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26話『未熟を知った男』


「生徒会も、色々大変みたいね」


 生徒会室を出てから数分後。

 廊下を歩きながら、エリシアは呟いた。


「ていうか、爆弾の件については何も訊かれなかったな」


「そ、そうですね。正直それが一番心配でした……」


 グランとミゼが安堵に胸を撫で下ろしながら会話する。

 結局、生徒会が俺たちを疑っている様子は特になかったが――いずれにせよ、目をつけられたのは変わらない。


「全員、丁度いいから少し話を聞いてくれ」


 生徒会と関わりを持ってしまった以上、そろそろ皆にも伝えておくべきだろうと思い、俺は頭の中にある疑いを共有することにした。


「爆弾の件を生徒会には黙っているよう指示したことについてだが……実は、この件の黒幕が生徒会かもしれないからだ」


「「えっ!?」」


 グランとミゼが驚愕に目を見開いた。

 一方、エリシアも驚いてはいるが、すぐに事情を察したように唇を引き結ぶ。


「正確には生徒会だけではないがな。……この学園のセキュリティは高度だ。他国の工作員がそう簡単に、何度も掻い潜れるものではない。何者かが手引きしたと考えるのが自然だろう」


「……なるほどね。その何者か(・・・)の候補が、生徒会ってわけ」


 エリシアの言葉に俺は「ああ」と頷く。


「他にも候補はある。騎士団か、王国軍か……いずれにせよ、学園やその周辺の警備を預かっている組織が怪しい」


 黒幕が生徒会と決まったわけではない。

 寧ろ可能性としては、外国との繋がりを持ちやすい騎士団や王国軍の方が高いだろう。但し学園の警備に一番詳しいのは生徒会だ。


「じゃあ、爆弾の件を敢えて黙っていたのは、俺たちの動きを悟られないようにするためか?」


「そういうことだ。遅かれ早かれ悟られるだろうが、爆弾の解体を完全に終えていない今、できる限り情報の漏洩は引き延ばしたい」


 爆弾を使用している時点で帝国はそれなりにリスキーな作戦を実行している。これ以上の強攻策に出られるとは思わないが、別の作戦に切り替えられると王国側の対応が間に合わないかもしれない。だが作戦の切り替えには時間が掛かる筈だ。その時間を少しでも削るべく、こちらの手の内は秘匿するに越したことはない。


「各自、この件については他言無用で頼む」


 そう言うと、各々力強く首を縦に振った。

 廊下を歩いていると、窓の外から生徒たちの掛け声が聞こえてきた。

 見れば、同学年の生徒たちが競技祭の練習で汗水を垂らしている。


「中途半端な時間になっちゃいましたね」


「だな。今日は練習に参加せず、自主練にしておくか」


 今から練習に参加しても、ややこしいことになるかもしれない。

 俺も今回は自主練にしておこう。


「あ、そうだ。私これから競技用の武器を買いに行かなくちゃいけないんだけど、よかったら一緒に行かない?」


 エリシアが提案した。


「武器が必要な競技なのか?」


「まぁね。競技ではBランク以上の魔法具が使用不可みたいだから、新調しないといけないのよ」


 そういえばエリシアが普段使用している剣は、斬撃の威力を強化する高ランクの魔法具だった。生徒たちの素の実力を示す魔法競技祭で、あの手の魔法具が使用できないことには納得できる。


「……丁度いい。俺も武器を買うか」


「トゥエイトも?」


「ああ」


 今後は機関の元兵士としてではなく、学生として戦う場面も増えてくるだろう。

 そろそろ俺も――新しい相棒が必要だ。




 ◆




「へぇ、こんなとこがあったんだな」


 学園を出た後、俺たちはエリシアの案内に従って王都にある武器屋を訪れた。人で賑わう表通りから少し外れており、更に店構えも地味であるため中々客の入りが物寂しそうな店ではあったが、予想と反して店内は賑わっていた。どうやら知る人ぞ知る名店らしい。


