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26話『廻深王墓』


 迷宮『廻深王墓(かいしんおうぼ)』。

 第三次勇魔大戦の際に創造された迷宮のひとつであり、戦時中はテラリア王国の兵士たちが比較的早い段階で攻略を済ませたが、内部で取れる資源の豊富さから敢えて存続を許されている迷宮である。


 王都の南門から馬車で二時間ほど進んだ先に、その入り口があった。


「ここが、入り口ですね」


 ミゼが少し緊張した声音で言う。

 足元には、地下へと続く大きな階段があった。


 今回、俺たちが受けた依頼は『廻深王墓(かいしんおうぼ)』五層の地形調査である。先月この辺りで地震が発生したらしく、その影響を確認するための調査とのことだ。五層全体が崩壊したわけではなく、元々崩れかけていた床や天井を調べることになる。売店で購入した地図にギルドの受付嬢が目的地の印をつけてくれたため、恐らく迷うことはないだろう。


 探索を開始する前に、俺は四人に対して声をかける。


「この中に、『廻深王墓』を探索したことがある人はいるか?」


 その問いかけに、オズとグランが挙手をした。

 ここでオズが挙手をするのは事前の打ち合わせ通りだ。いざという時の道案内や避難誘導に説得力を持たせるためにも、今のうちにこの迷宮の構造を知っていることを明かしておいた方がいい。


「俺は戦争中、ちょっとだけ中に入る機会があってな。……オズはどうなんだ?」


「ボク? うーん……暇潰し!」


 グランの問いに、オズは屈託のない笑みで答える。

 機関の任務で探索を行ったとは当然、言えないが、残念ながらこの趣味という回答は正解でもある。確かオズは戦争中も任務の合間に「腕を鈍らせたくない」とかいう理由で手頃な迷宮に潜っていた筈だ。


「ま、まあ高位の冒険者にもなりますと、腕試し感覚で色んな迷宮を探索することもあるみたいですし。その、オズさんなら不思議ではないかもしれませんね」


 ミゼが苦笑しながら言う。


「一応、地図は買っておいたけど、経験者がいるなら道案内を任せた方がいいかしら?」


 エリシアが訊くと、オズが「うーん」と唸り声を上げて答えた。


「ごめん。ボク、全然道覚えてないや」


「俺もだ」


 二人の返事を聞いて、結局地図は予定通りエリシアが持つことになった。

 先頭を俺とグランが進み、そのすぐ後ろに女性陣が続く。

 階段を下りると、少しずつ外の明かりが遠ざかった。


「ミゼ、松明だ」


「は、はい!」


 ミゼに合図を出し、松明の明かりで辺りを照らしてもらう。

 迷宮『廻深王墓(かいしんおうぼ)』の一層に到達した俺たちは、その場で周囲の様子を確認した。


 階段を下りるまでは暗かったが、いざ迷宮の内部に辿り着くとそこら中に明かりがあった。壁に取り付けられた燭台に火が灯されている。


「ここが迷宮……思ったよりも明るいですね」


「ま、ここは王都と近いこともあって色んな冒険者に探索されてっからな。持参した松明は保険みたいなもんだ」


 ミゼの呟きにグランが説明した。

 冒険者たちも後続のために、迷宮内の明るさを保つよう努めている。魔物が勝手に明かりをつけることは滅多にないため、迷宮の明るさは冒険者の善意そのものと言っても過言ではなかった。


「オズは迷宮に慣れているの?」


「うーん、どうだろ。正攻法で探索するのは久しぶりかも」


「正攻法?」


 エリシアが首を傾げる。


「迷宮って、意外と融通がきく地形だからね。例えば、魔物と戦うのが面倒臭いなーって思った時は、事前に用意した毒ガスを――」


「――オズ」


 少々、余計なことを口走りそうだったので呼び止める。

 オズはすぐにこちらの意図を察し、「てへへ」と舌を出しながら謝罪した。


「あ、これ。……薬草ですか?」


 不意にミゼが屈み、壁際の地面に生えている草を見つめて言う。

 彼女が見つめる草には見覚えがあった。


「……魔法薬学の授業で使った薬草だな。こんなところにも生えているのか」


「迷宮には、あらゆる資源が眠っていると聞いたことあります。本当だったんですね」


 ミゼが楽しそうに言った。

 移動を再開しても、ミゼは視界に入る様々なものに注目した。流石にその都度、皆の足を止めるのは申し訳ないと思ったのか、いちいち見に行ったり手に取ったりはしないが、それでもキョロキョロと首を動かしているため彼女の心境は一目瞭然だった。


「ミゼ。どうして迷宮の中に、人間の生活に役立つ資源が眠っているのか知っているか?」


 楽しそうな彼女に触発されて、俺は迷宮に関する問題を繰り出した。


「確か……人間を招き入れるため、ですよね?」


「正解だ。迷宮の役割は魔物の巣。そして現存する魔物の大半は人間を餌にする。だから迷宮は、魔物の餌となる人間を招き入れるための工夫が施されている」


 流石にこの程度のことは知っているか。

 伊達に冒険者を目指していたわけではないらしい。最低限の知識はとっくに持ち合わせているようだ。


「小難しい話してるとこ悪いが、来たぜ」


 グランの一言に、俺とミゼは会話を止める。

 魔物の影が近づいていた。


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