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32話『夜の幕開け』

 その日の放課後。


「今日の活動はなしだ」


 爆弾解体のために集合したエリシアたちに対し、俺は告げた。


「なしって、どういうこと?」


「今朝、倉庫にある魔法具を一通り確認したが、追加の爆弾は仕掛けられていなかった。……各自、今日くらいはゆっくりしてくれ。競技祭の練習にもそろそろ参加した方がいいだろう」


「まあ……それもそうね。最近は練習サボり気味だし」


 エリシアに続き、グランとミゼも納得した様子を見せる。

 俺とミゼは鷹組の練習場に、エリシアとグランは獅子組の練習場へ向かった。エクソダスのメンバーたちと合流するミゼを見届けた俺は、踵を返して校舎裏の物陰へ向かう。


 周囲に人の耳目がないことを確認してから、ポケットから『通信紙』を取り出し、起動した。 


『どうしたの、トゥエイト』


「今晩、解決する」


 通信に出たクリスへ、俺は簡潔に伝えた。


「それだけ伝えておこうと思ってな」


『……分かったわ。どう収拾をつけたかについては、また後ほど報告してちょうだい』


「ああ」


 手短に連絡を済ませた後、俺はそのまま人目につかない場所で時を過ごした。

 決行は――夜。




 ◆




 陽が沈み、学園がすっかり静まり返った頃。

 黒い外套で姿を隠した複数の男が、足音を潜めて学園に侵入した。


「手筈通りに動け」


「了解」


 男たちの動きに迷いはない。爆弾を仕掛けた際に、この学園の構造を完全に把握したのだろう。統制の取れたその速やかな動きには、感心すら覚える。


「……情報通りだ。爆弾が外されている」


 倉庫にある魔法具を弄りながら、男の一人が言った。

 恐らく彼らの協力者が、爆弾が解体されていることを事前に伝えていたのだろう。男たちに驚いた様子はなく、黙々と爆弾を仕掛け始めた。


 ――この辺りで潰した方がいいな。


 男たちの背後に隠れていた俺は、《物質化》で短刀を生み出し、爆弾を仕掛けようとしている男の首へと投擲した。


「が――ッ!?」


 短い呻き声を上げて、男が倒れる。


「な、何も――っ!?」


 手前にいる男が振り返ると同時に、その首を百八十度捻る。

 白目を向いたその男の身体を、左にいる人影へと投げ飛ばした。同時に、再び《物質化》で短刀を作って右側にいる男の鳩尾へと突き刺す。


「お、応援を求む!」


「ちっ」


 残る一人の脳天を《魔弾》で貫いた俺は舌打ちした。

 男の右手には『通信紙』が握られていた。……できれば応援を呼ばれることなく終わらせたかったが、流石に人数が多いと難しい。


 こちらが狙うのは学園に侵入した敵の殲滅だ。

 校庭に出て、姿を敢えて晒す。暫くすると、四人の男が俺を取り囲む陣形で近づいてきた。


「貴様……学生か?」


「だとしたらなんだ?」


 訝しむ男たちに対し、溜息混じりに告げる。


「学生でも、お前たちより強い人間は山ほどいるぞ」


 四人が一斉に襲い掛かってきた。

 俺も敵も、ほぼ同じタイミングで《靭身》を発動する。


 あらかじめ《物質化》で作っておいた短刀で一人目の太腿を刺し、その腹を蹴った。吹き飛ぶ男を他所に、二人目の頭を《魔弾》で撃ち抜く。


 ――《瞬刃》。


 動揺のあまり硬直した三人目の首に、透明な刃を通す。

 大量の血飛沫が舞う中、俺は最初に蹴飛ばした男の頭も《魔弾》で撃ち抜いた。


「ば、馬鹿な、こんなあっさりと……っ!?」


 目を見開く四人目の頭を《魔弾》で撃ち抜く。

 どちらかと言えば、戦闘ではなく工作を得意とした者たちだったのだろう。それなら倒すことも容易だ。


「どうする。このままだと、お前の作戦は成功しないが」


 静まり返った学園に、俺の声が響いた。

 直後、頭上から赤い外套を纏った男が現れる。昨晩、俺とエリシアが戦った襲撃者だ。


 炎の砲撃が左右から迫る中、俺はそれを真後ろに移動して回避した。

 次の瞬間、襲撃者が肉薄する。側頭部を狙った蹴りを手の甲で防いだ俺は、フードで顔を隠す男に向かって口を開いた。


「顔を隠しても意味はないぞ。――バレン=スティーレン」


 はっきりと名を告げると、襲撃者が動きを止める。


「んだよ、バレてんのか」


 そう言って、襲撃者はフードを外した。

 滾る血潮の如き真紅の髪が現れる。

 学園一の問題児、バレン=スティーレンは獰猛な笑みを浮かべていた。


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