出した。

 それぞれの手には、一丁の特殊な魔法杖が握られている。


 ――TD02タイラントドラゴン・オートゥー


 タイラントドラゴンという魔物の素材で製造された、一対の魔法杖だ。

 タイラントドラゴンは暴龍と呼ばれることもあり、獰猛な性格と、破壊力に特化した攻撃手段を備えている。身体は鋼の如く頑丈であり、その内側には荒れ狂う魔力を蓄えている生物だ。暴龍の顎から放たれる魔力の光線は、過去、山すらも消滅させたことがあるという。


「……お前も支給されていたのか」


 俺にとっての相棒がBF28であるように、オズにとっての相棒がTD02だ。

 先の大戦にて。オズが機関の兵士として請け負っていた役目は――強襲。


 敵の一掃。それこそが彼女の本分だ。


 TD02から膨大な光の渦が放たれる。

 それぞれ一発ずつではない。連射(・・)だ。

 二つの魔法杖から絶え間ない猛攻が、嵐の如く賊を襲った。


 これこそがオズの本来の戦い方だった。

 少し前、ミゼたちに見せたのは並列起動と呼ばれる魔法を応用するテクニックの一つだ。しかし今はそれに加え、多重起動も使用している。


 多重起動とは、以前、英雄科の生徒ジーク=ファルシオンが俺との決闘で用いた技術である。単一の魔法を重ね合わせることで、その魔法の効果を大幅に向上させるテクニックだ。


 しかしこれには高度な魔法制御力が要求される。だからこそ、ジークも俺との決闘ではエルデカイザーという特殊な魔法杖で、その技術を再現していた。


 オズは今、多重起動と並列起動の二つを利用している。

 多重並列起動――合成と呼ばれる技術だ。


 だがオズに魔法制御力はない。

 その結果、何が起きているのかというと――魔法の暴発である。


「あはははは! そんなんじゃ何もできないまま死んじゃうよー!?」


 楽しそうに笑うオズは、絶大な威力の弾丸を無限に放ち続ける。

 その魔法杖から放たれているのは魔法ではなかった。彼女が放ち続ける弾丸の正体は、出来損ないの魔法……構築に失敗し、破裂直前となった魔力の塊である。


 魔法の構築に失敗すると、暴発という現象が生じることもある。

 構築途中の魔法がぐにゃりと歪み、込められた魔力の分だけ激しい爆発を起こすのだ。


 ジークとの決闘でも、最終的にはこの暴発を利用して勝負を終わらせた。

 多重起動は失敗すると、重ね合わせた魔法同士が反発し合い、暴発――即ち盛大な爆発を起こす。

 この爆発を、オズは敢えて利用しているのだ。


 TD02の素材であるタイラントドラゴンは、鋼の如く頑丈な肉体を持つ。

 頑丈なのは外側だけではない。内側もだ。タイラントドラゴンは体内に荒れ狂う魔力を宿しており、口を開くことでそれを吐き出すことができる。口を閉ざしている間はその荒れ狂う魔力を、頑丈な腹の中に閉じ込めている。


 オズの戦い方は、小型のタイラントドラゴンと言ってもいい。

 頭に思い浮かんだ適当な魔法を、膨大な魔力と共にゴチャゴチャと混ぜ合わせ、それによって生じる暴発に指向性を与えることで究極の弾丸として解き放つ。


 結果、起きるのは――――圧倒的な破壊だった。

 魔法即応力が低いため弾丸の準備には少し時間がかかるが、その後のオズは無敵だ。破壊の嵐によって敵の接近を許さない。


 タイラントドラゴンが暴龍と呼ばれるように。

 オズは戦場で暴王(・・)と呼ばれていた。


「……脳筋無双」


 やはり一対多の戦況で彼女の右に出る者はいない。

 可能な限り万全の準備を整えて戦う俺の場合、五分から十分はかかった筈だ。

 しかしオズは――僅か十秒で全ての敵を殲滅した。


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