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35話『一撃必殺の体術』


「展開――雷魔法(ライトニング)ッ!!」


 バレンが吠える。

 同時に、その身体に激しい雷が迸った。


 眩い閃光が放たれ、目を細める。

 再び目を開くと、そこにいたバレンの姿が消えていた。

 脳が警鐘を鳴らす。咄嗟に身を屈めた直後、頭上をバレンの拳が通過した。


「よく反応したな」


 空間ごと吹き飛ばすような激しい衝撃波が、目と鼻の先で炸裂した。

 これが佩帯の力だ。あらかじめ準備しておいた魔法を、単純に使って消費するだけではなく、身に纏ったまま維持して体術に魔法の威力を乗せる。


 今のバレンは雷属性の魔法を佩帯しているのだろう。Dランク魔法《雷球(サンダーボール)》では威力が足りない、最低でもCランク魔法の《雷砲(ライトニングキャノン)》を複数身に纏っている。


 つまり今のバレンの拳と蹴りは――それ自体が《雷砲(ライトニングキャノン)》と同程度の威力を持つ。


「そらッ!! 体術だけじゃ捌ききれねぇぞッ!!」


 流石にこの威力の攻撃を直撃すれば一溜まりもない。

 だから、全てを受け流す(・・・・)


 雷を纏ったバレンの動きは、威力が高いだけでなく速度も向上していた。しかし本人の性格によるものか、その動きは直線的であることが多い。手足の先ではなく、体幹の動きを見れば攻撃も予測できた。


「ちっ、上手く受け流しやがるな。なら――」


 バレンが一度距離を取り、その両手を胸の前で重ねた。

 両手の帯電が収まり、代わりに今度は炎が渦巻く。


「展開――炎魔法(フレイム)ッ!!」


 バレンの全身が炎に包まれた。

 その足元で小規模な爆発が起き、反動でバレンが近づいてくる。


 再び、その攻撃を受け流そうとすると――炎が吹き荒れ、思わず後退した。

 掌が火傷している。これでは迂闊に触れることができない。


「……見かけによらず、随分と器用だな」


 不敵な笑みを浮かべるバレンを、俺は睨む。 


 ――炎魔法と雷魔法を同じ割合で佩帯し、戦況に合わせて切り替えているのか。


 攻撃の威力を考えると、恐らくそれぞれの属性で四つずつ魔法を佩帯している筈だ。これは決して簡単な技術ではない。


 ――最大佩帯数、八つ。


 俄に信じがたいが、本当にできているのかもしれない。

 通常、佩帯できる数は多くても三つ。四つ佩帯できれば天才と呼ばれてもいい。


 ところがバレンは、これを天才の倍である八つできると言う。

 そんな桁違いな技術……俺はひとつしか知らない。


「……佩帯に、偏才化しているのか」


「はっ! 偏才を知っているとは、やっぱてめぇはただの学生じゃねぇな!!」


 火の粉を撒き散らしながら、バレンが接近する。

 紙一重で避けていては肌を焼かれてしまう。いつもより少し大きめに動いて、バレンの攻撃を避け続ける。


 確かに、触れることすらままならないというのは脅威だ。

 しかし――。


「炎では、速度が足りないな」


 生憎、俺はパワーよりスピードを得意とするタイプだ。

 先程の雷を纏った状態ならともかく、炎を纏った今のバレンの速度なら、わざわざ受け流す必要もなく全て完璧に回避してみせる。


 力強い掌底を避けると同時に、俺は《靭身》の魔力を足裏に集中して、回し蹴りを放った。


「ぐォ――ッ!?」


 焼かれる前に、足を素早く手前に引き戻す。

 胴を突き上げられたバレンは、短い悲鳴を零して後退した。

 唇からこぼれ落ちた胃液を腕で拭って、バレンはこちらを睨む。


「……てめぇ、マジで何者だ」


 不審なものを見るような目で、バレンは言う。


「その身のこなし、尋常じゃねぇ。なんで普通科に……いや、そもそも学生をやる必要がねぇだろ。騎士か冒険者にでもなっていれば、今頃、王国中で注目を浴びていたんじゃねぇか?」


「さあな。……こちらにはこちらの事情がある」


 適当にはぐらかすと、バレンは小さく笑みを浮かべた。


「まあいい。……気をつけろよ。ここから先は、手加減できねぇからな」


 そう言って、バレンは両手を胸の前で重ねる。

 右手には雷が迸り、左手には炎が渦巻いていた。二つの掌を重ね合わせると同時に、バレンの身体は雷と炎に包まれる。


「二重展開――炎魔法(フレイム)雷魔法(ライトニング)


