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33話『黒幕』


「いつから俺だと分かった」


 バレンがこちらを睨みながら言う。

 お互い、もう戦闘は避けられないものだと理解していた。――だからこそ、今のうちに胸中の疑問を解消したいのだろう。


「ルーシア帝国の工作員が『ウィングボード』を使用した時点で、学園の関係者が彼らを手引きしているとは思っていた。……他国の工作員が、市場に出回っていないあの魔法具を使えるわけないだろう」


「なるほど。まあ確かに、誰かが教えたと考える方が自然か」


 工作員たちに『ウィングボード』の使い方を教えたのは、目の前にいる男、バレンだろう。


「だが、それがどうして俺と結びつく? 別に俺が教えたとは限らねぇだろ」


「『ウィングボード』が脱出用の道具として利用できるかどうかは、作戦を始める前に検討を済ませた筈だ。工作員が動き始めた時期から逆算すると、その検討は恐らく競技祭の練習が始まる前に済んでいた。……練習の前から『ウィングボード』の使い方を知っているということは、その人物は去年か一昨年、実際に『ウィングボード』に触れたことがある者のみだ。その候補の中にお前がいた」


「俺が?」


「昨年の魔法競技祭は中止になったとは言え、直前までは開催するつもりだったからな。各競技の練習はしていた筈だ。……留年しているお前は、その時『ウィングボード』に触れる機会があったんだろう。お前はドライブレースの出場者だったからな」


 昨年度の競技祭の選手くらい少し調べれば分かる。

 バレンはドライブレースに出場する予定だった。


「……去年、『ウィングボード』に触れたのは俺だけじゃねぇ筈だ。どうして俺だと絞ることができた」


 その問いに対する答えは、実に簡単だ。


「それは単純に――お前が一番やりそうだからだ」


 今までの推測と違って、全く根拠はない。

 だがこれが一番自信のある推測だった。


 はっきりとそう判断したのは、生徒会長の話を聞いてからだが、どのみちあの話を聞かなくても似たような結論には辿り着いていただろう。


「くは……っ! そいつは、違いねぇな」


 バレンが上機嫌に笑う。


「俺たちが初めて会った時、協力関係である筈の工作員を自らの手で倒したのは、俺や生徒会の目を欺いて彼らを外に逃がすためだな」


「そういうこった。奴らはぶっ倒したフリをして、裏口から逃がしといた」


 あの日の戦いを生徒会へ報告しなかったのも、忘れていたからではなく故意によるものだ。この男は適当な性格を装っているが、その実、最初から計算していた。


「目的はなんだ?」


「てめぇに言う義理はねぇよ」


 はぐらかすバレンに、俺は続けて訊く。


「大戦で、前生徒会長が亡くなったことと関係するのか?」


「……ちっ、あの糞野郎。余計なことを喋りやがったな」


 バレンは舌打ちして、右手をこちらに向けた。

 その掌に炎が渦巻く。


「悪ぃが、これ以上お喋りに付き合う気はねぇ。こっちもちょろちょろと嗅ぎ回られて鬱陶しいと思っていたところだ。……取り敢えず、最低でも歩けない身体になってもらうぜ」


 昨晩は街中での戦いだったので、この男も多少の手加減はしていたのだろう。

 目の前で渦巻く炎は、昨晩とは比べ物にならないほど大きく、熱量がある。


 通常なら三十秒以上の予備動作を要する魔法だ。それを一瞬で用意できたのは、この男が佩帯の使い手だからである。


 劫火が迫る。

 俺はそれを――切断(・・)した。


 放たれた砲撃は左右に割れ、弾かれるように飛散する。


「……あ?」


「悪いな」


 目を見開いて驚愕するバレンに、俺は言う。


「一瞬で終わらせるつもりだったのかもしれないが――俺はお前より強いぞ」




 ◇




 トゥエイトとバレンが対峙した頃。

 すっかり夜を迎えた街中で、三人の少年少女が学園へ向かっていた。


「あ、あの、エリシアさん。本当にトゥエイトさんは、一人で行動しているのでしょうか?」


 小走りで移動しながら、ミゼは隣にいる少女へ訊く。


「分からないわ。でも、あの男はそういうことをする性格だから、念のため確かめたいってだけ」


「まあ確かに、大事なことほど一人で済ませるタイプだよな、トゥエイトって」


 本人は少しずつ改善されていると思っているが、傍から見ればトゥエイトはまだまだ問題を抱え込むタイプだ。エリシアとミゼは、トゥエイトの過去を漠然と理解しているため、きっとそれは生まれ育った環境のせいで染みついた価値観なのだろうと理解している。グランも薄々そんな予想をしていた。