「ここは魔法具も取り扱っている、数少ない店のひとつよ。国の騎士も懇意にしているらしいわ」


 騎士の情報に詳しい、エリシアならではの店選びだった。


「私は競技祭でも使えるCランク以下の魔法具を買うつもりだけど、トゥエイトは何を買うの?」


「『狙撃杖』を買うつもりだ。競技だけでなく、あらゆるシチュエーションに対応できるものが好ましい」


 エリシアの目がスッと細められる。

 俺が新たに武器を欲している理由は、学生という身分のまま敵と戦うためだ。エリシアもそれを察したのだろう。


「『魔法杖』関連は確か、あっちね。……案内するわ」


「助かる」


 既に何度もこの店を利用しているらしいエリシアに、案内される。

 だが、その途中、俺たちは見知った金髪の男を発見した。


「ジークか」


「……トゥエイト」


 俺たちの存在に気づいたジークは、気まずそうな顔をした。

 棚に並んでいる商品を確認していたジークは、それを中断し、無言で店を出ようとする。


「何よ。そんなあからさまに無視をする必要ないじゃない」


 立ち去るジークの背中へ、エリシアが声を掛ける。

 するとジークは足を止めて、俺に視線を注いだ。


「……そこの男に、釘を刺されているからな」


 その言葉を受けて、俺は首を傾げた。


「釘……?」


「……き、貴様、まさか忘れているのか?」


 ジークが、信じられないものを見るような目で俺を見る。


「決闘の時、言っていただろ。もう自分たちに関わるなと」


 そういえば最後にそんなことを口にしたかもしれない。

 二度と俺たちと関わるな。確か、そのように脅迫しておいた気がする。


「……ああ、あれか」


「嘘だろ……忘れていたのか? お、俺がどれだけあの言葉を律儀に守ってきたと思っているんだ……?」


 ジークが目を見開く。

 思えばあれ以来、ジークは俺たちに接触してこなかった。例外は迷宮で遭遇した時くらいだ。


 戦場ではあの程度の脅し文句、日常茶飯事だった。俺が脅迫した相手は数え切れないほどいるし、反対に俺も数え切れないほど脅迫された。いちいち執着するほどのものではない。


「あれから時間も経ったし、その件についてはもう忘れてもいいぞ」


「なんだそれ………………なんだそれ………………」


 ジークが項垂れる。


「勘違いしないで欲しいが、あの時は本気で言ったつもりだ。ただ、最近のジークを見ていると、もうあの時のように暴走するとは思えないからな」


「……ふん。あれから俺は俺で、色々と考えたからな」


 視線を落としてそう告げたジークは、俺の背後にいるエリシア、ミゼ、グランの三人を見た。


「貴様ら、以前はすまなかったな」


 誠意を灯した瞳で、俺たちを真っ直ぐ見据えながらジークは言う。


「かつての俺は、貴族というだけで持て囃されることに何一つ疑問を抱かなかったが、今は違う。……もう二度と、あのような真似はしないと誓おう。あの時の未熟な振る舞いは、俺自身、恥だと感じている」


 その変わりように各々、声を失うほど驚いた。

 唯一、同じ英雄科であるが故に、ジークの変化を以前から知っていたエリシアだけが口を開く。


「まあ私たちも、今更怒ってはいないけど……随分な心変わりね」


「概ね、この男のせいだ」


 ジークは俺を指さしながら言う。


「決闘でこの男に負けて以来、次は必ず打ち負かしてやろうと力を磨き続けた。だが、そうして鍛錬を繰り返しているうちに、自分の弱さと向き合う機会が増えた。……己の未熟を知った今、以前のような傲慢な振る舞いはできそうにない。今の俺は、自分のことで手一杯だ」


 どこか吹っ切れた様子でジークが言う。

 実際、ジークはここ最近で目を見張るほどの成長を遂げている。昨日の放課後も、バレン相手に遅れを取らずに戦い続けることができた。かつては家柄の威光を借りているだけのチンピラだったが、今や名実ともに優れた人間だ。


「トゥエイト。折角だし、ジークに武器選びを手伝ってもらったら? 確かジークも『魔法杖』の使い手でしょ?」


 エリシアの提案に、ジークは微笑を浮かべて答えた。


「いいだろう。この俺が選んでやる」


 その言葉に、思わず俺も微笑する。


「口調は傲慢なままだな」


「……許せ、癖だ」


 ジークは複雑な表情で言った。

 一応、気にしているらしい。


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