 異なる二つの属性が、完璧に調和した状態でバレンの肉体を覆った。


「同時に展開できねぇとは、言ってねぇだろ」


 バレンの中に、微かにあった油断が消えたような気がした。

 その瞳が一層鋭くなったと思った次の瞬間、横合いからバレンの蹴りが迫る。


「ぐ……ッ!?」


 咄嗟に右腕を上げて蹴りを防いだ。しかし衝撃を殺しきれず、大きく吹き飛んでしまう。


 威力と速度、どちらも格段に向上している。

 恐らく、これがバレンの真骨頂だ。最大八つまで維持できるという佩帯を、ほぼ全開にした状態。四つの炎属性の魔法と、四つの雷属性の魔法を身に纏った今のバレンは、その攻撃のひとつひとつが一撃必殺級の威力を誇る。


 一瞬、脳裏にオズが過ぎった。

 オズは一撃必殺級の砲撃を無限に放ち続ける戦士だ。対し、目の前にいる男は、一撃必殺級の体術を無限に繰り出せる戦士である。


「――止まれば死ぬぜ?」


 頭上からバレンの拳が迫る。

 後退して避けた直後、目の前で耳を劈く轟音が響いた。学園の校庭に、巨大なクレーターができてしまった。


「……もう少し、周りの被害を考えたらどうだ」


「そう思うならさっさと負けてくれや」


 苛立ちを込めた声音でバレンは言う。


「てめぇ、さっきからろくに反撃できてねぇだろ。避けることで手一杯じゃあ、どのみちてめぇに勝ち目はねぇよ。潔く潰れてろ」


 なるほど。どうやらバレンには、俺が反撃に出ることができず苦戦しているように見えたらしい。思い返せば確かに、そう捉えられてもおかしくない動きをしていた。


「……そういうつもりでは、なかったんだがな」


「あ?」


 相手は他国の工作員を手引きしていたとは言え、身分は学生である。力づくでの解決に抵抗を感じ、できるだけ穏便に無力化する方法を考えていただけだ。しかし、こうも学園の設備に被害を出されると、悠長に様子見もしていられない。


 穏便に倒す方針から、速やかに倒す方針へ変更する。

 そちらの方が俺は得意だ。


「バレン、構えろ」


 そう言って俺は、指先をバレンに向けた。

 人差し指の先端から、圧縮した魔力の弾丸を放つ。バレンは目を見開き、素早く横に跳ぶことでそれを回避した。


「今のは……《魔弾(バレット)》か?」


 怪訝な顔をするバレンへ、俺は更に弾丸を放つ。


「おいおい、まさかEランクの魔法で俺を倒せるとは――」


「――《破裂(バースト)》」


 そう唱えた瞬間、放たれた弾丸が破裂し、激しい衝撃波がバレンを吹き飛ばした。



11/6

新作、始めました~~!!


迷宮殺しの後日譚 ~ダンジョンを攻略しすぎてギルドを追放された最強の探索者、引退してダンジョン教習所の教官になったら生徒たちから崇拝される。ダンジョン活性化につき戻ってこいと懇願されても今更遅い~


https://ncode.syosetu.com/n1579gp/


影の英雄の日常譚をここまでお読みの皆様なら、きっと気に入る作品だと思います!!


あらすじ

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


「迷宮殺し。申し訳ないが、君が持つ探索者の資格を剥奪させてもらう」


 かつてダンジョンは、モンスターの巣として人々に恐れられていた。

 しかし近年、そこに眠る資源が重視され、人々はダンジョンと共存共栄を図ることになる。


 その結果、これまで無数のダンジョンを『完全攻略』によって破壊してきた、最強の探索者――《迷宮殺し》のレクトは、ダンジョン運営によって利益を得る貴族たちに切り捨てられ、探索者協会を追放されてしまった。


 現役を引退したレクトは、知人の紹介でダンジョン教習所の教官を務めることになる。

 腐っても仕方ないと思ったレクトは、これを機に正体を隠し、第二の人生を楽しむことにしたが……。


「なんで教習所の先生がこんなに強いんだ!?」


 生徒たちは最初こそ、若くして引退したレクトを見下していたが、いつの間にか崇拝するようになったり、


「アンタが引退したせいでダンジョンが活性化してるんですけど!?」

「ダンジョンと共存共栄とか無理に決まってんだろ!! 国の上層部は分かってない!!」


 現場をよく知る探索者たちからは、現役復帰を懇願されたりと、まだまだ平和には過ごせそうにない。


 探索者協会からの追放。

 それは最強の力を持つレクトを、かえって自由にしてしまった。


 貴族の陰謀。変化するダンジョン。

 自由となったレクトは、気まぐれに顔を出し、それらに影響を与えていく。


 これは、自分の役目はもう終えたと思い込んで平穏な日々を求める英雄が、無自覚のうちに世界へ大きな影響を与え続ける、なんちゃって後日譚。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



本ページの下部にある紹介テキストがリンクになっていますので、

そちらからも作品へ移動できます!!


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