29話『正燐騎士と近衛騎士』
「む……? もしや、エリシア殿!?」
振り向いた先にいた男は、エリシアの方を見て目を丸くした。
その態度に、エリシアも警戒を解いて口を開く。
「……シュレンさん?」
「ああ、やはりエリシア殿! これは懐かしい!」
男は親しみの込められた笑みを浮かべた。
「エリシア、知り合いなのか?」
「父親の関係でね。私がまだ幼かった頃、何度か会ったことがあるわ」
成人男性の平均を超えた体格に、鍛え抜かれた肉体。男は明らかに戦闘を生業としていることが分かる。……それもその筈だ、男は正燐騎士団の鎧を身につけていた。
「ううむ、ガリア元団長の娘さんが、ここまで大きくなられていたとは。感慨深いものがあるな。……と、申し遅れた。私はシュレン=ダーント。正燐騎士団の第一隊長を務めている」
男が俺たちに挨拶をした。
「サリア殿も、ご挨拶を……」
「はい!」
シュレンさんは、隣に佇む青髪の少女を呼んだ。
少女は活発な声で挨拶する。
「サリア=ペンディエンテ、近衛騎士団の従士です! よろしくお願いいたします!」
少々、元気すぎるその声に俺とエリシアは軽く驚いた。見れば、周囲にいる通行人たちもこちらに注目している。
その整った顔立ちを見て、俺はふと思い出した。
「確か、以前学園の合同演習で……」
「はい! 正燐騎士団との合同演習で、ビルダーズ学園には一度足を運んだことがあります!」
やはりそうだ。
合同演習の際、グランが注目していた女騎士である。確か、僅か十八歳で近衛騎士団に入った逸材だったか……。
「正燐騎士団と近衛騎士団が、行動を共にしているのですか?」
「ああ。我々は今、共同で王都の警備を担当している。魔法競技祭やルセクタス会談が始まる頃には、より多くの人員が配置されることになるだろう」
エリシアの問いにシュレンさんは答えた。
「それで、話を聞きたいとのことですが、具体的に何が知りたいんでしょうか?」
エリシアがシュレンさんに訊く。
「その制服、二人はビルダーズ学園の生徒なのだろう? 実は学園の警備について訊きたいことがあってな」
「学園の警備……?」
エリシアの目つきが険しくなった。
今の俺たちにとってはデリケートな部分だ。しかしシュレンさんには後ろめたいものを感じている様子はなく、明朗な声音で事情を説明する。
「毎年、競技祭が近づくと、我々騎士団が学園の周囲を警備する手筈となっている。ところが今年は例年と比べて、あまり警備に人員が割かれていなくてな。指揮権がある生徒会はそれで問題ないと主張しているが、気掛かりだったので実情を知っておきたいのだ」
どうやらシュレンさんは純粋に、俺たちの身を案じているらしい。隣にいるサリアさんも同様だろう。
エリシアが無言で俺を見る。工作員を手引きしている裏切り者がいるかもしれないと話したばかりだ。どこまで情報を渡していいか、悩んでいるのだろう。
クリスの話によると、騎士に怪しい動きはない。
探りを入れるためにも、正直に話してみるか。
「正直、不安があります。現にここ最近、学園の周囲では不審者の目撃情報が絶えません」
「そうか。ううむ、予想通りと言えば予想通りだな」
シュレンさんは難しい表情で悩む。
「協力感謝する。やはりもう少し警備に人員を割いてもらうよう、私の口から進言しておこう」
真剣にそう告げるシュレンさんからは、頼もしい印象を受けた。
「ところで二人は、どうしてここに?」
その問いに俺たちは一瞬押し黙る。
流石に生徒会長たちを尾行していたと正直に答えることはできない。
「気分転換に散歩していただけです。最近は競技祭の練習で忙しいので」
「ははは! 確かに、競技祭で忙しくなるのは寧ろ君たちの方だったな。当日は楽しみにしているぞ」
そう言ってシュレンさんは空を仰ぎ見る。
「……もう遅い時間だな。用事がないなら、もう帰った方がいいだろう。念のため部下を護衛につけよう」
「いえ、そこまでしていただかなくても……」
「気にするな。こちらにも騎士としての体裁というものがあるんでな」
遠慮しようとするエリシアに、シュレンさんは笑みを浮かべて言った。
そういうことなら受け入れておくか。
「ん……? 通信か。失礼」
不意にシュレンさんは懐から『通信紙』を取り出して、耳元にあてる。
ただの業務連絡かと思いきや……シュレンさんは徐々に険しい表情を浮かべた。
「……なんだ? 様子がおかしいな」
周りにいる者たちに悟られないよう、俺はこっそり《靭身》で聴覚を強化し、『通信紙』から聞こえてくる声を拾った。
しかし、聞こえてくるのは耳障りなノイズと――悲鳴だった。
「おい、待て……何を言っているッ!?」
シュレンさんが叫ぶと同時に通信が切断される。
突然の出来事に俺たちが沈黙する中、シュレンさんは深刻な表情で口を開いた。
「申し訳ない。急用ができてしまった」
「……何かあったんですか?」
エリシアの問いに、シュレンさんは焦った顔で答えた。
「襲撃を受けた」
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