 だから、エリシア、ミゼ、グランの三人は、トゥエイトには内緒で集合し、夜の学園へ向かっていた。今日は休めと言っていたトゥエイトだが、もしかすると自分たちに内緒で何かをしているのかもしれない。そんな疑いが発端である。


「ん……? おい、校門の前に誰かいるぞ」


 背の高いグランが、いち早くその人影に気づく。

 工作員が学園に侵入したという話をトゥエイトから聞いている一同は警戒を露わにした。特に昨晩、他国の工作員と思しき者と実際に戦闘しているエリシアは、いつでも剣を抜けるよう構える。


 しかし、校門にいた人影の正体は――。


「会長の指示で、見張りをしていれば……まさか本当に来るとは」


 溜息混じりにそう呟いたのは、見覚えのある女子生徒だった。


「ミラさん? どうして、こちらに……?」


 鷹組のリーダーであるミラ=オプステイン。

 ミゼの疑問に、彼女はゆっくりと口を開いた。


「申し訳ございませんが、ここを通すわけにはいきません」


「それは……何故かしら?」


 一先ず戦う必要はなさそうだ。

 そう判断し、エリシアは鞘から手を離して質問する。


「現在、学園ではバレン=スティーレンとトゥエイトさんが、ウォーゲームの参加権を賭けた決闘をしている最中です。私はその邪魔立てを防ぐようにと会長から指示を受けています」


 予想外の説明を受け、エリシアたちは目を丸くする。


「……決闘?」


 不思議そうな顔で、グランが疑問を口にした。


「状況がまるで飲み込めないけれど……今、学園で何かが起きているとして、それは貴女たち生徒会が把握していることなのね?」


「その認識で問題ありません」


 ミラは断言した。

 ここまで言い切るのだから、少なくともトゥエイトが工作員と命懸けの戦闘をしているわけではないのだろう。その事実を秘匿しているにしては、ミラからは後ろめたさを感じない。


「それって本当に、ただの決闘なの?」


 鋭い目つきでエリシアは訊く。

 だがミラは動じることなく、淡々と答えた。


「会長からはそう聞いています。バレンさんの戦い方は危険ですので、皆様を巻き込まないための措置です」


 その言葉をどこまで真に受けていいか、エリシアは考える。

 少なくともミラに嘘をついている様子はなが……もしかすると彼女も本当の事情は知らないのかもしれない。


 ――黒幕の正体が、バレンだった?


 仮に、あの生徒会長が最初から(・・・・)全てを知っていたとして。

 バレンが工作員たちを学園に手引きしている黒幕であり、トゥエイトがその真実に辿り着いた。結果、二人は今、人目を避けた場所で戦闘しており……生徒会長はそれを何故か黙認している。


 そういう考えなら辻褄は合う。

 会長が何を何処まで知っていたのかは、疑問として残るが……。


「……まあ、なんにせよ、トゥエイトが危険な目に遭っているわけじゃないなら、問題ないわね」


 ミラの発言が事実である可能性も存在する。

 最悪の場合を想定して、いつでも戦えるよう準備していたが、どうやら杞憂だったらしい。


「心配せずとも、トゥエイトさんは無事に返します。いくらあの狂犬バレンでも、下級生……それも普通科の生徒に、過剰な攻撃はしないでしょう」


 ミラはエリシアたちを安心させるために落ち着いた声音で告げた。

 しかし、その言葉に違和感を覚えたエリシアたちは、顔を見合わせる。そしてすぐに、ミラと自分たちの間に認識の齟齬があると理解した。


「貴方、分かってないわね」


 不思議そうな顔をするミラへ、エリシアは告げる。


「心配する相手が逆よ」





【お知らせ】

 こちらの作品を、カクヨムにも公開することにします。

 詳細は活動報告にて(ページ下部、やや左側にある「作者マイページ」から移動できます。よろしければお気に入り登録お願いいたします)。


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