11話『第一種免許と第二種免許』
ジーク=ファルシオン。その名は俺の頭にも強く残っている。
テラリア王国ファルシオン男爵家の嫡男であるこの男は、以前まで普通科の生徒を見下しており、そのあまりに理不尽な態度から俺と決闘する羽目となった。
決闘の結果は「引き分け」となったが、その真相を知っているのは俺とジークの二人だけである。あの決闘で俺はジークの片耳を引き裂き、「これ以上普通科の生徒に手を出すな」と警告していた。
以来、ジークは普通科の生徒を見下さないようになった。
俺としては正直、ここまで素直に警告を聞き入れてくれるとは思っていなかったため、重畳であると思っていたが――。
「なんだお前ら、普通科じゃねぇか」
「普通科がギルドに登録なんて百年早ぇよ」
ジークの両脇から、柄の悪そうな英雄科の男子二人が前に出る。
ジーク自身に変化があっても、英雄科自体に変化はない。
唐突に罵倒してくる二人に、俺たちは複雑な表情を浮かべた。
「ジーク、あいつ、お前が決闘した奴じゃね?」
男子の一人が俺を見ながら言った。
英雄科の生徒には貴族の子息令嬢が多い。男爵家嫡男のジークに対するこの接し方から察するに、恐らくこの男も貴族なのだろう。
だが、声をかけられたジークは苦虫を噛み潰したような顔をして、
「……手続きは済んだだろ。さっさと試験を受けに行くぞ」
そう言って、ジークはギルドの奥へと向かった。
周りにいた三人の男子は、ジークの様子に首を傾げながらもついて行く。
「……なんか、意外とあっさり引いてくれたな」
喧嘩を売るなら買ってやるぜ、と言わんばかりに構えていたグランだが、立ち去る四人の男子に少々肩すかしをくらったようだった。
「ミゼ、大丈夫?」
「は、はい。その、少し驚きましたけど、大丈夫です」
心配するエリシアに、ミゼが硬い表情で答える。
胸に手をやり深呼吸した彼女は、ゆっくりとカウンターの前に向かった。
「こんにちは。……あら、先程の方々と同じビルダーズ学園の生徒さんですね」
「は、はい。本日はその、冒険者の登録をしに来ました」
「畏まりました。免許の種類はどちらにいたしますか?」
受付嬢の言葉に、俺たちは首を傾げる。
そんな俺たちの態度を見て、受付嬢は柔らかな笑みを浮かべながら説明した。
「冒険者の免許には、第一種と第二種の二つが存在します。魔王の遺産……つまり魔物や迷宮、魔人に関する依頼を受けられるのは、第二種免許のみです」
成る程。どうやらギルドは「危険な依頼を受けられる冒険者」と「安全な依頼しか受けられない冒険者」を区別しているようだ。
魔王の遺産である魔物、迷宮、魔人は危険な存在だ。
誰もが対処できるものではない。この仕組みは合理的と言えるだろう。
「あの、確か第二種免許には試験があるんですよね?」
ミゼの問いに、受付嬢は首肯した。
「はい。第二種免許を取得したい場合は、基礎戦闘力と魔法力の試験に合格する必要があります。ただ、こちらの試験に不合格となった場合でも、皆様なら第一種免許を取得することが可能です。第一種免許の取得条件は、満十五歳以上であることのみですから」
受付嬢の説明を聞いた後、俺たちは全員で顔を見合わせた。
どちらの免許を取得するべきか。誰かがその問いを繰り出すよりも早く――ミゼが発言する。
「第二種を取得しましょう!」
ミゼがキラキラに輝いた瞳で言った。
「迷宮! 迷宮に行けるんです! だから第二種にするべきです!」
「お、おぉ……迷宮か。まあ確かに、迷宮は結構、冒険しがいがあるって聞くよな」
「はい! 地上にはない未知の物質や、不思議な生態! 迷宮には、私たちが普段目にすることのない様々な神秘が満ち溢れています! これを経験せずして冒険者とは呼べません!」
若干困惑するグランにも、ミゼは自信満々といった様子で熱弁した。
第一種免許のみを取得している冒険者に対して、些か失礼な物言いの気もするが、彼女の興奮は十分過ぎるくらい伝わった。
同級生の少女が、これだけ楽しそうに語るのだ――なら、きっとその選択に間違いはないのだろう。
「第二種にするか」
「はいっ!」
ミゼは満面の笑みを浮かべて頷いた。
こうして、俺たちは――第二種免許を取得するための試験を行うことになった。
元々、冒険者は「何でも屋」でしたが、魔王の遺産が現れることによって「第一種:今までと同じ扱いの冒険者」と「第二種:今までの身分に加え魔王の遺産への対処が許可された者」にわかれました。




